提言2: これから求められる学力

1.国際学力調査結果
 「国際数学・理科教育動向調査」と「生徒の学習到達度調査」の結果が、2006年12月末に公表された。
 その「国際数学・理科教育動向調査」は、世界の中学2年生と小学4年生を対象に実施した。日本は、小学4年生の理科が前回の調査から10点下がって543点、中学2年生の数学も前回調査より9点下がって570点という結果である。
 また、「生徒の学習到達度調査」においては、「数学的リテラシー」が前回の1位から6位、「読解力」が8位から14位、「科学的リテラシー」が2位で前回と同じ、「問題解決能力」が4位であった。この結果から、日本の子どもの学力低下が見られ、特に、「読解力」と「記述問題」が苦手であると分析された。また、成績低位層の増加に伴う「二極化」の実態が浮き彫りになってきた。学習や職業に対する意識に関しては、無気力な子どもの増加傾向が指摘された。
  このように、二つの国際調査で日本の子どもの順位低下が指摘され、学力低下論争の中で、日本の学力低下は本物だという認識が広がった。学校では、これらの実態に基づいて、「確かな学力」の育成を目指す取り組みをどのようにしているのだろうか。

2.全国学力調査
 2007年4月24日に、国語と算数(数学)の全国学力調査も実施された。
 学力低下の指摘を受けて実施された今回のテストでは、日本の子どもたちが苦手としてきた記述式問題が多数織り込まれた。43年前に実施されたテストと比較すると、問題の傾向が大きく異なっている。当時は計算問題や読解問題を含め、すべての問題が選択式で、問題数も多かった。しかし、今回の調査問題は「主として『知識』に関する問題」と「主として『活用』に関する問題」に分けられたが、文科省が力を入れたのは、図や表を読み取るなどの応用力を試す「活用」の問題である。
 文科省は、PISAで、読解力や文章表現力の低下が著しかったことを受けて、これらの力の向上を目指し、小学校では「活用」の24問中10問、中学校でも27問中10問を記述式問題とした。問題の傾向がPISAに右ならえしたようにも考えられる。
 今回の学力調査の問題から、国が子どもに求める学力観に、変化の兆しが見られると考えるが、学校ではどのように受け止めたであろうか。

3.これから求められる学力
 これから求められる学力は、「PISA型『読解力』」という認識が広がる中で、今なぜPISA型「読解力」なのか、そして、その内容はどのようなものであるかを明確にしておくことが重要である。
 PISA型「読解力」とは、「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」であると定義されている。この内容は、「書かれたテキストを理解し」、「利用し」、「熟考する能力」の3つに分けることができる。
@「テキスト」は、対象からの情報収集
A「利用」は、捉えた情報を吟味したり推論したりして知識を活用する能力
B「熟考する能力」は、情報を自らの知識や経験との関係付けや意味付け
 つまり、PISA型読解力は情報を取り出したり、処理したりする過程を通して、問題を解決していく力であると考える。PISA型学力の育成も基本は思考力の育成である。

4.習得型と探究型の教育
 現行の学習指導要領の学力観について、様々な議論が提起されている。そのような状況の中で、中教審答申(2005年10月)では、「基礎的な知識・技能の育成(習得型の教育)と自ら学び、自ら考える力の育成(探究型の教育)とは、対立的あるいは二者択一的に捉えるべきではなく、この両方を総合的に育成することが必要である。」としている。正にその通りである。しかし、教育現場においては、先行学習に見られるように、「先ず教えてから、考えさせる」という授業が横行し始めている。
 本来、考えるということは、既有の知識や経験を駆使して関係付けたり、意味付けたりしながら、問題を解決していくことである。したがって、獲得されていない知識をまず与えて既に獲得したものにしようとしても、それでは思考力を高めたり、論理を構成したりすることには、役に立たないと考える。
 思考力の高まりや論理の構成は、捉えた情報を既有の知識や経験と関係付けたり、意味付けたりすることによって、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加することができるようになるのである。
 基礎的な知識・技能の育成(習得型)においても、対象から捉えた情報を、どのように解釈し、何を問題として解決を図っていくかを重視し、徹底することによって、身に付くと考える。情報を獲得したり、知識・技能を実生活で活用したり(活用型)、情報に基づいて構想を立て、実践し評価・改善(探究型)することによって、自ら学び自ら考える力などの「確かな学力」を育成し、「生きる力」をはぐくむことができるものと考える。
 自ら考え、総合化して判断し、表現し、行動できる力を備えた自立した社会人を育成するには、習得型と探究型の教育を二者択一的に捉えたり、両者のバランスを考えたりするのではなく、活用型の教育という視点も入れて総合的に育成していくことが必要と考える。
 習得型・活用型・探究型の教育は、相互にかかわりながら補強し合っていくようにすることによって、子どもたちの学力の質を高めていくことができるという視点をもつことが重要である。
 以上1〜4にわたって述べたことについて、一校の責任者である校長先生はどのように考えて、教員を指導しておられるのかご意見を頂ければ幸いである。

以 上   


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