提言5: 特別支援教育の推進
現在施行されている「発達障害者支援法」では、発達障害者の早期発見や障害の状態に応じて十分な教育が受けられるよう、国・地方公共団体の責務として位置付けて
いる。
また、障害のある全ての児童生徒の教育を一層充実するために、平成19年4月に特別支援教育が法的に
位置付けられ、その理念や子どもの実態に即した教育活動が展開されている。
障害の重複化に対応した適切な教育を行うため、各地域の教育委員会等に於いては、保護者・学校・地域等
への理解、啓発を図りつつ進められているが、特殊教育から特別支援教育への転換について学校や地域によって
意識や理解の差があり、日々の教育実践に機能する検討も必要である。特別支援教育を学校経営にいかに生かしていくか、考えてみたい。
1.特別支援教育の理念・基本的な考え方の確認
(1) 特別支援教育は障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けた、主体的な取り組みを支援する視点に立ち、一人一人の教育的ニーズに応じて、そのもてる力を高め、
生活や学習上の困難を改善または克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う
ものである。
(2) 従来の特殊教育対象の障害だけでなく、知的な遅れのない発達障害も含めて、特別な指導や支援を必要とする児童生徒が在籍する全ての学校で実施されるものである。
(3) 特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違いを認識し、生き生きと活躍できる共生社会形成の基礎となるもので
あり、我が国の現在及び将来の社会にとって重要な意味をもっている。
特別支援教育の理念や考え方は、学校教育関係者をはじめ、国民全体に共有されることを目指すものである。
2.特別支援教育を視野に入れた学校経営
(1)全校体制の確立
特別支援教育や障害に関する認識を深め、学校体制の整備等、組織として機能する経営を進めていく必要がある。
@)教職員の意識と理解の深化
審議会答申等各種の情報や動向を共有し、理解を深め自校の特別支援教育について個々の
教職員が確かな方向性をもてるよう、組織の活性化や意識改革を図っていく。
A)児童生徒の障害の発見と軽減、豊かな学校生活への支援と指導
・自己の学習や考えを表出することが苦手な子
・整理整頓が苦手な子
・友達等とのコミュニケーションが苦手な子
これらの視点より問題点を見出し、学び合い、育ち合う学校生活を支援する。
B)全教職員による特別支援教育の推進
・校内委員会の設置
まず、校内委員会を立ち上げ、子どもの実態調査、実践の手立て等を探っていく。完璧なもの
でなく、手探りの状況から始めるケースも多い。特別支援のニーズがあり
そうな子どもをチェッ
クし日々の学級経営、学習指導の中で個別指導の手だてを検討し、
実践してみる。子どもの
変化を把握し、指導の成果と問題点を明らかにしつつ、試行
錯誤の積み上げの中に、子ども
の実態と指導の在り方を実感として探れるようになり、教師の意識も高まり、成果も上がって
くる。
・校内委員会の組織と外部支援機関との連携
<役割> 担任教師や保護者の気づき、実態調査等から、該当する子どもの支援方法の
共通理解を図り、指導計画の作成、実践、評価を行う。
<メンバー> 校長、副校長、コーディネーター、当該学級担任、教育相談担当教諭、生活
指導主任、養護教諭、スクールカウンセラー等
<該当児童生徒への対応>
学校全体で実態把握し、全校的協力体制の中で、学年・学級
担任を中心とした指導とする。
<教育相談所・専門委員会(機関)・特別支援学校との連携>
より専門的な支援指導が必要と認められる場合、当該機関と協議し指導体制を決定する。
(2)特別支援教育コーディネーターの指名と人材の確保
コーディネーターは日々の特別支援教育の円滑化と充実を図る大切な役割である。校内では、校内委員会のための情報収集、担任への支援、校内研修の企画運営等、外部
に対しては、関係機関の情報収集、専門機関等との情報交換・連絡調整、保護者に対する
相談窓口等が考えられる。
コーディネーターは各学校で指名し、校務分掌に位置づけているが、通常学級の教諭が担当している場合が多い。専門的な資質とリーダーシップが求められ、高度な研修も
課せられている。コーディネーターに専念できる体制づくりと教育委員会による人材確保
が急務である。
(3)支援が必要な児童生徒のアセスメント(*)と個別指導計画
手探りの実態把握と試行錯誤の指導から視点を整理した子どもの理解と指導を一人一人の状態に応じて効果的な指導を進める。
複数の教師の目で子どもの実態を把握する。学習面、生活面、社会性、対人関係の面で、それぞれの情報をまとめて共通理解する。保護者からの情報や願いも聞き取ること
が必要である。この際、的確な観点や項目を定めて、指導計画作成に機能する分かりやす
いアセスメントシートの作成工夫が必要である。
このアセスメントシートに基づいて、支援の方向性を確認し、具体的な支援、指導のポイントを明確に個々の実践を行う。定期的に指導の成果と課題を振り返り、校内委員
会でフォローアップする。さらに、地区の教育委員会が組織する特別支援教育専門委員会
からの助言を受けながら進めていくことも必要である。
(4)学校の経営方針、校内体制について、子ども・保護者・地域等への周知と連携
・児童生徒に対しては、全校的な講話や学級担任を通しての指導等で理解を深める。
・保護者、地域関係機関等に対しては、学校説明会、学校運営連絡協議会、保護者会、学校便り、ホームページ等を
通して、特別支援教育の意義と実践、評価と課題等についての周知を図る。
特別支援教育については学校現場で様々な取り組みがなされているが、手探りの状況で、課題も多い。自校の成果と課題と同時に、他校の実践情報を広く共有し合って、
推進していくことが大切である。
ノーマライゼーションの理念と通常学級における教育実情も十分に把握して、一人一人の教育的ニーズを実現できる学校体制と教育力が必要である。
今回は、通常学級の特別支援教育に視点を当ててみたが、今後の実践の積み上げの中から地道な成果を見出していくことが必要であると考える。
会員の方々のご意見をいただければ幸いである。
(*)アセスメント
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・個人の状態像を理解し、人間的な交流を図りながら必要な支援を考えたり、将来の行動を予測したり、支援の成果を調べること。
・対象となる児童生徒の問題やつまずき等否定的な情報のみでなく、生活の様子や周囲の環境とのやりとりとその変容、相互作用の情報等肯定的な情報を支援、指導の
手がかりとしていくことが大事である。
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