学習指導要領の改訂案が公表された。今後、文部科学省・教育委員会の資料等に基づい
て、各学校で教育課程の編成・実施に創意工夫を凝らして授業の一層の充実を図ることが
期待される。
この際、各学校で新学習指導要領の理念の実現のため、いかに授業を改善したらよいか
について実践的に研究する必要がある。授業は、各学校の組織的活動の集約された場であ
り、その成果・課題は幅広い視点から総合的に検討することが期待される。
そこで、東京都教育会として、新学習指導要領の理念を踏まえた授業改善の観点を提言することとした。
1【校長として新学習指導要領への準備をしよう】
(1) 教育基本法・学校教育法の理解。
(2) 副校長との協議。主幹・主任・指導教諭へミドルリーダーとしての役割の指示。
(3) 特色ある有効な教育課程についての基本を指示。
(4) 学校評議員・学校運営協議会・PTA・父母会保護者会での説明。
(5) 地区校長会での検討。地域ごとのカリキュラム開発。教育活動に関する情報の共有。
(6) 教育委員会の指導・指示に基づく改革。
(7) インターネットを活用して全国各学校の実践情報の収集・解析。
(8) 児童生徒の学習の実態、学習への期待・要望の把握。
(9) 経営的発想からの準備。
(10) 公教育維持の発想からの教育課程経営の基本構想を作成。
(11) 教職員の改善への提言・実践上の工夫等をできるだけ吸い上げる。
(12) 多様な声に耳を傾けつつ、意思決定者としての校長の役割の自覚。
2【校長・副校長が協議をしよう】
(1) 児童生徒の学校内外の学習や生活の実態、それへの指導の基本。
(2) 教職員の勤務・意欲・力量・協力態勢の実態と指導の基本。
(3) 保護者の声、それへの対応策。
(4) 教育課程経営の基本方針の確立。
3【校長は主幹・主任・指導教諭の役割への指導・指示をしよう】
(1) 全教職員・児童生徒とともに活動している立場から、生き生きとした実態報告を要求。
(2) 校長としての理念・基本的方策の提示・指導。
(3) 担当ごとに課題を検討し、改善の実践方略を作成するよう指示。意思決定は校長。
(4) ミドルリーダーとして、全教職員への支援の観点と方策の計画化。
4【カリキュラム・デザイン、カリキュラム・マネジメントの基本を確認しよう】
(1) 習得と探究の融合。そのため知識活用力に配慮。年間指導計画・単元構成・単位時間
授業展開においての工夫。
(2) 経営的発想が大事。人材・施設設備・情報・アイディアの有効な活用。
(3) 評価の工夫。スタンダードを重視すると同時に、セルフ・アセスメントを重視する。
(4) 児童生徒一人一人のニーズに応える教育活動の充実。
(5) 特色ある教育課程のキーポイントの確認(ユニークで有効な実践の積み重ねをもとに)。
(6) 知識基盤社会に生きていくための学力についての明確化。
5【教育課程経営を重視しよう】
(1) 内外の人材・施設設備.特に、ICTの活用。外部人材の有効な活用についての具体
的方策。校長会等で研究。ネットワークが重要。
(2) 全国各地・各学校での事例の収集・解析。
(3) 学習材の開発・蓄積。単元構想・指導案の蓄積。
(4) 計画・実践のための校内組織の整備。
(5) 個々の教員の指導力向上のための支援・指導の充実。
6【移行への準備を意識した授業をしよう】
(1) 国語科で培った力(思考力・判断力・表現力の基盤となる言語能力)を基本に全教科
等で言語活動を充実。
(2) 習得と探究の融合、対立するものでないことの確認。
(3) 意欲喚起への工夫。他の学校の実践を参考に。PISAの結果は重大。
(4) 習熟度別指導への基本的考え、具体的な方策。すべての児童生徒を大事に。
(5) 理数教育の意義・内容・方法についての検討。
(7) 道徳教育の充実。主体的に判断できる人間の育成。
(8) 体験活動の計画化。
(9) 総合的な学習の計画化。横断的学習・探究活動重視。
7【教科の研究を推進しよう】
(1) 本年度の振り返り(reflection)。事実に即し成果を検証し改善の方略を確定。
(2) 年間指導計画・単元展開構想の作成。主題を設定し、知識教授と体験・探究を融合。
(3) 研究授業の推進。(「提言1」を参照)
(4) 新しい学問的研究成果等も視野に入れ、教科内容の組織的な構成。
8【学力を高めよう−1 基礎・基本】
(1) 系統的知識の教授。その知識を具体的状況に位置付けて実感をもって理解させる。
(2) 既得の知識・経験を具体的状況で課題解決のため活用。
(3) ポートフォリオ(※註)が重要。
(※註)ポートフォリオとは、学習のプロセスで、学習活動の方法や成果など事実をもとに、教師の指導を得つつ、児童生徒自身が評価し学習を改善する一連の活動。
(4) 到達度評価も重要。その結果に基づき、補充学習・個別指導。
(5) 通知表の内容・伝達の方法などについての研究。
9【学力を高めよう−2 活用・思考】
(1) レポート・発表・討論。表現力重視。
(2) 思考とは、状況において課題を解決するため、必要な情報を収集し、これを既得の知
識・経験(prior knowledge and experience)・言葉をもとに操作する心の活動をいう。
(3) 課題解決への意欲・興味・関心が基本。PISAの結果では、日本の子どもはこの点
極度に低い。深刻な実態。
(4) 日常知(everyday cognition)の発想。
10【学力を高めよう−3 学習習慣・意欲】
(1) 生活態度を改善。将来への明るい希望が持てるように。
(2) 体験の必要性。読書の習慣化も。
(3) 評価の工夫 ―セルフ・アセスメント(※註)重視。
(※註)アセスメントとは、元来は、「一緒に座る」という意味。児童生徒自身が、自己の学習について教師の指導を得て反省し、学習の進め方を改善していく活動が重要。
(4) 授業の導入での工夫 「最近接領域論」(※註)を参考に。日本人は知りたがり屋だっ
たのに。どうして勉強嫌いが増えたのか。
(※註) 学習は発展するもの。到達度を一歩越えた領域に、学習課題を設定し各学習者の主体的学習活動を誘発することが期待される。導入部での適切な学習材の提示が重要。
11【教師が児童生徒と向き合う時間を充実しよう】
(1) 特別な時間の設定が必要。全教育活動でも向き合うことが重要である。
(2) 意義・内容・方法についての方針の確定。
(3) 語り合う内容。生き方デザインへの支援。
(4) 誠実な人間として語り合う。単なる無条件容認ではなく、相互信頼を基盤に、教師が
自らの人間性を披瀝して率直かつ積極的に語る。激励が有効だ。哲学で言う、「出会い」(Begegnung)を。
12【校内研修を充実しよう】
(1) 新学習指導要領についての理解。
(2) 授業研究の実践。(「提言1」を参照)
(3) 各教科の内容・年間指導計画・単元構成・単位時間授業展開についての研究。
@) 単元展開構想の策定。単元展開構想とは、ある課題を設定し、一定の時間で探究的
な学習を展開する。その過程で、系統的な知識を確実に教授すると同時に態度・方
法を身に付けさせる。
A) 小規模校もあるので難しい場合がある。地区校長会での地域カリキュラム開発が重要。
(4) 小学校での教科担任制の導入など新しい発想での工夫。
(5) 意欲・活用力・探究力の評価の在り方。
(6) 児童生徒の生活や心の実態・学習への心構え・将来への希望等への理解の深化。それへの働き掛けの工夫。
13【土曜、日曜日・長期休業中の学習の計画化を支援しよう】
(1) 各児童生徒の個別学習計画作成への指導・支援。各児童生徒の独自性・自発性を重視。
(2) 宿題。それをもとに、学校全体で、また個別に指導。
(3) 長期休業中の指導の実際。登校日。手紙・メールなど。
(4) 休業中の知的な生活。博物館・美術館等の文化施設の活用。一例として、国立科学博物館の未来館、科学館、美術館など。
14【公立学校(特に中学校・高等学校)でも受験対策を行おう】
(1) 学力向上を受験対策の基本に。入学試験の方法も真の学力を検査する方向へ転換。
(2) 受験に関する情報の収集・整理。校長会の役割が重要。
(3) 個別のキャリアガイダンスの充実。生涯いかに働き、いかに学ぶかの生涯の生き方の デザインへの指導・支援。その中で、何をどこで学ぶかが課題。
(4) 受験しない生徒へのきめ細かな配慮。
15【保護者に説明し語り合おう】
(1) 学力向上への期待・要望。受験指導や評価への意見等を踏まえて説明。
(2) 家庭での生活の在り方や家庭教育の重要性をなるべく具体的に。
(3) 進路指導の基本的在り方。
(4) 受験への学校の責任の明確化と指導の基本的在り方。
(5) 経営への期待・要望を把握しこれへの回答。
(6) 教師と保護者が語り合う時間の設定。
16【教師の授業力の向上を図ろう】
(1) 条件・環境の変化。大量退職。複雑な指導体制。学習・指導の在り方の多様化。特に、ICTの活用。児童生徒の生活スタイル・意識の変化等へ的確に応じ、授業の改善。
(2) 授業研究の推進。(「提言1」を参照)
(3) 指導技術の訓練。
(4) 授業デザイン・学習材作成等新しい視点からの授業力の向上。
(5) 授業不成立など危機への的確な対応。
17【当面する課題に的確に対応しよう】
(1) 学校外での多様な学習と学校教育との関係。開かれた学校づくりが言われるが、サブ
システムとしての学校教育の独自性を大事に。
(2) 言語力の教育での意味の正確な理解。思考のツールに。
(3) 総合的な学習の時間。教科横断的な学習活動の発想が大事。
(4) 小学校の外国語。実践的研究の積み重ねが重要。多様な学習形態に。
(5) 真の道徳教育。理性の力への信頼が道徳教育の基盤。
(6) 感性。人間教育では、感性教育が欠落してはならない。内容としては、哲学・歴史地
理学・文学・自然科学・音楽・美術・スポーツ・ボランティア・奉仕活動等多様なもに。
(7) 食育。
(8) 特別支援教育の一層の充実。
(9) 授業秩序の維持。校種によってまた学校・学級・担当教師によって多様だが、学校全
体で対処する必要がある。規範意識の育成。
(10) 教師の多忙化。学校として組織的に対応することで対処。校長会での検討。
(11) ICTの活用。知識基盤社会において不可欠。設備の充実と指導についての研究。
(12) 教養教育の充実。
(13) 教育課程における水平・垂直のつながり。
(14) 教育課程に関する経営評価。
(15) 外部人材活用のシステムと予算。