提言105:次期学習指導要領の周知・徹底を図ろう

 

 2016年12月21日、中央教育審議会(以下「中教審」という)は、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の次期学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」松野博一文部科学相に答申した。この答申は2020(平成32)年度以降の教育内容を決める次期学習指導要領の基本方針である。この答申を受け、小中学校においては今年の3月に次期学習指導要領が告示される。高等学校は2017年度中に告示される。

 次期学習指導要領は、幼稚園が2019(平成31)年度、小学校が2020(平成32)年度、中学校が2021(平成33)年度、高等学校が2022(平成34)年度の新入生から学年ごとに順次実施される。したがって、2017(平成29)年度は次期学習指導要領についての周知・徹底の期間となる。

 2017年2月14日、文部科学省(以下「文科省」という)は、2020(平成32)年度から順次実施される小中学校の次期学習指導要領改訂案を公表した。

 次期学習指導要領改訂案は、これまでの改訂と異なり、学習指導要領の理念や内容を学校だけでなく、社会全体で共有していく「社会に開かれた教育課程」の実現を目指している。そのため、これまでの中心であった「何を学ぶか」という指導内容の見直しに加え、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の視点からの改善を図り、学習指導要領が学び方の見通しを示す「学びの地図」となるように、現行学習指導要領の枠組みを見直した。

  各学校においては、次期学習指導要領の周知・徹底を図るとともに、全面実施への移行が円滑にできる体制を作り上げていかなければならない。

  本提言では次期学習指導要領等の改善について、筆者の見解を述べてみたい。

 TIMSSは1958(昭和33)年に設立され、67カ国・地域の教育研究機関で構成するIEAが4 年に1 回実施する国際学力テストである。

 TIMSSの調査目的は、初等中等教育段階における児童生徒の算数・数学及び理科の教育到達度を国際的な尺度によって測定し、児童生徒の学習環境条件等の諸要因との関係を分析することである。調査は4年ごとに行われ、国際的な調査結果を用いて各国の教育施策に役立てられている。

 同調査では小学校4年生と中学校2年生を対象としている。前回の調査に参加した小学校4年生の児童が成長した4年後(中学校2年)に再び調査を受けることになる。

 調査内容は、児童生徒を対象とした算数・数学、理科の問題の他に、児童生徒質問紙、学校質問紙による調査が実施される。

 2003(平成15)年には、第5回TIMSS 2003と第2回PISA2003が同一年度に実施された。そして、再び2015年の同一年度に、第8回TIMSS 2015と第6回PISA 2015が実施された。小学校4年生と中学校2年生が算数・数学と理科の問題を受けた。調査結果に基づいて、主に学校で学んだ内容について、「知識」、「技能」、「問題解決能力」の習得状況が評価される。

 

1.学習指導要領の改訂に当たって

 学習指導要領の改訂に当たって、最も重視すべきことは児童生徒の現状や課題の分析と、児童生徒が活躍する将来についての確かな見通しを、学校と社会とが共有することである。

 現行学習指導要領は、教育基本法の改正により明確になった教育の目的や目標を踏まえ、知識基盤社会でますます重要になる児童生徒の「生きる力」をバランス良く育んでいく観点から改訂された。特に学力については、「ゆとり」か「詰め込み」かの2項対立を乗り越え、学力の3要素、即ち「基礎的な知識及び技能」「知識・技能を活用し自ら考え、判断し、表現する力」「主体的に学習に取り組む意欲」から構成され、「確かな学力」などの育成が重視された。また、3要素に立脚した教育目標や内容も見直された。特に、習得・活用・探究という学習過程の中で、言語活動、他者、社会、自然・環境と直接的に関わる体験活動などが重視され、必要な授業時数も確保された。

 次期学習指導要領は、未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に備えることのできる学校教育の実現を目指している。

 

2.児童生徒の現状と課題

  我が国の児童生徒の学力は、国内外の学力調査結果によると、近年は学力が向上し改善の傾向にある。最近の学力調査に関して、本会はホームページで「提言103:学力テスト10年 真の学力を測れているか」、「提言104:2015国際数学・理科教育動向調査/国際学習到達度調査結果 - 基礎学力向上理科離れの改善は未だ -」などを掲載している。

 文科省は2016(平成28)年4月に実施した「全国学力・学習状況調査」の結果について、正答率(%)でみる成績は全体的に「底上げ」され、上位県と下位県の差は縮まった。学校の指導改善が一定の効果を上げたと捉えている。

 国際教育到達度評価学会が、2015(平成27)年に実施した国際数学・理科教育動向調査(以下「TIMSS 2015という)では、小中学校共に全ての教科で上位を維持し、平均得点は上昇した。また、経済協力開発機構(以下「OECD」という)が2015(平成27)年に実施した生徒の学習到達度調査(以下「PISA 2015」という)においても、科学的リテラシー、数学的リテラシーの2分野において、平均得点は高い上位グループに位置している。しかし、読解力は前回(2012:平成24年)の4位から 8位になり平均点も低下した。

 中教審は、PISA 2015の「読解力」の結果を踏まえ、児童生徒の読解力向上を「喫緊の課題」と位置付け、各学校における対応を求めている。

 文章や資料を読み解く力がないと、深く考え、自分の考えを表現することは難しい。文章の構成や内容を的確に捉えるには、小学校低学年段階からの語彙力の強化や読書活動の充実などを通じて、「読解力」の改善を図ることが重要である。

 近年は、SNS、スマホ、LINEなどによる短いメッセージの発信等、児童生徒を取り巻く情報環境の変化によって、読書量は減少している。読売新聞(2017年2月2日付け)が「1日の読書時間が0の大学生の割合は45.5%で、34.5%だった2012年以降、増加し続けている(全国大学生活協同組合連合会の2015年調査)」と報じたように、年々大学生の「本離れ」が進んでいると考えられる。

 読書活動の推進や語彙力の強化などは、学校のみならず社会全体で取り組んでいくべき課題である。学校においては国語教育を中心に各教科を通じて「読解力」の改善を図るとともに、児童生徒を取り巻く情報環境の変化、視覚的な情報と言葉との結びつきなどにも注視していくことが必要である。その上に立って、知覚した情報の意味を吟味したり、文章の構成や内容を的確に捉えたりしながら読解力の改善を図っていくことが急務である。

 今回の答申では、正式な教科になる英語は2018(平成30)年度から、先行実施できるように準備すべきだとしている。各学校においては、「読解力」と「小学校5、6年生の英語」について、スムーズに移行ができるように最大限の努力が必要となる。

 

3.児童生徒が未来を創る担い手

 次期学習指導要領は、小学校では、東京オリンピック・パラリンピツク競技大会が開催される2020(平成32)年から、その10年後の2030(平成42)年頃までの間、児童生徒の学びを支える重要な役割を担うことになる。

 2030(平成42)年頃は、少子超高齢社会、グローバル社会、情報化等の激動と変化が、これまで以上に加速度を増し、その状況を予測することは極めて困難である。したがって、児童生徒は変化を前向きに受け止め、我が国の伝統や文化に立脚した広い視野を持ち、志高く未来を切り拓いていくために必要な資質・能力を確実に身に付けていくことが求められる。したがって、次期学習指導要領は、未来を創る担い手としての児童生徒を育む学校教育を実現するための基盤であると考える。

 

4.中教審答申が示した幼稚園教育要領案と小中高校の主な教科・科目改正案

 幼稚園教育要領案と次期学習指導要領改訂案で示された主な教科・科目等は次の通りである。

 

(1)幼稚園教育要領案

 幼稚園教育要領案では、幼小接続を意識し、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を新たに明記した。そして、卒園時までに育ってほしい10項目をあげた。その10項目は次の通りである。

①健康な心と体 ②自立心 ③共同性 ④道徳性・規範意識の芽生え ⑤社会性との関わり ⑥思考力の芽生え ⑦自然との関わり ⑧数量や図形、標識や文字などへの関心・態度 ⑨言葉による伝え合い ⑩豊かな感性と表現

 などである。課題解決の学力を重視する小学校教育への円滑な接続を図るのが目的であると考えられる。共働き所帯等の幼児が通う保育所や、幼稚園と保育所が一体となった「認定こども園」でも、3歳以上の指導では、ほぼ同じ内容の指針が作られるものと考える。

(2)小学校
 現行の学習指導要領に続いて、「生きる力の育成」を掲げた。また、組織的、計画的に教育を行う「カリキュラム・マネジメント」を提示した。小学校5、6年生で英語を教科化し、外国語活動は3、4年生に前倒しとなる。5、6年生の英語は週2コマ(年間70コマ)に倍増となる。教科書を使い「読む・書く」の要素も学び、成績を評価する。3、4年生も週1コマ分の「外国語活動」を始める。また、「プログラミング教育」も加わり、コンピューターに指示を出す作業を体験して基礎的な考え方を身に付けることも明示された。

 他教科の学習内容や授業時数は削減せず、3~6年生は英語と外国語活動で週1コマ増える。英語を10~15分の短時間学習で実施するなど弾力的な時間割の編成を求めている。

 小学校の授業時数は、次期学習指導要領では、1年生850コマ、2年生910コマで現行学習指導要領と同じであるが、3年生980コマ、4~6年生1015コマと大幅に増える。15分の短時間学習の設定や、60分授業の設定、長期休業期間における学習活動、土曜日の活用や週あたりのコマ数を増やすなど、地域や学校の実情に応じて組合せながら柔軟な時間割の編成を可能としている。また、プログラミング体験を通じて、論理的な思考力を育てることも明示された。

(3)中学校
 小学校同様、話合いなどを通じて課題を発見し、解決する力や思考力を育むことに重点が置かれた。新教科などの変更はないが、英語の授業は原則英語で行うことになる。

 将来、社会に出たときに役立つ資質・能力が身に付くよう、特別活動を中心にキャリア教育の充実を図ることになった。また、教員や生徒の負担が課題となっている部活動について、地域の協力や団体との連携など運営体制の整備を求めた。

(4)小中学校
 文科省は2017年2月14日に公表した小学校社会科と中学校社会科の地理、歴史、公民の学習指導要領改定案で、竹島(島根県)、尖閣諸島(沖縄県)を「我が国固有の領土」などと初めて明記した。現行学習指導要領の地理では北方領土の記述はあるが、竹島、尖閣諸島についての記述はない。教科書作成の指針となる解説書には記述されているが、法的拘束力はなかった。したがって、今回の学習指導要領改定案に明記された意義は大きいと考える。

 2018(平成30)年度からの移行期間中、学校の判断で次期学習指導要領の全てまたは一部を先行して実施できる。移行期間中に先行して実施をしない場合は、現行学習指導要領で学ぶ小中学校向けに、最低限の追加学習内容を2017(平成29)年度に告示し、円滑な全面実施につなげるとしている。

(5)高等学校
 高等学校では、18歳以上への選挙権年齢引き下げを受け、公民に「公共」を新設し必修科目とした。「公共」は政治参加や労働問題を取り上げることになる。日本と世界の近現代史が中心の「歴史総合」と、国際理解や防災などを扱う「地理総合」の必修科目を「地理歴史」として新設した。国語や外国語の科目も再編される。

 

5.次期学習指導要領の背景と方向性

 答申の補足資料には、「人工知能が進化して、人間が活躍できる職業はなくなるかも知れない。今学校で教えていることは、時代が変化したら通用しなくなるのではないか」と学習指導要領改訂の背景を明示し、「子供たちに、情報化やグローバル化など急激な社会変化の中でも未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に備えることのできる学校教育を実現する」ことが明確になった。

 また、「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」を重視し、教育内容の改訂にとどまらず、学び方も見直すことによって、知識の深い理解を図ろうとしている。下記の図表-1は、次期学習指導要領改訂の方向性を示したものである。

 

図表-1

 

(1)「社会に開かれた教育課程」の実現

 今回の改訂では、図表-1にも示されているように、「よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会が共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む」ことが重視されている。

 「社会に開かれた教育課程」の実現を図るには、次の点も重要であると明示された。

  ① 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという

   目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。

  ② これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生

   を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでい

   くこと。

  ③ 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用し

   た社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに,その目指す事項を社会と共有・

   連携しながら実現させること。

  上記の3つを実現するためには、より良い学校教育を通じて、より良い社会を創るという目標を学

 校と社会が共有していくことが最も重要である。

(2)学習指導要領等改善の方向性

 現行学習指導要領は、各教科等において「教員が何を教えるか」という観点を中心に教育課程が編成されてきた。そのため、1つ1つの学びが何のためか、どのような力を育むかなどについては示されなかった。そのため、各教科等の縦割りを超えた指導改善の工夫や、指導の目的も漠然としていた。このことが「何ができるようになるか」ということに発展させることを妨げていたとも考えられる。

 今回の答申では、これまで改訂の中心であった「何を学ぶか」という指導内容の見直しに加えて、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」の視点から改善を図ることになった。したがって、「どのように学ぶか」「何ができるようになるか」についての目標、内容、方法などを明らかにしていかなければならない。このことは学校における重要な課題である。

 また、学校教育を通じて児童生徒が身に付けるべき資質・能力や学ぶべき内容、学び方の見通しを示す「学びの地図」として、学習指導要領が位置付けられた。学校は各学校や地域の実態を踏まえて、「学びの地図の枠組み」を創り上げていかなければならない。その際、教員のみならず、児童生徒自身が学びの意義を自覚する手がかりとしたり、家庭・地域においても幅広く活用したりするなど、汎用の伴うものにすることが重要である。

 各学校においては、次期学習指導要領の告示後、速やかに「社会に開かれた教育課程の編成」や「学びの地図の枠組みづくり」の体制を整えることが必要である。今年度内にそれらについてのタイムスケジュールを作成し、新年度において、「社会に開かれた教育課程の編成」等を通じて、次期学習指導要領の周知・徹底を図るようにしたい。

 さらに、持続可能な開発のための教育(ESD)等の考え方も踏まえつつ、社会において自立的に生きるために必要な「生きる力」を育むという理念の具体化を図るため、学校教育を通じてどのような資質・能力が身に付くか、以下の3つの柱に沿って明確化された。

 ① 生きて働く「知識・技能」の習得

 ② 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」の育成

 ③ 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養

 これら3つの柱が、現行学習指導要領の「基礎的・基本的な知識及び技能」、「課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力」、「主体的に取り組む態度」などとそれぞれの目標・内容がどのように異なるのか明確にしていかなければならない。

(3)「主体的・対話的で深い学び」の実現

 最近、アクティブ・ラーニング(以下「AL」という)という言葉をよく耳にする。教育界ではホットなキーワードにもなっている。

 「主体的・対話的で深い学び」とは、教員が児童生徒の指導にしっかりと関わり、児童生徒に求められる資質・能力を育むために必要な学びの在り方を絶え間なく考え、授業の工夫・改善を図っていくことである。

 「図表-1次期学習指導要領の方向性」にも示されているように、「何ができるようになるか」、それには「何を学ぶか」「どのように学ぶか」などを重要視していかなければならない。

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授 川口純一郎氏は、「はやぶさ式思考法」の中で、「教科書には過去しか書いていない」「教科書に載っていることをそのまま学ぶことは、既に答えが用意された問題を解くこと、過去をどれだけ記憶したかが問われるだけである」と記述しているように、経験や教科書等だけからは、「新たな発想や知識の創出」は非常に難しいと考える。個々の児童生徒が学びの対象から捉えた疑問や問題を過去の経験等と関係付けたり、意味付けたりして、課題を明確に捉え、課題解決への意欲を沸き立たせることが必要である。その意欲が対象を解釈するためのイメージへと変容する。また、個々のイメージは、児童生徒同士の協働、教員との対話を通じて、自己の考えを広げ深めるようにしていくことにもなる。即ち、「主体的・対話的で深い学び」の場を通じて、新たな発見や見方が自己自身を含めて他者からも表出されることになる。そして、新たな発想や知識の創出につなげられるものと考える。

 一方、教員が課題を児童生徒に与え、それを解き明かすことが探究的な学習と捉えている教員も少なくはない。このような学びの過程からは、新たな発想も知識の創出も生まれてこないであろう。

 「宇宙科学の父」とも呼ばれている呉市海事歴史科学名誉館長 的川泰宣氏は、2012(平成24)年8月24日、第64回日本連合教育会研究大会呉大会の講演の中で、「最高の教師は子どもの心に火を点けること」と強調された。「子どもの心に火を点ける」と言うことは、「好奇心」、「冒険心」、「匠」などであり、「何かを知りたいという欲望」が新たな発見や知識を生み出すと言うのである。このことこそが、前述したように「主体的・対話的で深い学び」の場を構成する最も重要なことである。「主体的・対話的で深い学び」によって、深い理解や資質・能力が育成されると考えるからである。

 ここで問題になるのは、探究的な学習だけがALであるというような誤解がある。児童生徒が自らテーマを設定、選択してそれを追究する探究学習は典型的なALと言うことはできるが、何もそれだけではない。習得・活用・探究という学習プロセス全体の中で、児童生徒の主体性を引き出し、対話的な場面も重視して、深い理解や資質・能力の育成を促していくことが必要である。

 ALにおいて学習過程を重視しなければならないのは、小中学校よりも高等学校と大学であると考える。筆者は「提言46:知識基盤社会を構築する学校教育の在り方」において、「大学には、講義はできても授業はできない教員がいる」と記述した。記述した理由は、40代の教員が「授業中に携帯電話をかけた学生がいる。最近の学生の中にはとんでもない学生がいる」と興奮状態で教員室に戻ってきたことが契機である。筆者はすかさず「授業中に携帯電話をかけられるような講義をしている先生の方に問題があるのでは……」と、問い返した結果、大変な暴言を受けてしまった。

 授業が学生にとって不満足なものであれば、授業中に居眠りをしたり、携帯でメールを送ったりするなど、講義を無視する学生が出てくるのも不思議な現象ではない。大学の教員の中には、過去に作成したノートを読み上げるというような一方的な講義を続けている教員も少なくない。大学は教育と研究が生命である。一方が欠ければ大学の機能は失われてしまうことをしっかりと認識していなければならない。

 各学校においては、各教科における学びの特質を明確にするとともに、AL の視点を明確にすることが重要である。これにより、教科の特質に応じた深い学びと、我が国の強みである「授業研究」等を通じて、さらなる授業改善の実現を図ることが急務である。それには、「教師力」が求められる。「教師力」が求められるのは小学校英語ばかりではない。

 次期学習指導要領では、小中学校の全教科に討論や意見発表を重視した指導が求められている。さらに、コンピューターを動かす手順を論理的に考える「プログラミング教育」も小学校で必修化される。ベテラン教員の大量退職で若手教員が増えている現状において、どういう観点で授業を改善していくのか、学校、文科省、教育委員会などが一体となって対策を講じることが急務となっている。

 中教審が2016年8月「次期学習指導要領審議まとめ案」を公表して以来、2016年12月の答申においてもALと表記されてきた。しかし、2017年2月14日、文科省が公表した次期学習指導要領改訂案では、ALは、「多義的で誤解を招く恐れがある」として改訂案では呼応の使用を見送った。

 

(4)学校教育の改善・充実を目指す「カリキュラム・マネジメント」の実現

 

図表-2

 「カリキュラム・マネジメント」は、全ての教職員の参加によって、「学校の特色」を創りあげていく営みである。この実現は各学校が編成する教育課程を軸に、教育活動や学校経営など、学校の全体的な在り方をどのように改善していくかに関わってくる。

したがって、「社会に開かれた教育課程」の理念のもとに児童生徒が未来の創り手と

なるために求められる資質・能力を育んでいくことが重要である。各学校が「カリキュラム・マネジメント」を通じて児童生徒が「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」などを構造化し、家庭・地域と連携・協働しながら実施し、児童生徒の実態を踏まえながら不断の見通しを図っていくことが求められている。

 図表-2は、「カリキュラム・マネジメント」において、どのように学ぶか」の鍵となるのが、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指す3つの柱である。

 前述したように、教員は指導することにしっかり関わり、児童生徒に求められる資質・能力を育むためには、どのような学びが必要かを絶え間なく考え、授業の工夫・改善を積み重ねていかなければならない。

 次期学習指導要領が目指すのは、学習の内容と方法の両方を重視し、学習過程を質的に高めることである。そのためには、児童生徒が「生きて働く知識・技能の」習得によって、「何を理解しているか何ができるか」、「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力の育成」によって、「理解していること・できることをどう使うか」などを通じて、学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養につながるものと考える。「深い学び」を実現する鍵となる「見方・考え方」を習得させ、これらをフルに働かせながら、授業改善に取り組むことか重要である。

(5)小学校のプログラミング教育の必修化

 今回の答申では、2020(平成32)年度から、小学校におけるコンピューターのプログラミング教育が必修化となる。これは、2016年6月、政府の新成長戦略に小学校のプログラミング教育の必修化が盛り込まれたことが契機となった。これを踏まえて、文科省の有識者会議はコンピューターのプログラム作成技術ではなく、論理的思考力などの育成を目的とする報告を了承したことによるものである。「グローバル化と情報化への対応」である。

 グローバル化には英語教育の拡充、情報化にはプログラミング教育の導入で備えるということである。

 プログラミング教育を必修化するには、指導態勢の整備に大きな課題がある。特に学級担任が全教科を担当する小学校では、専門知識を持つ教員が少ないのが実情だからである。加えて年間の授業時数が3年生980コマ、4~6年生1015コマと大幅に増えたうえ、プログラミング教育に特別の時間を割くということは相当難しくなる。時間確保をどうするか、各学校では教育課程の編成に工夫を凝らさなければならなくなる。

 2016(平成28)年4月、朝日新聞デジタルが、「中学では技術・家庭でプログラミングについて教えているが、アニメーションづくりなど新しい内容を追加したい考え。高校では、現在は選択科目の中に含まれているため、学んでいる生徒は全体の20%、新学習指導要領では必修科目の学習項目に入れる方針だ」と報じたように、小中高校でのプログラミング教育の必修化は、政府の産業競争力会議で示された新成長戦略に大きく影響されたと考えざるを得ない。

 「小学校のプログラミング教育の必修化」には各小学校が見通しをもってプログラミング教育を実施することができるようにしなければならない。それには教育委員会や、小学校現場、関係団体、民間や学術機関等と連携しながら、プログラミング教育に関する指導事例集や教材等の開発・改善を行うことと併せて、ICT環境の整備や教員研修、指導体制の整備などを確実に図っていくことが求められる。

◆参考・引用文献

 1 次期学習指導要領審議まとめ案(文科省)

 2 中教審答申「次期学習指導要領等」(文科省)

 3 現行学習指導要領(文科省)

 4 提言46:知識基盤社会を構築する学校教育の在り方 (東京都教育会)

 5 小中学校の学習指導要領改定案(文科省)

 6 提言103:学力テスト10年真の学力を測れているか (東京都教育会)

 7 提言104:20155国際数学・理科教育動向調査/国際学習到達度調査の結果

              - 基礎学力向上 理科離れの改善は未だ -(東京都教育会)

 8 「はやぶさ式思考法」(JAXA教授 川口純一郎:飛鳥新社)

 9 第64回 日本連合教育会研究大会呉大会収録(呉市海事歴史科学名誉館長 的川泰宣)

10  読売新聞、教育新聞デジタル、朝日新聞デジタル、東京新聞デジタル

 

◆資料1 小学校学習指導要領の授業時数

 

◆資料2 中学校学習指導要領の授業時数

                                         2017.2.24