平成29年3月31日、松野博一文部科学相は幼稚園教育要領、小・中学校の新学習指導要領を官報で告示した。2月14日の次期学習指導要領改訂案公表後、3月15日までのパブリックコメント(意見公募手続き)を経ての告示である。
パブリックコメントでは、1万1210件の意見が寄せられた。「聖徳太子」の呼称を「厩戸王」に改めたことについて、国会や国民からの不満の約半数が「聖徳太子」に関する意見だったと報道された。
幼稚園教育要領が平成30年度、新学習指導要領は小学校が32年度、中学校が33年度から順次全面実施される。また、先行して改訂された「特別の教科道徳」は、平成30年 4月から小学校で実施される。
新学習指導要領は、学校教育の理念や内容を学校だけでなく、社会全体で共有していく「社会に開かれた教育課程」の実現を目指す大改訂となった。
児童生徒が「何ができるようになるか」、そのために「何を学ぶか」「どのように学ぶか」を改訂の大きな柱としている。また、教育課程をPDCA(Plan:計画 Do:実行 Check:評価 Act:改善)サイクルとして捉え、一連の計画的・組織的に推進していくよう学校経営の中核に位置付けて、各学校の実施を求める内容となっている。
児童生徒の言語能力や情報活用能力、問題解決の能力などの資質・能力の育成とともに、将来の予測が困難な複雑で変化の激しい社会、グローバル化が進展する社会など、現代的な諸課題にも対応できる資質・能力の育成を強調した内容となっている。
文部科学省(以下「文科省」という)は、これまで以上に児童生徒の多様な資質・能力の育成を重視し、学校や教師に求めてきたものと考えられる。
新学習指導要領は、現行学習指導要領と比較して記述分量が約1.5倍となった。また、総則の前に新たに前文が設けられた。昭和33年度以後の学習指導要領で、前文が設けられたのは初めてのことである。
前文には、改訂全体の方向性が明示され、その方向性に基づいて小・中学校の教科等の内容が大きく変わった。
総則では、教育基本法と学校教育法などを踏まえて、目指すべき児童生徒像を明示し、授業改善を通じて、各学校が創意工夫して取り組むことを求めと考えられる。
小学校では、5、6年生で外国語(英語)を教科とした。プログラミング教育の必修化も盛り込まれた。中学校では、主権者教育の充実や部活動の在り方などが明記された。
教科横断的な学習の推進に当たっては、「主体的・対話的で深い学び」を実施するための授業のデザイン等が重要となる。したがって、教師の力量が求められている新学習指導要領であることを、学校、関係機関などがしっかりと認識していかなければならない。
本提言では、新学習指導要領(小学校)を踏まえた小学校理科の授業改善等の視点について、筆者の見解を述べてみたい。
1.学習指導要領の変遷
学習指導要領は、昭和22年に試案として作られたが、現在のような大臣告示として定められたのは昭和33年からである。それ以降、ほぼ10年ごとに改訂されてきた。
昭和22年に「教科課程、教科内容及びその取扱い」の基準として、初めて学習指導要領が編集・刊行されて以降、昭和26年、33年、 43年、52年、平成元年、10年、20年の改訂に続く8回目の全面改訂である。
今回の改訂では、「よりよい学校教育を通じて、よりよい社会を創るという目標を学校と社会が共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む」ことを重視している。
図表-1 学習指導要領の変遷
上記の図表-1は、学習指導要領の変遷(文科省「学習指導要領の変遷」)より引用したものである。
学習指導要領は、社会や時代の変化、科学技術の進歩などによって、新たな教科が新設されたり、教育内容が多様化したり、あるいは厳選されたりしてきた。また、その都度児童生徒が身に付けなければならない資質・能力が強調されてきた。
現在、学校は「生きる力」の育成を目指して、「知識・技能の習得」、「思考力・判断力・表現力等」のバランスを重視して、教育活動に取り組んでいる。
2.新学習指導要領改訂の理念
新学習指導要領改訂の理念は、児童生徒に、情報化やグローバル化など急激な社会変化の中でも、未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に備えることのできる学校教育を実現することである。この実現を目指して、新学習指導要領は、前文、総則、各教科、特別活動や総合的な学習など、教科横断的な視点に基づき、学びを深めることを目標として構成されている。文科省は、「学校においては、教科と領域における教育双方の重要性やよさを生かしつつ、教育課程全体の力を発揮させて資質・能力の育成を目指していくことが重要である。それには学校が『カリキュラム・マネジメント』の促進を図り、着実に実践を積み重ねることが重要」であると強調している。
図表-2育成を目指す資質・能力の三つの柱(文科省「学習指導要領の方向性」より引用)
新しい時代に必要となる資質・能力の育成は、上記の図表-2で示されているように、「何ができるようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」が中核となっている。新学習指導要領は、この三つの柱を中核として、新しい時代を生き抜くために必要な資質・能力の育成を目指している。この他にも「子供一人一人の発達をどう支援するか」「何が身に付いたか」「実施するために何が必要か」などについても重視している。
(1)何ができるようになるか
よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力の育成を目指している。そのために必要なことは、「社会に開かれた教育課程」の実現を図ることである。また、教育目標と育成すべき資質・能力の明確化を図ることが重要である。
各教科等や学校段階ごとに育成すべき資質・能力は、
① 生きて働く知識・技能の習得
② 未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成、
③ 学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養 などである。
(2)何を学ぶか
各教科等を学ぶ意義と教科等横断的な視点を踏まえた教育課程の編成が重要である。それには、新しい時代に必要となる資質・能力に基づいた教科等の新設や目標内容の見直しが必要となる。また、教科等間、学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成にも留意していかなければならない。
(3)どのように学ぶか
学習指導案等の作成と実施、学習指導の改善・充実を図ることが重要である。それには、主体的・対話的で深い学びの視点からの学習過程の改善が必要である。
① 主体的な学び
学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って
粘り強く取り組んだり、自らの学習活動を振り変えたりするなど、次につなげる「主体的な学び」
が実現できているか常に見直すことが必要である。
② 対話的学び
児童生徒同士の協働、教師や地域の人々との対話、先哲の見方・考え方を手掛かりに考えること
を通じ、自らの考えを広げ深める「対話的な学び」を実現するとともに、その見直しを絶えず継続
することが必要である。
③ 深い学び
習得・活用・探究の一連の学習過程で、教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を働かせこ
とが重要である。また、未知の状況にも対応できるように、思考・判断・表現等を積極的に働か
せ、学習内容の深い理解や資質・能力を図るとともに、次の学習への動機付けや意欲につながる
「深い学び」が実現できているかを見直していくことが必要である。
3.パブリックコメント後の修正
前述したように、新学習指導要領は、「子供たちに、情報化やグローバル化など急激な社会的変化の中でも、未来の創り手となるために必要な資質・能力を確実に備えることのできる学校教育を実現する」ことを理念として改訂された。したがって、次期学習指導要領案公表後のパブリックコメントを経ての修正も多かった。
(1)アクティブ・ラーニングの削除
平成26年11月20日、下村博文文部科学相から中央教育審議会(以下「中教審」という)に対して、児童生徒が討論や体験学習などを通じて、「課題の発見・解決に向けて主体的・協同的に学ぶ学習、いわゆる『アクティブ・ラーニング』の充実と学習・指導方法を教育内容と関連付けた具体化の方策」についても諮問した。それ以降、アクティブ・ラーニングは、教育現場において、授業改善のキーワードの一つとして注目され、具体的な取組も行われてきた。しかし、平成29年2月14日に公表された学習指導要領改定案では、「アクティブ・ラーニング」の文言は削除され、「主体的・対話的で深い学び」と表記された。
削除した理由として文科省は、「学習指導要領は広い意味での法令であり、しっかりした定義のない片仮名語はなかなか使えない」と説明している。
しかし、諮問した平成26年11月20日には、「アクティブ・ラーニング」は、片仮名語で表記されていた。その時点において、片仮名語表記の定義は確立していたのか、それとも定義に関わる認識はなかったのだろうか。非常に気にかかることである。
(2)カリキュラム・マネジメント
文科省は、「学習指導要領等の理念を実現するため、各学校におけるカリキュラム・マネジメント、学習・指導方法及び評価方法などの改善を支援する方策と普及」が、新学習指導要領改善に重要であると強調している。しかし、カリキュラム・マネジメントも、片仮名語の表記である。しっかりした定義が確立していると捉えてよいのだろうか。
カリキュラム・マネジメントは、平成28年5月、文科省初等中等教育局教育課程課長 会田哲雄氏と千葉大学教授 天笠茂氏は「月刊教育研修(教育研究所発行)」の対談で、カリキュラム・マネジメントとは、「学校の教育目標の実現に向けて、子供や地域の実態を踏まえ、教育課程を編成・実施・評価し、改善を図る一連のサイクルを計画的・組織的に推進していくことであり、また、そのための条件づくり・整備である」と述べている。それ以降、文科省は、カリキュラム・マネジメントの定義として、使用してきたように考えられる。しかし、この文章表現は非常に長く分かりにくい。もう少し整理して「教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていく」と、捉えるとしたら問題が起きるだろうか。
4.新学習指導要領の改訂
前述したように、新学習指導要領案はパブリックコメントにおいて修正され、新学習指導要領として告示された。ここでは「前文」「総則」「理科の目標・内容」等の修正や、理科の授業改善等の視点について述べることにする。
(1)前文
前文の冒頭に「教育の目標」について教育基本法第1条に基づいた説明がある。これを踏まえて学習指導要領の位置付けについて、「学習指導要領とは、こうした理念の実現に向けて必要となる教育課程の基準を大綱的に定めるものである。学習指導要領が果たす役割の一つは、公の性質を有する学校における教育水準を全国的に確保することである。」と明示されている。
このように、前文で改訂全体の方向性を、教育基本法を引用して、教育が目指す人間像や目的、目標を明記し、その上で、学校と社会との連携・協働の中で教育の目的の実現を図る「社会に開かれた教育課程」の重要性を強調したことは、これまでの改訂では見られなかったことである。
学習指導要領の位置付けが明確化された背景には、OECDによるPISAの調査結果を受けた、いわゆる「脱ゆとり」と呼ばれた現行学習指導要領を意識したものと考えられる。しかし、法的な拘束力が一層強化されたようにも思えてならない。
前文の「改訂案」から「告示」(最終案)への修正は、「児童や地域の実態」→「児童や地域の現状」の1カ所であるが、授業の改善にいては前文に記述されている。学校においては「改訂全体の方向性や背景」をしっかり理解し認識を深めていくことが重要であると考える。
(2)総則
総則は、現行学習指導要領(小学校)では冒頭が「教育課程編成の一般方針」となっていたが、新学習指導要領では「小学校教育の基本と教育課程の役割」へと名称が変わった。この他にも、「教育課程の編成」、「教育課程の実施と学習評価」など、第1~第6の章立や構成も再編された。特に、「教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと」が強調されている。
新学習指導要領の総則は、表-1に示されているように、6本の章立てによって構成された。
表-1 学習指導要領総則の構成(小学校)
記述されている。主体的・対話的で深い学び等を通じて、「どのように学ぶか、何が身に付いたか」
を強調したものと考えられる。
④ 第4 児童の発達の支援
「特別な配慮を必要とする児童への指導」として、障害、帰国児童、不登校児童への対応について
は、現行に比べ詳細に記述されている。
⑤ 第5 学校運営上の留意事項
学校の指導体制の充実、家庭・地域との連携・協働を通じて、「実施するために何が必要か」等、
各学校の特色を生かしたカリキュラム・マネジメントを求めている。
⑥ 道徳教育推進上の配慮事項
全体計画の作成、指導内容の重点化など、道徳教育推進教師を中心として、全教師が協力して、道
徳教育を展開することを求めている。
「総則」の改訂案から告示への修正は、「各教科の特質を生かしつつ」→「各教科の特質を生かし」
等、6カ所である。
5.教科等の特質に応じ育まれる見方・考え方
現行学習指導要領が「理数教育の充実」と銘打って学習内容が増加したため、改訂案では知識・技能に関する内容等は微増となっている。しかし、「資質・能力」については総則の内容を受けて、目標の記述や児童の伸ばしたい学力についての記述の変化が大きいため、現場の教師は特に目標と評価の改善には注意が必要と考える。
今回の改訂では、各教科等を学ぶことの意義を明確化し、それを踏まえて、各教科の目標に、各教科等の本質に根ざした「見方・考え方」が目標に位置付けられた。
各学校においては、各教科等に根ざした「見方・考え方」についての理解を深めるとともに、PDCAサイクルに基づいた授業のデザインを図り、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を推進することが重要であると考える。
6.理科の目標の改訂
現行学習指導要領の理科の目標は「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う。」となっている。
一方、新学習指導要領では「自然に親しみ、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験を行うことなどを通して、自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」と改訂され、次の(1)~(3)までの具体的な目標が設定された。
(1) 自然の事物・現象についての理解を図り、観察、実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
(2) 観察、実験などを行い、問題解決の力を養う。
(3) 自然を愛する心情や主体的に問題を解決する態度を養う。
今回の目標の改訂で最も気になるのは、「科学的な見方や考え方を養う」から「理科の見方・考え方を働かせ」に変わったことである。現行の「養う(目標)」から、改訂の「働かせ(手段)」によって必要な資質・能力を育成するという変化は非常に大きいと考える。
また、現行の「科学的」という文言は「問題を科学的に解決する」という表現に変わっている。「科学的な問題解決」や「科学的問題の解決」ではない。したがって、「科学的」という文言を「解決」に修飾させたと考えざるを得ない表現である。
「科学的」ということは、実証性・再現性・客観性等を重視するという側面を持っている。したがって、「科学的」という文言を「解決」に修飾させたことによって、必要な資質・能力の育成を重視するという強い意図が働いたとものと考えられる。
さらに、改訂案で記述されている「理科」と「科学的」という文言の意味とその差異については何も説明されていない。このことにつては、「学習指導要領解説理科編」を待つしかなさそうであるが、現場の教師にとっては混乱を起こしかねないことである。
7.理科の見方・考え方から理科で育成する資質・能力
「理科における見方・考え方」は、小・中・高等学校の児童生徒の発達段階によって、表記や内容の程度に違いがある。
理科ワーキンググループにおける取りまとめの概要(案:平成28年6月28日付け)では、小学校理科の見方は、「身近な自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなど、問題解決の方法を用いて考えること」となっている。
また、理科を構成する領域ごとの特徴的な視点として、小学校理科の各領域における特徴を次のように記述している。これも現行学習指導要領ではなかったことである。
(1)「エネルギー」:自然の事物・現象を主として量的・関係的な視点で捉える。
(2)「粒子」:自然の事物・現象を主として質的・実体的な視点で捉える。
(3)「生命」:生命に関する自然の事物・現象を主として多様性と共通性の視点で捉える。
(4)「地球」:地球や宇宙に関する自然の事物・現象を主として時間的・空間的な視点で捉える。となっている。
理科における見方・考え方を整理すると、「①質的・量的な関係 ②時間的・空間的な関係 ③原因と結果 ④部分と全体 ⑤多様性・共通性 ⑥定性と定量 ⑦比較・関係付け ⑧問題解決の方法」などとなる。
8.理科の授業改善の視点
理科の授業の改善については、各章立ての中でも前述したが、ここではより具体的に授業のデザイン、問題解決の授業過程の改善について考えてみたい。
(1)理科の授業とは
授業は教師の授業観によって大きく変わる。授業の善し悪しは、児童に多大な影響を及ぼすことになる。児童の「生きる力」に大きな影響を及ぼすと言っても過言ではない。
新学習指導要領の改訂を契機として、各教師がしっかりした授業観に基づいた授業をデザインし、PDCAサイクルに基づいた改善を図ることが重要である。
理科の授業は、問題解決の授業が基本である。教師が作った問題(課題)を、児童の主体的な問題に置き換えて解決させることを、「問題解決の授業」と捉えている教師や問題解決を学習方法の一つの手段として捉えている教師も少なくはない。しかし、現実の生活は問題解決の連続である。少子超高齢社会、グローバル社会、知識基盤社会、現代的な諸課題に主体的に対応し、逞しく生き抜くには、遭遇する問題・事態に主体的・意欲的に対処して、これらを克服する資質・能力を身に付けることが重要である。
未知の問題解決に当たる資質・能力の育成には、児童の主体的な実践活動や体験が不可欠である。
筆者は理科の授業とは「自然の事物・現象を媒介とした、児童と教師による創造活動である」と捉えている。したがって、理科の授業は、児童が自然の中の未知・未経験の事物・現象を学習の対象として意識し、それに主体的に働きかけるとともに、それから得た情報を既習事項と関係付けたり、意味付けたりしながら、問題解決の問題に創り上げることが重要である。創り上げた問題を児童・教師との協働的な対話によって、新しい経験を構築したり、新たな知を創造したりする一連の活動を、教師と共に創造していくことが重要である。
授業をデザインするのは教師であり、授業の方向付けをするのも教師である。しかし、教師は知識や技能の分配者ではない。教師は児童が自ら学ぼうとする意欲と主体的、創造的に問題解決の能力を習得できるよう、児童の支援者に徹するとともに、常に児童に寄り添って児童と共に、授業を創造していくことが必要である。このことが理科の授業改善の最も重要なことである。
提言105においても記述したように、「宇宙科学の父」とも呼ばれている呉市海事歴史科学館名誉館長 的川泰宣氏は、かつて講演の中で、「最高の教師は子どもの心に火を点けること」と強調された。「子どもの心に火を点ける」ということは、「好奇心」、「冒険心」、「匠」などであり、「何かを知りたいという欲望」が新たな発見や知識を生み出すと主張した。これらの視点こそが、「主体的・対話的で深い学び」への授業改善につながる視点と考える。「子どもの心に火を点ける」ことを目指して、理科の授業改善図ることが重要である。
(2)理科の授業・指導の改善
理科においては、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の三つの視点から学習過程を質的に改善していくことが必要である。これらの三つの視点はそれぞれが独立しているものではない。「主体的な学び」「対話的な学び」を通じて「深い学び」につながっていくなど、相互に関連し合うことを、教師はしっかりと認識し、それを踏まえて授業をデザインすることか重要である。
文科省は、理科においては、自然の事物・現象について、理科の「見方・考え方」を働かせて、問題解決の過程を通じて学ぶことにより、必要な資質・能力を獲得するとともに、理科の見方・考え方も深まっていくと示しているが、筆者はその見方・考え方は、次の学習や日常生活などにおいて問題発見や解決に活用したり、汎用したりすることにつなげていかなければ、「深い学び」につながらないと考える。
① 主体的な学び
児童が主体的な学びに取り組むには、自然の中の未知・未経験の事物・現象をどのように捉えるか
が重要である。未知の事物・現象に対する「疑問」や「好奇心」を既習事項と関係付けたり、解釈し
たりすることによって、学ぶことに興味や関心を持ち、解決すべき問題に創り上げていくことができ
る。その問題の解決に際しては、既習事項や理科の見方・考え方を働かせて事物・現象の中に潜む事
実を捉えたり、解釈したりすることによって、「主体的な学び」につながっていくと考える。
特に、問題解決の過程を振り返って、改善策を考える学習の場を構成し、次の問題の発見や新たな
視点で自然の事物・現象を把握できるようにすることが必要である。
② 対話的な学び
未知の事物・現象に対する「疑問」や問題について、児童同士の協働、教師や地域の人々との対話
などを手掛かりに、自らの考えを変えたり、広げたり、深めたりすることによって、新たな考え方に
気付いたり、自分の考えをより妥当なものに修正したりすることによって、授業は深まり改善されて
いくと考える。
そのためには、意見を交換したり、議論したりして、自分の考えをより妥当なものにする学習の場
を構成することが、教師の重要な役割である。
③ 深い学び
理科で習得した「生きて働く知識・技能の習得」、「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・
表現力」が実現できたかをなどを見直すことが重要である。この見直しによって、さらに、自然の事
物・現象と深く関わり、新たな問題を発見へ意欲的に取り組んだり、授業を通じて獲得した資質・能
力を日常生活に活用したり、汎用したりすることによって、「深い学び」が実現されと考えることが
できる。そして、授業そのものも大きく改善されたことになる。
◆参考・引用文献
1 次期学習指導要領審議まとめ案(文科省)
2 中教審答申「次期学習指導要領等」(文科省)
3 現行学習指導要領(文科省)
4 新学習指導要領(文科省)
5 「月刊教育研修」(教育研究所発行)
6 理科ワーキンググループにおける取りまとめ案の概要
7 提言 79:学習指導要領全面改定の諮問の背景を考えよう
-小学校英語教科化、高等学校日本史必修等-(東京都教育会)
8 提言155:次期学習指導要領の周知・徹底を図ろう(東京都教育会)
9 読売新聞・朝日新聞
2017.04.18
① 第1 小学校教育の基本と教育
課程の役割
教育基本法等に示された教育の目的・目標の達成に向けた教育課程の意義、「生きる力」の理念に基づく知・徳・体の総合的な育成すべき資質・能力、「何ができるようになるか」が強調されている。
② 第2 教育課程の編成
資質・能力を含めた学校教育目標に基づく教育課程の編成、「何を学ぶか」を強調した記述になっている。
③ 第3 教育課程の実施と学習評価
PDCAサイクルを彷彿とさせる内容となっている。このことを踏まえ、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」等が詳細に