提言11: 新しい学習指導要領を踏まえた小学校国語科の授業改善
平成20年度は、3月8日に告示された新学習指導要領の趣旨説明期間として各校種ごとに説明会が実施されよう。30年ぶりの授業時数の増数方針により、特に国語科の標準総時数が79時の増となった。
移行措置がとられる平成21〜22年度では、各校が新学習指導要領の趣旨を踏まえて創意ある授業の改善と展開を進めるとともに、23年度からの円滑な全面実施を期待して、以下のような提言をする
T 新学習指導要領/国語科の改訂の背景
学習指導要領/国語科の改訂された背景には、次のような課題等があり、今後の国語科教育に当たって、それらを十分踏まえた指導が求められる。
1-1) 文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」(平成16年2月3日)によって、「これから求められる国語力」や、「望ましい国語力の具体的な目安」等を明らかにされたこと
本答申の中では、国語力を、@考える力、感じる力、想像する力、表す力からなる言語を中心とした情報を処理・操作する領域と、A考える力や、表す力などを支え、その基盤となる「国語の知識」や「教養・価値観・感性等」の領域との2領域に構造化するとともに、学校教育において、次のような指導の具体的な手立てをとるよう求めている。
<基本的な考え方>
@国語教育を中核に据えた学校教育を行う。
A「聞く」「話す」「読む」「書く」を組み合わせた指導を展開する。
<国語科教育の在り方>
@国語科教育で育てる大切な能力とは、「情緒力」「論理的思考力」「思考そのものを支えていく語彙力」である。「情緒力」を付けるために文学作品を中心とした「読む」指導を、「論理的思考力」を付けるために、文章を書くことや自分の意見を述べる機会を多くするとともに、「語彙力」を付けるために漢字指導を充実させる。
A 国語の授業時数を増やすとともに、教科内容をより明確にする。
B 指導の重点は「読む・書く」にあることを改めて確認する。
C 演劇などを取り入れた授業を展開する。
D 音読・暗唱と古典を重視する。
E 交ぜ書き表記をやめ、振り仮名を利用して、早い段階から漢字表記を目に触れさせるなど指導の在り方を考える。
<国語科と他教科との関係>
@国語科以外の教科でも国語力の育成を志向する。
A他教科との連携と教員の国語力向上を図る。
1-2) 調査の結果から、読解力に低下傾向が見られたこと
OECDのPISAの調査を通して、我が国の生徒は、読解のプロセスにおいて、「テキストの表現の仕方に着目する問題」、「テキストを評価しながら読むことを必要とする問題」、「テキストに基づいて、自分の考えや理由を述べる問題」、「テキストから読み取ったことを再構成する問題」、「科学的な文章を読んだり、図やグラフを見て答える問題」に課題のあることが明らかになった。文部科学省はこうした結果を踏まえ、改善の具体<的な方向として次の3点を打ち出している。
@ テキストを理解評価しながら読む力を高めること
A テキストに基づいて自分の考えを書く力を高めること
B 様々な文章や資料をよむ機会や、自分の意見を述べたり書いたりする機会を充実すること
〜 文部科学省「読解力向上プログラム」(平成17年12月)〜
1-3) 教育課程実施状況調査から記述式の問題に課題が見られたこと
比較的自由に自分の気持ちを表現する設問は正答率が上昇しており、全体として正答率は高いが、文章を深く読んで分析的に理解してその上で論理的に記述する設問では正答率が低下している。
また、特定課題に関する調査結果から、漢字の習得については、実生活や学習場面での使用頻度が高い漢字は定着しているが、使用頻度が低いものや使用範囲が低い漢字については定着が十分でないという課題が見ら
れた。
U 国語科改善の基本的方針
2-1) 言語の教育としての立場の一層の重視、実生活に生きて働く国語力の重視、及び我が国の言語文化を享受し継承・発展させる態度の育成、
特に、言葉を通して的確に理解し、論理的に思考する能力、互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成することや、我が国の言語文化に触れて感性や情緒をはぐくむことを重視する。
2-2) 学習の系統性の重視
小学校においては日常生活に必要な国語の能力の基礎を、中学校においては社会生活に必要な国語の能力の基礎を、高等学校においては社会人として必要な国語の能力の基礎をそれぞれ確実に育成するようにする。
2-3) 古典の重視
生涯にわたって古典に親しむ態度を育成する指導や、漢字、敬語、言葉のきまり等の指導を充実し、読書活動を「内容」へ位置付ける。
V 小学校学習指導要領/国語科の主な改善点
総括目標については、現行学習指導要領の総括目標、「国語を適切に表現し正確に理解する能力を育成し、伝え合う力を高めるとともに、思考力や想像力及び言語感覚を
養い、国語に対する関心を深め国語を尊重する態度を育てる」と全く同じであるが、「日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう」にとして、次のような改善が図られた。
3-1) 日常生活に必要とされる対話、記録、報告、要約、説明、感想などの言語活動が確実に身に付けることができるよう、継続的に指導する。
3-2) 課題に応じて必要な文章や資料等を取り上げ、基礎的・基本的な知識・技能を活用し相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していく能
力の育成を重視する。
具体例として、
低学年= 見たことや知らせたいことを記録し説明や紹介をしたり、体験したことを報告したりすることができる。
中学年= 調べたことを観察・実験したことを記録・整理し、説明や報告にまとめて書き、資料を提示しながら発表することができる。
高学年= 目的に応じて自分の立場から解説や意見、報告を書き、理由や根拠を示しながら説明することができるとともに、自らの言語活動を振り返ることができる。
3-3) これまでの[言語事項]が、新たに[言語文化と国語の特質に関する事項]となり、物語や詩歌などを読んだり、書き換えたり、演じたりすることを通して言語文化に親しむ態度の育成を重視する。そして、新たに
[伝統的な言語文化に関する事項]が設けられ、低学年では、昔話や神話・伝承、中学年では易しい文語調の短歌や俳句、ことわざ、慣用句、故事成語、高学年では親しみやすい古文や漢文、近代以降の文語調の文章及び、古典についての解説文を取り入れて指導する。
3-4) 認識や思考、伝達などに果たす言語の役割や、相手に応じた言葉の遣い方や方言などの言語の多様な働きについての理解を重視する。
3-5) 易しい古文や漢詩、漢文について音読や暗唱を重視する。
3-6) 漢字について、上学年配当漢字、それ以外の常用漢字などもルビを打つなどして、読む機会を多くするとともに、日常生活に確実に使えるよう、実際の文章や表記の中で繰り返し学習するなど、児童の習得の実態に応じた指導を充実させる。
3-7) 情報機器の活用や他の学習活動等の関連から、第3学年からローマ字指導を実施する。
3-8) 手紙を書いたり記録をとったりするなどの実際の日常生活や学習活動に役立つよう、書写指導の内容、指導の在り方を改善する。
3-9) 基本的な知識を理解し、実際場面に使い慣れるように、敬語の指導を重視する。
3-10) 書くことや読むことなどに関連付けて言葉のきまりを指導する。
3-11) 目標をもって読書し、日常的に読書に親しむようにすることや、図書館の利用の仕方などを内容に位置付けるなど読書指導を充実する。
3-12) 長く親しまれてきた和歌・物語・俳諧・漢詩・漢文などの古典や、物語、詩、伝記、民話などの近代以降の作品を教材化する。
3-13) 授業時数を増やす。
【1年生 272時→306時(+34時)】 【2年生280時→315時(+35時)】【3年生235時→245時(+10時)】
【4年生235時→245時(+10時)】【5年生185時→175時(−10時)】【6年生175時→175時(同じ)】 標準総時数 79時の増
W 国語科の授業改善をどう図るか
学習指導要領改訂の基本的な考え方の中で、「確かな学力」の育成に当たっては、@基礎的・基本的な知識・技能の習得 A知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の育成 B学習意欲の向上や学習習慣の確立の3点を重視することが必要とされている。このことは、全ての教科指導で重視されるものであるが、国語科にあってもこの3点を軸に授業改善されなければならない。
4-1) 国語の基礎・基本の確実な定着を図る授業づくりで、漢字や語彙、語句等について、繰り返し指導し、確実に習得させる。
文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」でも、発音や発声、漢字や仮名遣い、言葉の決まりや働き、文章の組み立て、言葉遣いなどの「言語知識」は、「表現」「理解」の基盤をなすものとしている。この基礎的事項については、繰り返して学習したり、取り立てて学習したりして、確実に定着させる必要がある。
とりわけ、低学年において、鉛筆の正しい持ち方を繰り返し指導し、正しく早く文字を書くことや、適切な音量で正しく発音する声の出し方の指導、漢字の繰り返し指導、視写・聴写による書字力の向上などを確実に定着させることが、その後の国語学習の達成状況に大きく影響する。
4-2) 音読・暗唱・朗読を重視する。
今回の学習指導要領・国語の改訂のポイントの1つに、[言語事項]が[言語文化と国語の特質に関する事項]に替わり、[伝統的な言語文化に関する事項]が新たに設けられたことである。
低学年では、昔話や神話・伝承の読み聞かせ、中学年では易しい文語調の短歌や俳句についての音読や暗唱、高学年では親しみやすい古文や 漢文、近代以降の文語調の文章についての音読などが指導事項として示されている。
声に出して繰り返し読むことを通じて、文語調の詩や短歌、文章のもつリズム感を感じ、そのよさを十分に味わわせるようしたい。その際、意味や文法等には深入りせず、「親しむ」「暗唱する」「リズムを楽しむ」ことを基本に指導し、中学校、高等学校での「古文嫌い」につながらないよう十分配慮する必要がある。
4-3) 「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」にかかわる基本的事項の確実な定着を図る。
国語の基本的事項である、スピーチや目的や課題に応じたメモの活用、感想文や意見文、記録文の書き方、文章の内容を的確に押さえた説明文の読み方、登場人物の様子を豊かに想像しながら読む物語文の読み方などは、日々の国語の授業の中で確実に身に付けさせる必要がある。
そのためには、目標の明確な授業、児童の思考過程に沿った授業展開、学習意欲を起こさせる教材・教具、ワークシート等の工夫など、これまで以上に日常の国語の授業改善を図る必要があると考える。
4-4) 基礎的・基本的な知識・技能を活用し、生きて働く国語力の育成
全国一斉学力テストの結果では、基礎的・基本的な知識・技能にかかわる
「主として『知識』に関する問題」については一定程度身に付いているが、それらの知識・技能を実生活や課題解決のために活用する力をみる「主として『活用』に関する問題」については十分ではないことが明らかになった。この「主として『活用』に関する問題」とは、@日常生活や社会生活で必要とされる読書・鑑賞・創作などの言語活動の活用に関すること A文章を読んで筆者の主張の内容やその表現方法などを評価すること B伝えたい内容をまとめ表現すること C様々なメディアを活用することによって課題を多角的に探究することとされているが、こうした国語の基礎的・基本的知識・技能を活用し、実生活や課題解決に生きて働く国語の力を育成することが強く求められている。
課題解決に向けて基礎的・基本的知識・技能を活用し、言語活動を重視した授業を展開する。
(1)新学習指導要領では、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の指導に当たっての言語活動例をこれまで以上に明確に示している。
例えば、低学年の「書くこと」では、@想像したことなどを文章に書くこと A経験したことを報告する文章や観察したことを記録する文章などを書くこと B身近な事物を簡単に説明する文章などを書くこと C紹介したいことをメモにまとめたり、文章に書いたりすること D伝えたいことを簡単に手紙に書くこと、として多様な書く活動を指導することとしている。
国語における活用力を向上させるためには、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」及び「言語知識」を相互に関連させ、こうした言語活動を積極的に取り入れて、児童相互が考えを深めたり、まとめたりしながら課題解決する授業を展開することが必要である。また、課題解決のために必要な図書資料を検索し、選び、利用することや、自らの精神的成長のために読書する習慣をつけることなど、図書館利用や読書への発展を意識した指導展開を心がけることが大切である。
(2)他教科、他領域との関連を図った授業づくり
各教科等における言語活動の充実は、今回の学習指導要領改訂において、各教科を貫く重要な改善の視点である。
例えば、充実した「総合的な学習の時間」の活動ができるかどうかは、その活動を行う児童の国語力と大きくかかわる。「資料の中から必要な箇所を選び、読む」、「要点をまとめ、書く」、「グループで話し合う」、「考えを出し合い深める」、「調べたことを資料をもとに報告する」、「感想を発表する」など、これら全てが国語科で育成されるべき国語力である。こうした国語力は「総合的な学習の時間」だけでなく、社会科や算数科といった他教科、特別活動、道徳等全ての教科、領域に大きくかかわっている。生きて働く国語力という観点からも、他教科、他領域とどのようにかかわるかを考え、その関連を意識して国語の授業を行うことがますます重要になってきている。
3 学習意欲の向上
OECDのPISA調査の結果に、学力の重要な要素である学習意欲やねばり強く課題に取り組む態度に個人差が広がっているという課題が見られたこともあり、今回の学習指導要領の改訂では、学習意欲の向上と学習習慣の確立が重要な改善の柱となっている。また、いくつかの調査から、高学年になるに従い、国語科の学習を好む児童が減少し、国語学習への意欲も二極化傾向が一層進んでいるという結果が出ている。
児童の国語学習への意欲を向上させるためには、日々の授業を通して、児童に、「分かった、できた」という喜び、「読んで良かった」、「書いて良かった」、「話し合ってよかった」という充実感、達成感を味わわせることが何よりも重要である。そのためには、個々の児童の興味関心や達成度、学習時の反応等を予測しながら、十分な教材研究を行う必要がある。また、児童にとって身近でリアリティのある話題、題材、教材を準備するとともに、一人ひとりの児童の考えや思いを大切にしながら、個の学習を全体への学習に拡げ、自己完結的な学習から、発展的、継続的な学習につなぐ指導が必要である。こうした授業の積み重ねが、児童に学びの手応えを感じさせ、学びの意義を自覚させていくのである。
また、こうした学習意欲の向上を目指す授業づくりは、学習習慣の確立や自ら進んで文章を読み、文章を書く自己学習力にも密接に結び付き、その力が相互に共鳴し合って高め合うことにもつながるのである。
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