提言111:睡眠負債の返済と児童生徒の睡眠教育

 

 

 平成29年6月18日に放送されたNHKテレビ スペシャル「睡眠負債が危ない ~“ちょっと寝不足”が命を縮める~」と題して、この問題を大きく取り上げた。放送後番組に対する批判も含め多くの話題を呼んでいる。

 わずかな睡眠不足が、まるで借金のようにじわじわ積み重なる「睡眠負債」、命にかかわる病気のリスクを高め、日々の生活の質を下げていることが明らかになった。どのように予防し対策を講じるか、最新研究の取材に基づいた60分の拡大生放送であった。

 一方、平成26年度 文部科学省(以下「文科省」という)は、「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」を実施した。その結果によると、午前の授業中に、「眠くて仕方がないことがありますか」との問いに小学生の10.5%が「よくある」、24.6%が「ときどきある」と回答しており、日常的な疲労状態にある児童が少なくない。この傾向は中学校、高等学校へと進むにつれて増加の傾向が顕著になっている。

 睡眠時間が短くなるほど体力が低下し仕事の効率も悪くなる。また、生活習慣によって学力や体力に及ぼす影響やそれらとの相関関係も分かってきたにもかかわらず、十分な対応策が講じられてこなかった。

 児童生徒の睡眠にかかわる問題は、早急に取り組まなければならない喫緊の課題である。

 睡眠負債によって起きているいろいろなリスクや睡眠負債の返済、睡眠を中心とした生活習慣の改善と児童生徒の自立などについて、筆者の見解を述べてみたい。

 

1.NHK「睡眠負債」特集の内容

 番組では、「日本人に広がる?“睡眠負債”とは」、「パフォーマンス低下と高まる重大疾病リスク」、「“睡眠負債”を抱えているかどうかの実験」、「睡眠負債の及ぼす影響やリスクと睡眠負債返済の方策」など、最新研究の取材に基づいて、視聴者に「睡眠の重要性」と「睡眠負債」の返済などを呼びかける番組であった。

(1)自分では気付けない?「睡眠負債」とは

 睡眠不足は1日単位で短期的であるが、睡眠負債は慢性的である。また、睡眠不足は日中に眠くなる等自分自身で認識できるが、睡眠負債は毎日1時間程度の睡眠ロスが貯まっていくので、本人は気付きにくいという問題がある。

 「睡眠負債」とは、NHKの番組でも触れていたように、睡眠不足の弊害がどんどん膨らんでいくという性質を表した用語である。気付かないうちに貯まっていく「眠りの借金」が睡眠負債である。「睡眠負債」の特徴は、「貯金はできないが、借金はできる」ということである。つまり、寝だめはできずに寝不足を続けると、その影響がどんどん膨らんでいってしまうのである。

 睡眠不足と言うと、通常イメージするのは1日3時間程度の睡眠のように思われている。こうした極端な睡眠不足を続けていると、ストレスや疲労の影響で生活の質が低下するほか、様々な病気のリスクが高まってしまうことが分かってきた。しかし、1日6時間程度眠り、自分では睡眠に問題はないと思っている人でも、実は睡眠が不足しその影響がまるで借金(負債)のように蓄積してしまうのである。

 「睡眠負債」が貯まっていると、自分では気付かないうちに仕事や家事のパフォーマンスが落ちたり、命にかかわるような病気のリスクが高まったりする。

 睡眠を研究する専門家たちは、この「蓄積する睡眠不足」を「睡眠負債」と名付け対策の重要性を指摘している。

(2)睡眠負債大調査

 6月18日のNHKテレビ スペシャルでは、「睡眠負債大調査」についても放送した。調査には20~70代の健康な男女30人が参加した。睡眠には全員自信がある人たちである。調査は週末(木・金・土)に2泊3日で行われた。

 ① 実験の方法と内容

   先ず1泊目(木)は普段と同じように就寝する。そして、翌朝はいつも通り仕事へ出勤する。こ

  こから睡眠調査の本番である。ホテルの部屋の窓に目張りをし、時計やスマ-トホンなどを隠し、

  時間を気にせず、思い通りに眠れる環境を構成する。この状態で、普段の睡眠時間よりも多く寝て

  しまうと、睡眠負債の可能性が疑われる。翌朝の土曜日全員仕事は休みである。

 ② 実験の結果

    睡眠時間の増加2時間未満が40%、2時間~3時間が33%、3時間以上が27%、5時間も長く眠っ

  てしまった被験者もいた。

   普段の睡眠より2時間以上眠った人は、睡眠負債のリスクが非常に高いと判断される。今回の調

  査では、60%近い人たちが睡眠負債を抱えていると結論付けられた。

   理想の睡眠時間は7~8時間といわれている。それぞれの環境によっては、必ずしも当てはまらな

  い場合もあると思われるが、睡眠負債によるリスクは避けなければならない。

(3)最近の睡眠に関する研究1

 NHKテレビ スペシャル「睡眠負債が危ない ~“ちょっと寝不足”が命を縮める~」が放送された11日前の6月7日に、「睡眠負債に気をつけよう」(視点・論点)が放送されていた。その放送の中で、早稲田大学教授 枝川 義邦氏は、「睡眠は、生きる上で欠かせない、重要な生理機能の1つです。しかし、睡眠時間は“ただ休んでいる時間”と思われがちで、“時間がもったいない”、“多少短くても大丈夫”と、日常的に睡眠不足を感じている人も多いのではないでしょうか。」と話し最近の睡眠研究を公表した。

 

図表-1 睡眠不足による認知能力への影響

 図表-1のデータからは、4時間睡眠を2日続けると「注意力の低下度」は13に達している。8時間睡眠の6.5倍に当たる。4時間睡眠のグループは昼間でも確実に眠気を感じる度合いが日ごとに増していったと推測できる。

 一方、6時間睡眠のグループでは、さほど眠気を感じていないようにも考えられる。しかし、6時間睡眠の場合は「十分眠った」と感じ、生活習慣として慣れているのかも知れない。しかし、6時間睡眠が2週間続くと2晩徹夜したと同じ脳の状態(注意力の低下度16)に達していることが分かる。

  多くの日本人は6時間未満の睡眠しか摂れていないのが現状である。したがって、連日の徹夜をしたときと同程度の脳の働きで毎日を過ごしていると考えられる。

 睡眠不足は、何かの作業の失敗や、事故につながる「ヒューマンエラー」の原因になることが知られている。例えば、飲酒運転は大変危険なことであるが、実は睡眠不足で行う作業も、飲酒をしたときと同様の状態なのである。

  多くの日本人は6時間未満の睡眠しか取れていない現状を直視し、睡眠時間の改善を図っていかなければならない。

(4)最近の睡眠に関する研究2

 米ペンシルバニア大学の研究チームは、被験者を「徹夜グループ」と、「睡眠時間6時間グループ」に分け、注意力や集中力がどのように変化するかを調べた。

 実験の結果、「徹夜グループ」は、初日、2日目と成績が急激に下降し、脳の働きが急激に衰えていることが分かった。

  一方、「6時間睡眠グループ」では、最初の2日間はほとんど変化がなかった。しかし、その後、徐々に脳の働きが低下した。そして、2週間後には、「徹夜グループ」の2晩経過後とほぼ同じレベルになった。つまり、6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜したのとほぼ同じ状態にあると考えられる。しかも驚くことに、6時間睡眠グループは、脳の働きの衰えを必ずしも自覚していなかったことである。徹夜した場合と比べ、わずかな睡眠不足がじわじわ蓄積した場合、なかなかその影響について自覚できないことが分かったのである。

 「NHKテレビ スペシャル“睡眠負債大調査”」、「睡眠負債に気をつけよう(視点・論点)」、「米ペンシルバニア大学の研究」の3つの研究は、研究方法や内容に多少の違いはあるが、実験結果はほぼ同じであると考える。

 日本人の約40%は6時間未満の睡眠を続けているともいわれている。6時間睡眠の人々は、日常的に睡眠不足を感じ、気付かないうちに、「免疫機能の低下」、「糖尿病」、「がん」、「肥満」、「うつ」など私たちの健康や脳の働きに弊害を及ぼしていると考える。また、感情や思考、記憶などをつかさどる脳の前頭前野や大脳辺縁系の活動性が低下することも分かってきた。このように睡眠は、「生きる上で」必要なだけではなく、脳や体の機能を正常に保って「よりよく生きる」ためにも重要であることを、きちんと認識していかなければならない。

 

2.「睡眠負債」による重大な病気との関連

  睡眠は、生きる上で欠かせない重要な生理機能の1つでる。「睡眠は必要」と思っていても、「寝ている時間がもったいない」、「眠いがもう少し勉強をしなければ」などと考えてしまう人が多く、睡眠時間を削ってしまいがちである。

 日本人の平均睡眠時間は、年々短くなっている。この事実をしっかりと認識し、睡眠負債が貯まらないように、自分自身の生活習慣を見直すようにしたい。

 睡眠負債によって、血糖値を下げるインスリンの働きの低下や、アルツハイマー病の原因とされる物質の蓄積を引き起こす危険も分かってきた。

(1)日本人の睡眠時間

 厚生労働省は平成28年11月14日、「平成27年国民健康・栄養調査結果の概要」を発表した。それによると成人の平均睡眠時間は男女とも「6時間以上7時間未満」の人が最も多く30%強を占めている。また、区分中央値を元に平均値を算出すると、男性6.44時間、女性6.32時間となり、わずかに男性が長い傾向にある。

 

図表-2  日本人の年代別の睡眠時間

 睡眠時間を調べた別の調査では、日本人の約40%は6時間未満の睡眠を続けているといわれている。

 また、平成26年に経済協力開発機構(OECD)が世界29カ国を対象に15~64歳の国民平均睡眠時間を調べた調査結果を発表した。その結果、日本人の睡眠時間(7時間43分)は世界29カ国の中で韓国(7時間41分)に次いで2番目に短いことが分かった。平成21年に発表した同様の調査結果では、日本人の平均睡眠時間は7時間50分である。5年間に国民の平均睡眠時間が7分も短くなっている。

 本会ホームページ「提言 110:教員の“働き方改革”と児童生徒に向き合う授業の創造」において、「週に60時間以上働く小中学校の教員の割合が70~80%に上る」と記述した。このことを睡眠負債の観点から考察すると、多くの教員は「睡眠負債」を抱えていることが推測される。

(2)睡眠不足は肥満につながる

 睡眠時間と食欲に関するホルモンの関連を調べた報告によると、睡眠時間が短くなると、レプチン(食欲抑制ホルモン)の分泌が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)の分泌が増えることが示されている。つまり、睡眠時間が短いと食欲に関するホルモンのバランスが乱れて食欲が増進してしまい、肥満につながりやすいと考えられる。

(3)がん・認知症のリスクが高まる

 最近の研究で、睡眠負債により仕事や日々の生活の質が大幅に低下する実態が現れてきた。前述したように、毎日6時間の睡眠が2週間続くと、2晩徹夜したのと同じ脳の状態になることが判明した。また、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きの低下や、アルツハイマー病の原因とされる物質(アミロイドβ)の蓄積を引き起こす危険も分かってきた。

 アルツハイマー病は、不可逆的な進行性の脳疾患で、記憶や思考能力がゆっくりと障害を受け、最終的には日常生活の最も単純な作業を行う能力さえも失われる病気である。ほとんどのアルツハイマー病の患者では、60歳以降に初めて症状が現れる。アルツハイマー病は、高齢者における認知症の最も一般的な疾患である。

 この患者の症状には、記憶障害、言語障害、予測不可能な行動がある。患者の脳のいたるところにアミロイドβが蓄積し、脳の萎縮とアミロイドβの増加によって、健康であった神経細胞(ニューロン)が、効率よく機能しなくなる。そして、時間の経過とともに神経細胞は、相互に機能して連絡し合う能力を失い、最終的には死滅してしまう疾患である。

 アミロイドβは発症の20~30年前から蓄積するといわれている。つまり、働き盛りの時期に十分な睡眠をとっていないと、数十年先に認知症になるリスクを高める可能性があるといえる。

(4)睡眠不足によるストレスホルモンの分泌

 睡眠不足によって、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌量が多くなることも知られている。

コルチゾールは、 副腎皮質で生産されるステロイドホルモンの1つで、主にストレスと低血糖に反応して分泌される。コルチゾールも他のホルモン同様、人間の恒常性を維持する働きをするが、コルチゾールの分泌量が一時的ではなく、慢性的に高くなったり、低くなったりすると、その作用が人体に悪影響を及ぼすことになる。

 

3.「睡眠負債」の返済

 「睡眠負債」が貯まってくると、脳や体の働きが「にぶい」状態で生活している可能性がある。しかし、「睡眠負債」を返済すると、集中力、コミュニケーション能力が増し、嫌な記憶も睡眠中に整理されるのでストレスが軽減される。また、脳の働きが良くなるだけでなく、仕事や運動、勉強などに主体的・意欲的に取り組むようになると考える。

 フジテレビ解説委員 鈴木款氏は、企業向けの睡眠研修会で、「自分の適性睡眠時間を知る目安は、起きてから4時間後に眠気があるかどうかです。起きてから4時間後は人間の脳が最も活性化して、集中力が高くなる時間なので、もしその時間に眠気があるとすれば、必然的に睡眠が足りないということになります。」と述べているように、起床4時間後の眠気は、自分自身の睡眠負債の程度を知る手掛かりの1つである。自分自身の眠気がどの程度かを知り、睡眠についての関心を高めるようにしたい。

 NHKテレビ スペシャル「睡眠負債が危ない」の番組では、「睡眠負債」リスクを調べるチェックリストを紹介した。次のURL「http://www.nhk.or.jp/special/sleep/ 」を入力しクリックすると、「睡眠負債が危ない」が表示され、「あなたの“睡眠負債”リスクを調べるチェックリストです。下の8つの質問で、過去1か月間のことについて、あてはまるものを選択してください」と表示される。あてはまるものを選択し、最後に「個人を特定する情報は収集されません。回答データは、NHKと滋賀医科大学(監修)に共有され、研究のために利用される可能性があります。」の文言に同意すると、睡眠負債によるリスクが判定される。その判定結果に基づいて、日常生活の改善等を図るようにしたい。

(1)「睡眠負債」の返済は計画的に行う

 人間には1日周期でリズムを刻む「体内時計」が備わっている。意識をしなくても、日中は体と心が活動状態に、夜間は休息状態に切り替わる。つまり、睡眠と覚醒のリズムである。体内時計は、起きて光を浴びることによってスタートする。光の刺激が目に入ると、その刺激が睡眠物質のメラトニンの分泌をストップさせるからである。そして、光を浴びた14~16時間後にメラトニンが脳内に溜まってきて再び眠気が起こる。

 したがって、普段の睡眠不足を解消しようとして、土・日に数時間多く眠り続け一気に返済しようとしても効果はない。「体内時計」のリズムが乱れ、生活のリズムもが乱れてしまうからである。また、平日の睡眠の質が落ちるなど弊害が大きくなる恐れもある。睡眠負債の返済は、計画的に行うとともに、生活習慣の改善を図り、睡眠の質を上げることが重要である。

(2)スムーズな眠りに就くには

 スムーズに眠りに就けるようになると、布団に入っている時間は同じでも実質的な睡眠時間は長く確保できる。それには、副交感神経がスムーズに働くようにすることが重要である。

 副交感神経は、活動によって疲れた体を修復させる神経である。正反対の働きをする交感神経とバランスよく働くことによって、健康と生命を維持しているのである。

 副交感神経は、昼間の活動での疲労やダメージを受けた体を、夜の睡眠で休息させて、疲労やダメージを修復して元気な状態に戻す働きをしている。交感神経と副交感神経の2本立てで、健康を維持できる仕組みになっているということができる。

 副交感神経が働くのは、睡眠中、リラックスしている時、ゆったりと落ち着いている時などである。「からだの修復」が主な役割である。したがって、就寝1時間前からは次の事項は注意したい。

 ① 就寝前のスマ-トホン・パソコンはNG

      就寝前にスマートホンやパソコンの画面を見ることは止めるようにしたい。スマ-トホンやパソコ

 ンの画面からは常にブルーライトが出されている。ブルーライトの浴び過ぎは目の疲れだけではな

 く、睡眠に影響を与えたり、網膜への傷害を与えたりすることが懸念されている。また、ブルーライ

 トを長時間浴びていると、メラトニンが分泌されにくくなる。つまり、睡眠へと体が準備し始める夕

 方から夜にかけてブルーライトを浴び過ぎると、体内時計が狂ってしまい、メラトニンの分泌量が低

 下し、覚醒状態になってしまうからである

 ② 寝室の照明

     寝室の照明についても、なるべく暗めにしておくほうが睡眠に入りやすくなる。メラトニンの分泌

 量が増え、副交感神経が働きやすくなるからである。

 ③ 眠る前にカフェインは摂らない

      夜遅くまで仕事や勉強をしている時、眠気覚しにコーヒーを飲んでしまことがある。コーヒーには

 カフェインが多く含まれている。カフェインは覚醒作用が強く、眠る前にカフェインを摂ると脳が覚

 醒状態になってしまい、当然のことながら質の良い睡眠の妨げになる。眠る前にカフェインを摂らな

 いといった基本的な改善はもちろんのこと、起床後すぐに日光を浴びるといった地道な取組も必要で

 ある。

(3)睡眠環境を整える

 睡眠環境を整えることによって、「睡眠の質」が変わるといわれている。睡眠環境として、次のようなことに配慮し、「睡眠負債」を貯めないようにしたい。

 ① 音:騒音の中で熟睡することは非常に難しい。40㏈以下の静かな環境

 ② 光:眠る前の強い光は避ける。特にブルーライト

 ③ 温度・湿度:室温冬は15℃、夏は25℃、湿度:50%が目安

 ④ 香り:リラックスできるような香り

 ⑤ 寝具:一人一人に合った寝具

 

4.児童生徒の睡眠調査結果と考察

 社会環境や生活環境の急激な変化は、児童生徒の心身の健康に大きな影響を与えている。特に睡眠不足による日常的な疲労状態にある児童生徒は少なくない。

 今、話題の「睡眠負債」は大人だけの問題ではない。我が国の児童生徒は、世界的にみても睡眠時間が短く、「睡眠負債」を抱えているとすれば深刻な問題である。

 平成26年度 文科省が実施した「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」結果に基づいて、児童生徒の睡眠の実態と課題について考えてみたい。

(1)児童生徒の授業中の眠気

 

図表-3 児童生徒の授業中の眠気

10.5%が「よくある」、24.6%が「ときどきある」と回答している。一方、高校生の「よくある」は36.6.6%、「ときどきある」は41.9%であり、学年が進むにつれて授業中に眠くなる割合が高くなっている。鈴木款氏が講演で、「起きてから4時間後は人間の脳が最も活性化して、集中力が高くなる時間」と話したことに照らし合わせてみると、朝6時に起床したとすると脳が最も活性化する時刻は午前10時頃となる。この時間帯に眠くなる中学生は59.76%、高校生は78.5%である。この結果から、中・高生の多くは睡眠不足であり、睡眠負債を抱えている生徒も少なくないと考えられる。

(2)次の日学校がある場合の就寝時刻

 次の日、学校がある場合の就寝時刻は、学校段階が上がるにつれて就寝時刻は遅くなっている。小学生は49.2%が午後10時までに就寝している。他方で中学生は22.0%が0時以降に就寝、高校生も47.0%が0時以降に就寝している。

 学校がある日とない日での、起床時刻のずれの状況をみると、学校段階が上がるにつれて、「よくある」「ときどきある」の割合が高くなっている。高校生では、学校がある日とない日で、起きる時刻が2時間以上ずれることが「よくある」が31.4%、「ときどきある」33.4%となっている。

 これまでの調査結果によると「普段の睡眠より2時間以上眠った人は、睡眠負債のリスクが非常に高い」と判断されるように、高校生の大半は、「睡眠負債」を抱えているに違いない。

 起床時刻が2時間以上遅れることは、平日の睡眠不足を解消する上で、意味があるように考えられる。しかし、一方で体内時計のリズムを乱すことになり、休日後、登校日の朝の覚醒・起床を困難にさせることになる。生活習慣の改善を図り、児童生徒の睡眠時刻は2時間程度早めることが必要である。

(3)睡眠に対する自己評価

 睡眠に対する自己評価についてみると、学校段階が上がるにつれて、「十分でない」が多くなっている。「十分でない」の割合は、小学生では14.9%に留まるのに対し、中学生では24.8%、高校生では31.5%に達している。

 眠る直前まで、スマートホン、パソコンなどに、接触することと、「朝、布団から出るのがつらいと感じることがあるか」との関係をみると、小学生、中学生、高校生のいずれも、眠る直前まで接触することがよくあるほど、布団から出ることが「つらいと感じることがある」と回答した割合が高い。

 就寝2時間前には、スマートホン、パソコンを使用しないようにすることが必要である。前述したように、スマートホン等からは、ブルーライトが出されている。ブルーライトの浴び過ぎは目の疲れだけではなく、睡眠に影響を与えたり、網膜への傷害を与えたりすることが懸念されているからである。

 

5.睡眠教育

 我が国では、中学生、高校生の間にも携帯電話やスマートホンが広く普及している。中学生および高校生を対象にした「睡眠と生活習慣の横断研究」では、就床後、携帯電話やスマートホンによる会話やメールのために使用する頻度が多い者ほど、睡眠の問題を抱えている割合が高いことが示されている。就床直前までの携帯電話やスマートホンの使用が中学生、高校生の夜更かしを促進し、睡眠に悪い影響を及ぼしている。

 生活習慣の改善を図る上で、最も重要なことは「十分な睡眠時間」を確保することである。学校では先ずこのことを児童生徒にしっかりと指導することが必要である。

 

図表-4 健康づくりのための睡眠指針 2014

 

♦ 参考・引用文献

 1 NHKテレビ スペシャル「睡眠負債が危ない」(平成29年6月18日放送)

 2 平成26年度文科省「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」

 3 「睡眠負債に気をつけよう」(視点・論点:平成29年6月7日放送)

 4 平成27年国民健康・栄養調査結果の概要(厚生労働省)

 5 企業向けの睡眠研修会における講演(フジテレビ解説委員 鈴木款)

                                                                                             2017.8.24

 図表-1は、睡眠時間と脳の働きとの関係を示した実験結果である。

 実験方法は、被験者を「4時間睡眠」、「6時間睡眠」、「8時間睡眠」の3グループに分けて、2週間にわたり、それぞれ決まった時間以上は眠らないようにした。

 8時間睡眠のグループでは、2週間後あまり認知能力に変化が見られなかったのに対して、「4時間睡眠」、「6時間睡眠」のグループでは、日を追って認知能力の低下が見られた。

 縦軸は睡眠時間、横軸は年代である。男性は40代、女性は50代で睡眠時間が一番短くなり、それ以降は漸増する傾向にある。各年代とも6時間以上の睡眠時間である。

 適切な睡眠時間は、一般的に6~7時間といわれているが、これはあくまで平均値である。睡眠は個人差がある。したがって、3時間で十分な人もいるが、10時間眠らないといけない人もいる。

 図表-3は、平成26年度文科省「睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との関係性に関する調査」の一部分である。

 前述したように、午前中の授業中に、「眠くて仕方がないことがありますか」との問いに小学生の

 図表-4は、文科省「健康づくりのための睡眠指針 2014」からの引用である。この12箇条を「睡眠に関する授業」において活用したい。

 「朝からあくび」、「すぐ疲れたという」、「授業中目がトロン」などの状況は、睡眠不足が影響していると考えられる。睡眠不足が蓄積していくと、生活の質が低下するほか、様々な病気のリスクが高まってしまうことを、具体的な事例に基づいて、児童生徒同士の協働、教師と児童生徒との対話を通じて、明らかにするとともに、睡眠の重要性を理解させたい。

 1日の覚醒と睡眠のタイミングをつかさどっている体内時計は、起床後、光の刺激が目に入ると、その刺激が睡眠物質のメラトニンの分泌をストップさせ、光を浴びた14~16時間後にメラトニンが脳内に溜まってきて、再び眠気が起こることを理解させるとともに、児童生徒自ら、生活習慣の改善を図るようにしたい。