提言112:幼稚園教育要領、保育所保育指針への関心を深めよう

 

 

 現在、幼児を受け入れて教育、保育に携わる施設として、幼稚園、保育所、認定こども園を挙げることができる。しかし、幼稚園は文部科学省の所管、保育所、認定こども園は厚生労働省の所管というように、就学前教育に2つの行政機関が関わりを持っているのが現状である。幼稚園は1日の教育時間を4時間と定め、各幼稚園が創意と工夫を生かし、幼児の心身の発達と地域の実態に即応した適切な教育課程を編成し、3歳以上の幼児に対し、保育(幼児教育)を行う場と位置付けられている。一方、保育所は保育に欠ける子供を乳児期から預かり、一日の大半の時間を生活する場とし、養護と保育を一体とした活動を行い、豊かな人間性を持った子供を育成するところとされている。しかし、幼稚園、保育所での幼児の経験、体験が小学校入学後の教育活動に生かされず、小学校に入学した後に起こる小1プロブレムなどが話題になるなど、幼小の接続についてはまだまだ課題が存在すると言われている。

 教科書のない教育といわれている幼児教育の中に小学校のやり方を取り入れてみる、あるいは逆に小学校の教育の中に幼児教育の中で培われた体験などを取り入れてみる、このような取組への工夫などが、いま求められているところである。

 大切なのは幼児教育の成果をどのように小学校教育に生かすかといった視点である。幼児期にはしつけを、学習活動は小学校からという考え方は、学習を成立させる前提条件を見逃してしまうことになる。小学校における教室での学習活動、これを支えているのが就学前教育段階での様々な幼児間で培われた経験であり、協力関係である。そして、様々な活動の中での気付きである。小学校における算数や国語の学習においても、幼児期の学びの経験や体験を基礎において学習を進める。この視点も大切である。幼児教育と小学校低学年の教育の在り方について、筆者の見解を述べてみる。

 

1 幼稚園の成立と発展

 日本で幼稚園が開設されたのはいつの時代か。幼稚園の歴史は明治時代まで遡ることができる。1878(明治9)年に東京女子師範学校附属幼稚園が開設されたのが、その最初とされている。ここでは、ドイツの教育者フリードリヒ・フレーベルの理念や方法が取り入れられ、これに基づいた活動が行われていた。

 この東京女子師範学校附属幼稚園の開設がきっかけとなり、東京では1881(明治14)年に本所区江東小学校に附属幼稚園が、1884(明治17)年には深川区深川幼稚園が、1887(明治20)年には麹町区(千代田区)麹町小学校、富士見小学校に附属幼稚園が開設されるなど、公立幼稚園が次々と開設された。一方、私立幼稚園も1880(明治13)年に桜井女学校(麹町)に附属幼稚園が、1881(明治14)年には近藤幼稚園(芝公園内)が開設されている。さらに、大阪や鹿児島などでも公立幼稚園が開設されている。

 その後、明治20年代から30年代にかけて、キリスト教系、仏教系などの幼稚園が開設され、都市部を中心に、裕福な家庭の子女の教育の場となっていった。

 幼稚園に対する法的整備としては、1899(明治32)年に「幼稚園保育及び設置規程」が、1922(大正11)年には「幼稚園令」が出されている。大正期に入ると大正デモクラシーの風潮の中で自由主義的な幼児教育も行われていたが、昭和期に入ると戦争の影が強くなり、幼稚園の閉園が行われるようになった。

 現在の幼稚園教育の基礎が築かれたのは、第二次世界大戦後の1947(昭和22)年に制定された「学校教育法」によってである。しかし、第1条の学校種別では、「学校とは小学校、中学校、・・・・幼稚園」と最後に幼稚園が置かれており、この並び方から幼稚園教育に対する国の姿勢を伺うことができる。

2006(平成18)年12月、「教育基本法」が改正された。この結果、第11条に「幼児期の教育」に関する条文が新たに盛り込まれることになった。

(幼児期の教育)

第11条 幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものであることにかんがみ、国及び地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適切な方法によって、その振興に努めなければならない。

 この教育基本法の改正を受けて、2007(平成19)年6月に「学校教育法」の改正が行われている、この改正で、学校教育法第1条の条文の学校順が、「学校とは、幼稚園、小学校、中学校・・・・」と改められ、学校の位置づけの最初に幼稚園が位置づけられており、日本の教育は幼児への教育から始まることが明確に示されることになった。

 また、学校教育法の第22条には、

(幼稚園の目的)

第22条 幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。

と示されており、

(小学校の目的)

第29条 小学校は、心身の発達に応じて、義務教育として行われる普通教育のうち基礎的なものを施すことを目的とする。

とあり、小学校での教育の目的達成のために、幼児期からの教育との接続が重要であることが明確に示されることになった。

 これからの教育において育成されるべき資質・能力は、何を知っているか、何ができるかという、個別の知識・技能の習得ではなく、知っていること、できることをどう使うかという、思考力、判断力、表現力の育成である。幼児期の教育の重要性が改めて確認されたということができる。

 

2 保育所の成立と発展

 保育に欠ける子供を保護する。そのような取組はいつごろから始まったのか。保育所の始まりについては諸説がある。一般的には1890(明治23)年に新潟市で赤沢鐘美(あかざわあつとみ)・仲子夫妻が創設した「静修学校付設託児所」が最初とされている。この頃から、地方のあちこちで、農繁期季節託児所が、あるいは女性労働者の要望に基づいた工場付設の民間託児所がつくられるようになった。

 明治時代後半から大正期にかけて保育所は普及した。その先駆的な役割を担ったとされているのが、1899(明治32)年に設立された双葉幼稚園(東京麹町)である。そこでは、地域における貧困家庭の幼児に対する保育が行われていた。1911(明治44)年には双葉幼稚園は双葉保育園と改称されている。

第二次世界大戦前の保育所(託児所)は、社会政策としてとらえられており、幼稚園とは別のものと位置づけられ、内務省が所管していた。その後、1938(昭和13)年に新たに厚生省が設置されると厚生省の所管となり、2001(平成13)年に厚生労働省が誕生するとその所管となり、現在に至っている。

 保育所の法的根拠をなしているのが、1947(昭和22)年に制定された児童福祉法である。児童福祉法では、

  第1条 すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めること

と定められており、第2条では

  第2条 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任

      を負う

と、国及び地方公共団体の責務について定めている。

 1948(昭和23)年、児童福祉法に基づく保育所などの「児童福祉施設最低基準」(のちに「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」に名称変更)が示された。これによって、保育士が幼児の年齢ごとに何人必要か、園舎や部屋の面積はどのくらいの広さが必要なのかなど、保育を行うに際しての最低限必要な基準が定められることになった。

 保育所は、保育に欠ける子が乳児期から一日の大半の時間を生活するところである。ここでの生活を通して、健康の保持、情緒の安定、食事や排せつなどの基本的生活習慣の確立を目指しており、幼児にとっては生涯にわたる人間形成に努める営みの中の極めて重要な最初の段階にあり、生活の場であるということができる。

 

3 幼稚園、保育所での保育の状況

 就学前の幼児たちはどのような生活体験をしているか。下の表は、平成27年度に幼稚園、保育所、幼保連携型認定こども園に在籍している幼児の割合、および在宅者について、文部科学省がまとめたものの一部である。

         幼稚園    保育所等   認定こども園  その他(在宅)

    5歳児  49.22%  39.88%    6.9%    4.2%

    4歳児  46.9    40.9      7.0     5.2

    3歳児  38.8    40.5      6.7    14,0

    2歳児   0.2    37.6      3.2    58.9

    1歳児   0.2    32.5      2.7    64.6

    0歳児   0.0    17.9      0.9    81.5

 幼稚園が受け入れることができる幼児の年齢は3年保育が可能となる3歳児からである。それまで家庭で保育されてきた幼児が幼稚園に入園するという状況がこの表からも読み取ることができる。保育所等に入所している幼児の比率は3歳児の段階からほとんど変わりがない。幼稚園と保育所でほぼ半々に分け合っているという状況を読み取ることができる。

 例えば、卒園の時期に相当する5歳児について、幼稚園、保育所、認定こども園に在籍している幼児のうち、約50%が幼稚園に、保育所等に約40%、認定こども園に約7%が在籍している。4歳児においても同じ傾向がみられる。

 小学校に入学する時期が近づくにつれて、在宅の幼児が幼稚園の2年保育に入園するという傾向にあることが読み取れる。このことから幼児たちのほとんどが小学校入学前の2年間、幼稚園か保育所等での生活を経験しているということであり、この2年間の経験が小学校の低学年の学習の段階に生かされ、引き継がれていくことが望まれている。

 

4 幼小連携の必要性

 幼稚園・保育所等、いずれかの施設での生活を経験した幼児が、小学校1年生になると児童と呼ばれるようになる。これら児童の中には、集団行動が取れない、授業中に座っていられない、話を聞かないなどの状態が数カ月継続する、といった状況に陥ることがある。このような状態を「小1問題(小1プロブレム)」と言っている。

 また、小学校を卒業し、新しく中学校1年生になった生徒が、いじめや不登校などの問題を抱えてしまう現象のことで、中学への進学に伴う様々な環境の変化(人間関係の変化、授業や部活の高度化など)が原因で起こるといわれている現象を「中1ギャップ」と言っている。

小学校、幼稚園、保育所等では法令に基づき、各教育段階における目的に応じた教育活動が行われている。幼児から児童へと移行する過程にあっては、発達と学びの連続性、これを保障することで幼小の教育を円滑に接続させる、このことが重要であるとの指摘がある。このために必要な教育活動を小学校、幼稚園、保育所等が協力し合い、組織的に作り上げていく必要があり、求められている。

 幼児の学びの姿勢は「自分の興味・関心のあるものを体験的に学ぶ」ことから始まり、「抽象的な事柄や相手からの指示や指摘を自らの課題として受け止め、解決するために努力する」ことへと変化していく。このように学び方が徐々に変化するのが幼児期から小学校低学年の時期と考えたとき、幼児教育から小学校教育への接続は極めて重要な意味を持つ事柄と考えることができる。「幼小の円滑な接続」、このことが幼稚園教育要領の中で取り上げられるようになったのは、2008(平成20)年3月の幼稚園教育要領の改訂の時からである。

 10年を経て、新しい幼稚園教育要領が、2017(平成29)年3月に告示された。同日、新しい保育所保育指針、幼保連携型認定こども園の教育・保育要領などについても告示が行われている。この結果、幼稚園教育要領、保育所保育指針ともに、(1)子供と保護者との信頼関係を基盤とする。(2)子供の主体的な活動を大切にし、適切な環境の構成を行う。(3)子供一人一人の特性と発達の課題に即した指導を行う。このことを3歳以上の子供の教育的機能として、保育所保育指針においても幼稚園教育要領との整合性を図ることが求められており、今回の改定の特色となっている。

 改訂後の幼稚園教育要領では、「幼稚園教育において育みたい資質・能力及び幼児期の終りまでに育って欲しい姿」が総則に示されており、指導計画の作成と幼児理解に基づいた評価などが新たに加わっている。

 幼児期の終りまでに育って欲しい姿として、「健康な心と体」、「自立心」、「協働性」、「道徳性・規範意識の芽生え」、「社会生活との関わり」、「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命の尊重」「数量と図形、標識と文字などへの関心・感覚」、「言葉による伝え合い」、「豊かな感性と表現」が挙げられており、これらの項目について、幼児の具体的な姿を示すとともに、小学校と共有することによって幼小接続を推進していく、このことへの強い期待感が示されている。

 一方、保育所保育指針が2008(平成20)年の改定で、「厚生労働省児童家庭局長通知」から「厚生労働大臣公示」へと変わった。このことによって保育所保育指針の法的拘束力が、文部科学大臣公示の幼稚園教育要領と同等になったことを意味する。

保育所保育指針では、生涯にわたる生きる力の基礎を培う、このため、次に掲げる資質・能力を一体的に育むように努めるとしている。

(1)豊かな体験を通じて、感じたり、気付いたり、分かったり、できるようになったりする「知識及び技能の基礎」を育むこと

(2)気付いたことや、できるようになったことなどを使い、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする「思考力、判断力、表現力等の基礎」を育むこと

(3)心情、意欲、態度が育つ中で、より良い生活を営もうとする「学びに向かう力、人間性等」を育むこと

が挙げられている。そして、ここに示した資質・能力は保育活動全体を通して育むもので

あり、保育活動を進めるに際しては、健康、人間関係、環境、言葉、表現の5つの領域で

の取り組みを行うことで、幼稚園教育との整合性を図ることが求められている。

 

5 就学前教育において育みたい資質や能力

 物事の良さや美しさを感じ取ったり、不思議さに気付いたり、といったことができるようになったことで、このことを使いながら、試したり、いろいろな方法を工夫するなどの能力を育むことができる。

 こうした幼児期の特性を踏まえて、

(1)遊びや生活の中で、豊かな体験を通じて、何かを感じたり、何かに気付いたり、何かが判ったり、何かができるようになるのかなどの考えを育んでいく

(2)遊びや生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなどを使いながら、考えたり、試したり、工夫したり、表現したりする力を育てていく

ことに取り組むように保育者は心がけていく必要がある。

 この資質・能力は幼稚園教育要領の5領域(健康、人間関係、環境、言葉、表現)の中で育てられると受け止められている。同様に保育所保育指針の中で示された5領域(健康、人間関係、環境、言葉、表現)の活動を通して、保育所での取り組みの中でも育てられると受け止められている。このため幼稚園、保育所での創意・工夫に基づいた取り組みが期待されているところである。

 このことが実施されると、幼稚園で生活しても、保育所等で生活しても、幼児にとっては身に着けるべき資質、能力は同じということになる。このような資質、能力を身に着けた幼児を小学校に送り出すことが幼児教育に求められているのである。

 

6 改訂幼稚園教育要領・改定保育所保育指針が目指すもの

 2017(平成29)年3月、新しく改訂された「幼稚園教育要領」が目指しているのは、「社会に開かれた教育課程」の実現である。

 教育課程を通して、これからの時代が求めている教育を実現していくためには幼児教育、

学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を幼稚園、保育所、学校と社会とが共有

する。それぞれの幼稚園においては、幼児期にふさわしい生活をどのように体験させ、ど

のような資質・能力を育むのか、このことを教育課程において明確に示しながら、社会と

の連携及び協働によってその実現を図っていく。このため、幼児一人一人の資質・能力を

どう育んでいくのか、そのことへの取り組みへの努力が一層必要とされるようになってき

ている。

 次に、小学校以降の教育、生涯にわたる学習のつながりを見通した教育計画を考えるこ

とである。幼児の自発的な活動としての遊びを生み出すために必要な環境を整え、一人一人の資質・能力を育んでいく。これらに対する総合的な指導が強く求められているところである。

 一方、保育所保育指針は、1965(昭和40)年に制定された。以後、1990(平成2)年、2000(平成12)年、2008(平成20)年と約10年をめどに改定が行われ、2017(平成29)年3月に、2018(平成30)年の施行を目指した改定保育所保育指針が公示された。

2008(平成20)年に行われた改定では

(1)地域における子育て支援の活動が活発になる中で、保育所に地域の保育・子育て支援の資源が蓄積されつつあるという現実があること

(2)延長保育や一時保育などの保護者の多様なニーズに応じた保育サービスの普及が進むとともに、保育所職員と保護者の適切な関わりが求められるようになってきたこと

(3)2006(平成18)年に保育所と幼稚園の機能を一体化した認定こども園制度が創設されたこと

(4)2006(平成18)年の教育基本法の改正によって、幼児期の教育の振興が盛り込まれ、就学前の教育が課題になってきたこと

(5)仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が求められる中で、働きながら子育てをしている家庭を支える地域の担い手として、保育所に対する期待が高まったことな

どを受けて、様々な見直しが図られてきた。

 2017(平成29)年3月に厚生労働省から告示され、2018(平成30)年4月1日から施行されることになっている改定保育所保育指針では、➀ 2015(平成27)年度から子供・子育て支援制度の充実が図られてきていること、② 0~2歳児を中心とした保育所利用児童数が増加していること、➂ 児童虐待相談件数が増加しているといった背景を踏まえて、

ア 乳児、1歳以上3歳未満児の保育の充実

イ 保育所保育における幼児教育への積極的な取組

ウ 子供の育ちを巡る環境の変化を踏まえた健康及び安全への対策見直し

エ 保護者・家庭及び地域と連携した子育て支援の充実

オ 職員の資質・専門性の向上

が求められている

 このうち、イ 保育所保育における幼児教育への積極的な取組の項目が、幼稚園教育要領と足並みを揃えて取り組む部分となっている。幼小接続が時代の流れであるとするなら、幼児教育への取組、積極的な改善への努力、このことは子供たちの未來を考えたとき、積極的に取り組むべき部分と受け止め、取り組む必要がある。

 

7 就学前教育と小学校教育との連携をどう進めるか

 今回の学習指導要領の改訂、幼稚園教育要領の改訂、保育所保育指針の改定によって、幼児期から児童期にかけての教育は「つながり」として捉えられている。

幼児期は生涯にわたる人格形成の基礎を培う時期である。このため、幼稚園、保育所には、義務教育及びその後の教育の基礎を培うこと、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて発達を助長することが求められている。

 一方、小学校には義務教育のうちの基礎的なものを施す場であるとして、学びの基礎力の育成という視点から、幼少の教育との連続性、一貫性が求められている。

 幼児教育、小学校教育、ともにそれぞれの時期にふさわしい教育が進められている、しかし、就学前教育の時期にどのような経験、体験があったのか、このことへの情報交換が十分になされているとは言い難いところがある。小学校教育という階段を楽々登っていくことのできる児童がいる。その一方で、階段の高さに苦しみ、もがきながら登る努力をしている児童がいる。どのようにして階段を昇らせたらよいのか、その方向性を示してやる、このことが小学校教育では必要である。

 この子は幼稚園で育った、あの子は保育所で育った、その生活の場の違いが問題なのではない。児童にとって大切なのは、人間関係の幅を就学前の時期にどれだけ広げることができたのかということが問題である。

 児童にとって人間関係の幅を広げる、このことは遊びという面においても、学びという面においても大切である。他の人たちとの協力、協働といった集団での活動を通して人と交わることの基本を学ぶ、人と人との交わりを通して人間としての可能性を大きくしていくようにする。

 現在、自宅周辺において異年齢の子供たちを含む集団はほとんど成立していない。家に帰っても同年齢の子供と交流するだけという状況にある。この意味で幼稚園・保育所と小学校との交流は大きな意味を持つものと考えられる。異年齢の子供たちが定期的に顔を合わせて一緒に活動し、幼児・児童同士が互いに顔と名前が判るといった関係を作り上げていく このことが大切である。

 この異年齢者との交流、その頻度を増すことで、定期的に幼児、児童同士が顔を合わせて一緒に活動する機会を増やしていく、このことに意味がある。この活動を行うことが、幼児、児童にどのような教育的意味があるのか、その検討、解明の努力が保育者にとっては必要である。

 幼稚園・保育所と小学校の担当者、保育者同士の交流を進める。そこに必要なのは、交流の「互恵性」である。

(1)お互いに役に立ったと感じるために、計画は綿密に、実行は協力し合って、幼稚園・保育園、小

  学校が一緒になって作り上げていく、実行していく、このような作業が大切である。

(2)交流活動においては、幼児、児童の動き、その実態をよく見て、幼児・児童がそこで何をして、

  何を学んだのかを記録し、分析することが大切である。単に楽しかったということだけで終わらせ

  ないようにする。

(3)交流活動終了後、それぞれの幼稚園・保育所、学校に戻った後の活動を大切にする。

 そのことを含めた活動計画を考えておくことが大切である。

 幼児教育と小学校教育の接続、交流の意義が言われるようになってから久しい。しかし

互いに忙しいということが理由となって、この交流活動への取り組みがなかなか進まないのが現実である。また、面倒という意識の中で消極的になっているということも事実である。実際にこの事業を進めるにあたって、真剣に取り組もうとすればするほど、お互いの摩擦が多くなることが考えられる。幼稚園・保育所、小学校とでは、用いる言葉、幼児・児童の活動などに違いがある。発想が違う、話が通じない、見方・考え方が違う、徒労感だけが残る、こんなことならやらない方がよかった。互いの批判、非難にならないよう、お互いの努力と協力が幼小接続には必要である。

 すぐに幼児・児童たちの交流に進むのではなく、お互いに保育・授業を参観することから始める。幼稚園・保育所と小学校での幼児・児童たちの活動の違い、保育者・教員の行っている配慮など、幼児・児童を前にしての情報交換なども必要である。

 幼稚園・保育所での生活が学校教育の始まりである。この視点の下に幼稚園教育要領の改訂が行われ、同時に保育所指針の改定が行われた。この中に示された「小学校移行の教育や生涯にわたる学習とのつながりを見通すこと」に着目した取組が、幼稚園、保育所において同じように実施されることになった。保育者は自らを現在の職務の中にただ置くのではなく、新しい教育の流れに関心を持ち、このことを踏まえた教育・保育活動、幼小接続活動の進展に取り組む。一人一人の幼児の将来を見据えて、今何をすべきか、このことに関心を持ち、取り組む。このような保育者が増えていく。このことに強く期待するところである。

 

「注」

  改訂とは、法律や取り決めなどを、「新しい制度に合わせたものに修正する」 の意味。

  改定とは、法律や取り決めなどを、「変更したことを確定する、決める」 の意味。

 

参考文献等

1 新幼稚園教育要領告示を踏まえ、東京都国公立幼稚園・こども園長会に期待すること

  (平成29年度 幼稚園定期総会資料)               文部科学省

2 就学前教育                  フリー百科事典(ウィキべディア)

3 就学前教育と小学校教育との連係                  文部科学省

4 幼稚園教育要領と保育所保育指針の関係               文部科学省

5 幼稚園教育要領と保育所保育指針の対比表              文部科学省

6 改訂幼稚園教育要領                       フレーベル館

7 改定保育所保育指針                       フレーベル館

 

                                         2017.9.14