提言115:非正規教員の業務や給与を改善し学習活動の充実を図ろう

 

 

 全国の公立小中学校には、正規教員として採用された教員のほか、非正規教員で任用された常勤講師や非常勤講師が勤務している。

 平成13年代後半以降、マスコミは非正規教員に関する事項を報道するようになった。それが今年度になってからは、非正規教員の給与や業務に関する改善すべき問題についての指摘が多くなった。

 近年、非正規教員の実数及び教員総数に占める割合は増加傾向にある。非正規教員の増加の要因には、教職員定数の基準をそのままにして、正規教員の退職補充などを非正規教員で補うことに頼ってきた都道府県・政令市の教育委員会(以下「教委」という)の任用制度に原因があると考える。

 非正規教員の割合が過度に増加することは、学校運営面や教育内容の質の維持・向上の面で問題の生じる可能性が高くなると考える。増加する非正規教員を正規教員に昇格させるための施策を早急に進めなければ、我が国の教育は衰退しかねない。しかし、現状は非正規教員の「働き方改革」を含めて難しい問題が山積している。

 

1.教職員定数の基準改正による非正規教員の増加

  文部科学省(以下「文科省」という)は、公立小中学校の学級規模と教職員配置の適正化を図るため、学級編制及び教職員定数の標準について、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」を昭和 33年に制定し、その後第7次まで改訂した。第1次から第7次までの公立小中学校の学級編制の標準の改善経緯は、下記の表の通りである。

▼ 表-1 公立小中学校の学級編制の標準の改善経緯(文科省の資料に基づき筆者が作成)

 国は、「義務標準法」(昭和33年制定)によって、教職員の定数を決め、教委が負担する教職員給与の1/3を負担している。当初は、義務教育費国庫負担金の国の負担率は、1/2であったが、平成14年6月の閣議決定「骨太の方針」により、国庫補助負担金改革、税源移譲及び地方交付税の見直しを図る「三位一体改革」によって、平成18年に「義務教育費国庫負担法」が改正され、国の負担率は現行の1/3に引き下げられた。

 一方、近年の少子化により、児童生徒数の減少に伴って、教職員定数も減少してきた。このような状況において、教育の地方分権化を推進するために、平成13年には「義務標準法」が改正された。この改正は、学級編制の弾力化により、国の標準を下回る35人学級編制を基準にするといった弾力的な運用が可能になった。したがって、教員定数も増加することになった。しかし、その増加数の補充や正規教員に欠員が出た場合には、非正規教員の任用によって補う教委が増えてきた。このことが非正規教員増加の最大要因である。

 平成29年10月、総務省は公立小中学校に非正規教員で任用されている常勤講師や、市町村などの事務補助等の非正規公務員ら約64万人について、実態調査を行うよう全国の自治体に指示した。同省が非正規公務員一人一人の業務や給与など、細かな調査を求めたのは初めてのことである。

 

2.非常勤教員の推移

 公立小中学校には教員免許状を所有し、教員採用試験に合格した正規教員と教員免許状は所有しているが、教員採用試験に合格していない非正規教員がいる。非正規教員は常勤講師と非常勤講師に分けられる。

▼ 図表-1 公立小中学校の正規教員と非正規教員の推移(出典:文科省)

 図表-1は、公立小中学校の正規教員と非正規教員の推移である。平成17年度の非正規教員は8万4千人で教員全体の12.3%を占めていたが、平成24年度は11万3千人で16.0%を占めるまでになった。平成24年度の非正規教員は、平成17年度に比べて3.7%の増加である。

 学級編制については、平成13年度以降、教委が児童生徒の実態を考慮して、特に必要があると認めた場合には、国の標準を下回る学級編制基準の設定が可能になるなど、制度の弾力化が図られ、非正規教員を活用してよいことになった。さらに平成16年度からは、教委の裁量権が拡大されたこともあり、一挙に非正規教員の活用が広がった。少人数指導や複数教員によるティーム・ティーチングなど、弾力的な指導をするためには、期限付き任用の非正規教員のほうが何かと融通が効いて便利であると考えたからであろう。

 また、地方自治体の財政状況が悪化するにつれて、次第に正規教員の代わりに非正規教員を任用して人件費を抑制しようという動きも顕著になってきた。

 文科省が計算した義務教育費国庫負担金総額の範囲内で、給与額や教職員配置に関する地方の裁量を大幅に拡大する仕組み(総額裁量制)を導入した結果、地方自治体は人件費抑制の観点から、国庫負担分の給与と定数の範囲内で、非正規教員を任用する動きを加速させた。

 平成24年度は、非正規教員のうち常勤講師は6万2581人で、全教員の8.9%に当たるまでに増加した。一方、非常勤講師は5万561人が勤務し教員全体の7.2%を占めるようになった。

 

3.都道府県における正規教員と非正規教員の占める割合

 教員定数内の非正規教員配置率は、都道府県ごとに差異がある。教員定数の標準に占める非正規教員の割合は、全国平均で7%である。都道府県別に見ると、非正規教員の割合には、ばらつきがあり、過度に非正規教員の割合が高い県も見られる。

▼ 図表-2 公立小中学校の教員定数に占める非正規教員の割合(出典:文科省)

 図表-2は、平成23年度における都道府県の「公立小中学校の教員定数に占める非正規教員の割合」である。

 財政に余裕のある東京都は全国で唯一、正規教員で教員定数を満たしている。しかし、最も正規教員の割合が低い沖縄県は、正規教員配置率が82.5%であるのに対し、非正規教員配置率は17.5%である。沖縄県の公立小中学校の学級担任を受けもつ教員のうち、5~6人に一人は非正規教員(平成23年度)ということになる。

 図表-2からも分かるように、非正規教員の割合が高い都道府県は、沖縄県のほかに、三重県12.7%、奈良県12.1%、埼玉県12.%、宮崎県8.17%、などである。一方、非正規教員の割合が低い都道府県は、新潟県3%、福井県2%、鳥取県4.3%、長崎県4.7%などである。東京都の正規教員は100.4%である。

 

4.「正規採用教員」と「非正規教員」の格差の改善

児童生徒や保護者の立場からみると、正規教員、非正規教員にかかわらず、教員として同じ責任を負っている。同一労働・同一賃金の原則に基づいて、業務や給与の格差を是正し、すべての教員が落ち着いて勤務し、教育活動の充実を目指すことが、教員だけでなく児童生徒及び保護者からも求められている。

 しかし、公立小中学校の正規教員と非正規教員とでは大きな格差がある。1つは「非正規教員の任用、業務、給与などに関する格差」、もう1つは「教員研修にかかわる格差」である。

 正規教員と非正規教員の格差の改善を図らなければ、我が国の教育は衰退し、児童生徒の「生き抜く力」を育成することは極めて難しくなると考える。

(1)常勤講師の任用や業務の改善

 常勤講師は、教委が小中学校、高等学校の当該教員免許状を有していることを条件に、正規の「採用」ではなく「任用」として勤務することになっている。正規教員の産休や病休による一時的欠員を補う目的で、期間を限って任用される教員である。

 常勤講師の任期は、地方公務員法に基づき事実上1年以内である。したがって、1年を超えて任用することはできない。そのため、常に1年ごとに契約することになる。また、任用期間が半年~1年以内に制限されており再任用の保証はない。予定されていた任用期間内に休暇中の教員が早めに復職した場合は、途中で任用期間が短縮されることもある。

  週刊東洋経済(平成29年9月11日付)は、「担任や部活動の顧問も 搾取される非正規教員 」の見出しで、「K県K市の公立小学校に勤務する41歳の教員」の実態を掲載した。その掲載記事によると、「…41歳の教員は常勤講師で任用されて7年目、すべての期間で級担任だった。勤務時間や勤務日数は正規教員と同じである。任期は4月1日から翌年3月29日までだった。…」と記述されている。

 自治体は繰り返し任用する場合も数日程度の空白を設けることが多い。K市も年度末に2日間の空白期間を設けている。

 教委は正規教員の異動や採用が決まった後、教員定数に不足が出た場合に常勤講師で補ってきた。常勤講師の任用が決まるのは3月末である。3月末には「空白期間」が設けられているため、一時的に失業状態となる。常勤講師であるかぎり、新学期には任用されるかどうか、勤務校が変わるかも知れないなど、不安が常につきまとうことになる。

 また、教委によっては、原則として夏休み中の1か月間、常勤講師を解雇し、始業式の日に再び任用することにしている。解雇中(夏休み)に学校行事の引率や生徒指導、部活動を行っても無給である。

 任用期間に応じて、社会保険(健康保険・厚生年金・介護保険)、雇用保険への加入や期末勤勉手当が支給され、通勤手当や諸手当も支給される。しかし、任用が終わると社会保険等も自己負担となる。

 自治体が厳しい財政事情にあるとはいえ、正規教員から人件費の安い非正規教員への切り替えを進めてきた結果は、常勤講師の犠牲の上に、我が国の教育が行われてきたと言っても過言ではない。

 読売新聞(平成29年10月2日付)によると、名古屋市は今年度、教員の勤務条件を決定する権限などが都道府県から政令市に委譲されたのに伴い、ほかの非正規の市職員らにあわせ、「任期を2か月」に変更した。2か月程度でいったん解雇し、その後直ぐに再任用されるとしても、常勤講師にとっての不安は非常に大きく、安心して学級経営に専念することは非常に難しいと考える。

 常勤講師の任用の改善を図るには、先ず、教委が設けている年度末等における「空白期間」を撤廃することである。次に地方公務員法を改定し、「事実上1年以内」という任用期間を正規教員並みに改善することが必要である。

 常勤講師の業務内容は正規教員と同じで週38時間45分(7時間45分×5日/週)の勤務でほぼフルタイムの常勤である。また、正規教員と同じように、1か月80時間以上の勤務を抱えている常勤講師も少なくない。

 担任を受けもつだけでなく、学校運営のための役割分担(校務分掌)もあり、部活動の指導なども行う。長時間勤務も正規教員とほとんど変わらない。しかし、給与は正規教員の62%程度である。

 教育の質の向上を実現するためには、財政的に不安定な加配定数の対応だけではなく、義務標準法の改正による抜本的な定数改善を図ることが必要である。

(2)非常勤講師の任用や業務の改善

 非常勤講師は、一般に地方公務員法第3条第3項第3号の「非常勤の嘱託員」に該当し、特別職の教員であるとされている。

 非常勤講師は、時間給による原則1年間の任用で、特定教科の授業などを担当し、毎週の授業と試験問題の作成および採点、成績の記録などを行うことになる。学級担任をもつことはできない。したがって、生徒指導や部活動の指導、校外活動の引率・指導などは行なわない。しかし、担当教科の授業を終えても、他の業務に携わらなければならない実態も数多く報告されている。

産休や育休を取ることはできない。どうしても産休や育休が必要という場合には辞職するしかない。社会保険(健康保険・厚生年金・介護保険)、年金なども自己負担で加入し払うことになる。

 読売新聞(平成29年9月30日付)は、「非常勤講師 5校掛け持ち」という見出しで、東北地方で非常勤講師を務める30歳代の勤務の状況を報じた。その記事によると、「…月曜から金曜まで日替わりで5つの中学校に通う。担当は技術科で授業は1日2~6コマ(1コマ50分)」、5校で計15クラスを受けもつ。…給与は時給で1コマ約2500円、通勤費やボーナスは出ない。」という内容である。

 非常勤講師の多くは、読売新聞が報じているような状況の中で、業務に携わっていると考えられる。低い待遇で、任用が打ち切られるかも知れない不安を抱えながら児童生徒に接しているとすれば、充実した授業を創り上げていくことは難しい。

 国や自治体は、非常勤講師の任用や業務の実態に合わせ、正規教員と非常勤講師の待遇格差を改善していく施策を早急に講じていかなければならない。

 

5.非正規教員の給与の改善

 正規教員と非正規教員の給与には大きな格差がある。非正規教員の給与は、新任時は正規教員とあまり変わらない。しかし、非正規教員の給与に上限を設けている自治体があり、年数を重ねるごとにその差は開き続けることになる。

 読売新聞(平成29年9月28日付)によると、非正規教員の給与は、38都県が内規などで上限を設け、「頭打ち」になっていると報じている。この上限を解消したとしても、給与表の区別を解消しない限り、非正規教員に対する処遇の格差はそのままである。

 47教委のうち、36教委が法律に基づいて作成する給与表で、正規教員と非正規教員の給与を区別している。年齢を重ねるとその差は開き、非正規教員の給与は、正規教員の60%~80%にとどまったままである。

 地方公務員法には、同じ職務に従事する職員は、同じ等級に分類する「職務給の原則」があるにもかかわらず、実情は都道府県によって大きな差があることは重大な問題である。

 総務省公務員課は「非正規教員という理由で区別したり、昇級を妨げたりすることは本来できないはずだ。」と言っているが、これまで、教委は抜本な対策を講じてこなかったことが、正規教員と非正規教員の給与の格差が拡大した最大の要因である。

 国は自治体任せにせず、非正規教員の処遇の改善を進められるように、財政的な処置を図らなければならない。早急に非正規教員に関する給与を正規教員と同程度まで引き上げる施策を、国が先頭に立って教委に対する指導を行うことが重要である。同一労働・同一賃金の原則を順守することが、「教員の働き方改革」にもつながると考える。

(1)K市の常勤講師の給与の実態

 「常勤講師でも公務員だから待遇はいい」と思われがちだが、実態は悲惨である。昨年9月に開かれた総務省の「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付き職員の任用等の在り方に関する研究会」では、次の事例が報告されている。

 K県K市の公立小学校に勤務する41歳の教員は、常勤講師で任用されて7年目、平成27年度の年間所得は約246万円。その教員は一人親で子供が2人いる。K市の就学援助制度の認定基準は親子3人世帯で約262万円。しかし、この常勤講師は正規教員と同じ業務をしているにもかかわらず、就学援助を受けられるほどの低水準である。

 この事例には非正規教員の抱える問題が凝縮されている。前述したように、1つは給与に上限が設定されていることである。K市の同年齢の正規教員は給与月額が標準で約36万円、年齢を重ねるごとに上昇する。一方、この常勤講師は同じ業務内容でありながら約22万円と40%も低く、今後も昇級の可能性は低い。

 K市に限らず、常勤講師の給与については、多くの自治体が上限を設定している。「新卒から常勤講師を続けると、約10年で昇給が止まる。」と言われている。

(2)空白期間を設け期末勤勉手当を削減

  常勤講師の任期に「空白期間」があることも大きな問題がある。正規教員は一般的に6月と12月に期末勤勉手当が支給される。6月期は前年12~5月の期間、12月期は6~11月の期間について勤務実績に基づき支給額が決まる。

 しかし、常勤講師の場合、任用の空白期間があるため期末手当の基準となる在職期間は通常の80%、勤務手当の基準となる勤務期間は95%程度に算定され、支給額が減らされてしまうのである。

(3)非常勤講師の給与

 非常勤講師の給与は時給で50分授業1コマにつき2000~3000円程度であるが、教委によって異なる。仮に週15時間の授業を担当すれば、月収約15万円ということになる。働いた年数や時間によって、1コマの金額が上がっていくことはない。もちろん期末勤勉手当もない。また、常勤講師と違い学歴や職歴による給与の上積みもない。10年、20年と経験を積んでも、給与は新人と同じである。授業のない夏休みや冬休みは出勤の必要がないため給与は支給されない。

 非常勤講師は担当する教科の授業のほかに、テストの作成および採点、成績の記録なども行っている。しかし、これらの業務に対する給与は無給である。

 児童生徒に寄り添った授業を行う非常勤講師ほど、1コマの授業を終えて「はい、さようなら」とはいかないはずである。授業で元気のなかった児童生徒に声を掛けて励ましたり、でき上がった作品を褒めたりするなど、授業以外にも児童生徒との触れ合い、信頼関係を築き上げている非常勤講師は多くいるはずである。教委はこれらの実態をしっかりと捉え直し、「1コマ+テスト作成+成績評価」に対する処遇も考え改善していかなければならない。

 

6.非正規教員の研修を保証し学習活動の充実を図る

 新規採用正規教員に対しては、学校の内外で1年間の特別な研修(初任者研修)をすることが、教委に義務付けられている。実践的指導力と使命感を養うとともに、幅広い知見を得させるため、学級や教科・科目を担当しながらの実践的研修である。校内で年間300時間以上、校外で年間25日以上の研修を受けることになっている。指導者は担当教員が当たる。

 一方、非正規教員任用の常勤講師の場合は対象外となっている。教委には研修を行う義務がない。常勤講師が体系的な研修を受けず、指導力が不十分であった場合、児童生徒が真っ先に影響を受けることになる。

 このような状況を改善しようと、近年、独自に常勤講師を対象とした研修を進める教委も出てきている。こうした研修の周知徹底、研修の体系化を図るとともに、研修に参加しやすい環境づくり、例えば常勤講師の業務負担を軽減することも必要である。また、主幹教諭や主任教諭が常勤講師の研修に携わるなど、校内研修を通じて常任講師の資質を高め、意欲的に学習活動に取り組む体制を創り上げていくことも重要である。

 正規教員になりたいと教員採用試験を受けようとしている常勤講師も少なくはない。しかし、正規教員と同じように業務に追われ、試験勉強の時間がままならなかったり、近年教員採用試験の上限が緩和される傾向にあるが、年齢制限から受験そのものが難しかったりといった理由で、正規教員になれないまま常勤講師として歳を重ねていくという実態もある。

 常勤講師が意欲をもって正規教員を目指す環境を教委、学校が一体となって推進することが重要である。

 ① 生きて働く「知識・技能」の習得  ② 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」の育成  ③ 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養

これら3つの柱に基づいた校内研修によって、学習活動の充実を図っていくことが重要である。研修を通じて、教員一人一人の意識改革を進め、学習活動の充実を図ることができると考える。

 教育界に優秀な人材を得るためには、非正規教員の社会的地位の確保とともに、処遇の改善が重要である。国、教委、学校が一体となって、教育活動に取り組める体制の構築を図っていかなければならない。

 

♦ 引用参考文献

 1 義務標準法等の一部を改正する法律等関係資料(文科省)

 2 非正規教員の任用の状況について(文科省)

 3「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(文科省)

 4 平成25年度学校教員統計調査(文科省)

 5 学級編制、教職員定数改善等の経緯に関する資料(文科省)

 6 読売新聞

 7 週刊東洋経済

                                        2017.11.26