提言116:小学校におけるプログラミング教育の課題をどう克服するか

 

はじめに

 新小学校学習指導要領では、小学校から情報活用能力の内容にプログラミング教育を含むとし、各教科におけるコンピュータ等を活用した学習活動の充実やコンピュータでの文字入力等の習得、プログラミング的思考の育成を図ることを求めている。

 プログラミング教育は、小学校で2020年度から、中学校で2021年度から、高等学校で2022年度から、それぞれ始まる。現時点の2018年から約2年後には小学校でプログラミング教育が本格的に実施されることになる。

 今回改訂された学習指導要領が目指すものは、予測不可能な未来に向けて、子供たちがよりよい人生、よりよい社会の担い手となるよう、授業を変えていかなくてはならないということである。

 子供たちに身に付けさせたい能力は何か、これからの授業をどう進めていったらよいか、すでに先行して実施している自治体、学校もあるが、解決すべき課題も多い。教員がプログラミング教育についてどれだけ理解しているのか、教員の力だけでは手に負えないこと、どれだけ意識をもって取り組もうとしているかなどである。また、子供たちの現状に目を向けると、コンピュータでの文字入力等の習得やプログラミングの経験など、個人差があり、指導方法に工夫が必要であることが分かる。ここでは小学校におけるプログラミング教育における課題について考え、解決策を述べる。

 

1. プログラミング教育の必要性の背景

 人工知能、IoT(Internet of Things)の時代といわれ、子供たちを取り巻く環境は近年急激に変化している。身の回りのもののほとんどがデジタルによって制御されている時代だからこそプログラミング教育が必要とされる。「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」には、以下のように述べられている。

・近年、飛躍的に進化した人工知能は、所与の目的の中で処理を行う一方、人間は、みずみずしい感性

 を働かせながら、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかなどの目的を考え出すことが

 でき、その目的に応じた創造的な問題解決を行うことができるなどの強みをもっている。こうした人

 間の強みを伸ばしていくことは、学校教育が長年目指してきたことでもあり、社会や産業の構造が変

 化し成熟社会に向かう中で、社会が求める人材像とも合致するものとなっている。

・自動販売機やロボット掃除機など、身近な生活の中でもコンピュータとプログラミングの働きの恩恵

 を受けており、これらの便利な機械が「魔法の箱」ではなく、プログラミングを通じて人間の意図し

 た処理を行わせることができるものであることを理解できるようにすることは、時代の要請として受

 け止めていく必要がある。

・小学校段階におけるプログラミング教育については、コーディング(プログラミング言語を用いた記

 述方法)を覚えることがプログラミング教育の目的であるとの誤解が広がりつつあるのではないかと

 の指摘もある。

 

2. プログラミング教育、プログラミング的思考とは

 プログラミング教育というと、コンピュータの技術の習得に視点がいきがちだが、小学校学習指導要

領総則には「子供たちが将来どのような職業に就くとしても時代を越えて普遍的に求められる『プログラミング的思考』(自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力)を育む。」ことをあげ、「小学校においては、児童がプログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動を計画的に実施すること。」としている。

 この学習指導要領は学校における「目標」を定めたもので、具体的にこの目標をどのように実現するのかは、学校現場にゆだねられている。

 

3. プログラミングに取り組むねらい(学習指導要領より)

 小学校段階において学習活動としてプログラミングに取り組むねらいは、プログラミング言語を覚えたり、プログラミングの技能を習得したりといったことではなく、論理的思考力を育むとともに、プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータをはじめとする情報技術によって支えられていることなどに気付き、身近な問題の解決に主体的に取り組む態度やコンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとする態度などを育むこと、さらに、教科等で学ぶ知識及び技能等をより確実に身に付けさせることにある。教科等における学習上の必要性や学習内容と関連付けながら計画的かつ無理なく確実に実施されるものであることに留意する必要がある。

   小学校においては、教育課程全体を見渡し、プログラミングを実施する単元を位置付けていく学年や教科を決定する必要がある。

 小学校学習指導要領では、算数科、理科、総合的な学習の時間において、児童がプログラミングを体験しながら、論理的思考力を身に付けるための学習活動を取り上げる内容やその取扱いについて例示している(第2章第3節算数第3の2(9)及び同第4節理科第3の2(2)、第5章総合的な学習の時間第3の2(2))。しかし、例示以外の内容や教科等においても、プログラミングを学習活動として実施することが可能であり、プログラミングに取り組むねらいを踏まえつつ、学校の教育目標や児童の実情等に応じて工夫して取り入れていくことが求められる。

 例示として

①算数では「図の作成において、プログラミング的思考と数学的な思考の関係やよさに気付く学び。」

 「[第5学年]の『B図形』の(1)図形の面積を計算によって求めることができるようにする。ア

 三角形、平行四辺形、ひし形及び台形の面積の求め方を考えること。」における正多角形の作図を行

 う学習に関連して、正確な繰り返し作業を行う必要があり、更に一部を変えることでいろいろな正多

 角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。

②理科では「電気製品にはプログラムが活用され、条件に応じて作動していることに気付く学び。」

 「[第6学年]の『A物質・エネルギー』の(4)電気の利用」における電気の性質や働きを利用した

 道具があることを捉える学習など、与えた条件に応じて動作していることを考察し、更に条件を変え

 ることにより、動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。」具体的には電気の

 性質や働きを学ぶ際、エネルギーを効果的に利用するために様々な電気製品にはプログラムが活用さ

 れ条件に応じて動作していることに気付く学習などが検討されている。

③総合的な学習の時間では「自分の暮らしとプログラミングとの関係を考え、そのよさに気付く学

 び。」

 「学習活動を行うに当たっては、プログラミング的思考を育むことを目指し、プログラミングを体験

 することが探究的な学習の過程に適切に位置付くようにしなければならない。」と示している。

④音楽では、「創作用のICTツールを活用しながら、音の長さや高さの組み合わせなどを試行錯誤

 し、音楽を作る学び。」

⑤図画工作では、「表現しているものを、プログラミングを通じて動かすことにより、新たな発想や構

 想を生み出す学び。」

⑥特別活動では、クラブ活動において実施。

 などが示されている。

 その他、例示された内容以外でも学習活動を広げていきたい。視点として

・身近な生活でコンピュータが活用されていると知ること。
・問題の解決には必要な手順があることに気付くこと。
・コンピュータの働きを自分の生活に生かそうとする態度を身に付けること。などがあげられる。

上記のことから、これからの教育の中で、プログラミングはこれまでの基礎学力と並ぶ基礎的な内容になっていくものであると考える。また、プログラミングを学ぶのではなく、プログラミングで学ぶという視点に立って、論理的に考え、問題を解決していく力を育むことが大切と考える。

 

4. プログラミング教育を実施する上での課題

(1)指導できる人材の養成と確保(指導する教員の課題)

    子供たちにプログラミングを教える前に教員がプログラミングを学ぶ必要がある。プログラミ

   ング教育については、高度な知識やスキルが必要とされるため、研修制度の確立と研修時間の確

   保、専門家の協力や情報の教員免許をもつ教員の増員などが必要である。2020年度までに一

   人一台の情報端末での教育を、という政府の教育目標があるが、現場で指導を行う教員たちから

   は不安の声が上がっているのが実情である。子供たちを教える教員へのプログラミング教育をま

   ず実施する必要がある。既存のカリキュラムの中にコンピュータサイエンス的な視点を入れて授

   業を展開することは、可能であるし、望ましいことでもあるが、それを実践できる小学校の教員

   は少ない。

    2020年度からプログラミング教育の実施に向けて、指導人材の養成・確保には早急に取り

   組まなければならない。小学校の教員はとても多忙である。授業のほかにも保護者とのやりとり

   や対応すべき校務分掌や学級事務等の仕事があり、年次休暇もゆっくり取得できないのが現実で

   ある。プログラミング教育を小学校の教員だけに負わせるようでは目標の達成はできない。学校

   も家庭も地域も企業や大学も社会教育関係施設もみんなで協力して地域で支えるプログラミング

   教育を実現していきたい。人的・物理的な環境を作っていくことが成功の鍵である。

(2)授業時間の確保

    小学校では、新学習指導要領の実施において、外国語教育(英語)を新設するため、総合的な

   学習の時間を削減して授業時間数を確保している。2020年度には英語の「3年生から必修

   化」「5年生から教科化」が完全実施されることになり、カリキュラムは目いっぱいである。さ

   らにプログラミング教育が必修化されることで、時間を確保するため、現在実施されているカリ

   キュラムや教育内容を削減し、授業時間を確保しなければならないという現実がある。文部科学

   省はプログラミング技術を教えるのではなく、各教科等の中で、プログラミングを活かした論理

   的な思考力を養うことが小学校段階では大切と述べている。そのため、学校全体の教育課程を見

   渡し、プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や教科等を決め、地域、企業・大学

   等の研究機関との連携体制を整えながら指導内容を計画・実施していくことが求められる。

(3)「指導方法・教育教材」の開発・普及

    「プログラミング教育とは、一体何をすればよいのだろうか。」と多くの教員は考えていると

   思われる。論理的な思考力や問題解決能力を養うためのプログラミング教育とは、一体どのよう

   に実践すればよいのか。その具体的な指導方法や教育教材が十分ではないため、多くの教員は指

   導が困難と考えてしまう。特別な知識や技術、意欲をもって取り組める教員もいるだろうが、全

   国の小学校でプログラミング教育を普及させるためには、指導方法や教育教材の開発が指導する

   人材の養成・確保とともに重要になってくる。しかも、開発した内容が実際に浸透し実践されて

   いくまでには、啓発や普及に膨大な時間や努力が必要である。プログラミング教育の先進国であ

   るイギリスでは、2013 年のナショナルカリキュラムにおいて、従来の教科「ICT」に代

   わって教科「Computing」が新設され、2014年9月から実施している。

    英国でも、いまだ従来のICTリテラシーや情報活用能力の習得の指導にとどまっている学校

   もあるとのことで、指導者のトレーニングや新教科の普及・啓発が当面の課題であると報告され

   ている。プログラミング教育が未来を拓くカリキュラムとして重要であるのだとすれば、「他の

   国に遅れをとってはいけないから、とりあえず必修化。」というような意識では普及していかな

   い。模索しながらも自治体・学校で真剣に取り組んでいく必要がある。

(4)設備・環境整備

    文部科学省は2013年の第2期教育振興基本計画で、教育用のPCを児童3.6人に1台の割

   合で配備することを目指し、2014年度から年1600億円以上を地方交付税に盛り込み自治

   体を支援してきたが、2016年3月末時点では、6.2人に1台にとどまっている。PCに限ら

   ず、前述の「日本再興戦略2016」ではノート型コンピュータやタブレット、また、昨年11月

   に文部科学省が発表した資料「教育ICT教材整備指針(仮称)策定に向けて」では電子黒板や

   実物投影機など、様々なデバイスの必要性についてふれている。

    電子黒板の整備率は10年前の2006年は1.7%だったのに対して、2016年3月時点で

   は21.9%(前年比2.5%増、台数は11,653台増の102,156台)と増加しているが、

   2020年までにどこまで整備することができるか。

    また、これらのデバイスをプログラミング授業で使用するうえで「通信環境」が必要である。

   前述の「小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)」は、

   「全ての教員や関係者が活用できるようなプログラミング教育のポータルサイトを構築していく

   ことも考えられる。」「学校現場がインストールせずに使うことのできるWebサービスなど、活

   用しやすい工夫が求められる。」などネットワークを活用した運用が検討されている。

   「日本再興戦略2016」では、「無線LAN の普通教室への整備を2020年度までに100%

   要業績評価指標 短期・中間目標)として設定しているが、2016年3月時点では普通教室の

   無線LAN整備率は26.1%だった。(校内LAN整備率は87.8%)スタートまで間もないプロ

   グラミング教育開始に向けて、急ピッチの環境整備が求められる。2020年までにどこまで進

   むか注目される。

 

5.課題解決のために

 2030年を目指した改訂された次期学習指導要領であるが、2030年には現在(2018)10才の子供は22才に、さらに2045年には37才になっており、日本の経済の中心的な存在になっている。小学校で必修化されたプログラミング教育が生かされ、社会の担い手として活躍できる人材を育てていくという意識で取り組みたい。

 必修化が迫っている以上、少しでも解決方法を見いださなくてはならない。そのためには、教員研修が必須である。技術の研修にのみ終わるのではなく授業の中にどのように落とし込めるかという視点が必要である。それには指導案や授業の公開、研究授業が有効である。また、他校等の実践から学び、実践していくことに努めたい。

 

6.おわりに

 プログラミングは、これからの教育の中で、①基礎学力と並ぶ基礎的な内容になっていくものであること。②プログラミングを学ぶではなく、プログラミングで学ぶということ。他者と協同して新しいものを作り出すことや教科の理解を深めることが求められている。プログラミングを使って何を表現し、何を作り出すかというためのツールに過ぎないという意識が大切。③開かれた教育課程といわれるように、地域で支えるプログラミングであるように。新しい学校は地域で環境を作っていくような取組を望んでやまない。

 

♦参考・引用文献

・「小学校学習指導要領」(平成29年3月 文部科学省)

・「小学校学習指導要領解説 総則編」(平成29年3月 文部科学省)

  小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ)(平成28年6月

  16日小学校段階における理論的思考や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関

  する有識者会議)

・平成27年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果

・「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」報告書

 (文部科学省平成26年度・情報教育指導力向上支援事業)

・教育ICT教材整備指針(仮称)策定に向けて

 (平成28年11月 文部科学省生涯学習政策局情報教育課)

・日本再興戦略2016 (平成28年6月)

・2020年に義務化迫る“小学校プログラミング教育”、教育現場が抱える課題(THE PAGE

 2017年9月)

 大阪電気通信大学工学部電子機械工学科の兼宗進教授

 茨城大学教育学部情報文化課程の小林祐紀准教授他

 (取材・執筆:井口裕右/オフィスライトフォーワン)

・高度IT利活用社会における今後の学校教育の在り方に関する有識者会議

 提言(平成29年10月 東京都教育委員会)

・小学校におけるプログラミング教育の課題・方向性

 (鎌ヶ谷市立北部小学校 坂巻若菜・帝京大学教授福島健介)