1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年4月年の熊本地震、2018年6月の大阪北部地震など、我が国には次々と大震災が発生している。
文部科学省(以下「文科省」という)は、東日本大震災の教訓を踏まえ、被災地の復興とともに、我が国全体が希望をもって、未来に向かって前進していけるようにするための教育を「創造的復興教育」と捉え、教育支援を推進することにした。そして、自治体や企業をはじめ様々な団体を対象に「復興教育支援事業」の公募を行った。公募期間中に95団体の申請を受け付け後、外部有識者等により構成された「復興教育支援事業審査委員会」(2011年12月7日)において審査を行い、54団体を選定した。
復興教育支援事業には、自治体のみならず、大学、企業、NPOなど、多様な団体が積極的に教育支援を行うことになり、現在も多様な取組を継続し、被災地の教育支援を推進している。
東日本大震災からの復興・創生のためには、教育・学びを通じて、創造的復興教育や持続可能な地域づくりと地域づくりに貢献する人材を育成することも重要である。
「創造的復興教育」の推進は、自治体等行政側以外の、多様な主体が被災地での教育支援の取組をサポートしたり、その取組を被災地以外の地域にも広報したりしている。また、創造的復興に必要なコンピテンシー・スキルを身に付けることを目的とし、国際機関の全面的な協力のもと、産学官協働で従来にない枠組みを超えた教育を推進している。したがって、我が国全体の新しい教育の創造に寄与するものと考える。
また、東日本大震災からの復興・創生のためには、教育・学びを通じて、創造的復興教育や持続可能な地域づくりと地域づくりに貢献する人材を育成することが重要である。
一方、東日本大震災の大津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校の児童23人の遺族が石巻市と宮城県に損害賠償を求めた訴訟で、市と県は2018年5月10日、学校や市教育委員会の事前防災の不備を認めた仙台高裁判決(2018年4月26日)を不服として、最高裁に上告した。この訴訟をどう受け止めるかは非常に難しい。しかし、児童生徒の安全確保と生命を守るためには、これまでの学校の危機管理を抜本的に見直し、災害時に的確に機能する危機管理体制を創り上げるとともに、生命を守るための実践訓練を日常的に実践していくことが最も重要で必要なことである。
本提言では、被災地の児童生徒をはじめ、教育関係者等の人的被害と学校等の物的被害について記述するとともに、創造的復興教育や持続可能な地域づくりと地域づくりに貢献する人材の育成、被災地における児童生徒の学びのサポートと心のケアなど、未来志向の教育の実践を進めている「コラボ・スクール」の取組や大川小学校の大惨事などについて見解を述べたい。
東日本大震災によって、東日本沿岸地域は甚大な被害を受けた。将来ある幼児、児童生徒、学生、教職員の被害は、我が国にとっても大きな損失である。
このような人的被害のほか、幼・小・中・高校・大学などの学校施設や社会教育施設、社会体育施設、文化財にも甚大な被害が生じた。被災地の教育を取り巻く状況は、いまだかつてな
いほど痛ましく厳しいものである。しかし、この甚大な人的被害や物的被害を乗り越え、創造的復興教育の創造、新たな地域づくりを推進していくことが、生き残った人々をはじめ、国民全員の使命であると考える。
2012年度の文部科学白書によると、 幼児、児童生徒、学生、教職員などの人的被害は死者659名、行方不明者79名、負傷者262名となっている。また、学校施設や社会教育施設、文化財などの物的被害は全国で1万2千件以上である。
(1)人的な被害の状況
東日本大震災は、巨大地震とそれに起因する大津波により、東北地方太平洋沿岸を中心に甚大な人的な被害をもたらした。また、発生時刻が平日の14時46分頃であったため、多数の児童生徒が在校中、あるいは下校中であった。そのため、適切な避難指示と安全な避難が難しかった。このことが死亡・負傷者が多数出た一因であると考えられる。また、保護者と一緒に車で下校中に、国道の渋滞により大津波に巻き込まれ、死亡した例も多く報告されている。
表-1 東日本大震災における文科省関係の人的被害(2012年9月14日現在 出典:文科省)
(2)物的被害の状況
物的被害は、全体では77.2%が学校等の建物の被害、68.7%が教室内の備品等である。また、校庭や運動場など校地の被害も37.1%の学校等で発生した。
地域別にみると、建物、備品、校地の被害を受けた学校等は、内陸部より沿岸部の割合が高かった。特に、校地の被害は沿岸部の学校等の方が、内陸部の学校等と比較して18 ポイントほど高くなっている。
学校種別にみると、幼稚園の物的被害が最も低く、高等学校の被害が最も高くなっている。
表-2 東日本大震災における文科省関係の物的被害(2012年9月14日現在 出典:文科省)
2012年6月21日、中央教育審議会教育振興基本計画部会は、「創造的復興教育」の推進についての議論をまとめた。文科省は、基本計画部会の議論を踏まえ、東北の地から未来型の教育モデルづくりを促進し、「創造的復興教育」を全国に広げていく施策を推進することが必要である。創造的復興教育の推進には、教育委員会(以下「教委」という)、団体が既に取り組んでいる「復興教育支援事業」とも深く関わっている。
第2期教育振興基本計画(2013年6月14日 閣議決定)には、「東北各地で復興に向けた新しい教育の動きが始まっている。」と記述されている。この東北各地の取組は、今後、日本の教育の在り方に大きな示唆を与えるものと考える。
(1)創造的復興教育
東北地方における創造的復興教育は、「未来型教育モデルづくり」である。したがって、被災地だけでなく、全国に発展させ、共有していくことが重要である。また、被災地の「創造的教育復興」推進のための人材育成に取り組むことも必要である。それには、復興教育支援事業に携わっている教委や団体が「創造的復興教育」の意義をしっかりと認識し、これまで以上に支援体制を強化し、新たな教育のモデルを開発・普及に努めることが必要である。
(2)全国地震動予測地図(出典:政府の地震調査委員会 2018年版全国地震動予測地図 )
内の振動6弱以上確率」等を、今後復興教育に関する情報として共有し、ネットワークを構築するとともに、先進的取組を全国に発信していく必要がある。
持続可能な地域を実現する創造的復興教育の推進には、① 持続可能な地域づくりに貢献できる人材の育成 ② 学校外での活動も含めた、能動的・創造的な学びの重視 ③ 地域・NPO・大学等の多様な主体と協働した、充実した教育環境の構築 ④ 地域復興の歩みを学びの対象としての地域復興の後押しなどが重要である。
(3)未来型教育モデルづくりを目指す学校の統廃合
東日本大震災を契機として、岩手、宮城、福島の被災3県では、児童生徒の数が急速に減少しており、学校の統廃合が、より緊急性をもつ重要課題として浮上している。
岩手県と宮城県では、大津波による甚大な被害を受けた沿岸部を中心に、公立小・中学校の統廃合の動きが加速している。大震災から1年目であった 2012年度においては、直ぐには学校の統廃合にかかわる計画づくりが間に合わなかったが、2年目を迎えた2013年度から統廃合が本格化し、25校が廃校となった。
沿岸部の市町村において、統廃合が加速する要因は、児童生徒数の減少が大震災により加速したほか、大津波による被害を受けた校舎の移転・復旧には多額の費用を要することも指摘されている。
福島県では、岩手県及び宮城県と同様に、沿岸部において大津波による被害を受けたことに加えて、東京電力福島第一原子力発電所事故により、避難を余儀なくされたため、小・中学校の置かれている状況は一変した。今後、沿岸部から高台への移転、避難先からの帰還等を本格的に検討し、学校の統廃合を考えていかなければならない。
① 福島県の学校の現況
福島県教委の「学校統計要覧(2017年5月1日現在)」によると、学校数や休校の状況は下記
の通りである。
ア 小学校数は、休校・分校も含めて454校で、前年度より7校減少
イ 中学校数は、休校・分校も含めて230 校で、前年度より2校減少
ウ 高等学校(通信制除く)数は、全日制・定時制、休校も含めて111校で、前年度より1校減少
エ 特別支援学校数は25 校で、前年度より1校増加
オ 幼稚園数は、休園も含めて276園で、前年度より17園減少
カ 認定こども園は、63園で前年度より8園増加
となっている。
② 福島県の現在休校中の学校
福島県教委の「学校統計要覧(2017年5月1日現在)」によると、現在休校中の学校(国立・公
立・私立を含む)は、ア 小学校数8校、イ 中学校数3校、ウ 高校6 校、エ 幼稚園24園、オ 専修学校
5校、カ 各種学校2校などである。
(4)学校の統廃合による創造的復興教育
第2期教育振興基本計画(2013年6月14日閣議決定)では、東北各地で復興に向けた新しい教育の動きの一つである学校の統廃合を重視している。
したがって、地域の復興の方向性、人口動態、産業構造の変化などを踏まえ、適正な学校配置や魅力ある統廃合による新たな学校づくり、学校の多機能化を求め、未来を生き抜く力の育成と「新たな学び」などを重視した創造的復興教育をねらいとすることが重要である。
学校の統廃合によって、コミュニティの再生と創造的復興教育を密接に結び付けることによって、新たに生まれたコミュニティ・スクールは、地域と共に発展していくことができると考える。
東日本大震災による避難所や仮設住宅の生活の中で、地域が分断され、多くの被災地域では自治機能が低下した。持続可能な地域づくりには、被災前からの自治機能の回復だけでなく、復興過程で形成された仮設団地、集団移転団地や復興公営住宅での新たな自治機能の構築が重要である。また、安全な地域づくりを優先するため時間をかけて公営住宅や高台移転団地が徐々に整備されているが、時間の経過とともに避難前の居住地に戻る理由を失ってしまった人たちが増えている。こういった傾向に少しでも歯止めをかけ、持続可能で活性化に富んだ個性豊かな地域づくりが求められている。
「持続可能な地域づくり」には二つの側面があると考える。一つは、学校を核とした持続可能な地域づくりを推進するとともに、分断された自治機能の回復を図ることである。学校が「地域の宝」として、地域の人々の誇りになってこそ、「地域と学校の連携・協働」が創成されると考える。
もう一つは、環境への負荷が少ない地域づくりである。地域が環境に配慮することによって、地域特有の環境が持続可能な地域を創っていくことが必要である。
(1)地域づくりとコミュニティ・スクールの創造
避難所や仮設住宅の生活の中で、被災地における地域社会のつながりや支え合いの希薄化、教育力の低下などによって、被災地の自律的な復興にいろいろな困難が横たわっている。しかし、「復興教育支援事業」に参加している各種団体の支援を受けるとともに、被災地に戻った住民一人一人が主体的に地域づくりに参加することによって、地域コミュニティの再生は可能である。それには、「学びを通じた被災地の地域コミュニティ再生支援事業」に住民が主体的・積極的に参加し、その輪を広げていく必要がある。
成熟した地域が創られていくことは、児童生徒の豊かな成長にもつながっていく。また、地域住民が学校を核とした連携・協働の取組に参画することにより、高齢者も含めた住民一人一人の活躍の場が創出され、「まち」に活力を生み出すことができる。
地域と学校が協働し、安心して児童生徒を育てられる環境を整備することは、その地域自体の魅力となり、地域に若い世代を呼び込み、地方創生の実現につながると考える。
「次世代の学校・地域」の創成は、学校と地域が車の両輪として、課題を克服していく取組が何よりも重要で不可欠である。
(2)環境への負荷が少ない地域づくり
環境への負荷をできる限り少なく循環を基調とし、環境の特性に配慮しながら、自然と人間との共生が確保された地域づくりを進めていくことが重要である。
地域資源は多種多様であり、どの地域にも存在するものである。しかし、地域住民にとっては身近過ぎて、それが地域資源であると気付いていないことも少なくない。しかし、ありふれた地域資源であっても、その活用方法によって、地域活性化の源泉となるに違いない。
東日本大震災以降、火力発電による発電量の増大によって燃料調達コスト及びCO2排出量の増加が顕著となっている。こうした課題を解決する手段として、再生可能エネルギーの活用が注目を浴びている。被災地における再生可能、持続的なエネルギーの開発を持続的な地域づくりの一環として創出する工夫を、地域が一丸となって創り上げたいものである。
文科省は、文教・科学技術施策の動向と展開の第2章「東日本大震災からの復興・創生の進展」において、「東日本大震災からの復興・創生のためには、教育・学びを通して、復興や持続可能な地域づくりに貢献する人材を育成することが鍵となります。こうした認識の下、東北各地では、東日本大震災を機に、従来の目的や手法にとらわれることなく未来志向の教育の実践が進められています。」と記述されているように、地域の課題を踏まえ、困難な状況を乗り越え持続可能な地域づくりに貢献する人材の育成が急務である。それには、困難な状況に置かれても、状況を的確に捉えて自ら学び、考える資質・能力、人と支え合いながら、主体的に行動して困難を乗り越えていく資質・能力をもった人が、持続可能な地域づくりに貢献できる人材になり得ると考えられる。
持続可能な地域づくりに貢献できる人材を育成するためには、カリキュラム・指導方法の作成も進めていかなければならない。それには、教室で一方的に知識を学ぶだけではなく、学校外も含め、実践的な活動を通して学ぶことを重視したカリキュラムを創造することが必要である。「受動的で静的な教育」から「能動的で創造的な学習」への転換をもたらすことによって、持続可能な地域づくりに貢献する人材が育成されると考えるからである。また、教委・NPO法人・大学等の多様な主体と協働し、充実した教育環境の構築を図っていくことも必要である。
創造的復興教育では、地域社会そのものが教材である。児童生徒は地域復興の歩みを学びの対象としてフィールドワーク(野外研究、実地調査)を繰り返し、自らの学びを深めていくようにしたい。児童生徒と地域の人々が共に学ぶ「学びのコミュニティ」の中でこそ、地域持続可能な地域づくりに貢献する人材も育成されると考える。
前述したように、文科省は、教育委員会、大学、NPO法人など様々な団体を対象に「復興教育支援事業」の公募を行い、95件の申請を受け付けた後、54件が採択された。そのうちの一つが「特定非営利活動法人NPOカタリバ」(以下「NPOカタリバ」という)である。
NPOカタリバのホームページによると、2001年11月の設立以来、主に高校生へのキャリア学習支援を行ってきた教育NPOである。2011年7月に、被災地の岩手県大槌町・宮城県女川町に、コラボ・スクールを設立した。また、文科省の「緊急スクールカウンセラー等派遣事業」(2011・2012・2013・2014・2015年度)にも採用されるなど、行政の復興施策にも取り組んでいる。
NPOカタリバは、「生き抜く力を、子ども・若者へ」を理念に活動している教育NPOである。この理念は、教育基本法等に示された教育の目的・目標の達成に向けた教育課程の意義、「生きる力」の理念に共通するものである。これまで全国約22万人の児童生徒に学習支援や心のケアを行ってきた。
(1)コラボ・スクール
コラボ・スクールは、東日本大震災で被災した児童生徒の放課後の学校である。大震災により仮設住宅で暮らす児童生徒の教育環境は今もまだ十分に回復していない。狭い仮設住宅で暮らす児童生徒には、放課後に勉強できる場所が不足している。一緒に暮らす家族に気兼ねし、勉強に集中できない児童生徒も多くいる。
現在、被災地の宮城県女川町、岩手県大槌町、福島県広野町の3箇所で、幼児~高校生に学習支援と心のケアを行うコラボ・スクールを開設している。大震災を契機に従来の目的や手法にとらわれることなく、未来志向の教育の実践が進められている。
阪神・淡路大震災の後、心の健康について教育的配慮を必要とする児童生徒数の割合が減少に転じるまでには、5年間かかったようである。これを教訓に、コラボ・スクールの指導者はコラボ・スクールにおける児童生徒のケアは、「長期戦」であることを認識した上で指導に当たっている。
(2)被災地の教育課題を長期的に支援
東日本大震災の復興が進んでいる現在でも、被災地では、大震災による爪あとは、児童生徒の学習環境にとってなお深刻である。
コラボ・スクールでは、児童生徒に学習指導を行うとともに、友達と安心して交流できる居場所を提供している。また、キャリア学習やプロジェクト学習も合わせて、児童生徒が未来の復興の担い手として成長するための支援を行っている。
コラボ・スクールで、児童生徒がどのように学習しているかについて、指導役の元塾講師らが学校の教師や保護者にも伝えている。
官民の連携で、こうした試みを継続し、学習環境を整えていくことに大きな貢献を果たしていると考える。
東日本大震災に伴う大津波が地震発生後、およそ50分経った15時36分頃、三陸海岸・追波湾の奥にある新北上川(追波川)を遡上してきた。その大津波が河口から約5kmの距離にある石巻市立大川小学校を襲い、校庭にいた児童78名中74名死亡、11名の教員中10名死亡という大惨事が起きた。
(1)大津波と避難に至る経緯
北上川から溢れ出た大津波は、大川小学校付近の釜谷地区全域を襲い、児童・教員たちは、列の前方から大津波に飲み込まれた。後列の教員と児童たちは、裏山を駆け上り、数人は助かった。その大津波は2階建ての校舎の屋根を乗り越え、高さ10mまで遡上した。
被災翌日から翌々日、1km離れた上流や下流、山の麓、校舎内、学校付近の瓦礫や泥の中から30名以上の遺体が発見された。
(2)避難前の状況
地震発生から津波到達まで50分間あったにもかかわらず、最高責任者の校長不在下での指揮系統が不明確なまま、直ちに避難行動をせず校庭に児童を座らせて点呼を取ったり、避難先について議論を始めたりするなど、学校側の対応を疑問視する保護者の声が相次いだ。
大津波が差し迫る中、児童を50分間も校庭に待機させたことは、とても考えられないことである。火災や津波などが発生した場合の避難場所が決まっていなかったとすれば、学校、教職員の責任は極めて大きい。大地震直後、直ちに全員を高台に避難させ、在校児童が全員無事だった石巻市立門脇小学校とは対照的である。
(3)石巻市立大川小学校の津波訴訟
大震災直後、大川小学校の大惨事を「天災だから」と、片付けられそうになった。しかし、「74人の児童と教員10人が同時に死んだ」ということは、「人災」であると、それをただす遺族の訴えが始まった。
2014年3月10日、犠牲となった児童23人の遺族が宮城県と石巻市に対し、総額23億円の損害賠償を求める民事訴訟を仙台地方裁判所に起こした。そして、2017年10月26日、仙台地方裁判所は学校側の過失を認定し、23人の遺族に総額14億2658万円の支払いを石巻市と宮城県に命じた。
石巻市の広報車が、大川小学校付近で津波の接近を告げ高台への避難を呼び掛けた時点までに、教員らは大津波の襲来を予見できたはずであり、学校の裏山に避難しなかったのは過失だと結論付けたからである。
2018年4月26日、双方が控訴した控訴審でも、学校側が大震災発生前の対策を怠ったのが惨事につながったと小川浩裁判長は指摘し、仙台地裁では認めなかった学校側の防災体制の不備を認定した。そして、市と県に対して、1審判決よりも約1000万円多い総額14億3617万円の支払いを命じた。
2018年5月10日、宮城県と石巻市は、事前の防災体制の過失を認めて賠償を命じた仙台高裁判決を不服として、最高裁に上告した。
2審の賠償金額は1審の判決とほぼ同額であるが、その理由は全く異なっている。1審では地震発生後の過失、2審では地震発生前の防災対策の不備が認定されたからである。
2審判決は非常に重要な意味をもつ内容であると考える。今後、全国の教委や学校の防災対策においては、これまでの防災対策や避難訓練の在り方を、早急に見直すことが重要かつ必要である。
大川小学校において、火災時や震災時の対応の仕方、人員確認や報告の仕方、死傷者への対応の仕方など、多様で具体的な計画(学校の危機管理)の見直しを早急に行うとともに、それに基づいて、日常的に多様な避難訓練を実施し、その評価を踏まえて次の訓練に生かすようにしていかなければならない。
綿密な避難訓練の計画を練り上げ、地道な実践を通して、教職員の的確な判断力を磨くことによって、はじめて児童生徒の生命を守ることができると考えるからである。
(3)奇跡的に助かった只野哲也さん(18)が「語り部」活動を開始
東日本大震災時、小学5年生であった哲也さんは、他の児童と共に教員の誘導で校庭から避難する最中に大津波にのまれてしまったが、奇跡的に助かった。哲也さんは学校の仲間たちだけでなく、母・妹・祖父の3人の家族も大津波で失い、助かったのは父と二人だけだった。
大川小学校は、「震災遺構」として保存されることになっている。哲也さんの父は、訴訟を起こした23人の遺族の一人であり、大川小学校を訪れる人々に大惨事の様子を知ってもらうため「語り部」として大川小学校の地に立ち続けてきた。
大震災から7年、哲也さんは父に代わり「語り部」として語り始めることを決意した。
哲也さんは、「未来」に希望の光を求めながら、多くの人たちに大川小学校の大惨事を未来への教訓にすることを目指し、「語り部」として、東日本大震災や大川小学校の大惨事を語り続けていくものと考えられる。私たちも今一度、東日本大震災に向き合っていかなければならないと考える。
◆ 参考・文献
1 平成23年度「復興教育支援事業」採択団体の決定について(文科省:平成24年1月31日)
2 文教・科学技術施策の動向と展開の第2章「東日本大震災からの復興・創生の進展」(文科省)
3 第2期教育振興基本計画(文科省 平成25年6月14日 閣議決定)
4 「希望の教育 持続可能な地域を実現する創造的復興教育 」(文科省と創造的復興教育研究会:
が平成26年3月刊行)
5 東日本大震災被災地における教育の創造的復興と人間・地域復興(佐藤修司:秋田大学)
6 中央教育審議会の答申「第3期教育振興基本計画について 」(平成30年3月8日)
7 平成24年度 文部科学白書
8 「創造的復興教育」の推進(中央教育審議会教育振興基本計画部会 平成24年6月21日)
9 被災三県における児童生徒数の減少と学校の統廃合 (文教科学委員会調査室 鈴木 友紀)
10 NPO法人カタリバホームページ
11 提言96:次世代の学校と地域の連携・協働の在り方を考えよう(東京都 教育会)
12 地域づくりとコミュニティ・スクールの創造(宮城県 平成17年度)
13 政府の地震調査委員会 2018年版全国地震動予測地図
2018/06/30
死 亡
負 傷
合 計
10
10
20
507
115
622
138
125
263
4
11
15
1
1
659
262
921
国立学校
公立学校
私立学校
社会教育
体育・文化等
独立行政法人
計
国立学校
公立学校
私立学校
社会教育
体育・文化施設等
研究施設等
計
文化財等
6,484校
76校
3,397校
744施設
1,428校
21施設
12,150
2018年6月27日、政府の地震調査委員会は、今後30年以内に震度6弱以上に見舞われる地震の確率などを示した。「全国地震動予測地図(2018版)」を公表した。
地図は、政府の地震調査委員会が1~2年ごとに改訂している。
首都直下地震が懸念される関東は引き続き確率が高く、南海トラフを震源にした大地震が想定される東海から四国にかけた地域ではわずかに増えている。
確率が3%以上の「高い」地域はオレンジや赤で示され、人口密度が高く、産業が集中する太平洋ベルト地帯の大半が含まれている。
教委や学校では、この地図の内容を十分に吟味し、「創造的復興教育」として、学校のカリキュラムに位置付け、防災計画(危機管理)を作成し、日常的に避難訓練を実施していくことが重要である。また、「30年以