提言13: 小学校の英語活動

T.小学校の英語活動をめぐる世論の動向と中教審の審議経過
 1-1)小学校英語活動に賛否両論
 日本の子どもたちの表現力、コミュニケーション能力などの育成の観点からの推進賛成意見と、正しい日本語の習得を前提に英語活動は中学生からという賛否両論があり、さらに、英語の音声に慣れさせるには幼児・小学生(特に低学年から)段階が最適であり、英語を聞く・話す能力の基礎基本の習得と正しい日本語の習得を並行して身に付けさせるべきだという意見も加わってきている。
 1-2)小学校英語に関する中教審の審議概要
 「小学校段階から英語活動を充実する必要性」(平成5年10月)、「小学生の柔軟な適応力を生かすことによる英語力の向上」、さらに、充実の必要性をめぐり、「グローバル化の進展」、「教育の機会均等の確保」、目標をめぐり、「英語活動を通して、言語や文化の理解を深める」、「ALTなど外国人との交流を通し積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成」、「音声を中心とする英語のコミュニケーション活動により、英語の音声や基本的な表現に慣れ親しみ、聞く力を育む」、教育課程上の位置づけをめぐり、「教科に位置付けず、高学年では中学校との円滑な接続を図る観点からの必要性が高い」、「低・中学年は、『特活』または『総合』の時間で実施される教育の充実」、「位置付けや時間数は引き続き検討」(平成6年3月)などが主な審議経過である。

U.英語活動の本格的導入へ向けた各学校の対応
 今回の学習指導要領改訂で、「5・6年生で『英語活動』が週1時間導入される。外国人との交流などにより、聞く・話すを中心に英語を使ってコミュニケーションする楽しさを知るとともに、言語や文化に慣れ親しむ。そのために、小学校5・6年生に「英語ノート」、各学校には音声CDが、平成21年4月までに配布される。
 平成23年4月の本格的なスタートに向け、これまでの英語活動実施状況を見直し、これまでの実績を土台とした教育課程経営の課題に取り組むことが大いに期待される。副校長、主幹、高学年の学級担任に対して校長の方針を提示し、児童が英語活動に目を輝かせて取り組めるよう準備することが要諦である。

V.各学校が取り組むべき授業改善の観点
 3-1)「4つの課題」〜中教審教育課程部会素案〜(平成19年9月10日)
 「小学校段階にふさわしい国際理解やコミュニケーションなどの活動を通じて、言葉への自覚を促し、幅広い言語力や国際感覚の基盤を培うことができるよう共通に指導する内容を更に具体的・専門的に検討することが必要である。」さらに、「各学校における取組みにばらつきがある。」との現状認識の下に、この素案には各学校で取り組むべき授業改善の4つの課題が示されている。
 @)教育の機会均等を確保する。
 A)中学校との円滑な接続を図る。
 B)各学校において内容を共通に指導する。C総合的な学習の時間から週1コマ程度を別に確保する。
 3-2)具体的な「3つの指針」
 (1)小学校の英語活動等においては、体験的な活動等を通じて言葉のもつ意味、言葉の大切さ(言語による相互理解等)、日本語との違いなどに気付かせることが重要である。このことがメタ言語能力の芽生えを形成する上で重要な役割を果たすものである。
 (2)小学校の英語活動においては、コミュニケーション能力を養う上で必要となる積極的な態度の育成が可能であり、中学校以降続く英語教育にも資するものである。また、非言語を含めて、コミュニケーションを図るために、言語力を総動員することの大切さを理解させることができる。
 (3)小学校英語活動等は、小学生にとって自己を表現したり、言語やコミュニケーションに関する感覚を養ったりする体験的機会ととらえることができる。他の言語に触れる体験を通して、日ごろ用いている日本語の特性に気付いたり、日本文化について発信したりするなどの機会とすることができる。
  〜文科省言語育成協力者会議「小学校英語活動における言語力育成について」〜

W.自校の取組みを進めるための「5つの提案」
 @)各地区教育委員会の推奨プランや近隣の小学校のカリキュラムを参考にし、共通性の高い指導計画を選定する。
 A)総合的な学習の時間の単元を見直し、小学校英語活動に、例えば、20時間程度のまとまった時間を確保して年間指導計画を立てる。
 B)高学年の学級担任の研修と研究授業の機会を計画的に確保する。
 C)小中一貫教育に関わる連絡会議で、中学校との共同的な研究を確保する。
 D)とくに国語科との関連を明らかにして、例えば、スピーチ、寸劇、インタビュー等の音声言語によるコミュニケーション能力育成のための全体計画を立てる。
 ただし、中学校との連携においては、過度な中学校英語教育の前倒しとならないよう留意すべきである。長期的展望の下にじっくりと進めるようにする。例えば、相互に英語の授業を参観する機会を設けたり、中学校の英語教員に小学校で音声言語中心のモデル授業をしてもらったり、更には、中学校のALTに協力を求めて、小学校の学級担任とTTを実践してもらったりするなど、初歩的な連携から始めることが大切である。

X.「教え方に工夫を」〜校長の創意が鍵となる〜
   現在、公立小学校の96%が総合学習や放課後の時間を使い、自主的に英語を教えているが、取組み方にばらつきがあり、英語の指導を不安がる小学校教員も少なくない。文科省は、教員の研修や外国人指導員らの確保、教材開発など条件整備を進める一環として、教材「英語ノート」(試作版)及び英語を教えた経験のない教師に配慮し、ヒアリング用のCDや「スピーチ指導」のポイントなどを解説した指導資料を提供・提示する。これにより全国的に共通した指導ができるようにする。
 平成21年4月には各学校に配布される教材等によると、ゲームなどの遊びを通じ、まず英語に慣れさせる意図が浮かび上がる 「子どもたちが楽しめる授業に」など、学級担任が「これならやれそうだ」という意欲・関心が大いに湧き上がることをねらっている。

Y.IC教材の活用を
 IC教材の開発が進んできたので、自校の取組みの現状に合った教材を英語活動担当主任に選択させる。
 学級全員対象・個別学習用など、学級・個人の進度に対応できるヒアリング用の教材活用が効果的である。コンピュータ室の利用は通常学級の教室での活動と雰囲気も変わるので、学習効果が期待できる先進的に取組む研究校の協力を得れば、教員が自信をもって活動ができる。

Z.各学校の実施状況に応じた教育課程経営
 各校の実態は、まだ導入の初期段階にある学校から、既に3年生以上で週1時間を当てて、本格的な英語教育を実施している研究指定校まで様々である。各校の状況に応じた課題例を次に示す。これらも参考にしてほしい。
 7-1)【導入初期の学校】━(年間5時間程度の実施校)
 年間10時間以上の指導計画を自校で立案する。
 ・座学的な活動に、身体表現や校内の探検活動を組み入れるなどの授業を工夫
 ・学級担任の先進校視察、研修を増やし、自信を持って指導できる配慮
 ・英語教材の購入費を増額
 7-2)【研究中期の学校】━(高学年で年間15時間程度の指導計画がある)
 ・校内授業研究会の計画的な実施により全学年の理解を深める
 ・年間20時間程度のカリキュラムづくりに取組む
 ・反復練習や歌、ゲームだけでなく、多様な英語活動を組み入れた授業の開発
 ・教材の購入、保管、利用を計画的に実施
 7-3)【実践充実期の学校】━(高学年で年間35時間の年間指導計画により実施)
 ・「友だちの前で発表する」「道案内」「英語劇作り」などの単元を組み入れる。
 ・簡単な評価基準を単元ごとに設定し、評価結果の保護者へ通知する仕組みの構築
 ・中学年、低学年のカリキュラムづくりに取り組む。
 ・地域や学生ボランティア人材の確保、海外の姉妹校等の人的支援組織づくり
 上記の「共通」と「個別」の経営課題の明確化の過程での配慮事項は、無理に教え 込むことで英語嫌いが生まれないようにし、教育の質を維持しながら子ども一人一 人に合った授業を進める。各校はさらに工夫を重ね、教育実践レベルが向上する児 童や学級担任の姿を多くの保護者に見てもらうことを指導目標として努力すること が求められる。

[.地区小学校長会としての取組み
 地区内の各小学校におけるこれまでの取組みを考慮し、今後共通して取り組めるよう他の教科・領域 に関する相互の連携に合わせ、小学校英語活動の一層の向上を目指し、特段の連携強化が今、強く求められている。条件整備、人材確保、予算増額を要請する活動は、地区小学校長会の取組むべき喫緊の課題にしてはどうだろう。

以 上   

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