提言17: 日本の環境教育

 地球規模の環境破壊は、今や人類が国境を越えて協力して取り組まなければ解決できないところまで進んでいる。
 1997年12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締結国会議」で採択された、二酸化炭素など6種類の温室効果ガスについての排出削減義務、2008年7月の北海道洞爺湖サミットで合意された、「2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%削減を達成する目標を、すべての締約国と共有し、採択することを求めることで合意する。」(環境・気候変動)など、すでにその協力は始まっている。しかし、最も重要なことは、それらのことを次代を担う若者に受け継ぎ、発展させていくための環境教育を推進していくことである。
 環境教育は、地球規模での環境の変化を認識し、身近な地域の環境問題を正しく位置づけ、それを適切に保全し、さらに進んでより快適な環境を創造していく能力と態度を育てるとともに、自らのライフワークを変革していくものでなければならない。

1 環境問題
 天然資源やエネルギー資源を大量に消費して豊かな生活を享受してきた結果、CO2濃度の上昇による地球温暖化とそれに伴う異常気象や海水面の上昇、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少、砂漠化、野生生物種の減少、海洋汚染、有害廃棄物の越境移動、開発途上国の環境問題などが、国境を越え、地球的規模で拡大し、深刻化している。人類の生存基盤が脅かされている。
 このような環境問題は、一国のみで解決はできない。全世界が一体となって早急に解決しなければならない重要な問題である。

2 環境の保全活動・環境教育推進法の制定
 地球温暖化や廃棄物問題、身近な自然の減少など、現在の環境問題を解決し、持続可能な社会を作っていくためには、行政のみならず、国民、事業者、民間団体が積極的に環境保全活動に取り組むことが必要である。
 このような環境保全活動の重要性を踏まえ、持続可能な社会づくりの基盤となるよう、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(平成16年10月)が制定された。この法律は、環境教育を推進し、環境の保全についての国民一人一人の意欲を高めていくことなどを目的としている。

3 持続可能な社会とは
 1987年に「環境と開発に関する世界委員会」が発表した報告書『我ら共有の未来』は、今後の我々の目指すべき社会の在り方は「持続可能な開発」であると提唱し、その内容を「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」と定義した。
 その後、持続可能な開発の内容については、国際的な議論等の中で深められているが、その理念や考え方として、以下の4つが共通理解されている。
(3-1)将来世代に配慮した長期的な視点をもつ(環境のもたらす恵みの継承)
(3-2)地球の営みときずなを深める社会・文化を目指す(環境を維持し、環境との共存共栄)
(3-3)持続可能性を高める新しい発展の道を探る(人間としての基礎的なニーズの充足、浪費の排除)
(3-4)参加・協力、役割分担を図る(多様な立場の人々の連携)
  このように、持続可能な社会を形成していくためには、国民、民間団体、事業者、行政等の各主体が自ら進んで行う環境保全活動が大切である。一人一人の環境についての理解を深め、具体的な取り組みができるような環境教育を推進し、環境保全活動を促進していかなければならない。

4 学校における環境教育
 地球規模の環境問題の解決のため、持続可能な社会を構築するための取組の必要性から、学校における環境教育の重要性が高まっている。
 環境教育は、小学校・中学校及び高等学校といった学校段階、児童生徒の発達段階を考慮して、適切に行われる必要がある。したがって、各学校において環境教育に関する全体的な計画を作成しなければならない。しかし、「環境科」という独立した教科はない。そのため、学校現場においては、環境教育の重要性は認識していながらも、具体的なカリキュラムの中でどのように扱ったらよいか、迷っている現状もある。 
 平成20年度に改訂された新学習指導要領では、各教科において、環境教育に関連する内容を一層重視している。それは、環境教育のねらいが「人間活動と環境との関係についての理解と認識をもち、環境に配慮した生活や行動ができるようにする。」とか、「環境問題を解決するために必要な人間としての資質や行動力を養う」など、学校教育が目標としている人間教育そのものと一致するからである。
 したがって、学校では、各教科(社会科、理科、技術・家庭、保健体育等)、総合的な学習の時間等における環境に関する指導内容を明確にすること、そして、それらを断片的に指導するのではなく、まとまった単元として構成し、横断的・総合的な課題についての学習活動を進めるようにすることが重要である。そのためには、児童・生徒の実態等を考慮し、指導の効果を高めるため、合科的・関連的な指導を進めなければならない。また、それらの単元が系統的、発展的に推進するような全体計画の作成が何よりも必要である。

5 環境教育の目標
 文科省は平成4年、環境教育指導資料・小学校編の中で、環境教育とは「環境や環境問題に関心・知識をもち、人間活動と環境とのかかわりについての総合的な理解と認識の上に立って、環境の保全に配慮した望ましい働きかけのできる技能や思考力・判断力を身につけ、よりよい環境の創造活動に参加し、環境への責任ある行動がとれる態度を育成する」と記述している。このことは、環境教育の目標と捉えることもできる。
 したがって、環境教育は、単に環境や環境問題についての知識を得ればよいというものではなく、もっと広い領域にわたって、よりよい環境創造への働きかけや環境に対する責任ある行動をとれるようにすることまで見据えて推進することが重要である。したがって、学校の環境教育の目標は、教育目標や地域の実態等を十分に踏まえて設定しなければならない。

6 環境教育で育てたい能力と態度
 環境省「環境教育・環境学習データベース」の中に、学校における環境教育で、身につけたい能力・態度について、下記のように記述されている。この内容は、文部省『環境教育指導資料』中学校・高等学校編(1991年)で記述されている内容とほぼ同じである。したがって、環境教育の重要性を能力と態度の育成の視点から見据えることも重要である。
(6-1)環境教育で育てたい能力
@)問題解決能力
環境や環境問題に対して進んで働きかけ、自ら問題を見いだし、予測し多面的に調べたり、考察して解決する能力
A)数理能力
環境にかかわる事象を定量的・統計的に捉え、それを分析したり、総合的に解釈したりする能力
B)情報処理能力
環境に関する資料・情報を収集、解釈、伝達、評価などの操作をする能力
C)コミュニケーション能力
環境や環境問題について関心をもち自分なりの考えや意見をもって、相互意志の交換ができる能力
D)因果関係能力
環境に関する事象の因果関係を把握する能力
E)環境を評価する能力
環境を見つめ、環境状況の変化を捉え、環境に与える影響を評価できる能力、また、事前の環境予測や事後の環境状況を総合的に把握する能力
(6-2)環境教育で育てたい態度
 環境に対する人間の責任と役割を理解し、環境保全に参加する態度を育成することが重要である。環境教育で身につけたい態度として、次のようなものが考えられる。
@)自然や社会事象に対する関心・意欲・態度
自然や社会事象に接したとき、その自然の美しさや力強さに感心したり、驚きや疑問をもったりして、自分も環境問題に意欲的に関わりをもとうとする態度
A)主体的な思考
自分の考えをもって他者に意見を伝え、お互いに理解し合おうとする態度他者を大切にし、主体的な思考によって合理的に判断する態度
B)社会的態度
環境問題解決のために、他人の願いや働きに共感し、責任ある行動をとる態度
C)他者の意見や信念に対する寛容
問題の解決において、他人の考えや意見に対して広い寛容な心で対応して、適切な判断をくだす態度

7 地域や家庭との連携
 学校で環境教育を実践するとともに、地域との連携の視点から環境教育を考えることが重要である。それには、地域の自然環境の調査、ゴミなどの廃棄物の分別やリサイクル運動など、保護者や地域の人々と一緒に行う実践的な活動がある。
 保護者や地域の人々と一緒に行う実践的な活動を通して、地域社会のライフスタイルを見直したり、改善を図ったりすることもできるようになる。
 また、学校評議員制度・学校評価を通じて地域と学校の連携を進めたり、それぞれのもつ教育機能が総合的に発揮されたりするようにすることも大切である。
 次に、これからの環境教育の授業に使って欲しい資料を示す。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
 資料 −授業で取り上げたい「地表をとりまく環境の悪化」−
 世界規模で起きている異常気象や温暖化等、いま地球は異変のまっただ中にある。野生生物も数多くの種が絶滅の危機に瀕している。
地球が生命の惑星である最大の理由は、海が安定して存在し続けたことである。海は地球の気候に大きな影響を及ぼし、生命にとって住みやすい環境を維持してきた。大気と海水の循環により熱は赤道から極地方向へと運ばれ、地球上の気候をやわらげる。
 海水の表層と深層の対流は、酸素や植物プランクトンの生育に重要な栄養を運ぶ。植物プランクトンは、二酸化炭素を吸収して酸素を放出している。また海は大気と気体交換を常に行っており、二酸化炭素などの温室効果ガスを吸収して、急激に地球の気候が変化することを防いでいる。
 ところが現在、海の吸収力をはるかに上まわる大量の温室効果ガスが人間の活動によって大気中に放出され、地球全体の気温が上昇しつつある。
 二酸化炭素は大気中には微量しか存在しないが、大気に熱を蓄えて温める温室効果をもつために、気候変動に重要な影響を与えてきた。現在、全世界の大気中の二酸化炭素濃度の平均は360ppmv(1ppmvは100万分の1)を超えている。二酸化炭素の排出量が現在の水準近くで維持されると、21世紀末には約500ppmvまで上昇すると予想されている。地球全体の海水面は過去100年間に10〜25p上昇した。この大部分が気温の上昇と関連していると考えられている。今後約100年間で全地球の平均地上気温は約3.5℃上昇し、海面水位はさらに約70cm上昇すると予想されている。
1)「温暖化が進行した地球」
 温暖化により温度が上昇した海水は膨張し、海面は上昇する。現在グリーンランド付近などでは、海水が冷却されて深海に沈み込んで、表層と深層の対流がつくり出されている。しかし、このような現象も起きにくくなる。表層と深層の海水の循環が起きないと、深層では酸素の供給がなく、無酸素状態のヘドロのようなものがたまってくる。表層では深層からの栄養塩の供給が少なくなり、生物の成育にも悪影響が出ると考えられる。また、海水の温度が上昇すると、海水中にとけ込む二酸化炭素の量も減る。
2)「地球表面温度の上昇」
 地球の表面温度が過去30年間で0.6度上昇し、2005年に過去1万2000年間で最も高くなったとの分析を、米航空宇宙局(NASA)などの研究者らが25日付の全米科学アカデミー紀要に発表した。
 NASAゴダード宇宙研究所のジェームズ・ハンセン博士らによると、地表や海面の年間の中位温度は過去1世紀で0.8度上昇。うち0.6度は1975年以降の上昇分で、北半球の高緯度地方で上昇が顕著だったことが明らかになった。
 二酸化炭素の排出量が21世紀半ばまで年間2%増加し、メタン等他の温室効果ガスの排出も増え続ければ、表面温度は2100年までに2000年水準から少なくとも2〜3度上昇すると見られる。過去に表面温度が同水準に達したのは約300万年前と言われてている。
 温暖化で動植物の分布は10年に6kmのペースで両極方向に移動しているとの研究もある。研究者らは、気温上昇が続けば「現在見られる植物・動物種の大部分が生息域の消失や生態系の破壊で絶滅する可能性もある」と指摘している。
3)「オゾンホールの拡大」
 南極上空では、1970年代の末頃から、南半球の春にあたる9〜11月にかけて、オゾン全量が著しく少なくなる現象が観測されるようになった。上空のオゾンがあたかも円形状にすっぽりと抜け落ちたように見えることから、この現象を「オゾンホール」と呼ばれている。オゾンホールの規模は年を追うごとに大きくなっている。
 世界気象機関は2006年10月3日、今年の南極上空のオゾンホールが過去最大となったと発表した。NASAの観測では9月25日に、オゾンホールが過去最大となった2000年9月を上回り、日本の面積の約80倍にあたる2950万?に達したと発表した。欧州宇宙機関の観測でも同じ日に、2000年とほぼ同じ2800万?となったと報じた。
 今年は成層圏の温度が低く、オゾンを破壊する物質の量が多い期間が長く続いたためとみられる。オゾンホールは、南極の春にあたる9〜11月ごろ、日射などの影響で拡大する。
4)「南極大陸の巨大氷山の流出や北極の海氷の融解」
 1995年1月、南極大陸の東にある「ラルセン棚氷」から分離した氷山(長さ72q 幅35q、厚さ200m)が流出した。それ以降も1年に数個の巨大氷山の流出が続いている。
北極では、北極海の海氷面積が年々減少し、海氷の大規模融解が進み、シロクマやアザラシの生息に大きな影響を及ぼし始めている。
世界各地で氷河の縮小も急激にペースを速めている。2000〜2005年の間に観測された氷河融解のスピードは、1980年代の3倍に達したとする最新データも公表されている。
 南極大陸の内陸部で2005年、氷床を覆う雪が広範囲でとける異常事態が起こっていたことが分かった。人工衛星でとらえたデータの分析で、NASAが発表した。南極の内陸でこうした大規模融雪が確認されたのは初めて。観測チームは「南極の内陸で発生した、地球温暖化の影響とみられる最初の兆候。融雪地域の長期観測が必要だ」としている。大規模な融雪が起こったのは05年1月。南極大陸の西部を中心に、海岸から900qも内陸に入った場所や、標高2000mを超える高地でも発生。全体では、米国カリフォルニア州(面積約42万?)に匹敵する範囲で融雪が確認された。
5)「北極の氷融解、8月に最速の記録」     
 2008年8月、北極の氷の融解速度はこれまでで最速だった。その結果、氷の面積は最小を記録した2007年よりわずかに大きい程度しか残らなかった。氷は既に今秋から冬に向けて凍結を始めたが、8月の急速な消失は、長期的には年間の氷量が大幅に減少することを示唆している。
 地球温暖化の影響で気温が上昇すると北極の氷が薄くなり、特に海水温度が上昇すると氷は融解しやすくなる。
 最も古い氷は数メートルの厚さがあり、長年にわたって成長してきたものである。ゴダード宇宙飛行センターのジョセフィーノ・コミソ氏によると、このような氷の塊のかなりの部分が北極海から温かい大西洋へと漂流して融解したということである。
 夏の間に漂流または融解した厚い氷に代わって、ひと冬の間に薄い氷が形成される。この薄い氷が次の年の夏にはさらに速い速度で融解する、とコミソ氏は説明する。これまで北極海の海面は氷で覆われていたために太陽の光や熱の大部分は遮断されてきた。しかし今では、氷のなくなった海面が太陽エネルギーを吸収するようになり、その結果、海水温度の上昇が加速されるのである。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
以 上   

Back to Contents