近ごろ、地教委開催の定例校長会(実態は連絡会)に重点が置かれ、「校長は、それに慣れきっているのではないか」「校長会は何をやっているのか」という校長OBなどの声が巷間にある。
校長会がおかれている社会的背景や状況が昔と比べようもなく変化しているといわれるが、今こそ、地区校長会の存在感や存在意義ひいては使命を今一度再認識するとともに見直しをして欲しいと願うものである。
周知のように、あわただしく教育改革が進められているが、その反面、教育界に低迷・混迷・疲弊の雰囲気が横溢してきているとの声が耳に届く。なんとかこの停滞状況を切り開いていく活力を学校現場の先生方に蘇らせたいと願って、以下の提言をしたい。
1 校長会という組織
校長会という団体は、全国規模、都道府県規模、そして市区町村規模で校種別に結成されている任意団体である。本提言でふれている地区校長会は、市区町村規模の校長会として論を進める。
校長会を開催する態様は様々である。まず、地方教育委員会開催の校長会(定例校長会)と校長会主催のいわゆる自主校長会、また、地域(ブロック)別の校長会がある。
校長会の開催についてふれておくと、都道府県教委で若干の差異があるが、「校長は出張を減らし、学校経営に専念せよ」という方針により、校長の服務の取り扱いが大きく改められた。
東京都の場合、地教委開催の校長会(会議等)は、出張扱いとし、校長会主催の校長会(会議、研修会等)等は、年次休暇または職免扱いになった。しかし各地区教育委員会(以下、地教委)の対応は、統一されていないのが現状である。
社会的背景は、次の2点が考えられる。
(1-1)時代の変化に対応するため明確な事業方針を打ち出す必要が出てきた。(例)━ 数値目標と予想される成果など ━
(1-2)自治体の首長部局予算課などから長期(10年スパン等)計画の視点での予算組みが求められている。
(※) 教育改革プランの策定・実施には、次のような条件・要件が絡んでくる。
(1)財政・条例改正等に係わる議会の同意・議決
(2)首長や議員を選出する地域住民のコンセンサス
(3)地区校長会への説明・協力依頼などの要件が欠かせない。
いずれにしても、地教委事務局とそれぞれの関係者が大きく関わっているのは、肌で感じていると思う。学校の管理職たる校長や校長会は、それぞれの関係を地域住民の視点、議員の視点、行政マンの視点で把握して、ぜひとも学校運営に役立てる戦略を立てるべきである。
2 地区校長会と地教委の関係
かって、地教委の幹部は、様々な場面で「校長会と地教委はクルマの両輪のようなもので、決して梯子を外すようなことはしない」という表現を使っていた記憶がある。それだけ双方が、児童生徒の教育に関する職責や使命に対しての信頼関係が構築されていた証であろう。しかし、最近の関係をみると、二輪車の前輪のみか、はたまた一輪車の状況にあるといってよい。すなわち、トップダウンである。地教委事務局自体も、これを必ずしもベターな状況だとは思っていない。
なぜ、このような行政主導型(トップダウン型)になったのだろうか。その背景や要因を考えてみよう。
(2-1)逼迫している財政状況の中で厳しい予算削減のため、もはや「教育」を「聖域」と認めなくなった。むしろ教育は非効率的な事案とも見られているのかもしれない。
(2-2)地教委事務局は、首長部局から「改革プラン」のスピードと成果を強く問われている。
(2-3)地教委事務局の各職員には、担当業務改善などを自己申告等で数値目標と成果がシビアに求められている。
(2-4)新しい課題に迅速に取組むための組織改編が求められている。
スクラップ&ビルドの例⇒迅速な事業成果が見えにくい教育研究所などの廃止等や担当係名・課名の変更がある。
(2-5)「公立学校の管理運営に関する規則」の規制を離れ、いわゆる「特区」を活用して新しいタイプの公立校を設置したり、教育内容等を変えたりする自治体が増加している。
おおよそ、以上のような背景から地教委事務局内部で、かなりの変革が求められており、従来型の運営では多様な課題に対応することが困難になってきている。すなわち事務局そのものが局内の改革事業推進のことで手一杯になり、余裕を持って校長会に意見を求めるプロセスが崩れてきている。したがって、地教委から出される提案事項等は、トップダウンと受け取られる様態になっているようだ。地区校長会は、このプロセスに馴れ切ってはいないだろうか。このような両者の関係を改善するために校長会と地教委は、相互に努力する必要がある。
3 これからの地区校長会のあり方
まず挙げねばならないのが、校長会の主体性や自立性をいかに発揮していくかであり、校長会活動や事業に対して地教委から何らかの支援(例えば補助金など)を受けているところは、教育予算逼迫状況の中では、それを必要最低限に抑える姿勢をアピールするくらいの気概が期待される。
(3-1) 教育改革の提案を立案できる地区校長会
現在も各自治体レベルで様々な改革が行われている。
改革の立案を検討する委員会に校長会の代表も入っているようだが・・・。
既定路線のうえに乗せられた形で行政主導方式のトップダウンされることはないだろうか。
では、学校現場からの提案すなわちボトムアップ型の提案・提言を行うにはどうすればよいか。
地区校長会自体が、企画力、調整力、柔軟性、発信力を増強することが求められる。換言すれば、校長会は行政サイドの受け皿ではなく、近未来の公立学校に関するヴィジョンを示すとともにそれを実現するためのプロセスを明確にし、具体性のある実行計画を世に問うレベルのものを地教委に提示する姿勢と実力を身に付けることが求められるのである。机上プランだと侮られないためには行政との係わりと地区の財政状況を踏まえた校長会としての基本計画や実施計画を作ることが必要である。これらを実現するためには、行政サイドの施策の基本構想、基本計画、実施計画のノウハウを事前学習することが要諦である。
校長は、地教委に対して被任免権者、被監督権者という意識を有しているだろうが、それはさておき、人づくりをするという同じ土俵で、地教委と事案・事象を考えていくという姿勢は学校現場にとって極めて重要である。
(3-2) 実現性の高い予算を組める校長会
秋になると地教委では、次年度の予算フレーム(枠組)と実施予定事業などの立案作業が企画部や総務部などを中心に予算化にむけた仕事が始まる。その一端として、各種教育関連団体(含む校長会)からの予算要望のヒアリングが地教委幹部を前にして行われる。これまでの校長会ヒアリングで指摘されたのは、校長会からの要望書の内容は、毎年同じパターンと内容で、充分検討がなされたと思えないような、説得力に欠けるものがあり、何を一番要望したいのか明確でない等である。
このことは、校長会代表のプレゼン能力に係わってくるのである。
インパクトのある要望場面を想定したシミュレーションなどを行うべきだと思うが、いかがであろうか。地教委幹部の「校長会の要望書は前年度の要望書とほとんど変わらない」という先入観を払拭しないと、ただ形式的に聞き置かれるだけに終わってしまうだろう。
ではどうすればよいか。前年度のものを踏襲せずに新しい発想で要望内容の見直しを図るとともに、焦点化された予算要望を時間をかけて作ることが必要である。
地教委から、机上の空論と言われないためにも、校長会が地教委の各部・課と連携をとり行政サイドの思考や条例改正などの動きを検証することで、それを要望に反映すれば、地教委からも一目置かれる要望書作りができる。
すなわち校長会には、行政感覚を、そして地教委側には学校現場感覚を増進することにもリンクする。子ども達あっての学校と校長会であり、学校あっての地教委事務局があるという基本的認識を忘れないことである。
(3-3) もの申す地区校長会
地区校長会としての意見・見解を述べたり、提示したりするプレゼンテーション能力を向上させよう。イエスマンになってしまっては、存在感は薄くなってしまう。校長会として言わねばならないことをきっちりと言い、反対の意見がある場合は、臆せずものを言うことが肝要である。
現場で、トップダウンに抵抗感を感じる教員の意見には、情意的な内容は論外としても、「様々な課題を抱える学校の実情を行政サイドは本当にわかっているのか」という声を校長会は、その背景を慎重に分析し、その実情を適正に伝えるのも校長会の使命ではなかろうか。
(3-4) 教育の専門家集団としての校長会
専門家集団としての地区校長会は、その組織を生かして教育課程の開発や指導資料の作成などを迅速かつ的確に行い、地区教委と協働作業の中でリーダーシップをとりたい。喫緊の課題として、新学習指導要領の移行措置に関わる指導資料を校長会として作成して地教委に提示するか、委託事業として作成していくことが肝要である。
ともかく、校長会として、教育課程経営を重視する姿勢を校内外に示すために次の点に留意したい。
(1) 内外の人材・施設設備.とくに、ICTの活用。外部人材の有効な活用についての具体的方策などを校長会・教育研究会等で研究する。
(2) 全国各地・各学校での事例の収集・解析。
(3) 学習材の開発・蓄積。単元構想・指導案の蓄積。
(4) 計画・実践のための校内組織の整備。
(5) 個々の教員の指導力向上のための支援・指導の充実。