提言27: 新学習指導要領完全実施を目指して校内研究を充実しよう!

−「理科の素材の教材化」を事例として −  (2010/06/13 記)

 2010年3月30日、文部科学省は2011年度から小学校で使用される教科書の検定結果を発表した。
 発表によると、2011年度に本格実施される新しい学習指導要領が「学力向上」へ大きく踏み出したのに合わせた内容で、2004年の検定で合格した現行教科書に比べ、ページ数は各社平均で算数33%、理科37%、全教科合計でも25%増加したという。「ゆとり教育」全盛時の2001年に検定で合格した教科書に比べると、算数・理科はともに67%、国・社・算・理の4教科は50%、全教科では43%増えた計算になる。
 このように、大幅に増加した新しい教科書の内容をすべて教えようとすれば、子どもの学習能力を超え、過去の「詰め込み」に逆戻りしかねない。これを防ぐには、教師が子どもの理解度を把握しながら授業を進める力量を一層高めていくことが求められる。
 2010年度は、2011年度のカリキュラム編成や授業のデザインに必要な「素材の教材化」等の校内研究を推進しなければならない重要な年度である。
 このような状況下において「素材の教材化」について、理科を例に提言をしたい。

1.理科の授業
  理科の授業は、自然の事物・現象を学習の対象として展開していくことが基本である。したがって、理科の授業とは、対象(素材を教材化)を媒介とした、子どもと教師とによる創造活動であると捉えることができる。
 対象を媒介として、子どもと教師が互いに響き合いながら、子どもは目標達成に向かっ て主体的、創造的に活動していくことが望まれる。
 教師の役割は、豊かな素材の中から、教材を選び、それを子どもの意識に沿って適切に順序づけるなど、授業をデザインし実践していくことである。

2.素材と教材
 理科では、自然の事物・現象(素材)が、学習の対象である。そして、すべての素材が教材になり得る。しかし、対象が子どもを引きつけ、子どもの疑問や矛盾が表出するような内容をもっているとは限らない。同じ対象でありながら、子どもの発達や学習の実態によって、教材になり得るかどうかも異なってくる。したがって、素材と教材はまったく同じではない。
 対象の教材性や対象と子どもとの関係が明確になっていない段階では、それらは素材と呼ばれるものであって教材とまでは言い難い。
 素材である自然の事物・現象の中から目標を達成するという条件のもとで選択したり、 組織化したりして、具体的な学習活動がデザインされ、教育的な価値を付加されたものが教材である。したがって、素材と教材は明確に区別されなければならない。
 つまり、理科の基本的な素材は自然の事物・現象そのものであるが、それが即教材とは言い難いということである。教材には、子どもが知的体系や価値体系を獲得していくために必要な内容と価値を有していることが必要だからである。
 素材である自然の事物・現象の中から目標を達成するという条件のもとで選択したり、組織化したりして、具体的な学習活動がデザインされ、教育的な価値を付加されたものが教材である。したがって、素材と教材は明確に区別されなければならない。

3.教材性の追究
  教材性とは、教材のもつ教育上の特性(教材の性質や価値)である。したがって、素材を教材として取り上げるには、その素材が有している性質やきまりが、学習指導要領の目標達成に即応し、子どもの概念形成を促したり、ものの見方、考え方などの能力を発展させたりして、よりよい人間形成に資することが可能であるかということを見極めなければならない。つまり、素材にどのような教材性をもたせるかによって、教材としての価値がきまるのである。   素材の教材化に当たっては、教材性の吟味は最も重要な手続きである。

4.理科 「B 生命・地球」 区分における素材の教材化
  教材の役割は、子どもの意識を好ましい方向へ変容させ、思考を発展させ、問題解決を進めることにある。
  広大な空間と時間を有する地層や天体を対象とする学習の場合、対象の中に、子どもが疑問や矛盾をもつ契機となる内容が包含されているかを見極めなければならない。疑問や矛盾、あるいは思考の発展の契機になるものは、対象との関わりを通して、教師や子どもが見つけ出し、生かすことによって、はじめて生み出されるからである。つまり、素材の教材化の必然性がここにある。
  子どもが自ら対象を意識し、注意を向けることによって、対象に対するイメージが表出する。そのイメージが既習の内容と関係付けられて、疑問や矛盾を見出したり、あるいは対象を解釈したりするようになる。したがって、子ども自ら対象に関わり、対象を意識し、注意を向けていくようにすることも含めて、素材の教材化を図ることが教師の重要な役割となる。

 (4-1)素材をみつける
  地球に関わる学習の素材のほとんどは、地域の自然環境である。したがって、教師は先ず地域の自然環境の中から、適切な対象を見つけ出さなければならない。また、見つけ出した対象の教材性を吟味し、豊かな教材に仕上げるには、教師の自然環境に対する見方や考え方、つまり、教師自身の資質・能力が問われることになる。
  例えば、6学年「地層」の学習では、地層が露出している崖や切り通しが学習の対象で ある。


▲地層 (1)
    
▲地層 (2)
〜 The photo above, enlarges the Pop-up by click 〜
  上の写真(1)と(2)は、神奈川県観音崎にある切り通しである。
  この写真の地層を学習の対象として選定するには、学習指導要領に示されている目標や内容に基づいて教材性を明らかにし、教材化を図っていかなければならない。 

  (4-2)子どもの意識を変容させる教材性
  学習指導要領に示されている内容「土地は、礫、砂、粘土、火山灰及び岩石からできており……」を理解させるだけならば、写真(1)(2)のどちらの地層でも目標の達成が可能である。しかし「……層をつくって広がっているものがあること」にまで、発展させるには、(1)と(2)の教材性を検討する必要がある。
  地層が奥の方まで広がっているという見方は、(1)の切り通しの地層だけから、捉えることは難しい。しかし、(1)の切り通しは正面と側面から層の構造を立体的に捉えることができる。右側の正面と側面、左側の正面と側面、これらの事象をじっくり観察することによって、地層は奥の方まで広がっていると解釈することは、さほど難しいことではない。
  同じ切り通しであっても、(1)より(2)のほうが、多くの情報量を有しているとともに、子どものイメージを広げたり操作したりするなど教材性が優れているということができる。

 (4-3)見えていない対象を推論する
  右の切り通しと左の切り通しを挟んで、中間部分は切り取られた空間である。この空間を問題にする子どもも出てくるであろう。
  同上写真(2)の切り通しの左右に見られる地層の共通性、すなわち、礫、砂、粘土の層の幅や傾きなどから、道路となって切り取られ、現在は存在していない部分がどのように存在していたかを推論するようにしたい。第6学年の目標が「自然の事物・現象の変化や働きをその要因や規則性、関係を推論しながら調べ、問題を見出し、見出した問題を計画的に追究する活動……」と示されているように、推論する能力を育成することに重点が置かれている。このように、教材性は学習指導要領等からも導き出されるものである。 
  推論したことを確かめるために、左右の同じ層になってる所を前後2カ所を、テープやひもでつなぎ合わせることによって、各地層の幅や層を構成している物質が同じであることや、さらに奥の方まで広がっていることのイメージをもつことができるはずである。
  このことから、見えていない奥の方にも地層が広がっていることを、イメージとして描き、次の活動に発展させていくことが可能となる。

 (4-4)教材性と活動化
 切り通しを正面から観察すると水平、横から観察すると傾いている。この事象は、奥の方まで地層が広がっているという見方から、地層が傾いたのはなぜかと、子どもの意識を変容させる教材性を有しているとともに、次の活動を引き出す要因にもなっている。
 活動は、教材性とその変容に支えられて、連続・発展し、深化していくのである。

5.「新学習指導要領」の完全実施を円滑にすすめるために
  「提言26:教育研究を科学的な体系に高めよう!」でも記述したように、2010年度は、小学校2011年度、中学校2012年度の「新学習指導要領」の完全実施が円滑に進められるかどうかの重要な年度である。
  管理職である校長・副校長は「素材の教材化」など、直接授業のデザインに結びつく校内研究等を通して、2011年度に備えていかなければならない。
  教師一人一人の「教材研究」によってこそ、授業改革への意識が高揚し、その視点から授業が変革したかどうかなど、授業の評価もできるはずである。
  校長の教師への評価は、子どもの変容を通して捉えること、また、教師一人一人が自信に満ち、意欲的に教育活動に取り組んでいるかどうかなどを、実感を通して捉えていくことが重要である。その上に立って、校内研究の在り方をさらに練り上げ、リーダーシップを発揮しながら学校経営を推進していくことが望まれる。

以 上   

Back to Contents