提言28: 日常の授業でグループ学習を活用しよう ! (2010/09/10 記)
〜 自分らしさを大事にしつつ、皆と自由に語り合い、共通理解を探究することが大切 〜
1. グループ学習充実への期待
今、授業で、グループ学習を活用しようという動きがある。
新学習指導要領では、「指導方法については、児童の発達の段階や学習の実態などに配慮しながら、従来から取り組まれてきた一斉指導に加え、個別指導やグループ別指導といった学習形態の導入...などの学習活動を取り入れた指導などを柔軟かつ多様に導入することが重要である。」(註1)と示している。
また、文部科学省作成の「生徒指導提要」(平成22年6月)でも次のように述べている。
「集団指導とは、集団全体のみに焦点をあてた指導を意味することではなく、集団内の児童生徒一人一人についても考慮を払うことを重視するものとして意味をなすものです。例えば、一斉講義形式の授業で、一人一人の児童生徒の目標や特性に応じたグループ別学習を取り入れるなど、集団指導の場面でも、個に配慮する工夫が望まれます。」(註2)
学習形態には多様なものがあるが、グループ学習には独特の意義があり、多くの授業で活用されている。毎日の授業でも学習の過程で、教師が、「さあ、この課題を解決するため、グループで考えてみよう」というように呼び掛ける場合が多い。
グループ学習の意義を強調する見解は日本以外でも示されている。例えばアメリカのある学習論では、次のように述べている。
「どうやってグループをつくり、一緒に助け合って学習していけるかが、学習をデザインするに当たっての中心課題になっている。」
2. グループで一緒に学ぶことへの現代の人間としての意味
かつては、身近な地域つまりローカルコミュニテイで、住民間の毎日の生活が相互依存の関係にあり、加えて親近感を基盤に文化を共有していた。この生活スタイルが日本の人間社会の基本であった。しかし、その基本的スタイルはすでに崩れているという論がある。それに替わって、共通目的をもとに意図的に形成されるテーマ・コミュニティが、新しいコミュニティとして重視されるべきだという論が主流になりつつあるようだ。
このような社会の変化の中で大切なことは、各自が自分らしさを大事にしつつ、他の人と自由に意見交換をしながら、共通理解を形成していくことである。そのような新しい人間関係に必要な経験を、学校教育でも重視しなければならない。そうなると、グループ学習が重要な意味を持ってくる。
3. OECDのキーコンピテンシー(Key competency)
上述のような期待・要望は、これからの知識基盤社会(Knowledge‐Based Society)においては、ますます重要になるであろう。これからの知識基盤社会で、人々に必要なキーコンピテンシーは、単なる知識や技能だけでない。様々な心理的・社会的リソースを活用して、複雑な課題に対応することができる力だとされている。OECDは、具体的カテゴリーとして、次の点を示している。
● 社会的・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用する力
● 多様な社会グループにおける人間関係形成力
●自立的に行動する力
ここでも、自立を重視しつつ、他の人との適正な人間関係の形成が、現代の人間の生き方として重視されている。
4. グループ学習の一般的な進め方
一般に、小グループ学習を重視しているように感じられる。若干課題を整理してみる。
(4-1)グループ学習の構成と手順
3〜6人で構成。リーダー役を意識するかどうかは課題。
学習の場・学習環境を工夫する。学校外・教室外の環境の整備、また教室内でも机の配置などについての工夫。
指導体制、例えばティーム・ティーチングや外部人材の活用などについての方策を考えて編成する。
(4-2)グループ編成の根拠
名簿の順等に基づいて。
児童生徒の希望で。
興味関心・学習課題・学習方法等別に。
学力別に。
学力・男女の平均化を目標に。
(4-3)グループ学習の流れ
導入で、教師による既得知識の確認・補充。
教師による探究意欲を喚起するような学習材の提示。(ヴィゴツキーの最近接領域論などを参考に)
探究課題を、児童生徒の興味・関心を基盤に教師の指導により設定。
グループを編成し、グループごとの探究活動を実施。
「その流れ」
a) 学習材をもとに各個人が解決をめざし思考。
b) 課題解決に必要な情報を、個人またはグループで収集し、学習し解析。
c) 教師・支援者による個別・グループ別指導・支援。
d) グループ内で各自が見解を発表。
e) グループ内で質問・意見交換。
f) (リーダーによる)まとめ。
g) 学級全体に発表。
h) 質問・意見交換。
教師の総括的指導・アセスメント
探究の結果を知的体系に位置付けて教師が説明する。さらに、学習のプロセス全般についてアセスメントし、次の学習へのステップを示唆する。
5. グループ学習の意義と配慮事項
(5-1) 全員が参画(take part in)させることで、単なる参加(participate)で終わらせない。
(5-2) 自分の見解を主張しつつ相互に他者の見解を尊重し、取り敢えずの共通理解をさせる。
(5-3) 教師が、最終的には、知的体系(Discipline)に位置付ける。
6. 社会的背景
グループ学習重視の傾向が世界的に見られる。その社会的背景について考えてみる。
(6-1)現在の日本の青少年の心の実態
今、児童生徒については、その独自性を重視する傾向であるが、反面、これが児童生徒の孤立化を招いている。そこで、コミュニケーション能力としての「言葉の大切さ」が強調されている。
例えば、『児童心理』(金子書房)6月号は、「子どものうつ」の特集を編集している。従来、うつは、子どもには当てはまらない見解もあったが、今では、これが児童の心の大きな課題になりつつあるようだ。また、小・中学生の自殺予防も重要な課題になっている。
(6-2)Emotional Literacy重視の傾向
うつと関係が深いが、他人の気持ちの分からない子どもが増えているという指摘もある。前述したように、自己主張を相互にしながら、他の人と連結していけることが、今、求められている。そこでは、他人の気持ちを理解することが重要になる。『児童心理』(金子書房)7月号は、「他人の気持ちが分からない子」という特集を組んでいる。
最近、アメリカの文献で、“Emotional Literacy”という言葉があちこちで使われている。それは、「他者の気持ち理解力」とでも訳せるのではないかと考える。
子どもたちを孤立、断絶化に追い込まないためにもグループ学習の充実という視点を日常の授業に拡大して欲しいと願う。
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註1 小学校学習指導要領解説。総則編。62頁。中学校同63頁。
註2 生徒指導提要。第1章生徒指導の意義と原理。第4節集団指導・個別指導の方法原理。
(1)集団指導と個別指導の意義。(2)集団指導を通した「個の育成」。16頁。