提言30: 学習評価と授業改善に取り組もう!

 小学校では、来年度(平成23年4月)からいよいよ新学習指導要領が本格実施となる。新学習指導要領では、児童生徒に「生きる力」をはぐくむため、「学力向上」を目指している。そのため、各教科とも学習内容、授業時数が増え、充実が図られた。
 学習内容、授業時数の増加に合わせ、教科書の内容も充実した。平成16年の検定で合格した現行教科書に比べ、ページ数は各社平均で算数33%、理科37%、全教科合計でも25%増加したと公表されている。
 中央教育審議会初等中等教育分科会 教育課程部会は、平成22年3月24日「児童生徒の学習評価の在り方」について[報告]を発表した。これを受けて文部科学省は、新学習指導要領の趣旨を実現するため、各教科の評価の観点を示した。文部科学省 平成22年5月11日付「小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について」によると、学習評価を的確に行うことによって、学習指導の在り方を見直したり、個に応じた指導の充実を図ったりすることが求められている。

1.学習評価の現状と課題
 文部科学省は、平成15年度と平成21年度に、教師と保護者に対し、学習指導と学習評価に関する意識調査を実施した。
 平成15年度の教師の意識調査では、「成長がこれまで以上に見えるようになった」と感じている教師が約33%、「一人一人をよく見るようになった」と感じている教師が約64%である。
 平成21年度の学習評価に関する教師の意識調査では、「児童生徒の学力などの伸びがよく分かる」と感じている小・中学校の教師が約72%、「児童生徒一人一人の状況に目を向けるようになる」と感じている小・中学校の教師が約84%である。
 一方、「学習状況の評価の資料の収集・分析に負担を感じる」小・中学校の教師は約63%、「学習評価を授業改善や個に応じた指導の充実に活用されている」と感じていない教師が約29%である。しかし、負担を感じると答えた教師の中で「そう思う」と答えた教師は約17%に止まっている。平成15年度の調査において、負担を明らかに感じていた教師が約40%に達していたことから考えると、教師の負担感の状況に変化が見られる。
 各観点に係る教師の意識調査では、4観点に関して、小学校の約81%、中学校の約76%の教師が「4観点の評価は実践の蓄積があり、定着してきている」と感じている。これは、全国の学校や教師の努力により、全体的には観点別学習状況の評価が着実に浸透しつつあると読み取ることができる。
 評価の観点について、「知識・理解」や「技能・表現」の学習評価を円滑に実施できていると感じている教師の割合は、小・中学校を通じて80%を超えている。一方、「関心・意欲・態度」については小学校で約40%、中学校で約30%、「思考・判断」については小学校で約26%、中学校で約30%の教師が学習評価を円滑に実施できていると感じていないなどの課題がある。
 「児童生徒の学習評価の在り方について」(平成22年3月24日 中央教育審議会初等中等教育分科会 教育課程部会報告)によると、「現在の『「観点別学習状況の評価』と『目標に準拠した評価』は、小・中学校において教師に定着してきているが、負担感がある。高等学校においては、小・中学校ほど観点別学習状況の評価が定着していない。」と記されている。
 このような実態から、小・中学校においては、「関心・意欲・態度」、「思考・判断」の評価に関わる意識の向上を、授業研究を通して図っていかなければならない。
 なお、高等学校においては、客観的なデータや指標に基づいて取組みの成果や課題を分析し、授業研究を積み重ねて、授業の質を一層高める中で、学習評価に関わる意識の向上を図り、着実に実施していくことが求められている。

2.学習評価の改善に係わる基本的な考え方
 教育基本法・学校教育法の改正において、教育の目標・義務教育の目標が定められるとともに、学力の重要な3つの要素が明確に示された。学校教育法の一部改正(平成19年6月公布)において、第30条第2項に、「前項の場合においては、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と定められている。
 学力の重要な3つの要素は、次の通りである。

 v 学力の重要な3つの要素
 Œ 基礎的・基本的な知識・技能の習得
  知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
 Ž 学習意欲

 新小学校学習指導要領総則では、「各教科等の指導に当たっては、児童の思考力、判断力、表現力等をはぐくむ観点から、基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに、言語に対する関心や理解を深め、言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え、児童の言語活動を充実すること」としている。
 学習評価は、学習指導要領に定める目標に準拠した評価として実施することが明確にされている。(平成13年4月初等中等教育局長通知)この趣旨に沿って、従来の評価の4観点の枠組みを基盤として、基礎的・基本的な知識・技能の習得と、これらを活用する思考力・判断力・表現力等を車の両輪として、相互に関連させながら伸ばしていくとが重要である。また、学習意欲の向上を図るという改訂の趣旨に基づいて、学習指導と学習評価の一体化を図り、進めていかなければならない。それには、学力の3つの要素を踏まえて評価の観点を整理することが重要である。

3.各教科における観点別学習状況の評価の観点 
 観点別学習状況の評価は、指導要録に記録するためだけでなく、きめ細かな学習指導と児童生徒一人一人の学習内容の確実な定着を図ることが重要である。そのため、日常の授業においても適切に実施していかなければならない。

(3-1)「知識・理解」及び「技能」の評価に関する考え方
 「知識・理解」は、各教科において習得すべき知識や重要な概念等を児童生徒が理解しているかどうかを評価するものである。新しい学習指導要領の下においても、従来の「知識・理解」の趣旨を踏まえた評価を引き続き行うことが重要であるとしている。
 今回、「技能・表現」に替えて示された「技能」は、各教科において習得すべき技能を児童生徒が身に付けているかどうかを評価するものである。教科によって違いはあるが、基本的には、現在の「技能・表現」で評価している内容は引き続き「技能」で評価することが適当であるとしている。すなわち、算数・数学において式やグラフに表すことや、理科において観察・実験の過程や結果を的確に記録し整理すること等については、現在「技能・表現」において評価を行っているが、同様の評価は今後は「技能」において行うことになっている。 今回、各教科の内容等に即して思考・判断したことを、その内容を表現する活動と一体的に評価する観点として「思考・判断・表現」を設定するとしている。当該観点における「表現」との混同を避けるため、評価の観点の名称を「技能・表現」から「技能」に改めている。

(3-2)「思考・判断・表現」の評価に関する考え方
 「思考・判断・表現」は、それぞれの教科の知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を、児童生徒が身に付けているかどうかを評価するものである。学習指導要領等に示された思考力・判断力・表現力等は、学校教育においてはぐくむ能力を一般的に示したものであり、そのような能力を育成することを目標として、各教科の内容等に基づき、具体的な学習評価を行うための評価の観点が「思考・判断・表現」である
 「思考・判断・表現」として、従来の「思考・判断」に「表現」を加えて示した趣旨は、言語活動を中心とした表現に係る活動や児童生徒の作品等と一体的に行うことを明確にしたからである。このため、この観点を評価するに当たっては、単に文章、表や図に整理して記録するという表面的な現象を単に評価するものではない。例えば、自ら取り組む課題を多面的に考察しているか、観察・実験の分析や解釈を通じ規則性を見いだしているかなど、基礎的・基本的な知識・技能を活用しつつ、各教科の内容等に即して思考・判断したことを、記録、要約、説明、論述、討論といった言語活動等を通じて評価するものであることに留意しなければならない。
 このように、「思考・判断・表現」の評価に当たっては、それぞれの教科の知識・技能を活用する、論述、発表や討論、観察・実験とレポートの作成といった新しい学習指導要領において充実が求められている学習活動を積極的に取り入れ、学習指導の目標に照らして実現状況を評価する必要がある。
 「思考・判断・表現」の評価については、全国学力・学習状況調査の「主として『活用』に関する問題」を参考にして作成した適切な問題を用いて評価を行うことも有益である。ただし、「思考・判断・表現」の評価は、そのような問題を一定の制限時間内に解決し、記述できるかどうかのみを評価するものではないことに留意し、様々な評価方法を採り入れることが重要である。この観点については、指導後の児童生徒の状況を記録するための評価を行うに当たっては、思考・判断の結果だけではなく、その過程を含め評価することが特に重要である。

(3-3)「関心・意欲・態度」の評価に関する考え方
 改正教育基本法においては、学校教育において自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視することを示しているとともに、学校教育法及び学習指導要領の改正等により、主体的に学習に取り組む態度が学力の3つの要素の一つとして示したと読み取ることができる。また、我が国の児童生徒の学習意欲(2009 OECD国際調査の結果と課題)について、課題がある状況を踏まえると、学習評価において、児童生徒が意欲的に取り組めるような授業のデザインと継続的な授業改善を教師に促していくことが重要である。さらに、主体的に学習に取り組む態度は、それをはぐくむことが基礎的・基本的な知識・技能の習得や思考力・判断力・表現力等の育成につながるとともに、基礎的・基本的な知識・技能の習得や思考力・判断力・表現力等の育成が当該教科の学習に対する積極的な態度につながっていく等、他の観点に係る資質や能力の定着に密接に関係する重要な要素でもある。
 「関心・意欲・態度」は、各教科が対象としている学習内容に関心をもち、自ら課題に取り組もうとする意欲や態度を児童生徒が身に付けているかどうかを評価するものである。具体的な評価方法としては、授業や面談における発言や行動等を観察するほか、ワークシートやレポートの作成、発表といった学習活動を通して評価することが考えられる。その際、授業中の挙手や発言の回数といった表面的な状況のみに着目することにならないよう留意する必要がある。 
今回の改訂では、学力の3つの要素を踏まえた評価の観点が示された。
)後掲(参照); 表1「各教科の評価の観点(小学校)」/ 表2 「各教科の評価の観点(中学校)」

4.授業改善に取り組もう
 学校や教師は、児童生徒の学習評価やそれを踏まえた学習指導の改善等を実践する役割を担っている。そのため、国や教育委員会等が示す評価の観点とその趣旨、評価規準、具体的な学習指導の目標や内容、使用する教材に合わせて評価規準等を設定していかなければならない。
 各学校においては、各年度の学校全体の指導目標などを校長が中心となって作成するなど、学習指導における組織的な取り組みがなされている。学習評価についても同様に、評価規準や評価方法等を明確にしたり、評価結果について教師同士で検討したりすることが重要である。また、授業研究等を通して教師一人一人の力量の向上を図ったり、校長のリーダーシップの下で、学校として組織的・計画的に取り組むことが必要である。このような組織的な取り組みが定着していくことにより、学習評価の妥当性、信頼性等の向上や、教師の負担感の軽減につながるものと考える。
 学習評価を的確に実施するためには、一人一人の子どもが自らの考えを表現することが必要となる。教師は、子どもが「なぜだろう。不思議だな。」「どうしても解決したい。」と、関心や意欲を喚起する授業をデザインしていかなければならない。
 PISAにおける3回の調査結果でも、「日本の子どもは、知識は習得しているが、その知識を活用して、自分なりの言葉で表現したり、解釈したりする意欲が乏しいとともに、知識を活用できるように理解していない。」ということが明らかにされている。こうした実態に対処するために、全教師が一体となって授業研究に取り組むことが必要である。例えば、理科においては、観察や実験の結果と予想や仮説とを照らし合わせて考えたことを話し合ったり、説明したりする授業、学んだことを自分の言葉でまとめる授業など、言語活動の充実も視野に入れて、カリキュラムや授業をデザインしていかなければならない。

表1 各教科の評価の観点(小学校)           赤字:今回見直した部分           
    改    正     現    行
 国  語  国  語
 国語への関心、意欲・態度
 話す・聞く能力
 書く能力
 読む能力
 言語についての知識・理解・技能
 国語への関心、意欲・態度
 話す・聞く能力
 書く能力
 読む能力
 言語についての知識・理解・技能
 社 会  社 会
 社会的事象への関心・意欲・態度
 社会的な思考・判断・表現
 観察・資料活用の技能・
 社会的事象についての知識・理解
 社会的事象への関心・意欲・態度
 社会的な思考・判断
 観察・資料活用の技能・表現
 社会的事象についての知識・理解
 算 数  算 数
 算数への関心・意欲・態度
 数学的な考え方
 数量や図形についての技能
 数量や図形についての知識・理解
 算数への関心・意欲・態度
 数学的な考え方
 数量や図形についての表現・処理
 数量や図形についての知識・理解
 理 科  理 科
 自然事象への関心・意欲・態度
 科学的な思考・表現 
 観察・実験の技能
 自然事象についての知識・理解
 自然事象への関心・意欲・態度
 科学的な思考 
 観察・実験の技能・表現 
 自然事象についての知識・理解
 生 活  生 活
 生活への関心・意欲・態度
 活動や体験についての思考・表現 
 身近な環境や自分についての気付き
 生活への関心・意欲・態度
 活動や体験についての思考・表現 
 身近な環境や自分についての気付き
 音 楽  音 楽
 音楽への関心・意欲・態度
 音楽表現の創意工夫 
 音楽表現の技能
 鑑賞の能力
 音楽への関心・意欲・態度
 音楽的な感受や表現の工夫 
 音楽表現の技能
 鑑賞の能力
 図画工作  図画工作
 造形への関心・意欲・態度
 発想や構想の能力 
 創造的な技能
 鑑賞の能力
 造形への関心・意欲・態度
 発想や構想の能力 
 創造的な技能
 鑑賞の能力
 家 庭  家 庭
 家庭生活への関心・意欲・態度
 生活を創意工夫する能力
 生活の技能
 家庭生活についての知識・理解
 家庭生活への関心・意欲・態度
 生活を創意工夫する能力
 生活の技能
 家庭生活についての知識・理解
 体 育  体 育
 運動や健康・安全への関心・意欲・態度
 運動や健康・安全についての思考・判断
 運動の技能
 健康・安全についての知識・理解
 運動や健康・安全への関心・意欲・態度
 運動や健康・安全についての思考・判断
 運動の技能
 健康・安全についての知識・理解

表2 各教科の評価の観点(中学校)         赤字:今回見直した部分
 
    改    正     現    行
 国  語  国  語
 国語への関心、意欲・態度
 話す・聞く能力
 書く能力
 読む能力
 言語についての知識・理解・技能
 国語への関心、意欲・態度
 話す・聞く能力
 書く能力
 読む能力
 言語についての知識・理解・技能
 社 会  社 会
 社会的事象への関心・意欲・態度
 社会的な思考・判断・ 表現
 資料活用の技能
 社会的事象についての知識・理解
 社会的事象への関心・意欲・態度
 社会的な思考・判断
 資料活用の技能・表現
 社会的事象についての知識・理解
 数 学  数 学
 数学への関心・意欲・態度
 考え方
 数学的な技能
 数量図形についての知識・理解
 数学への関心・意欲・態度
 数学的な考え方
 数量や図形についての表現・処理
 数量や図形についての知識・理解
 理 科  理 科
 自然事象への関心・意欲・態度
 科学的な思考・表現 
 観察・実験の技能
 自然事象についての知識・理解
 自然事象への関心・意欲・態度
 科学的な思考 
 観察・実験の技能・表現 
 自然事象についての知識・理解
 音 楽  音 楽
 音楽への関心・意欲・態度
 音楽表現の創意工夫 
 音楽表現の技能
 鑑賞の能力
 音楽への関心・意欲・態度
 音楽的な感受や表現の工夫 
 音楽表現の技能
 鑑賞の能力
 美 術  美 術
 美術への関心・意欲・態度
 発想や構想の能力 
 創造的な技能
 鑑賞の能力
 美術への関心・意欲・態度
 発想や構想の能力 
 創造的な技能
 鑑賞の能力
 保健体育  保健体育
 運動や健康・安全への関心・意欲・態度
 運動や健康・安全についての思考・判断
 運動の技能
 健康・安全についての知識・理解
 運動や健康・安全への関心・意欲・態度
 運動や健康・安全についての思考・判断
 運動の技能
 健康・安全についての知識・理解
 技術・家庭  技術・家庭
 生活や技術への関心・意欲・態度
 生活を工夫し創造する能力
 生活の技能
 生活や技術についての知識・理解
 生活や技術への関心・意欲・態度
 生活を工夫し創造する能力
 生活の技能
 生活や技術についての知識・理解
 外国語  外国語
 コミュニケーションへの関心、意欲・態度
 外国語表現の能力
 外国語理解の能力
 言語や文化についての知識・理解
 コミュニケーションへの関心、意欲・態度
 表現の能力
 理解の能力
 言語や文化についての知識・理解

以 上   

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