提言32: 問題解決の授業をデザインしよう !
〜 小学校理科の授業を例に 〜 (2011/3/3 記)
情報化、国際化、高齢化など変化の著しい現代社会において、「問題解決能力」の育成が重視されている。小学校新学習指導要領の総則では、「…基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して、課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力、その他の能力を はぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、…」と示されているように、学校教育全体の中で、「問題解決能力」を育成していかなければならない。それには、問題解決の授業をどのようにデザインし、推進していくかが重要である。
1.なぜ問題解決の授業か
現実の生活は問題解決の連続である。変動する社会を生き抜くには、遭遇する問題・事態に積極的に対処して、これらを克服する能力の育成が必要である。
中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年)で示された「知識基盤社会」において、21世紀は、「知識基盤社会」の時代であると述べている。「知識基盤社会」とは、「新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す社会」であると定義している。また、東京都教育会においても、「提言]Y 知識基盤社会における教育」において、知識基盤社会と教育改革について、「知識基盤社会の教育では、単に知識の量を増やすのではなく、『生きる力』の育成を基本理念として重視している。その生きる力を構成する要素として、『幅広い知識・柔軟な思考力・創造性』などがある。」と述べている。
このように、知識基盤社会の時代においてますます重要となる「生きる力」を育成するためには、児童生徒の主体的な実践的活動を中心においた学習が不可欠である。すなわち、問題解決を重視した授業をどのようにデザインしていくかに関わる重要な問題である。
2.課題解決学習と問題解決学習
(2-1)課題解決学習
昭和36年広岡亮蔵(東京文理科大卒、名古屋大教授)は、「…問題解決の学習は主体的な活力があった。一方、系統学習は受け身の教育となり学習の活力を失っていくので、教えるべき内容を課題として与え、それを主体的に受け止めさせ、意欲的に解決させていくという課題解決学習…(授業改造:明治図書)」を提唱した。
その頃は、課題は教師が与えるものとし、問題は児童生徒が主体的に受け止めるという考え方が一般的であった。指導内容を課題として示すことは、児童生徒が学んでいく過程で、自ら問題を見出していくことを期待しているからである。しかし、教師によって与えられた課題が、児童生徒が本気になって解決しなければならないという問題意識に支えられた問題になるかどうかは疑問である。課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力等を育成するためには、自ら見出した問題を何としてでも解決したいという意思や意欲をもっていなければ難しいからである。
(2-2)問題解決学習
問題解決学習の捉え方は、教科や教師によって異なっている。前述のように、教師が児童生徒に問題を与える。その問題を児童生徒が主体的に捉えさせるようにし、問題の解決を図らせる。このような学習形態を、問題解決学習と称している教師は意外と多い。また、問題解決を学習方法の1つの手段として捉えている教師も少なくはない。
問題解決学習は、アメリカの教育学者のジョン・デューイがマックマスター大学の付属実験学校で、社会科の授業の中で初めて試みた学習の方法である。教師が予め準備した授業案にしたがって学習するのではなく、与えられた課題について、個々の児童生徒が自主的、能動的に学習し、知識と実践の統一性を図っていく学習方法である。戦後日本でも教育界に大きな影響を与えた。
問題解決学習は、日常生活上の疑問や問題を児童生徒が中心に解決していく学習であったが、それでは基礎学力が身に付かないという批判が、系統学習を主張する側から起こった。しかし、児童生徒の実態に即した問題解決の研究も地道に進められた。
新小学校学習指導要領(平成20年3月告示)では、理科の目標として、「自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う。」と示している。したがって、理科教育における問題解決学習は、単なる方法ではない。また、教師が与えた問題を、児童生徒が教師の指示に従って解き明かしていくことでもない。
問題解決学習の問題は、児童生徒が学習の対象である自然の事物・現象から、直接見出したり、認識したりするものである。問題解決の能力を育てるには、問題解決の授業をどのようにデザインするかということに関わる重要な事柄である。
3.小学校理科における授業のデザイン
問題解決学習は、「児童中心の授業」である。児童の経験に基づいて、価値を追究し、知識を創造していく学習である。したがって、問題は児童が決め、児童が中心になって問題を解決していくように授業を展開していくことが必要である。
児童が学習の対象である自然の事物・現象の不思議さに気付き、問題を主体的に自覚し、把握することによって、それを解決せずにいられないという精神的に不安定な状態になる。そして、それを解消し精神的な安定を図ろうとする欲求が、解決への意欲へ繋がっていく。教師の支援を借りながらも、主体的に解決への行動を起こすことになる。自然の事物・現象から捉えた問題を、時には直感的に、あるいは必要とするする情報を集め、整理し、論理を中心にして、経験と関係づけたり、意味付けたりして、問題を解決していくようになる。
(3-1)小学校理科の授業
授業とは何かと問うと、様々な授業観が論じられる。筆者は理科の授業は、「児童と教師が対象(教材)を媒介として創造していくものである」と捉えている。したがって、理科の授業は、児童が自然の中の未知・未経験のものを学習の対象として意識し、それに主体的に働きかけ、そこから新しい経験を構築したり、新たな知を創造したりする一連の活動を、教師と共に創造していくことである。