提言37: 【緊急提言4】 ボランティア活動の意義を学ばせよう! (2011/5/25 記)
平成23年4月29日付の読売新聞は、「東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島県で活動するボランティアは延べ13万人を超え、大型連休中は1日あたり約3倍の8000人が被災地で活動する見込みであることが28日、読売新聞の調べでわかった。」と報じた。
一方、「5月の大型連休期間中、東日本大震災で甚大な被害を出した東北地方に、ボランティアに行こうとする人が増えている。旅行会社が企画したバスツアーには応募が殺到、遠方からの空の便も予約で埋まる。現地では『被災地を思う気持ちは有り難いが…』すでに十分な数のボランティアを受け入れている自治体もあり、『準備なくゲリラ的に来られても…』と懸念する声も出ている。」等、災害ボランティア活動の状況が毎日報道されている。
このように、災害が発生すると被災地にボランティアが駆けつけ、多種多様な活動を行い、被災地の人々に感謝されることが多い。しかし、その一方ではボランティア活動の在り方について考えなければならない課題もある。
学校では、今回の東日本大震災地でのボランティア活動の状況を、児童・生徒に理解させたり、ボランティア活動についての認識を深めたさせたりするとともに、他の人々に対する思いやりの心や公共のために尽くす心を養うことが重要である。
1.日本の災害ボランティア活動の経緯
日本における災害ボランティアは、大正12年9月1日の関東大震災において、当時の東京帝国大学の学生が、上野公園などで被災者の救援に当たった記録がある。
その記録によると、「上野公園内に、帝大生達が被災者のために仮設トイレを建設しようとした時、公園管理者との間で押し問答が起こり、帝大生の『ならば上野公園は糞の山になるがそれでも構わないのか』との言葉が殺し文句となり、仮設トイレが許可されたということである。またそれを見た被災者は、『帝大生が厠を作るのだから自分達も頑張らなければ…』と奮起したとされている。」(Wikipedia災害ボランティア)
近年では、平成2年から平成7年にかけて雲仙岳噴火災害に災害ボランティアが活躍したほか、平成5年7月の北海道南西沖地震で、救援物資の搬入、仕分けなどに延べ9000人のボランティアが活躍した。
平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、被災地のボランティアグループをはじめ、全国各地のNG0(民間活動団体)や医師、建築士などの技能団体、大学や企業、労働組合等も、ボランティア活動に参加し、全国から駆けつけた数は延べ137万7300人に達したと報道されている。
2.ボランティア元年
「今時の若い者は」というのは、いつの時代にあっても、大人が若者を批判する場合の常套句である。その「今時の若い者」が、阪神・淡路大震災では、全国各地から被災地に駆けつけ、ボランティア活動に挺身した。
この大震災で失ったものは、あまりにも大きかった。しかし、「今時の若い者」は、私たちに、「優しさと行動力」のあることを教えてくれた。ボランティア活動に積極的に参加した若者は、その活動を通して、自信や誇りをもったり、自分の再発見に繋がったりしたに違いない。ボランティアへの関心と高まりの根底には「物」より「心」を重視しはじめた人々の価値観の変化が現れてきたようである。
阪神・淡路大震災後、若者の情熱を改めて見直し、ボランティア活動の重要性を強く印象づけることにもなった。それが契機となって、「ボランティア元年」という言葉が生まれた。
平成7年7月には政府の「防災基本計画」が改訂され、「災害ボランティア活動の環境整備」「ボランティアの受入れ」に関する項目が設けられた。また、同年12月の閣議決定により、毎年1月17日を防災とボランティアの日、1月15日から20日を「防災とボランティア週間」とすることが決められた。さらに同年12月の災害対策基本法の改正により、「ボランティア」という言葉が我が国の法律に初めて明記された。(防災白書)
3.災害ボランティアの課題
阪神・淡路大震災の際は、ボランティアについての知識や経験が国民の中にまだ定着していなかった。そのため、避難所において多くの被災者から感謝された一方、一部の人々による社会マナーの欠如から様々なトラブルを生んだ。また、ボランティア活動は無償であるため、地元の経済復興に支障が出始め、それにどう対応するかという課題も生まれた。
この大震災およびそれ以後の重油災害等の災害現場でも、一部の災害ボランティア活動を専門とするNGOによる主導権争いや手柄の取り合いがあった。また、地元住民で組織化されていったボランティア団体との間に、トラブルが生まれる等の事態も表出した。
東日本大震災では、大津波によって広大な範囲に被害が発生した。各種ライフライン、道路や鉄道の寸断、住宅・工場・施設等の破壊、加えて原発事故等、4月28日時点で、震災による死者・行方不明者は約2万6000人、建築物の全壊・半壊は合わせて10万棟以上、ピーク時の避難者は40万人以上、停電世帯は800万以上にのぼった。東日本大震災は、阪神・淡路大震災をはるかに超え、日本の災害史上最大のものになった。
今後の復興に向けて、災害ボランティア活動は益々重要となる。阪神・淡路大震災時の場合に比べて、ボランティア活動は多岐にわたり、困難を伴うに違いない。しかし、これまでのボランティア活動を教訓に、地元のボランティアセンターとの連携を図りながら、ボランティア活動が円滑に行われるようにすることが何よりも重要である。
4.ボランティア教育の推進
ボランティア活動は、個人個人の自発的な行為であるため、その目的も多様である。単なる「労力」提供でもなければ滅私奉公でもない。ボランティア活動は、「何らかの助けを求める人に手を差し伸べないではいられない」という共感と、受け手側の受容による「協働の企て」として行われるものである。
災害時における住民の主体的な活動への期待が高まっている。しかし、危機に直面した時のきめ細かなニーズをしっかりと捉え、自らの判断で適切に行動する力は、一朝一夕に形成されるものではない。普段から主体的な活動を積み重ねることによって、必要な行動を発見し、創造し、危機に対しての適切な対応がはじめて可能になる。日常のボランティア活動の経験は、災害時等における社会全体の対処能力を向上させることにもなる。
そのため、国民のボランティア活動への理解を深め、参加を促進するための拠点としてのボランティアセンターが、社会福祉協議会などに設置されるようになった。
昭和52年、厚生省は「児童・.生徒のボランティア活動普及事業」をスタートさせ、学校教育の中での「福祉」の学習を、初めて全国的な事業として展開した。そして、福祉教育の具体的な取り組みについては、文部省に対し「福祉教育の在り方について」という要望書を提出している。
一方、文部省では「教育課程審議会」の答申を受け、学習指導要領を改訂し、それにともない、平成4年度より特別活動の学校行事において、児童・生徒の「体験学習」が教育活動として位置付けられた。また、平成14年より「総合的な学習の時間」が創設され、自然体験やボランティア活動等が小学校から順次計画実践されてきた。
(4-1)ボランティア教育の推進のための施策
学校教育では、小・中・高等学校を通じて、地域の清掃活動や高齢者福祉施設における奉仕活動等のボランティア活動が行われてきた。
平成20年3月に告示された小・中学校の新学習指導要領(高等学校は平成21年3月)では、「総合的な学習の時間」、「道徳」、「特別活動の学校行事」等の中で、ボランティア活動等の体験活動を行うことを示している。そして、学校教育におけるボランティア活動をより一層充実させる内容となっている。高等学校においては、平成10年3月に関係省令を改正し、ボランティア活動等を含む学校外での多様な活動を、校長の判断により、単位として認定されるようになった。(学校教育法施行規則第98条第3号)
(4-2)「総合的な学習の時間」に関する学習指導要領の規定
小・中・高等学校の新学習指導要領の「総合的な学習の時間」の目標は、「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の在り方生き方を考えることができるようにする。」と記述され、その文言は小・中学校は同じである。(下線部分は高校に付記)
「指導計画の作成と内容の取り扱いの配慮事項」では、小・中・高等学校共に「自然体験やボランティア活動などの社会体験、生産活動などの体験活動」等の学習活動を積極的に取り入れることを示している。
(4-3)「特別活動の学校行事」に関する学習指導要領の規定
小・中・高等学校の新学習指導要領の「学校行事」の目標は、「学校行事を通して、望ましい人間関係を形成し、集団への所属感や連帯感を深め、公共の精神を養い、協力してよりよい学校生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てる」と記述され、その内容はほとんど同じである。
「内容」においても、小・中・高等学校「勤労生産・奉仕的行事、ボランティア活動などの社会奉仕の精神を養う体験が得られるような活動を行うこと」と記述されている。児童・生徒それぞれの発達の差を考慮した内容であるが、ボランティア活動や社会奉仕の精神を養う体験の重要性を示唆している。
(4-4)災害ボランティア活動への参加
児童・生徒は被災地においてボランティア活動に参加することは認められていない。今回の東日本大震災に際して、「東京都一般災害ボランティア」が、ボランティア募集をしたが、ボランティアとして活動するには、次のような条件を満たさなければならないとしている。
● 原則として、都内在住、在学、在勤の方
● 被災地でのボランティア活動への参加を強く希望される方
● 現地のボランティアニーズに応じた活動を行うことができる人(出発時期、活動場所に よりニーズが異なります。)
● 心身ともに健康な18歳以上の男女(未成年の場合、親の承諾を必要とします。)
● 現地の寒さに耐えうる防寒対策のできる方(夜の外気温は0度前後が見込まれます。)
● お風呂に入れないことやトイレ、食事などの不自由に耐えられる方
● 参加について、ご家族の了解が得られる方
● 出発場所まで来られる方(新宿区内からの出発を予定しています。)
※ 他の県や市町村で募集するボランティア活動の条件も、「東京都一般災害ボランティア」とほぼ同じである。
(4-5)児童・生徒のボランティア活動
児童・生徒が生活している地域で義援金集めに協力したり、近くの避難所に出かけて、避難者を励ましたりする活動等には、児童・生徒もボランティアとして参加することができる。
学校は、児童・生徒がボランティア活動を通して、様々な社会生活上の課題を発見したり、社会的役割を自覚したりできる活動の場を、意図的、計画的に用意することが必要である。 「社会福祉法人北海道社会福祉協議会 北海道ボランティア・市民活動センター」は、具体的な課題として、次のような分野(13分野から6分野を抜粋)があると記述している。
● 収集・募金活動:使用済み切手、書き損じはがき、図書、衣料、文房具、アルミ缶、赤い羽根(緑の羽根)共同募金、歳末助け合い募金、ユニセフやユネスコへの寄付等
● 製作・創作活動:活字書を点字に訳す、広報紙を録音テープに吹き込む、弱視者のために活字書の文字を大きく拡大して写本する、障害者への補助具の考案等
● 交流活動:読み聞かせの活動、手紙の交換、お世話になった方々への礼状の送付等
● サービス活動:地域のイベントの手伝い等
● 地域環境整備活動:地域の清掃活動、花いっぱい運動、交通安全を呼びかける標語・ポスターづくり、自然や動植物の保護に取り組む活動等
● 体育・レクリエーション活動:地域のクラブや少年団、子ども会等で、リーダ一や補佐として参加・協力する活動等
● 学校行事への招待活動:運動会や学芸会等の学校行事に地域の方々を招待等
5.海外からの支援や海外ボランティアに感謝する心の育成
東日本大震災に際して、海外から日本への緊急支援申し入れは、4月20日現在142の国と地域、39の国際機関(外務省発表)となっている。これまでに21の国と地域からの緊急援助隊及び医療支援チーム、国連人道問題調整部、国際原子力機関専門家チーム及び国連世界食糧計画等が日本に到着し、活動を行っている。また、各国・地域・国際機関等からの物資支援及び寄付金等が届けられている。また、被災者の治療を目的としたイスラエル緊急医療チームが特別機で日本に派遣された。日本外務省によると、震災被災地に外国政府が医療支援団を派遣するのは初めてある。
緊急医療チームは医師や看護師、薬剤師、通訳を含め約60人で、宮城県栗原市を拠点に、津波で被害を受けた同県南三陸町に仮設診療所を開設し、被災者の治療に当たった。緊急医療チームは医師や看護師、薬剤師、通訳を含め約60人で、宮城県栗原市を拠点に、津波で被害を受けた同県南三陸町に仮設診療所を開設し、被災者の治療に当たった。
原子力発電所の放射能漏れ事故への不安などから、多くの外国人が日本を去る一方、ボランティア活動をするために被災地に入る外国人も少なくない。斡旋するNGOが日本人通訳を同行させる等、外国人ボランティアの受け入れ態勢の充実も進んできている。
今回の大震災を教訓として、学校では児童・生徒に、世界各国からの支援に対して、感謝の念をもつともに、国際理解や国際協力についての教育を重視していかなければならない。
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