提言39: コミュニティと学校との関係について考えよう  (2011/8/7 記)

1. 現在のコミュニティ・スクール
 その基礎的な知識として、文部科学省は『コミュニティ・スクール事例集(平成20年)』において、次のように示している。
 Œ「コミュニティ・スクール」という名称
 「コミュニティ・スクール」という名称は、法令上の名称ではありません。法令上は、「学校運営協議会」という制度があり、この「学校運営協議会」が設置された学校の通称として、「コミュニティ・スクール」という言葉が用いられていますが、同時に学校運営協議会制度そのものも「コミュニティ・スクール」と呼ばれています。
  コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の趣旨
 保護者や地域住民が、合議制の機関である学校運営協議会を通じて、一定の権限と責任を持って学校運営に参画し、学校・家庭・地域が一体となってより良い教育の実現を目指すという、地域に開かれ、地域に支えられる学校づくりの仕組みとして制度化されました。
 Ž コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の特徴
 「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の第47条の5の規定に基づき、学校運営協議会には、次のような権限が与えられています。
 ★ コミュニティ・スクールの運営に関して、教育課程の編成その他教育委員会規則で定められる事項について、校長が作成する基本的な方針の承認を行なう。
 ★ コミュニティ・スクールの運営に関する事項について、教育委員会または校長に対して、意見を述べる。
 ★ コミュニティ・スクールの教職員の採用その他の任用に関する事項について、任命権者に対して直接意見を述べることができ、その意見は任命権者に尊重される。

2. 昭和20年代のコミュニティ・スクール
 上述のような意味で、今、コミュニティ・スクールという言葉が使われているが、この言葉は、昭和20年代に、新しい学校教育としてしきりに用いられた。学校と地域の関係は戦後の学校教育の大きな課題で、コミュニティ・スクールは、戦後の教育改革を象徴する言葉でもあった。当時のコミュニティ・スクールは、アメリカにあった伝統的な教育観である生活中心主義の教育思想の具体的姿とみることができる。その基本をなしたのは、オルセン(E.G Olsen)の教育論(註1)であるが、オルセンは、学校とコミュニティとの関係の要点として次の点を指摘している。
 Œ 学校は成人教育のセンターとなる。
  学校は、地域社会の自然的・社会的資源を活用する。
 Ž 学校の教育課程は地域社会の構造・過程・問題を中心にする。
  学校は、地域社会の活動に参加し、地域社会を改善する。
  学校は、地域社会の教育活動を指導し、整合する。
 この考えでは、学習で地域を活用する、そして学校が地域社会の改善に積極的に役割を果たすことを強調している。

3. 現在のコミュニティ論
 今、日本社会の在り方を考える時のキーワードとしてコミュニティに注目が集まり、いくつかの著書も刊行されている。その中で、教育について考える上でも参考になると思われるのが、「コミュニティを問い直す ━ つながり・都市・日本社会の未来」(註2)ではないかと考える。この本は新書版であるが、300頁近くあり、内容も豊かで簡単に紹介できない。そこで、書中の「プロローグ・コミュニティへの問い」(9〜27頁)を中心に紹介することとする。
 本書は、冒頭の「現在の日本社会とコミュニティ」において、まず、「これからの日本社会や、そこでの様々な課題を考えていくにあたり、おそらくその中心に位置していると思われるものが『コミュニティ』というテーマである。」と記述している。
 この文の「様々な課題」を「学校教育」に焦点化してみてもそうだなと納得できる。本書では、コミュニティを、「コミュニティ=人間が、それに対して何らかの帰属意識をもち、かつその構成メンバー間に一定の連帯ないし相互扶助(支え合い)の意識が動いているような集団」と定義している。その上で、次のような視点があると指摘している。
 Œ 生産コミュニティと生活コミュニティ
  農村型コミュニティと都市型コミュニティ
 Ž 空間コミュニティ(地域コミュニティ)と時間コミュニティ(テーマコミュニティ)」
 その上で、およそ次のような解説をしている。
 Œ 生産コミュニティと生活コミュニティ
 かつて農村は、地域のコミュニティがそのまま生産と生活のコミュニティであった。しかし、近代化が進むにつれ両者は急速に分離し、生活コミュニティとしてのカイシャが圧倒的な優位を占めるようになっていった。
  農村型コミュニティと都市型コミュニティ
 農村型は、ある種の情緒的(ないしは非言語的な)つながりの感覚をベースに凝集性の強い形で結びついていた。これに対し、都市型コミュニティは、独立した個人と個人のつながりで、共通の規範はルールに基づくものである。
 Ž 空間コミュニティ(地域コミュニティ)と時間コミュニティ(テーマコミュニティ)
 現在、日本社会にあっては、『ミッション(使命)志向型・時間・テーマ・コミュニティ』が大きな流れとなり、百花繚乱のように発生している。
 さて、これからの学校教育でコミュニティという場合どういう形をイメージすべきか。学校教育の観点からコミュニティを論じた著書もいくつかある。その中で、注目すべき著書として、「コミュニティ・スクール構想 学校を変革するために」(註3)がある。
 その一部を次に紹介する。
 「学校でのいじめや暴力が問題になるとき、よく『地域コミュニティが崩壊してしまっているから』という議論をよくきく。ここでの言い方だと、ローカル・コミュニティがなくなりつつあるということだ。・・・・その代わりになるのがテーマ・コミュニティではないかと思っている。」(161頁)

4. 新学習指導要領での「地域」
 教育基本法第13条において、「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする。」と規定されている。
 新学習指導要領では、「改訂の基本方針」として、第一に、「生きる力」を育成することを掲げている。「生きる力」の育成となれば必然的に、学校と家庭や地域との連携が重要になる。そこで、「指導計画の作成に当たって配慮すべき事項」として、小・中・高等学校とも、「学校がその目的を達成するため、地域や学校の実態等に応じ、家庭や地域の人々の協力など家庭や地域社会との連携を深めること。」を示している。
 つまり、学校運営に地域の人々が一定の権限をもって参画することに焦点化している前述のコミュニティ・スクールのイメージだけではなく、学習活動での地域との連携の必要性も強調しているのである。

5. コミュニティ・スクールの実践事例
 多くの実践がなされているが、二例だけ紹介する。
 Œ 東京都三鷹市(註4)
 東京都でも、かなりの学校が、地域運営学校として実践を推進しているし、また、教育活動を展開するに当たり地域の教育力を活用する、あるいは地域ぐるみで児童・生徒を育成するなど多様な活動等が展開されている。その中の一例として、三鷹市の実践が注目されている。三鷹市は、コミュニティ・スクールを基盤とした「小・中一貫教育」を推進している。
  京都市立京都御池中学校(註5)
 番組小学校の伝統を継承、洗練する学校づくり。京都御池中「けやきプロジェクト」の取組み。
 平成16年学校運営協議会を設置。平成17年、文部科学省の「コミュニティ・スクール調査研究校」に指定。

6. 世界の学力観の流れ
 第3項で、コミュニティ・スクールの意義について論じてきたが、この動きが果たして大きな流れになるかどうかについては疑問もある。それは、今、世界で主流となっている学力観との違いがあるからである。今、世界で各国で国の教育政策として学力向上を掲げているところが多いように考える。その際の学力観は、教育論として多くの人が強調している総合的な人間力とは異なる傾向がある。端的に言えば、次のように整理できるのではないかと考える。
Œ 国として、学習成果に関して共通の高いスタンダ−ドを設定しその達成を目指している。 A 必然的にカリキュラムの中央集権化が進んでいる。
 必然的にカリキュラムの中央集権化が進んでいる。
Ž 知識の習得・読み書き計算力の育成に焦点化している。
 学力向上についての学校の責任を重視している。
 このような狭い意味での学力向上へ焦点化した世界の教育政策での動向とコミュニティ・スクールとの関係をどう考えるべきだろうか。結論を言えば、「高いスタンダード」以下の学力観は重視しつつも、真の意味の学力、つまり人間社会の幸福の構築に貢献しうる生きる力としての学力を大事にすべきではないだろうか。

7. 一層の推進が期待されるコミュニティ・スクールの方向
(7-1)調査研究協力者会議の提言
 平成23年7月5日。「子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆をつなぐ ― 地域とともにある学校づくりの推進方策」が、文科省・学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議(註6)から提言されている。その中では、冒頭「議論の背景と問題意識」として次のように示している。
 ● 学校と地域の連携は、教育施策の中心的な柱であり、この流れの中で、「新しい公共」の概念など、社会の意識変化を踏まえながら、「今後の学校運営の改善の在り方」を議論。
 ● また、東日本大震災を契機として、教育論からの学校と地域の連携にとどまらない、「学校と地域の関係」が問われているとの認識の共有。
 ● 平素からの学校と地域の人々との関係づくりが、人々の学びと成長を促し、ひいては、子どもたちを守り、地域を守ることにつながる。
(7-2)文部科学省の今後の方針
 朝日新聞(平成23年7月6日)の報道によれば、「コミュニティ・スクールについて文部科学省は5日、5年後に現在の4倍の約3千校に拡大する方針を決めた。(中略)
 公立小中学校の指定校は32都道府県の789校(5月現在)で、全体の約2.5%にとどまる。同省は、増加のペースをこれまでの年間約150校から約450校に引き上げ、16年度に約3千校にすることを目指す」という。

8. 学校とコミュニティの関係のあるべき姿
 さて、これまでの論を踏まえて、学校とコミュニティの関係をどう考えるべきだろうか。
 各学校において、地方教育行政の組織及び運営に関する法律改正の趣旨を踏まえ、積極的に学校運営の改革を推進しなければならない。特に学校運営に関し、地域の住民、保護者の意見を尊重するという法律の基本方針を重視しなければならないであろう。
 その際の検討課題を参考までに提示してみる。
 Œ 学校運営全般について的確な情報の提供と意見の傾聴
 コミュニティ・スクールに指定された学校では必要事項ついては承認を要する。指定されていない学校も含むすべての学校においては、学校運営全般について、そのプロセスにおいて的確な情報を提供し、学校としての意図を説明するとともに地域の住民・保護者の意見に耳を傾けることが重要である。
  人々が課題・関心をもとに集まるテーマ・コミュニティ論を重視する。
 新しいコミュニティの姿として、この発想は重視されねばならないであろう。各自独自の生き方をする、それでいて関連を求めている現在、人々は、テーマ・関心でコミュニティをつくる。特色ある学校を創設し、児童・生徒の自由選択を推進するのもその流れであろう。しかし、課題もある。現に、選択が不適切でやり直しをする児童・生徒が増えている。この実態をどうみるか。真のキャリア教育の重要性を感ずる。
 Ž 同時に伝統的なローカル・コミュニティ(ふるさと)も重視する。
 このことは、東日本大震災で特に注目されたのではないか。児童・生徒が学校を離れる友人や先生と別れるのは悲しいと言っている。日本には、日常生活で相互依存の関係にあり親近感を基盤に伝統・文化・自然を愛しているふるさとが今なお存続している。この現実を基盤に学校教育を考えるべきである。
  学習活動において、地域の自然・社会・文化・人材等の教育資源を活用する。
 体験重視の教育論は、今、日本ではどちらかというとやや消極的に見られているが、世界の教育論では、人間の教育として体験重視・主体性重視の論も必ずしも廃れてはいない。元来のコミュニティ・スクールは、体験重視・学習者の主体性重視の教育観であった。
  校長の意思決定を尊重する。
 学校運営の企画の段階で、地域の人々の意見・要望を重視することは必要である。しかし、教育は人間を育てるという公的な営みであり、最終的には、教育者であり学校経営の責任者である校長の判断を重視すべきではないか。
  地域の教育センター・文化センターとして学校がその役割を積極的に果たす。
 オルセンは、地域に対する学校の積極的役割に期待を寄せていた。今、日本でも、ローカル・コミュニティ復活への要望の中、地域の文化センターとしての学校への期待が高まりつつある。具体的に学校がどういう役割を果たしうるか研究が必要になっている。この方向での取組みはすでに各地で始まりつつある。平成21年度「文部科学白書」でも、「地域の教育力の向上に向けた取組み」(88頁)について紹介をしている。

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註1; 『学校と地域社会』E・G・オルセン 宗像誠也・渡辺誠・片山清一 訳 [小学館] 1950年
註2; 広井良典 著 [ちくま新書] 2009年
註3; 金子郁容・鈴木寛・渋谷恭子著 [岩波書店] 2000年
註4; 『小・中一貫コミュニティ・スクールのつくりかた』 貝ノ瀬滋 著 [ポプラ社] 2010年
註5; 「ルポルタージュ 番組小学校の伝統を継承洗練する学校づくり 京都御池中『けやきプロジェクト』
   の取組み 京都市立京都御池中学校」 [雑誌・悠プラス] 2011年8月号
註6; 座長:天笠茂(千葉大学教授)/ 副座長:小松郁夫(玉川大学大学院教授)
以 上   

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