提言40: 読書力、図書館力を向上させよう

〜自ら本に手を伸ばす子どもを育てる〜  (2011/10/10 記)

1. 子どもの読書の現状
 「自ら本に手を伸ばす子どもを育てる」という言葉は、文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」(平成16年2月3日)にある。この答申では、多様で円滑なコミュニケーションや子どもの情緒力の育成等の必要性から、これまで以上に国語力が必要であり、その国語力として@中核になる考える力、感じる力、想像する力、表す力 A@の基盤となる「国語の知識」や「教養・価値観・感性等」を挙げている。この力の形成のために「自ら本に手を伸ばす子どもを育てる」ことが大切で、「国語教育」と「読書活動」が2つの柱であると述べている。
 平成13年12月12日に、「子どもの読書活動の推進に関する法律」が制定されて以来、学校では子どもの読書活動への取組を進めてきた。この法律に基づき、第1次(平成14年8月2日)、第2次(平成20年3月11日)と策定された「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」により、各都道府県、市区町村でも推進計画を立て実行している。

2. 読書の意義
 読書は、「言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである」(「子どもの読書活動の推進に関する法律」基本理念 第二条)。 
 また、本会の提言31「朝読書は生きる力をはぐくむビタミン剤」でも「読書の意義」について、次の5つを挙げている。
 Œ 多様な生き方があることに気が付くこと。 
  自然・社会・人間の豊かさや魅力に気が付くこと。 
 Ž 他者との共生の意義を理解すること。 
  家庭の大切さを理解すること。
  生涯読書の習慣を身に付けること。 
 読書は、他者と対話をし、多様な生き方に気づき、学び、人生や社会を豊かにするために大切なものである。また、変化の激しい現代社会の中、自らの責任で主体的に判断を行いながら自立して生きるためには、必要な情報を収集し、取捨選択する能力を身につけることが求められる。

  3. 学校の現状
 平成13年度から12学級以上の小中高校で、学校図書館の専門的職務を担当する司書教諭を置くことや、学校図書館図書整備5か年計画による図書資料の計画的整備の実施(公立義務教育諸学校について平成14年度から毎年約130億円、5年間総額約650億円の地方交付税措置)が出され、環境の整備が各自治体や学校で行われた。また、朝読書を実施する学校も増え、保護者の協力を得ながら、読み聞かせやブックトーク(註1)などが行われ、読書に親しむ子どもも増えてきた。 
 全国学校図書館協議会「第56回学校読書調査」(平成22年12月公開) この調査は、毎日新聞社が全国学校図書館協議会の協力で、全国の小中高生を対象に、その年の5月の読書について毎年実施しているものである。その結果、1か月の読書冊数は、前年と比較すると、校種、学年、男女を問わず増えている。小学生では読書冊数10〜15冊が20.0%、16冊以上が18.6%と、10冊以上読む割合が増加した。また、不読率は、中・高で昨年より減少した。 
 [読んだ本の冊数の平均] (14年は読書活動施策が推進され始めた年)
         平成14年    21年(前年)  22年
   小学生    8 冊     8.6冊     10.0冊
   中学生    2.8冊     3.7冊     4.2冊
   高校生    1.3冊     1.7冊     1.9冊
 読書量が増えた要因は、朝の読書全校一斉実施運動の定着や、ボランティアによる読み聞かせなどの読書運動の成果によると推測される。
 
4. 日本の社会では
  前項に示したように、小中学生の読書量は増えているが、一方で20代、30代の「読書離れ」「活字離れ」が指摘されている。以下に調査結果等を述べるが、この状況を見た時、生涯を通じて、本を読む習慣や本を活用して物事を調べる習慣を子どもの頃から確立することが重要であると考える。学校でも家庭や地域と連携し、読書を習慣付ける効果的な指導をさらに展開していく必要がある。とりわけ教育活動での読書の位置づけ、学校図書館の見直し、充実を行うことが学校経営上大切である。

 (4−1) 「国語に関する世論調査」(文化庁 平成22年2〜3月実施)
 この調査は、毎年16歳以上に2月から3月にかけて面接調査をしている。この結果では、1か月に本(雑誌や漫画を除く)を「読まない」と回答した割合は、全年齢平均で37.6%(平成14年)から46.1%に増加し、「活字離れ、読書離れ」が指摘されている。
 年齢別では50代以外の全年代で「読まない」と回答した割合が増加し、特に10代(16〜19歳)は34.8%から47.2%と、30代では、29.6%から42.4%と増加が著しい。
 読書をしない理由として(1か月に1冊も本を読まないと回答した者を対象)、次の結果が出ている。
   本を読まなくても不便はない ⇒ 中高生51.6%、成人36.2%
   読みたい本がない、何を読んでよいのか分からない ⇒ 中高生46.9%、成人34.3%
   勉強や部活(仕事や家事)に忙しく、時間がない ⇒ 中高生40.1%、成人38.1%


 (4-2) 東京都「『言葉の力』再生プロジェクト(「活字離れ対策検討チーム」)
 東京都副知事の猪瀬直樹氏は、以上の結果や都の職員にアンケートをした結果(4人に1人が新聞を購読せずうち20代が47%、この1か月に1冊も読んでいないという職員が12%うち20代が47%いる。)を知り、若者の読書、新聞離れのいわゆる活字離れが社会全体に広がっていると考え、「『言葉の力』の再生を通じ世界で活躍できる若者を育成する」を目標にプロジェクトを組んだ。そして、「言語力の習得・向上」のために新規採用職員等の言語力研修や「誰もが本を読める環境の整備」のために新たな読書推進策実施(知的書評合戦註2)、家庭での読書環境の重要性普及(0歳からの読み聞かせ)などの取組を行った。
 その一環として、東京都教育委員会では、児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育成し、生きる力を育むため、平成23年度から「言語能力向上推進事業」を開始した(3年間 小中学校50校、都立学校15校)。

5. 今後、学校がなすべきこと
 では、様々な取組をしている学校で、さらにどのような見直しが必要なのであろうか。次のような提言をしたい。

(5-1) 読書指導、学校図書館を教育活動の中心に据えよう。
 平成22年に「学校図書館賞」(全国学校図書館協議会主催)を受賞した荒川区立第三中学校 清水隆彦前校長は、「社会に出て必要な情報収集力、分析力を養う図書館こそ教育の中心であるべき」と述べており、全教科でのコラボレーション授業(註3)、保護者ボランティアの力を借りた年間253日の図書館の開館などを行い、生徒が学校図書館を活用する機会を増やしている。学校経営の中核に読書指導、学校図書館を位置づけることは、子どもの将来を考えた時に必要である。
Œ 学校図書館を必要とする授業、読書活動を教育課程に位置づける。
 新学習指導要領では、「あらゆる学習の基盤となる言語の能力について、国語科だけでなく、各教科等で育てることを重視する」として言語力を学校全体で取組むことを大きな柱としている。国語科での指導を基盤とし、調べ学習や発展学習など各教科等で学校図書館を活用したり読書につなげたりする指導を教育課程に位置づけたい。
 読書時間を確保する。
 子どもが本と出会う場や時を様々に工夫し、朝読書や読書月間の継続的実施、学校図書館開館時間の設定の見直し、移動学校図書館(学級、廊下)など、読書時間を確保するようにしたい。
Ž 読書指導を充実する。 
 学校では、ブックトーク、読み聞かせ、読書ゆうびん、書評座談会、推薦図書一覧の作成、本の帯つくり、読書記録の習慣化、読書感想文コンクール、図書委員会の活動の工夫などを行っている。子どもとともに工夫しながらさらに進めていきたい。 

(5-2) 学校図書館の効果的な活用を計画的に推進しよう。
 新学習指導要領においても、第1章総則第4「指導計画等の作成にあたって配慮すべき事項」2の(11)に「学校図書館を計画的に利用し、その機能の活用を図り、児童(生徒)の主体的、意欲的な学習活動や読書活動を充実すること」があり、学校では学校図書館の活性化を図るとともに、人的・物的環境の整備が求められている。
 教育委員会による条件整備・支援とともに、校長の強いリーダーシップの下で学校における推進体制の整備が不可欠である。 
Œ 「学校司書」(学校図書館担当職員)を配置し、読書センター、学習・情報センターとしての機能を発揮させよう。 
 12学級以上の学校に司書教諭を置くことが決まっているが、授業等との兼務で十分な指導が行えない現状がある。荒川区では、全小中学校に常駐の学校司書がおり(1日6時間、週5日勤務)、司書教諭と協力して、図書館の充実を進めている。また、区では「学校図書館支援室」を設置し、本(図書)、人、学び、組織、地域をつなげる活動を行い、学校司書の支援も行っている。学校司書の配置で、子どもの年間貸出冊数が増加している。司書教諭だけでなく、いつでも人がいて子どもの読書を支援できる体制をつくることが必要だと考える。 
 読書センター、学習・情報センターとしての学校図書館にしよう。
 読書に親しむ、読書の面白さを知る、読書の幅を広げる活動ができる図書館、調べ学習ができる図書館、情報活用能力を育てる図書館を創っていこう。そのためには、図書の充実とともに、新聞、雑誌、CD/DVDなども整備する必要がある。教育委員会による整備・支援を望みたい。
Ž 家庭や地域における読書活動を推進する核として、学校図書館を活用させよう。
 読書習慣は、家庭での協力があって身につけることができる。「読書だより」の発行、地域・家庭向けの行事、親子参加の読書交流会、地域の人による読み聞かせや保護者向けの研修会の開催などを行い、読書活動を広げていきたい。また、地域の読書関係の団体や公立図書館等との連携を積極的に推進していきたいものだ。 

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 註 1 ブックトーク ━ 主に図書館司書や司書教諭等から、一定のテーマで、何冊かの本を
    紹介すること。 
 註 2 知的書評合戦 ━ 薦めたい本の魅力を、何人かが、一定の時間に紹介し、それを聞い
    た人たちが「読みたくなった本」に投票し、選ぶ。 
 註 3 コラボレーション授業 ━ 図書館で、各教科担当の教師と司書が協力して行う授業。
以 上   

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