提言43: 幼児教育と小学校教育の連携を推進しよう   (2011/12/8 記)  

小1問題(プロブレム)の解消に努めよう!
 近年、小学校1年生の中に教育環境や生活の変化にうまく対応できず集団行動がとれない、授業中に座っていられない、教師の話を落ち着いて聞くことができない、といった状態が数ヶ月継続する、いわゆる小1問題と呼ばれる事象が見受けられるようになり、学校現場で大きな課題として認識されるようになってきている。これまでは1ヶ月程度で落ち着くと言われていたが、これが継続するようになり、就学前の幼児教育との関連や保護者の養育態度が注目されだした。
 小学校入学時のつまずきがその後の学習意欲の低下、不登校などにつながる懸念があるため、小1問題を幼児教育・保育から小学校教育への接続に係る大きな課題としてとらえ、対応していくことが求められている。

1. 子育てに関する傾向と課題 
 子どもを取り巻く環境は大きく変化し、複雑化している。テレビ・ゲームなど子どもが一人遊びする傾向が増大し、戸外で友達とかかわりながら遊ぶ姿が減ってきている。また、家庭や地域社会における教育力の低下や人間関係の希薄化が感じられる。
 子どもの育ちや保護者のかかわりに関する課題
 Œ 子どもの育ちについて
 最近の幼児の傾向として、自分の思いを言わずにいられない、人の話を最後まで聞けないという子どもが増えてきている。また、人に自分の気持ちや物事をうまく伝えられないといった言語機能の低下の傾向や交互に足を出して階段を上がれない、靴を立ったまま履くことができないといった運動機能の低下が見られる。
 基本的な生活習慣や規範意識、人間関係など、全般的に子どもの育ちが幼くなっている傾向がある。子ども同士よりも大人とのかかわりを求め、友達とのかかわりがうまくもてないなど、社会の変化とともに幼児の育ちにも変化が見られる。 幼稚園(2年保育)では入園までの4年間の家庭での育ちについても懸念される。 
  保護者の子どもへのかかわりについて
 子どもの運動機能等の低下や育ちの幼さは、保護者が手をかけすぎたり、あるいは子育てに無関心であったりするという保護者の子育てへのかかわり方に影響する。子どもへのかかわり方として、例えば、教育熱心で早期教育に走りがちであったり、そのときの感情で可愛がったり、叱ったりと、親の感情が子どもとのかかわりに影響している。さらに、親の生活リズムに子どもを合わせる、子育てに自信がなく言い聞かせたり論じたりせず、子どもの言いなりになる、食事のしつけ等の基本的な生活習慣を他人に任せ、自ら努力しない、といった傾向もある。
 学校は、これらの現実を理解し、個々の児童が楽しく安心して小学校生活を送れるように、幼稚園や保育園からの指導要録や保育所児童保育要録を大いに活用するとともに、幼稚園や保育園の教員等と情報交換を十分に行っていくことが大切である。

2. 小1問題解消のための方策
 (2-1) 東京都における小1問題の状況
東京都の実態調査より(平成22年11月 都内全小学校1308校対象)
 調査内容: 不適応状況の発生の有無、不適応状況の発生と終了の時期等
 ● 不適応状況の発生の有無; 発生した⇒ 18.2%(238校)/ 発生していない⇒ 81.8%(1070校)
 ● 不適応状況の発生時期と終了時期
 発生時期は、4月が最も多く71.8%、5月:12.8%、6月7.1%、次いで9月:3.8%である。
 終了時期は、調査を行った11月現在収まっていない状況が最も多く、56.7%、次いで7月の11.8%である。
 ● 不適応状況が発生した小学校における第1学年学級編成別学校数の割合は、
   1学級:21.4% 2学級:39.5% 3学級:29.4% 4学級以上:8.8%
 学校数の割合(17.8%)   (43.0%)  (31.3%)    (7.8%)
 ● 不適応状況が発生した学級担任の教職経験年数( )は第1学年の学級の担任の割合
   1年目             11.8%(9.5%)
   2年目以上5年目未満   17.6%(21.9%)
   5年目以上10年目未満   17.2%(18.9%)
   10年目以上20年目未満  13.9%(11.3%)
   20年目以上30年目未満  16.4%(15.8%)
   30年目以上       23.1%(22.0%)
 ● 不適応状況が発生した学級の児童数 ( )は第1学年の学級の児童数の割合
   21〜25人         12.2%(9.0%)
   26〜30人         25.2%(28.0%)
   31〜35人         38.7%(39.0%)
   36〜40人         18.9%(20.3%)
   40人以上         0.0% (0.4%)

 (2-2) 解決のための具体的方策 
 《 小1問題を防止するための有効と思われる取り組み 》(S区の調査から)
 Œ 授業・保育参観や合同研修などを通した幼稚園教員・保育園保育士・小学校教員の教育・保育観の相互理解を図る。
  情報交換や情報共有を目的とした幼稚園教員・保育園保育士・小学校教員の定期的な会合を開催する。
 Ž 保護者の就学への不安や悩みを聞いたり、小学校から家庭への希望を伝えたりするため、幼稚園・保育園の保護者と小学校をつなぐ場を設定する。
  幼稚園・保育園から小学校への接続を意識した接続期カリキュラムを作成する。
  幼稚園・保育園で小学校教育を見通した幼児教育・保育を実施する。
  担任以外にも人員を配置するなど、小学校で複数人員体制・個別支援体制を実施する。
  交流給食や交流授業、合同運動会などを通した子ども同士の交流を盛んにする。
  幼稚園への通園や幼児教育プログラムの導入など、保育園に幼児教育を導入する。
  等があげられる。

3. 幼児教育・保育と小学校教育の連携教育
 (3-1) 国の動向
 平成18年12月の「教育基本法」の改正では、「幼児期の教育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要なものである」と明記された。さらに平成19年6月の「学校教育法」の一部改正においては、子どもの発達や学びの連続性という観点から、幼稚園に関する条文を小学校という文言の前に規定し直されるなど、幼児期の教育の重要性が示された。
 加えて、平成20年3月の「幼稚園教育要領」の改訂では、幼稚園と小学校の円滑な接続を図るため、規範意識や思考力の芽生えなどに関する指導や幼稚園と小学校との連携に関する取り組みについての充実を図っている。
 同様に平成20年3月の「保育所保育指針」の改定では、養護と教育を一体的に行うという保育所の特性が明確になり、また、子どもの生活や発達の連続性を踏まえた保育内容を工夫することや小学校との積極的な連携に取り組むことが加えられた。さらに、今まで幼稚園から小学校へ指導要録の送付が義務付けられていたが、同様に保育園も小学校へ保育所児童保育要録を送付することが新たに定められた。また、新たな「小学校学習指導要領」においても小学校と保育所との連携が盛り込まれている。

 (3-2) 連携教育を行う上での課題と解決策
 【課題
  a.) 子どもにかかわること
  ●基本的な生活習慣の定着を図る(朝食、身の回りの整理等)
  ●子どもに関する正確な情報を伝える。
  b.) 保護者にかかわること
  ●入学するまでに家庭で何をしておくべきかを知ってもらう。就学に対する不安を解消するよう努める。
  ●特別支援教育が必要と思われる子どもの保護者が、入学前に就学相談の必要についての十分な説明を幼稚園・保育園から受けていないと思われるケースがある。
  ●小学校の状況を把握し、事前に学校教育に対しての情報を知らせ、できる限り理解してもらう。
  ●生活習慣の自立が就学に大切だとの認識をもたせる。
  c.) 教員・保育士にかかわること
  ●互いに情報を発信し合い、共通認識をもてるような関係作りが必要である。職員同士の交流を深めていく必要がある。
  ●就学に向けて5歳児としての発達の確認、保育の見直しをしていく。
  ●連携にどんなメリットがあるかなど、連携の効果を明確に把握できていない。
  d.) 学校・幼稚園・保育園にかかわること
  ●教育課程の中で幼稚園・保育園での保育の様子を参観する機会を設定するために、全体の行事時数と授業時数の確保が容易でなく調整が必要である。
  ●児童数が多く、教室内でのスペースが狭いので園児を受け入れるのが困難である。
  ●各小学校の校長の幼・小の連携教育に対する温度差がある。
 【解決策
  ●夏休みの期間等を使い「保育園体験日」を設け、小学校の教員が幼児とかかわり、就学前の子どもの姿を知る。
  ●職員同士が話し合いをする場を設け、情報交換や子どもの育ちのためにどうすることが必要か意見交換をしていく。小学校の教員・幼稚園教諭・保育士あるいは校長・園長との意見交換会を年に何回か実施する。
  ●各園・各小学校の保育士や教員が一日及び半日、他園や他校の教育活動や保育を体験する。 
  ●地区の校長会へ園長が参加する機会をもつ。
  ●近隣の幼稚園・保育園の園児を対象にした学校公開や活動を計画し、実践する。
  ●小学校が、幼稚園・保育園の保育参観を研究会として実施する。
  ●交流のねらいを明確にし、年間を通じ、無理のない回数や時間を設定していく。 

 以上のように幼・小の連携教育に関する課題と解決策を提示してきた。
 幼稚園・保育園と小学校とがよりよい連携教育を実施していくためには、教員や保育士が幼児・児童を知ることが第一である。そして、幼稚園教育、保育園の保育、小学校教育を相互に理解し、子どもが安心して小学校生活のスタートができるように努力していくことが大切である。
 そして、幼稚園・保育園・小学校が連携していくには、家庭との連携も深め、就学前の幼児の育ちについて、共に考え、互いに力を発揮し、支え合い、子どもの心と体の育ちを促すことが大切である。
 さらに、実際の教育の実践者である教員の意識改革を目指すことが求められる。子どもや保護者の現状を理解し、自分の保育や授業を振り返り、接続期の教育の重要性についての意識を高めることが肝要である。
 すでに多くの学校が主体となって連携教育を推進している。連携教育のはじめは、交流の機会を確保し、大きなイベントではなく無理なく交流できる内容で継続して活動できるものを精選して実施していくべきである。そして、幼稚園・保育園の年間計画、小学校の教育課程へ位置付けるとともに、教育課程の内容にかかわる連携へと発展させてもらいたいと願う。

※参考資料 = 東京都教育委員会資料 「就学前教育プログラム」(平成22年3月)/ 「就学前教育カリキュラム」(平成23年3月)

以 上   

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