提言49: 「子どもの学びを助け、学力を伸ばす板書をしよう ! (2012/6/26 記)
今や高度情報化社会の中で、学校現場では旧来の黒板だけでなくホワイトボードや電子黒板を効率よく活用する技能・スキルを身につけることが求められている。また、黒板という名の伝統的な教育情報提示のツールという固定的観念を払拭して、黒板等は教師と子どもたちのコミュニケーションを進化させる場であることを認識すべきである。
「授業が終わった時、黒板を見直し、今日はこういう勉強をしたんだと分かるような板書が良い板書である。」と先輩から指導を受けた経験のある先生方も多いであろう。また1時間を振り返り、満足のいく板書ができたかというとなかなか難しいと反省をすることもあるであろう。黒板をこの1時間でどう活用して、板書をどうするかによって、授業の内容も変わり、良し悪しが決まってくると言っても過言ではない。
板書は、子どもたちを学習に集中させ、思考を深めたり学びを整理したりして、学習を助けより確かなものにするためのものである。「丁寧で、正しく、分かりやすい」板書を心がけ、子どもの主体的に学習に取り組む態度を育てたい。そして、これから子どもに身につけさせたい学力である基礎的・基本的な知識・技能の習得と、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育むことができる板書を創っていきたいものである。
1. 大学における板書に関する講座
授業等で板書をする時には、構成などの内容面と文字の書き方などの技術面に留意する必要がある。現在、主に板書の技術面を中心に教える講座が大学で始まっている。
福岡教育大学では、2007年度に板書の意義や技法を教える講座を開設した。書道専門の教員4人が分担して「チョークの扱い方」「基本点画の書き方」などを半年間教える講座であり、全国でも初めてのものである。講座を統括する同大の小原俊樹教授は、「かって板書術は先輩教員から教わったもの。毛筆の心得がある人は腕全体で大きく書けるが、電子機器の普及で手書きが減り、教育実習で板書を批判される事例が増えた。」と話している。
この講座では、チョークの持ち方や運び、活用法に慣れ、基本点画の書き方から、文字の形や字配りなどについて学び、板書の実技力を段階的に習得できるようにしている。学生から人気があり、定員40名に対し3〜4倍の希望者が出るほどだという。
福岡教育大学板書教育プロジェクトでは、この講座のために「板書技法と手書き文字文化」(木耳社刊)というテキストを出している。その内容は、書くことや手書きの大切さ、黒板の歴史、板書における留意点、チョークの扱い方の基本、漢字やひらがなの一文字ずつの書き方や多字数の文字を書く時の心得を学び、実際の授業(国語科、社会科、算数・数学科)での板書方法を理解することができるようになっている。このように文字の書き方から始まり、実際の板書方法について学ぶ講座が始まったということは、板書について不安をもち、基本から学びたいと考える学生が増えていることの表れである。
この取り組みを参考にして、奈良教育大学では2013年度から黒板への効果的な板書の書き方を教える「板書技法」を必修とする準備を進めている。同大学の福光佐今教授は講座を開く理由として、「パソコン世代である今の教員志望者は、もともと字の下手な学生が増えた。そういう学生は教員採用試験で落とされてしまう。」と話している。
2. 板書の役割
学校における板書は、近代的な学校教育制度が整えられた明治時代から行われてきており、視聴覚機器が発達した現在でも授業に欠かせないものになっている。それは、使い方が簡単であり、板書を教師と子どもが活用しながら、学習内容を確認したり、発展させたりするために心を集中し、一緒に学ぶことができるからである。
板書の役割として、次のことが挙げられる。
集中機能: 学級全員の子どもが同時に学び合えるよさがある。学級のどこからも見え、教師の説明を確認し、子ども自身も参加して板書に集中することができる。
情報機能: 学習に関する内容や情報を板書し説明をすることにより、子どもたちは、今学習していることや、これから何を学ぶか等を理解することができる。
説明機能: 学習内容を文字や図などに示して、子どもの理解を深めることができる。
整理機能: 学習のねらいに向けて学習事項等を整理しながら板書をするとともに、子どもたちの理解や発言に応じて内容を整理し示すことができる。
強調機能: 色チョークなどを使いながら要点を強調して、重要なところを示したり、確認をしたりすることができる。
3. 板書の技術
(3-1)丁寧に、正しく、分かりやすい板書をする。
分かりやすい板書をするためには、内容面を理解しやすく工夫をして書くとともに、文字を整えて書き、読みやすくする必要がある。
読みやすくするために心掛けることは、次のことである。
正しい文字(正しい点画、整った字形、正しい筆順)を書く。
文字を大きく、はっきり書く。(一番後ろの席の子どもにもはっきり見えるようにする。
文字の配置を考えて黒板の縦、横を意識してまっすぐに書く。
・ 黒板を上下段の2つに分けて書く場合や、縦に分けて書く場合など全体の構成を考える。
・ 構成を考えた上で、文字の配置を考える。
・ 適度の余白と分かりやすい配置を考える。
・ 箇条書き、キーワード、キーセンテンスでまとめる。
色チョークを効果的に使う。
・ 重要な言葉に線を引いたり、まわりを囲んだりする。
・ 関係のある事柄を線で結ぶなどする。
チャートなど掲示資料は間隔、位置を考えてまっすぐに貼る。
既習の漢字を使うよう努める。
図(チャートなど)、写真、イラストの効果的な使用をする。
(3-2)板書のスピードとタイミングを考える。
子どもの理解度やノートの取り方を確認しながら板書のスピードを考えることが大切である。したがって、学年に応じてスピードを変える必要がある。小学校低学年は、できるだけゆっくり書き、小学校中・高学年、中学生は、よく考えさせる時はゆっくりしたり、子どもたちから意見がどんどん出ている時は早くしたりするなど、変化をつける必要がある。
また、すぐ書く場合や、発言内容をじっくり聞いてからまとめて書くことを使い分けることも大切であり、指示を出している時や指名読みをしている時、ノート作業をさせている時には板書をしないことも大切である。また、消したり、書いたりして、2度書きや3度書きは避けたい。
4. 何を書くか
学習課題を子ども自身が把握し、学習方法に従って主体的に学べるようにし、子どもたち同士が考えを深めていけるような板書を創っていきたい。
次のことは、板書に示す内容である。
1 単元名・教材名 2 学習目標 3 学習課題
4 学習内容にかかわる発問 5 学習の手順 6 子どもの考えや意見など
7 補助資料 8 まとめ
また、自分たちで学習を進めていく場合に、学習の進め方やルール等を一目で確認できるように、画用紙等に書くなどして黒板や小黒板に掲示すると、子ども自身が自分で確認しながら学習を進めることができ、主体的な学習に役に立つ。
5 子どもが参加をする板書にする
教師が一人で板書をするのではなく、子どもが板書し説明をすることで、主体的な学習意欲を引き出し、思考力、判断力、表現力などを育むようにしたい。黒板を介して教師と子どもが共に授業を創り、子どもの言葉や考えが表現される板書にしていきたいものだ。
教師と子ども、子ども同士のコミュニケーションの場として黒板の存在をとらえていきたい。
6. ノートのとり方を考えて板書を工夫する
板書は、子どもが創るノートの内容や速度を意識して行う必要がある。平素のノート指導を基盤にして、ノート創りを前提とした板書を心掛けたい。
また、授業中には、板書事項をノートに書き写す時間を適切にもち、後刻、子どものノート創りが適切にできているかを、教師が確認していくことが必要である。
7. 板書計画を立てる
授業前には、1時間の板書計画を必ず立て、書くようにしたい。導入から始まり、展開、終末で書く内容、それぞれの段階の時間配分、指導方法、一人ひとりの子どもたちへの個別指導などを頭に思い浮かべながら板書の内容を考えることは、良い授業をする条件である。1単位時間の流れを確認し、この授業展開で子どもが学習内容を理解できるかを考え直すことができる。
これまで、板書は、教師が教材の内容を説明や解説によって伝達することを主としてきた傾向にあった。また、話す内容の補足、まとめ、関連事項の具体的な提示など、解説のための視覚的補助用具として利用されていた。これからは、冒頭に述べたように、基礎的・基本的な知識・技能を習得するとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等を育むことや主体的に学習に取り組む態度を育てることが求められていることを踏まえ、子どもの学習活動を中心に据え、学習活動の展開を助けるために、子ども自身が参加する板書を計画し、実践することが大切である。
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