提言51:  2012年度 全国学力テスト(理科)結果の考察と小学校理科の在り方

(2012/9/30記)  

 文部科学省は2012年8月8日、小学6年生と中学3年生を対象に4月に実施した2012年度全国学力・学習状況調査の結果を公表した。
 本会のホームページでは、4月に実施された学力テスト理科の問題(Œ物質 生命 Žエネルギー
 地球)に関する問題を分析した結果、次のようにまとめた。
 a) これまでの教育課程達成度テスト等では[知識]に関する問題が主であった。しかし、今回の学力テストは[知識]と[活用]を一体的に問う形の問題とし、新たな問題構成に挑戦した良問が多かった。
 b) 実社会や国際的な学力調査、新学習指導要領で重視された[問題解決の力]の実態を把握しようとする意図が設問の中に多く見られた。
 c) 設問のほとんどが[観察・実験]で構成され、論理的思考力を問う設問が重視されていた。新学習指導要領で実験と観察に重点が置かれていることに基づいた出題であった。
 d) 授業では1日を通して観察し、それを記録にまとめ、考察・判断する設問があった。これらのことから、学校での指導状況の実態把握ができると考えた。
 全国学力調査問題の分析に基づいて、本会ホームページでは、児童の理科離れや教師のいわゆる理科離れの実態把握も含めて、≪提言47:2012年全国学力テスト『理科離れ』の実態把握はできるか≫と題して、2012年5月3日に提言した。
 本提言では、国立教育政策研究所がまとめた[平成24年度 全国学力・学習状況調査概要(小学校理科)]に基づいて、調査結果を考察し、これからの[小学校理科]の在り方についての見解を述べてみたい。

1. 調査問題の枠組み
 調査問題を作成するためには、枠組みが必要である。その枠組みは、国語、算数・数学、理科の3教科とも、[知識]と[活用]の2つで共通している。
 理科では、Œ 主として[知識]に関する問題  主として[活用]に関する問題は[知識]と一体的に出題された。
 また、[活用]は、Œ知識の[適用]、…等を考察して説明するために必要な[分析]、Ž…等解決策を[構想]、[改善]等、4つの枠組みを設けて考察された。
 全24問のうち、知識を問う問題は7問、活用力を問う問題は17問で構成された。

2.  [知識]と[活用]の正答率からの考察
 主として[知識]を問う7問の正答率は69%、主として[活用]を問う17問の正答率は57.8%である。[活用]に関する正答率は[知識]に関する正答率に比べて、11.2ポイント低い。このことから、 観察・実験の結果を整理し考察することや、 科学的な言葉や概念を使用して考えたり、説明したりする力が不十分であることが推察できる。
 本提言では、主として[知識]に関する問題7問から3問([物質]1問、[地球]2問)と、主として[活用]に関する問題17問から7問([物質]1問、「エネルギー」3問、[生命]2問、[地球]1問)を選択して考察する。

(2-1)主として[知識]に関する問題
  [知識]に関する問題では、[物質]、[エネルギー]、[生命]、[地球]等、科学の基本的見方や概念、技能に関する知識を習得しているかを問う問題が出題された。
  Œ [物質]に関する問題
  [1] (1)の問題
 ≪氷砂糖を砕いたり水に溶かしたりしても重さは変わらないが、砕いて変化するかを聞いた≫の正解率は85.9%である。水に溶かした場合の重さの変化を問う問題も76%である。全問の正答率61%を大きく超えている。物は形が変わっても重さは変わらないことは多くの児童が理解し、知識として習得していることが明らかである。この状況はこれまでの教育課程達成度テスト等の傾向と同じである。 
  [地球]に関する問題
  {4} (1)の問題
 ≪方位磁針の適切な操作方法を選び、その時の太陽の方位を書く≫の正解率は27.6%である。方位磁針の名称を知識として習得していているが、方位磁針の適切な操作の技能に関する知識はあまり習得されていない。このことから、他の観察・実験に使用する器具についても名称は知識として習得していながら、目的に沿った適切な操作の技能に関しては、確かな知識として定着していないと考えられる。
  [4] (2)の問題 
 ≪方位磁針の名称を書く≫の正解率は89.8%である。全問(24問)の中で最も正答率が高い。方位磁針の名称を相当数の児童が理解し知識として習得していることが明らかである。

(2-2)主として[活用]に関する問題
 [活用]に関する問題では、[物質]、[エネルギー]、[生命]、[地球]等の科学的な概念やデータに基づいて考察し、調べる方法の説明、自然の事物・現象についての説明、結論の根拠を明確にし、その理由を説明することを問う問題が出題された。
Œ [物質]に関する問題
  [1](3)
 ≪砂糖水に溶けている氷砂糖の様子について、実験結果から適切な図を選び、選んだわけを書く≫の正答率は54.7%である。半数近くの児童は、実験結果に基づいて、その理由を記述することができていない。記述による解答は、これまでも正答率が低く、その改善策や授業のデザインを問われてきたが、依然として課題がある。
  [エネルギー]に関する問題
  [3](2)
 ≪ゴムをねじる回数と車の進む距離の関係を示すグラフから、ゴムをねじる回数を選ぶ≫の正答率は57.5%である。ゴムをねじる回数についてグラフから分析して、予測することができていない児童が40%を超えている。
 この結果から、授業では単に観察・実験を行うだけではなく、実験・観察の過程や結果、科学的なデータに基づいて情報を読み取り、分析・判断させるような指導の工夫が必要である。
  [3](4)
 ≪電磁石の強さを変えるための実験条件を書く≫の正答率は50.8%である。電磁石の強さを変える要因について確かめる実験を、条件を制御しながら構想することが、半数近くの児童ができていない。授業では因果関係を精査し、その上に立って条件を制御することの必然性を重視し、その上に立って構想する力を培っていく場の構成とその指導の在り方を追究することが重要である。
  [3](5)
 ≪水の状態変化の説明として、当てはまる言葉を選ぶ≫の正答率は42.7%である。水は、湯気に変化する性質と、この性質が風車を動かすエネルギーとして利用されることに着目して考察する設問である。しかし、60%ちかくの児童が水は温度によって状態が変化する性質を、物を動かす[エネルギーの見方]として適用し、判断することができていない。授業では獲得した知識や技能を新たな対象に適用したり、分析・判断したり、考察したりして、問題解決の基礎的な能力と汎用的な能力を育成していくことが必要である。
 Ž [生命]に関する問題
  [2](2)イ
 ≪4月25日のサクラの様子について、データに基づいて、それぞれ当てはまるものを選ぶ≫の正答率は88.4%で、[活用]に関する問題17問の中で正答率が最も高い。学習した植物の成長の規則性を、他の対象に適用することについては、相当数の児童が適用する力を習得していると考えられる。
  [2](5)
 ≪スイカの受粉と結実の関係を調べる実験について、適切な実験方法を選び、選んだわけを書く≫の正答率は32.0%である。植物の受粉と結実の関係を調べる実験について、結果を考察し、実験・観察の方法を改善するにはどうするかを、具体的にその理由を記述することに課題がある。目的に即した観察・実験の計画、観察・実験の結果とその考察を通して、科学的な言葉や概念に基づいて表現できるよう指導をしていくことが重要である。
  [地球]に関する問題
  [4](5)
≪天気の様子と気温の変化とを関係付けて、気温の変化を表したグラフを選び、選んだわけを書く≫の正答率は17.1%である。小学校理科で最も正答率が低かった問題である。木の影の観察結果から、天気の様子と気温の変化の関係についてデータに基づいて分析し、その理由を記述する問題であったが、理由の記述が不正確だったりする解答が多かったからである。天気の様子と気温の変化との関係についてデータに基づいて分析して、その理由を記述することに課題がある。  
 観察したデータ等から情報を取り出すこと、信憑性のあるデータつくること、そして、そのデータを分析したり、考察したりして結論を導くようにしていくことが重要である。   

3. 学習指導要領の領域の正答率からの考察
 学習指導要領の領域ごとの問題数と正答率は、[物質]が7問で正答率は61.7%、[エネルギー]が5問で正答率は60.0%、[生命]が7問で正答率は68.7%、[地球]が5問で正答率は50.8%である。 [地球]区分は他の区分と比べて10〜17.9ポイントも低い。この原因は、[地球]区分は、[地球の内部] [地球の表面] [地球の周辺]を学習の対象としているため、他の区分に比べて時間的にも空間的にもスケールが大きく、十分な学習活動が行われていないと考えられる。
  [4](5)の問題からは、天気の変化に興味・関心をもち、気象情報を分析するには、継続的に空の様子を観察して記録することが重要である。そのためには、学校行事などと関連させて天気の変化について興味・関心をもち、雲や気温などの様々な気象情報について多面的に考察できるように指導することが大切である。  

4. 問題形式による正答率からの考察 
 24問の問題形式は、[選択式] [短答式] [記述式]の3つに分類できる。[選択式] の問題数は15問で正答率は65.2%、[短答式]は6問で正答率は64.1%、[記述式]は3問で34.7%である。
 [記述式]の正答率は、[選択式]や[短答式]に比べて30ポイントも低い。このことは、[観察・実験]の結果を整理、分析して、解釈し説明することが十分にできていないと言うことができる。
 授業では単に[観察・実験]を行うだけではなく、児童にその過程や結果から情報を読み取り、分析、判断させるような指導をしなければならない。[観察・実験]に基づいて、考えさせたり、表現させたりする学習を強化することが必要である。  

5. 質問紙調査結果の考察
 文部科学省は、今回の学力テストで、理科が新たに加わったことを受け、質問紙による調査を4つの項目を設けて行った。
 4つの項目は、[関心・意欲・態度]、[体験・学習・活用]、[観察・実験]、[説明問題への解答]である。本提言では、[関心・意欲・態度]と[説明問題への解答]の2つについて考察したい。   

(5-1)[関心・意欲・態度]
 ◆ [関心・意欲・態度]に関する調査結果は、次のように公表された。 
 ● 理科の勉強は好き
 ・小学校:約82%(国語:約63%,算数:約65%)
 ・中学校:約62%(国語:約58%,数学:約53%)
 ● 理科の勉強は大切だと思う
 ・小学校:約86%(国語:約93%,算数:約93%)
 ・中学校:約69%(国語:約90%,数学:約82%)
 ● 理科の授業の内容はよく分かる
 ・小学校:約86%(国語:約83%,算数:約79%)
 ・中学校:約65%(国語:約72%,数学:約66%)
 ● 理科の授業で学習したことは、将来、役に立つと思う
 ・小学校:約73%(国語:約89%、算数:約90%)
 ・中学校:約53%(国語:約83%、数学:約71%)
 ● 将来,理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思う
 ・小学校:約29% ・中学校:約24%
 ◆[関心・意欲・態度]に関する質問と回答を整理すると、次のようになる。
 Œ質問67:≪理科の勉強は好きですか≫の問いに≪理科の勉強は好き≫が、小学校が約82%、中学校が約62%である。中学校は、小学校に比べて20ポイント低い。また、小学校は他の2教科に比べて20ポイント高い。
 質問68:≪理科の勉強は大切だと思いますか≫の問いに≪理科の勉強は大切だと思う≫が、小学校約86%、中学校約69%である。中学校は、小学校に比べて17ポイント低い。また、小学校は他の2教科に比べて7ポイント低い。  
 Ž質問69:≪理科の授業の内容はよく分かりますか≫の問いに≪理科の授業の内容はよく分かる≫が、小学校約86%、中学校約65%である。中学校は、小学校に比べて21ポイント低い。小学校は他の2教科に比べて、3〜7ポイント高い。 
 質問73:≪理科の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか≫の問いに≪ 理科の授業で学習したことは、将来、役に立つと思う≫が、小学校約73%、中学校53%である。中学校は、小学校に比べて20ポイント低い。また、小学校は他の2教科に比べて7ポイント低い。  
 質問74:≪将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか≫の問いに≪将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思う≫が、小学校約29%、中学校約24%である。中学校は、小学校に比べて5ポイント低い。    
 ◆ [関心・意欲・態度]による結果の考察
 小学生は、理科が好きで、学習内容も良く分かり、大切な教科と捉え、関心・意欲が高いと言うことができる。しかし、中学生は、学習内容が分かると答えたのは、小学生より21ポイントも低い。また、理科で学習したことは、社会に出たとき役立つかについては20ポイント低い。即ち、中学生の約50%は理科の授業で学習したことは、将来、役に立つとは考えていないと言うことである。国語や数学が将来役立つ(国語:約83%、数学:約71%)に比べて大きな差がある。  
 また、将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思っている小学生は29%、中学生は24%に過ぎない。この傾向は、2003年国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)における「質問紙」の類似項目の傾向と同じである。小学生から中学生に進むにしたがって、[関心・意欲・態度]が低下し、理解度も大きく落ち込む傾向が浮かび上がってきたと言える。
 学年が上がるごとに学習内容が知識として定着せず、理科への「関心・意欲・態度」が低くなっている。即ち、中学生には[理科離れ]の傾向は顕著に表れていると言える。  

(5-2)[説明問題への解答]
 Œ質問81(小):≪今回の理科の問題について、言葉や文章を使って、わけを書く問題がありました。それらの問題について、どのように解答しましたか≫の問いに≪言葉や文章を使って、わけを書く問題について、最後まで解答を書こうと努力した≫と解答した小学校の割合は約73%である。  
 質問81(中):≪今回の理科の問題について、解答を言葉や文章などを使って説明する問題がありましたが、それらの問題で最後まで解答を書こうと努力しましたか≫の問いに≪言葉や文章を使って説明する理科の問題について、最後まで解答を書こうと努力した≫と解答した中学校の割合は約48%である。 
 Ž質問86:≪解答時間は十分でしたか≫の問いに≪理科の解答時間は十分でないと感じた≫小学校の割合は約19%、中学校の割合は約21%である。
 質問紙:[説明問題への解答]による結果から、小学生は、観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明することは概ね良好と考えられるが、中学生には課題があるとみられる。実験の計画や考察等を検討し改善したことを、科学的な根拠に基づいて説明できるような授業に改善していくことが重要である。
 今回の学力調査の結果、特に質問紙による調査結果ら、小学生には[理科離れ]はないと考えられるが、中学生になると[国際調査で指摘されていた理科離れ]が裏付けられたと考えることができる。  

 引用資料:平成24年度 全国学力・学習状況調査 調査結果について 国立教育政策研究所 
 ◆ 今回の提言の「5 質問紙調査結果の考察」では、4項目 [関心・意欲・態度]、[体験・学習・活用]、[観察・実験]、[説明問題への解答]の中で、[関心・意欲・態度]と[説明問題への解答]の2項目について考察したが、[体験・学習・活用]と[観察・実験]については、考察をしていない。後日、これらのことと[理科離れ]に関して、詳細に考察した提言を予定している。
以 上   

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