提言69:教師のICTリテラシーを高め、ICT機器を活用した学習を充実させよう!

 2013年8月15日付けの読売新聞の記事に、「OECD(経済協力開発機構)の2009年調査では、授業でコンピュータを使っている児童生徒の割合は、日本では、国語科1%、スエーデンは54%、韓国は27%(OECD平均26%)、算数・数学科1.3%(同15.8%)、理科1.0%(同24.6%)と諸外国に大きな後れを取っている。」とあった。
 また、10月7日の報道では「国際電気通信連合(ITU)が157カ国・地域のICTの発達度を比較した2012年のランキングを発表した。1,2位は韓国、スエーデンで日本は12位となり前年より4つランクを落とした。
 「ICTの立ち遅れが指摘されているだけでいいのだろうか?!」というニュアンスの報道であったが、前後して、OECD(経済協力開発機構)による24カ国の16〜65歳の男女を対象に初めて行った「国際成人力調査(PIAC)」結果が2013年10月8日に公表された。仕事や日常生活で必要となる能力の習熟度を3分野で調査したものである。
 日本は「読解力」「数的思考力」で平均点でトップを占めたが、「IТ活用能力」分野で10位に止まった。特に若い世代の成績が振るわず、情報教育の立ち遅れが要因の一つ であるとの声が出ている。日本人の16〜24歳は、パソコン(以下、PC)による調査拒否の割合が12.9%に上った。
 学校でのIТ活用を支援する企業で作る「ウインドウズ クラスルーム協議会」の会長は「若者は情報機器に慣れたイメージがあるが、日本ではスマートフォンで動画やメール を見るなど、受動的な使い方に止まっている」と指摘している。また、日常の仕事や生活で主体的にIТ機器を使いこなす一部の層と自己嗜好を楽しむだけの層の格差が広が っているのではないか」と話している。電車内や街中で散見される、若者のスマホに注ぐエネルギーは決してプラスの知的能力に昇華されていないことがわかる。
 また、情報教育の遅れや教師の指導力不足の声も聞かれる。 
 このような状況下にある我が国の学校現場において、今後いかにすべきかの課題に正対して、本稿では「教師のICTリテラシーを高め、児童生徒がICTを活用した学習の充 実」について見解を述べる。

1.日本の現状
(1) 中高校生 ネット依存症候群? 51万人 〜 厚労省研究班推計 〜 (注1)
 ゲームやEメールなどに夢中になり過ぎてやめられず、インターネットへの依存度が大きいとみられる中高生は全国に51万8,000人いるという推計数を厚労省の研究班 が2013年8月1日、発表した。中高生のアンケート調査から割り出したもので、依存が強いほど睡眠などに悪影響が出る実態が浮き彫りになった。同研究班は「ネットの利用時間を区切るなど、夢中になる前の指導が大切」としている。
 研究班は一昨年10月〜昨年3月までに無作為抽出した中高計264校 約14万人に対してネットの利用状況を問う調査票を配り、179校約10万人から回答を得た。 その中で、ネットへの依存の強い中学生は6.0%、高校生は9.4%いた。全国の中高生数(約680万人)から推計すると、中学生約21万人、高校生約30万5,000人がネットの依存が強いとみられる。このことで睡眠や栄養に悪影響が心配されるという。
(2) 文科省の「教育の情報化ビジョン」
 文科省は2011(平成23)年4月にまとめた「教育の情報化ビジョン」の中で、「学びのイノベーション(技術革新)」を打ち出している。ICТの導入により一斉指導による学び(一斉学習)だけでなく、子どもたち一人一人の能力や特性に応じた学 び(個別学習)や、子どもたち同士が教え合ったり学び合ったりする協働的な学び(協働学習)を推進し、2020年度までに全学校で21世紀にふさわしい学びを実現しようというものである。新学習指導要領では、「習得・活用・探求」の学習活動をバラン スよく行うことを重視しているが、その実施のためにもICТ機器が大いに役立つといえる。もちろん、それには1人1台のタブレット端末など情報機器の整備が大前提である。
(3) 文科省が小中学生の情報活用能力を初調査
 文科省は2013年10月から、小学5年生と中学2年生を対象に、情報活用能力を測る初めての調査を実施した。
 情報社会に必要な力がどの程度、身に付いているかを調べるものだ。国公私立校の小5と中2が対象で、それぞれ100校3,000人程度を抽出。2014年1月までかけて順次実施した。
 この調査はPCを使って出題し、画面上で解答させる方式。 
 グラフなどの図表や文章などの情報を理解し、処理する力などを測る。出題範囲は、小5、中2まで習う、国語、算数・数学、理科、社会などの全教科と道徳などで実施する ことが想定される学習活動。選択式だけでなく、記述式の問題もあるという。調査時間は、小5が90分、中2は100分。PCや携帯電話の使用状況などを質問する調査も併せて実施した。
 文科省は結果を分析した上で、新学習指導要領で進める情報活用能力の育成状況を把握し、今後の指導改善に生かす考えだ。(読売新聞記事)
(4) 情報通信技術(ICT)を活用した学びを推進する予算  
 児童生徒の確かな学力の育成を図るため、ICTを活用した教育の効果や指導方法に関する研究・地域における先導的な教育体制の構築に資する研究を実施するとともに、デジタルコンテンツの充実や利用を促進する。
(a) 情報通信技術を活用した教育振興事業 新規予算  3億円
 ICTを活用した教育の推進を図る上で、教育効果の明確化、効果的な指導方法の開発、教員のICT活用指導力の向上策の確立が不可欠であり、これらの課題を解決するための実証研究を行うとともにデジタル教材等の充実や、児童生徒の情報活用能力に関する調査研究を実施する。
(b) 先導的な教育体制構築事業 新規予算  1億2,200万円
 総務省との連携の下、各地域においてICTを活用し、学校間、学校・家庭が連携した新しい学びを推進するための指導方法の開発、教材や指導事例等の共有など、先導的な教育体制構築に資する研究を実施する。 
(c) 教育用コンテンツ奨励事業 拡充予算  3,200万円
 教育上価値が高く、学校教育または社会教育に利用されることが適当と認められる教育映像等審査の対象に、新たにデジタルコンテンツを追加し、デジタルコンテンツ作品の普及、利用促進を図る。
(5) 文科省のICT予算
 文科省は2013年8月28日、公立の小中学校でタブレット端末などICTを活用した教育を充実させるため、2014年に全国40の自治体をモデル地域に選び、補助事業を行う方針を固めた。2014年度予算の概算要求に17億円を計上した。
 モデル地域は自治体の希望に基づいて選ぶという。学校で使うタブレット端末やPCなど教材の購入費や教室への無線LANの配備、子どもたちの指導に当たる民間人など「支援員」の人件費などが補助対象となる。文科省は、2015年度もモデル地域を追加し最終的に100自治体とする方針を示した。

2.日本社会のICT情況  
(1)ICTに関する動向 
 米国、韓国、中国のIT企業のイノべーション・戦略による影響が大きく、我が国でもノートPCからタブレットPCへ、従来型携帯電話(ガラケー)からスマートフォン(スマホ)へ、電子書籍読取り器へと新型デジタル機器転換のスピードが加速されている。
(2) 教科書会社12社連合 がデジタル教科書の実証開始
 デジタル教科書の仕様や操作方法の統一を進めている教科書会社12社の企業連合が京都市にある立命館小学校で実証実験をスタートした。
 教室でデジタル教科書を使ってもらい、教員らの意見を受けて改善する。2014年3月以降、全国で研究協力校を増やし、2015年度の小学校教科書の改訂に合わせた実用化を目指す。

3. 教師と児童生徒のタブレットリテラシーを向上させる方策  (注2) 
 教師のICTリテラシーは低いのでは?という懸念の声もあるが、学校にはすでにPC電子黒板、プロジェクタ等が配備されている。しかし、地域や学校間に温度差があることは否めない。昨今、これら教育用情報機器に仲間入りしたのがタブレット端末である。各学校に教師の私物を含めて何台あるかは、現在、調査データがないが、タブレットの 操作については不得手な教師が少なくないことを指摘しておきたい。
(1)タブレット端末とは 
 タブレット(板状)端末はかなり前から存在していたが、低機能だったので一般には認知度は低かったが、2002年にPC機能を盛り込んだオールインワン(一体化)したPCが発売されてから、PCの周辺機器としてのみならず、デスクトップPCやノートPCのようなPCの1形態と言われるようになった。
 2010年に米国のA社がiPadを発売して以来、急速に進化してユーザーが世界的に拡大していった。 2014年になってから我が国でも利用者が増えて、2015年にはタブレット端末の出荷台数がノートPCを上回ると予測される。大手家電量販店でも、タブレット端末(携帯情報端末)という呼称からタブレットPCと呼ばれるようになっ てきた。
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(2) 種類 : 画面の大きさ  見易さと重さで10〜11インチが望ましい。

(3) 基本ソフト(OS): G社のAndroid A社のiOS  МS社のWindowsRT,8.1など

(4) 価格 : 画面サイズ、画質、CPU、メモリー容量等で、幅広い価格幅がある。10〜11インチで4〜10万円(オープン価格)

 教師の私物として購入する場合は、大手量販店やネットショップで2万8千円台から購入できる。スペック(仕様)とレビュー(ユーザーの評価・感想)にも留意する必要がある。
(5) メリット(長所): 個人持ちで、どこでもいつでも使える。? タッチスクリーンに指先の動作で操作できる。? 他のICT機器と接続して情報の共有化ができる。(スマホや電子書籍も含む)
(6) デメリット(短所): 電池(バッテリー)のもちが比較的短いので、繰り返し充電が必要   教育活動に有害なアプリ(応用ソフト)が組み込まれている場合は、前もって削除する必要がある。
(7) 教師のタブレットリテラシー高める研修 
(a) ハード面では、操作研修を民間事業者等、外部指導者(地域人材)を活用するなどして、効率的な研修を実施する時間と場の設定がキーポイントになると考える。 
(b) ソフト面では、協働学習用ソフトの導入、開発及びその活用・指導法について、国・都・区・市町村の研究協力校、研究奨励校、研究推進校、研究指定校などを受けて、 予算を確保するとともに校内プロジェクトチームや区・市内プロジェクトチーム等で推進することが重要である。

4. 土曜授業のモジュールにICT機器の活用を組み入れてみよう
 文科省は来年度から、小中高生らの学力向上に向け、月1回の土曜授業を行う公立学校への補助制度を設ける方針を決めた。
 地域の人材を講師にするなどし、月1回以上実施することを想定している。地域と学校のつながりをより強めることもねらう。講師謝金や教材費など土曜授業に必要な費用 を補助して実施自治体を後押し、来年度から3年間で全公立学校で土曜授業を目指す。来年度はまず、全公立学校の約20%に当たる計6,700校に対する補助を行う予定で、2014年度予算の概算要求に計20億円を盛り込んだ。
 2014年度予算の概算要求に計20億円を盛り込んだ。
 昨秋、省令を改正し、自治体の判断で実施できるようにした上で、補助制度の創設 で土曜授業を実施しやすくするのが狙いだ。
(1) 土曜授業推進事業 新規予算 1億500万円
 学校における質の高い土曜授業を推進するため、土曜日ならではのメリットを生かした効果的なカリキュラムの開発、特別非常勤講師や外部人材、民間事業者等の活用を支援 するとともに、その成果の普及を図る。 指定地域は約35地域(約175校程度)
(2) 地域の豊かな社会資源を活用した土曜日の教育支援体制等の構築事業 新規予算 13億3,300万円
 地域の多様な経験や技能を持つ人材・企業等の豊かな社会資源を活用して体系的・継続的なプログラムを企画・実施する取組を支援することにより、土曜日の教育支援体制の 構築を図る。(補助率 1/3) 小学校 3,000校区、中学校 1,500校区、高校 350校区。
 このように教育行政サイドの環境整備が行われているなか、学校では自校の実態を踏まえ、土曜授業のモジュールにタブレット等のICT機器の活用を組み入れる絶好の機会だと 考える。その実施には校長の強力なリーダーシップを期待したい。

5. タブレット端末を学校教育に活用・導入している区・市(一部紹介)
(1) 墨田区(学校数 小 ━ 25校 中 ━ 11校)
 PC教室の更新年度にあたる小中学校7校(小学校3校、中学校4校)を対象に、各40台のタブレット(12.5インチ型)に替えた。このタブレットは無線LANを使って各教室に持ち込み、協働学習できることを視野に入れて協働学習用ソフトウエ アや電子黒板連携システムも導入、併せて、プロジェクター、マグネットスクリーン、プロジェクター設置代も整備した。 現在教員の操作研修を順次実施している。
(2) 荒川区(学校数 小 ━ 24校 中 ━ 10校)
 2014年度、荒川区立小中学校の児童生徒は約11,200人。小学校24校、中学校10校にタブレットを配備するという。
 区立小中学校には各教室に電子黒板があることから、タブレットと電子黒板との連携を図りながら協働学習やコミュニケーション能力の育成などと学力向上に役立てるねらいだ。2013年度はモデル校として、小学校3校を指定。タブレットの運用方 法、導入効果の検証、運用マニュアル、指導案の作成などを目指している。
(3) 葛飾区(学校数 小 ━ 50校 中 ━ 24校)
 総務省「フューチャースクール推進事業」及び文科省「学びのイノベーション事業」の実証校・区立本田小学校では、児童たちがタブレットで画面を共有し、学び合う協 働学習を行っている。1年生からタブレットの基本的操作に慣れており、協働学習用のソフトを使った学習など、さまざまなスキルを習得している。このスキルを下地にしてタブレットの画面を転送して発表し合うことにも活用している。
(4) 日野市(学校数 小 ━ 17校 中 ━ 8校)
 平山小学校では「ICT絆プロジェクト」により、個別学習や協働学習に力を入れている。同校校長は、「IТを駆使して問題を解決する力は、これからの社会を生き抜く 子どもたちに不可欠。国や自治体は学校への機器の配備や教員の指導力向上に力を入れるべきだ」と話している。
 ほかにも、渋谷・本町学園、拝島三小、狛江市、多摩市の事例が眼をひく。

6. 佐賀県武雄市におけるタブレットを活用した先行事例 「反転授業」 (注3)
 武雄市ではICTの活用に熱心な市長の主導で、2010年度から市立2小学校の4〜6年生に1人1台ずつタブレットを配布しており、2014年度からは全小学生に、2015年度からは全中学生に広げることにしている。
 昨年10月に杉並区立和田中学校元校長が同市教委幹部に就任後、「反転授業」(注3) のアイデアを提案した。同市は、子どもがあらかじめ自宅で授業の動画を見て予習をしておき、学校では話し合いや以前なら宿題などに任せてきた「課題学習」を充実させる 「反転学習」の実証実験に入ることを決めた。まず小学校1校で試行し、いずれは全校に広げたい考えだ。反転授業が実現すれば、児童はあらかじめ家で授業の動画を見て 基礎的な知識などを身に付けておき、学校では「対面授業」で話し合い活動などに十分な時間を割いて「活用」の力を伸ばす・・といったことができる。ただし、児童に十分 な予習の習慣や学習への意欲などを身に付けさせることが大前提になることは言うまでもない。教師側にとっても、教室で教え、自宅での復習を求めるというこれまでの指 導法が一変することになる。教師の役割は、「教える」から「促す」に変わり、児童の主体性を引き出す技術を高めることが求められる。教師主導の指導法に慣れ切った教師 には過度な負担になるとの声も聞かれる。またICT機器が苦手な年配の教師には相当なストレスになることも予測される。
 武雄市教委は5月16日、有識者や教科書会社などを交えて、[反転授業]の効果や課題を検証する研究会を設置した。同市の実証実験の取り組みと今後の研究結果に大いに注目したい。

 結びに、教師や子どもたちには、機器を使いこなすスキルも大切だが、インターネットを活用する適切な基本的な考え方、マナーやルールを身に着けさせことが極めて重要で あると付記しておく。

■注1: 中高生のネット(含むスマホ)依存度 : 受動的情報収集(動画など)と拘束時間の拡大等が懸念される。
■注2: リテラシーとは 読み書き能力、活用能力をいう。本稿では、 ICTに関する知識、活用能力を指す。
■注3: 「反転授業」は、基礎的内容等を学校で教わり、家で復習するという従来のやり方を逆転させた授業のこと。英語で「reverse instruction」「backwards classroom」といわれ、2000年頃から米国で実践されている学習環境の創出理論。[ウィキぺディア] [ベネッセ教育情報サイト]   
▼参考 : 読売新聞 [くらし 教育]欄から 

( 2014/05/26 記)  

以 上

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