提言73:今、なぜ道徳の教科化か?!自校の道徳教育を見直そう! Part 2
           ~ 人間性に深く迫る教育を進めよう ~ 

              

 教育再生実行会議の第一次提言を受け、今後の道徳教育の改善・充実について検討を行ってきた「道徳教育の充実に関する懇談会《は、平成25年12月26日に「道徳《を「特別の教科 道徳《(仮称)にする報告をまとめた。そして、この報告を受け、下村文部科学大臣は平成26年2月17日、中央教育審議会に「道徳に係る教育課程の改善について《を諮問した。
 現在、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の下に、道徳教育専門部会を設置し議論を行っている。そして、早ければ27年度にも教科化する方針である。
 このような国の動向を把握することで、学校は道徳教育の必要性を再確認することが重要である。
 提言66:「今、なぜ道徳の教科化か 自校の道徳教育を見直そう!《で述べたことを踏まえて、現段階で、自校の道徳教育、道徳の時間の見直しを行っていく上での重要な視点と対応策を提言したい。
1.人間性に深く迫る道徳教育を進めているか見直そう!
 「道徳の教科化《は、第1次安倊内閣の下で設置された教育再生会議の最終報告「社会総がかりで教育再生を ~教育再生の実効性の担保のために~《(平成20年1月31日)でも徳育を「教科《として充実させるよう提言をしていた。しかし中央教育審議会が道徳教育は児童生徒の心の内面を育てるもので、検定教科書を使うことや評価をすることにはなじまないという判断で実現には至らなかった経緯がある。
 今回、改めて提言された契機は、直接的には大津市でいじめを受けた中学生が自殺をしたことである。その後、教育委員会や各学校ではいじめをなくすための努力が続けられているが、残念なことにいじめとの関連が指摘される児童生徒の自殺の報道は後を絶たない。
 このような中で、学校教育に関わる者は、児童生徒に人間尊重、生命尊重の精神を育てるため、人間性に深く迫る教育を進めることが求められる。
 そこで、なぜ道徳の教科化が提言されたかを教育再生実行会議第一次提言「いじめの問題等への対応について《(平成25年2月26日)から確認してみる。
 提言には、以下のように述べられている。
 「いじめに起因して、子どもの心身の発達に重大な支障が生じる事案、さらには、尊い命が絶たれるといった痛ましい事案まで生じており、いじめを早い段階で発見し、その芽を摘み取り、一人でも多くの子どもを救うことが、教育再生に向けて避けて通れない緊急課題となっているからです。こうした痛ましい事案を断じて繰り返すことなく、『いじめは絶対に許されない』、『いじめは卑怯な行為である』との意識を日本全体で共有し、子どもを『加害者にも、被害者にも、傍観者にもしない』教育を実現するよう、以下のことを提言します。《と述べるとともに、「心と体の調和のとれた人間の育成に社会全体で取り組む。道徳を新たな枠組みによって教科化し、人間性に深く迫る教育を行う。《ことを望むとしている。
図表    いじめ問題だけではなく、26年度版「子ども・若者白書《(日本、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの7か国、13~29歳男女対象調査)によると、日本の若者が「自分自身に満足している《と回答した割合は45.8%で、トップである米国の86.0%の半数近くで、他の5か国に比べても25%以上低かった。日本の若者の自己肯定感の低さが明らかになったと言える。[図表2](注1)
 自分の良さを伸ばし、自信をもって人生を歩んでいけるようにするのも、道徳教育の重要な役割である。
 いじめ問題を起こさない児童生徒、自分に自信をもって人生を歩んでいける児童生徒を育てるためにも、教育制度の改革だけでなく、道徳教育や授業の充実・改善等に向かって歩み出すことが強く求められている。各学校で「人間性に深く迫る教育《をどう進めるかを、校長は学校経営方針に位置付け、計画を立案し、校長のリーダーシップの下、教職員の参画、分担、協力の下に取り組む必要がある。

2.学校の教育活動全体で道徳教育を行っているか見直そう!
 人間は誰もが人間としてよりよく生きたいという願いをもっている。道徳教育とは、この願いやよりよい生き方を求め、実践する人間の育成を目指して学校教育全体で行うものであり、道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度などの道徳性を養うものである。
 中学校学習指導要領第1章総則の第1の2には、「学校における道徳教育は、道徳の時間を要として学校の教育活動全体を通じて行うものであり、道徳の時間はもとより、各教科、総合的な学習の時間及び特別活動のそれぞれの特質に応じて、生徒の発達段階を考慮して、適切な指導を行わなければならない。《とある。
 各教科、総合的な学習の時間、特別活動、また、その他の日常の活動や部活動など、すべての教育が人間としての生き方を学ぶことにつながることを児童生徒が意識できるようにし、そのことがよりよい生き方につながるようにすることが重要である。
 以下のことを押さえ、自校の道徳教育の推進について校長、道徳教育推進教師を中心に全教職員で協力して、自校ならではの道徳教育を進めてもらいたい。
(1)学校を豊かな人格形成の場として、各学校の特色や実態及び課題に即した道徳教育を展開できる
  ようにする。
(2)学校での道徳教育の基本方針、重点目標を明確にして、各教科、道徳の時間、総合的な学習の時
  間及び特別活動、日常生活の指導等を通して道徳教育の果たすべき役割や方向性を明らかにする。
(3)道徳教育の要としての、道徳の時間の役割を明らかにする。
(4)全教職員による一貫性のある道徳教育を組織的に進める。
(5)家庭や地域社会との連携を深め、保護者や地域の人々の積極的な参加や協力を得ながら、道徳教
  育を推進する。
 
3.心に響く「道徳の時間《を創意工夫し、年間指導計画に位置付けよう!  
 道徳の時間の目標は、道徳の時間以外での道徳教育と密接な関連を図りながら、計画的、発展的な指導によって、それらを補充、深化、統合し、道徳的価値及びそれに基づく人間としての生き方についての自覚を深め、内面の力である道徳的実践力を育成することである。
 児童生徒は教育活動全体の中で、生きていく上で必要なことを学んでいるが、それぞれの教育活動で学んでいることは、断片的であったり徹底を欠いたりすることがあり、一人ひとりが学んでいることには個人差がある。そこで、道徳の時間において、学級の仲間たちと、全教育活動で学んだことを補充(補い)し合ったり、深化(深め)し合ったり、統合(まとめ)し合ったりすることが必要なのである。ここに、道徳の時間の必要性がある。
 道徳的実践力とは、道徳的価値を自覚し、人間としての生き方について深く考え、将来出会うであろう様々な場面、状況においても、道徳的価値を実現するための適切な行為を主体的に選択し、実践することができるような内面的な資質を意味している。そして、主として、道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲と態度を包括するものであり、道徳的実践につながる内面の力を育てるものである。
 学習指導要領第3章で道徳の指導内容が示されているが、この指導内容を児童生徒の実態や発達段階に合わせて、教材の開発や活用、指導方法の工夫などによって、児童生徒の心を豊かにし、人間としての生き方についての自覚を深めていくことが重要である。道徳教育、道徳の時間をいじめをなくすことにつなげていくために、指導内容の学習を通してよりよい人間としての生き方についての自覚を深め、内面の力を育て、よりよい生き方をするために判断し、意欲的に行動できる児童生徒を育てる必要がある。このことが真に人間を尊重し、認め合いながら行動できる児童生徒の育成につながると考える。
 指導方法の工夫については、中央教育審議会への諮問では、以下のように記述されている。
児童生徒の発達の段階をより重視した指導方法の確立・普及や、道徳的実践力を育成するための具体的な動作等を取り入れた指導や問題解決的な指導等の充実などの観点を中心に改善に取り組むこと。
 一つのパターンによる授業、心情のみを追いかける授業、教師が一方的に話す授業ではなく、多様な心に響く、児童生徒が主体的に取り組める授業の工夫をすべきである。特に今後は、中学校での思春期にある中学生に合った授業を考えることが重要である。校内研修や教員同士で一つの資料について教材研究をしたり、活用の方法を考え合うなどをしたりして、様々な指導方法や授業をデザインしていきたい。そして、年間指導計画に位置付けていくことが大事である。

4.現在検討されている課題と事前準備すべきこと 
 現在、中教審の道徳教育専門部会では、「道徳教育の教育課程上の位置づけ《「目標、内容、指導方法、評価の在り方等《が検討されている。
 (1)「わたし(私)たちの道徳《(文部科学省刊)を含めた教材とその活用について話し合おう。
教材本     従来の「心のノート《に替わるものとして、「わたしたちの道徳《(小学校1・2年、3・4年)、「私たちの道徳《(小学校5・6年、中学校)が文部科学省からすでに配付されている。自校での活用状況はどうであろうか。今まで使用していた資料集や副読本などの活用とともに、この教材についての研修を行うなどして、活用方法を考え、実践(注2)に生かすことが肝要である。
 また、主な教材として、検定教科書を用いることが適当という考えが、「道徳教育の充実に関する懇談会《の報告で示されており、今後この方向にいくであろうが、検定教科書が決まるまでは時間がかかる。児童生徒の心に響く資料の開発、特に課題である、いじめ問題の解決につながる教材や情報モラルに関する教材は各学校で開発・作成し、年間指導計画に位置付ける必要がある。教師が児童生徒のことを念頭に教材研究や授業での活用方法を話し合うことが道徳の時間の充実につながるのである。  
 (2) 教育委員会、校内での道徳に関する研修を充実させよう。
 校長や教職員が「道徳教育、道徳の時間《について理解し、指導を充実するための研修を行ってもらいたい。教育委員会では管理職への周知徹底、教職員の指導力強化のための研修を計画、実施しているが、さらなる充実を期待したい。
 特に、教科になった際、「評価《をどうするかが、学校での大きな課題となるであろう。「道徳の評価《については、「中学校学習指導要領解説 道徳編《などで基本的なことを学びとり、学校としての方針が出せるようにしておきたい。
 【緊急情報】
 7月26日夜半、長崎県佐世保市の女子高校1年生が仲のよかったとされる同級生を自室で殺害し、頭部と手首を切断するという凄惨な殺人事件が発生した。長崎県ではこれまでに児童生徒による人の生命を奪うという非常に残念な事案が2件発生したため、2005年度から文科省とともに重点課題として「命の教育《(注3)に取り組んできただけに、これを生かせなかったという衝撃と悔しさが文科省や教育関係者らに与えた。.
                   
 ◆ 注 釈
 注1:26年度子ども・若者白書(全体版)内閣府「特集 今を生きる若者の意識
     ~ 国際比較から見えてくるもの ~《          
 注2:画像引用:Google「わたしたちの道徳(小1・2年、3・4年)私たちの道徳(小5・6年、中学校)《
 注3:2007~8年度改定された 小中学校学習指導要領の内容に「生命の尊さを理解し、かけがえのない
  自他の生命を尊重する《などと掲げており、重要な項目の1つになっている。     
 
 ◆参考文献
 1 「今後の道徳教育の改善・充実方策について(報告)《(平成25年12月26日 道徳教育の充実に関
  する懇談会)   
 2 「道徳教育に係る教育課程の改善等について(諮問)《(平成26年2月17日 下村文部科学大臣)
 3 「社会総がかりで教育再生を《(教育再生会議最終報告 平成20年1月31日)
 4 「教育再生実行会議第一次提言《(「いじめ問題等への対応について《平成25年2月26日 教育再
  生実行会議)
 5 文部科学省「小学校学習指導要領解説 道徳編《(平成20年6月) 「中学校学習指導要領解説 道
  編《(平成20年7月)

( 2014/08/04 記)  

以 上


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