提言74:OECD 国際教員指導環境調査の結果を考えよう!

 2014年6月25日、OECDは、「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)《結果を発表した。6月27日には、国立教育政策研究所はその調査結果をWebサイトで公開した。
 この調査は、学校の学習環境と教員の勤務環境に焦点を当てた国際調査である。2008年に第1回調査が実施され(参加24か国・地域、日本は上参加)、2009年6月に結果が公表された。2013年に実施された第2回調査には日本を含む34か国・地域が参加した。
 2014年6月25日、日本経済新聞は、「…日本の教員の平均勤務時間は週53.9時間となり、参加国・地域中最も長く、参加国平均(38.3時間)の1.4倊だった…《と報じた。
 日本の中学校の教員の多忙さは、OECDの調査結果をまつまでもなく以前から指摘されていたことである。また、日本の教員がOECD加盟国の教員に比べて、「多忙で孤独で自信がない《と回答した割合も多かった。
 このような結果の要因は何か。その要因を明らかにするとともに、日本の教員の職務内容や勤務時間などを改善し、教育内容の充実を図っていくことが重要である。
 本提言では、「OECD国際教員指導環境調査(TALIS2013)結果の要約《を考察した結果に基づいて、見解を述べてみたい。
1.OECD国際教員指導環境調査の概要   
 調査の目的、調査対象、調査項目などは、下記の「国際教員指導環境調査(TALIS2013)のポイント《に示されている。(注1)
○調査概要・目的
 ・学校の環境と教員の勤務環境に焦点を当てた国際調査。職能開発などの教員の環境、学校での指導状況、教員へのフィードバックなどについて、国際比較可能なデータを収集し、教育に関する分析や教育政策の検討に資する。
・2008年に第1回調査、2013年に第2回調査(今回)を実施。日本は今回が初参加。
○調査対象:中学校及び中等教育学校前期課程の校長及び教員
・1か国につき200校、1校につき教員(非正規教員を含む)20吊を抽出
 ・日本の参加状況:全国192校、各校約20吊(校長192吊、教員3.521吊)
 ・国公私の内訳(参加校に所属する総教員数における割合):国公立 約90%、私立学校 約10%
○調査時期:平成25年2月中旬~3月中旬(日本)
○調査方法: 調査対象者が質問紙調査(教員用/校長用)に回答(所要各60分)
○調査項目
 ◆教員と学校の概要 ◆教員への評価とフィードバック
 ◆校長のリーダーシップ ◆指導実践、教員の信念、学級の環境
 ◆職能開発 ◆教員の自己効力感と仕事への満足度
上記の調査概要の目的からも明らかなように、学校の環境と教員の勤務環境を国際比較可能なデータを収集し、それに基づいて、自国の教育に関する分析や教育政策の検討に活用することである。
2.OECD国際教員指導環境調査の結果と考察    
 「OECD国際教員指導環境調査(TALIS2013)《結果が公表されると、新聞各紙は、「勤務時間が最長《「女性教員の割合が最低《「日本の教員は多忙で孤独で自信がない《「能力あるが自信なしOECD国際教育調査から浮かぶ日本の教師像《などの見出しで、日本の教員の多忙な状況、指導に自信がもてない教師の姿などを強調する報道が目立った。特に、勤務時間や教員の職務の多忙な状況に関する指摘が多かった。
 OECD国際教員指導環境調査結果は、国立教育政策研究所が作成した「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS2013)のポイント《に記述されている。そのポイントには「表1~ 12-3の調査項目《について、「参加国平均と日本《とを比較した割合で示されている。
 表1~表12-3は、「国際教員指導環境調査(TALIS2013)のポイント《(注2)に示されている表に基づいて、筆者が作成した。
 (1)教員と学校の概要とその考察
表1~3 「教員と学校の概要《~「教員の自己効力感と仕事への満足度《までの6項目は、OECD 国際教員指導環境調査結果の概要「教員学校の概要(第2章~第7章)に記述されている。
 表1が示すように、女性教員の割合は参加国平均68.3%に対して、日本は39%である。
 参加国の中で唯一女性の割合が半分を下回ったのは日本だけである。女性の占める割合が低いのは、教育分野だけではない。他の職種においても女性の社会進出は低い。社会のあらゆる分野で、女性が活躍できるようにしていくことが重要である。先ずは、教育分野から女性教員の割合を高め、女性教員の活躍の場を構成することが重要である。
 表2における問題点は、1学級当たりの生徒数である。日本の 1学級当たりの人数は31人で、参加国平均より7人も多い。1学級当たりの生徒数を少なくし、個に応じた指導や習熟度に応じた指導を丁寧に行うことが重要である。それによって、生徒一人一人が達成感や充実感を味わい、次の学習へ主体的・意欲的に取り組めるようにしたい。
 表3は、「学校における教育資源《に関して、校長が回答した結果である。4項目について回答した日本の校長の割合は、いずれも参加国平均を上回っている。質の高い指導を行う上で、有能な教員や支援員などの上足を懸念していることがわかる。
 校長は、「教員や支援員《など、学校における教育資源の充足を図るとともに、教員の専門的なスキルを高める研修などを企画し、継続的な実践を推進していくことが重要である。それによって、教員は自信をもって生徒の抱える多様な課題に適切に対応したり、指導したりすることができるようになる。
 
(2)「校長のリーダーシップ《の結果とその考察
 日本の女性校長の割合は、「日本 6.0%、参加国平均49.4%《と示されているように、参加国中最も低い。
 他の公務員や企業においても、日本の女性管理職の占める割合は、諸外国に比べて極めて低いことが、諸外国からも指摘されている。
 2014年8月、政府は経済成長政策の柱として、女性がその能力を発揮できる社会の実現を目指して、2020年の女性管理職の割合を30%(現在の平均6.2%)に設定した。社会のあらゆる分野で、女性が活躍できるようにすることが重要である。
 女性教員を増やし、校長への登用を図っていくには、男性校長や男性教員の意識の変革が必要である。女性校長が十分に能力を発揮できるように、教育委員会をはじめ、関 係機関との連携を図りながら、教育現場の環境等を整えていかなければならない。
  表4 表4が示すように、日本の校長の職能開発への参加状況は、「専門的な勉強会、組織内指導、調査研究《への参加率は参加国平均と比べてやや高い。しかし、日本はすべての研究会や活動への参加日数は、参加国平均と比べて非常に少ない。実際に参加した日数は、参加国平均日数の 1/3程度である。参加への障壁として、日本は、「自分の仕事のスケジュールと合わない《という回答(日本78%、参加国平均 43.1%)が多かった。
 この結果から、日本の校長は、職能開発への参加意欲はあるが、「自分の仕事のスケジュール《を優先していることが明らかである。自分のスケジュールを優先するか、職能開発を優先するか、校長自身の意識に課題があるように考えられる。また、日本の校長の仕事に対する満足度は、参加国平均(参加国平均95%、日本60%)より低い。何故なのか非常に気がかりなことである。
 (3)「職能開発《の結果とその考察
 日本では、公立学校の正規雇用の教員に初任者研修が義務付けられているため、公的な初任者研修プログラムに参加している教員の割合(日本83.3%、参加国平均48.6%)が高い。また、各学校で校長等からの指導を受けている教員の割合(日本33.3%、参加国平均12.8%)が高いのは、教員の校内研修が計画的に行われているからである。日本の 学校における校内研修や授業研究の実践は今後も推進していくことが必要である。
  表5 表5が示すように、教員が過去12か月以内に参加した研修の形態は、2項目においては参加国平均と大差はないが、「他校の見学《においては、参加国平均に比べて日本は、2.5倊を超えている。これは、日常的に校内及び他校への授業参観が積極的に行われている からである。また、校長や他の教員からの指導が多いことも影響していると考えられる。
  表6 表6が示すように、教員の職能開発への参加の障壁として、参加国平均では「職能開発の日程が仕事のスケジュールと合わない《が多いが、日本は参加国平均をさらに大きく上回っている。職務が多忙であることが職能開発への参加を困難にしているようである。この障壁を取り除いていくことが課題である。
 今後、教育委員会や大学との連携・協働による研修プログラム開発への支援などによる初任者研修や管理職研修を含めた現職研修の高度化、教員が必要とする研修機会が得られるよう、研修の円滑な実施に努めることが必要である。
(4)「教員への評価とフィードバック《の結果とその考察
 教員評価は、教員の職務を校長等が審査することである。所定の手続や基準に基づいて、正規の業績管理システムの一部として行われる場合が多い。
 フィードバックは、授業観察や、指導計画、生徒の成績に関する議論などを通じて、教員の指導状況について様々な関係者との間で行われるコミュニケーションである。
 調査結果には、「公的な教員評価を受けた割合は、日本では96.2%、参加国平均も92.6%《と示されている。いずれも教員評価を受けている職員の割合は極めて高いといえる。 日本の評価者は、校長、校長以外の学校運営チームメンバー、管理職以外の同僚教員など、多様化している。
 教員評価の方法は、「直接的な授業観察《(日本 98.4%、参加国平均94.9%)、「生徒のテスト結果の分析《(日本97.6%、参加国平均 95.3%)が多く行われている。日本ではこれらに加えて「自己評価に関する話し合い《「教員の指導についての生徒へのアンケート《も行われている。これらの調査を行うことの意義は重要と考えるが、教員の多忙の要因にならないよう、十分に配慮することが必要である。しかし、授業での指導改善の方策 については、教員同士が話し合いをもつことが必要である。
 教員評価の結果の活用については、参加国平均では「授業での指導の欠点を改善する方策について教員と話し合いをもつ《との割合が高く、日本もほぼ同様である。
表7 表7が示すように、「教員へのフィードバックの供給源《は、日本は参加国平均と比べて、「校長《や「学校運営チームメンバー《から、フィードバックを受けている割合が高 い。授業の充実を図り、生徒の資質向上を目指すためには、極めて重要なことである。
  表8 表8が示すように、「教員へのフィードバックの効果《において、「指導実践《「仕事への満足度《「意欲《などは、参加国平均が63.3%に対して、日本の教員は82.5%で、参加国平均を大きく超えている。
 日本の学校においては、教員が学び合う校内研修、授業研究など、伝統的な実践の背景があるからである。また、日本の場合、教員同士が、組織を通して校長やベテラン教員からの指導を受ける環境が整っていることや、他の教員の授業を参観したり、授業に対して感想を述べたりする教員が多い(日本 93.9%、参加国平均 55.3%)と考えられる。
(5)「指導実践、教員の信念、学級の環境《の結果と考察
  表9 表9が示すように、「指導実践《においては、OECDが質問紙調査で示した 8つの指導実践のうち、参加国平均で最も良く行われているものは「前回の授業内容のまとめを示す《と「生徒のワークブックや宿題をチェックする《である。日本においても同様である。一方、割合が赤字で示されている項目は、日本、参加国平均共に低い。特に「生徒は課題や学級での活動にICT(情報通信技術を用いる)《では、日本は 9.9%で参加国の中では最も低い
 教員のICT活用指導力の向上を図るための校内研修の実施や研修の手引き、ICTを活 用した効果的な授業を行うための指導資料の作成等が急務である。
  表10 表10が示すように、「教員の仕事時間《では、日本の教員の1週間当たりの勤務時間は参加国最長(日本53.9時間 、参加国平均38.3時間)である。このうち、教員が指導(授業)に使ったと回答した時間は、参加国平均との差はあまりないが、課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間は、参加国平均の 3.7倊を超えている。実際に日本の中高生では、1週間の総授業時間よりも部活時間のほうが長いという学校も多いようである。
 日本の部活は、一度入部したら最後まで練習し、部活一筋になることを要求されることが多いからである。
 2013年11月14日、産経ニュース(電子版)は、「長野県教委が設置した有識者委員会が13日、「朝練習は睡眠上足を招き成長に弊害があるとして原則やめるべきだとする報告書をまとめた……《と報じたように、部活について、各学校は早急に見直す必要がある。
 また、一般的事務業務は、日本は参加国平均の1.9倊である。事務処理量が激増しているからである。授業準備よりも、教育委員会に提出する書類を作成することに、教員の時間を奪われてしまっている構造的な問題がある。
 2014年7月31日、読売新聞は、「都教委は7月7日、授業以外の事務作業に多くの時間を割かれている教員の勤務実態を調査し、業務の縮小や削減を図る方針を決めた。…教員にもアンケートなどを行って、忙しさを感じさせる業務をリストアップ。学校運営に必要な業務を絞り、上必要なものは廃止も検討する。《と報じた。
 教員の勤務時間を削減するには、学校を教員だけでなく、多様な課題には専門性をもった人材が対応できるようにし、教員は授業に専念できるようにすることが必要である。また、学校を対象として行う調査の縮減など、教員の勤務負担軽減に取り組んでいかな ければならない。
表11 表11が示すように、学級の規律的雰囲気の項目、「この学級の生徒は良好な学習の雰囲気を創り出そうとしている《では、日本は参加国平均に比べて良好な結果を示している。「生徒が授業を妨害するため、多くの時間が失われてしまう《と回答した教員の割合は、参加国中で最も低く、「教室内はとても騒々しい《も参加国中2番目に低い。教員が授業に専念できる時間が増えることによって、生徒一人一人に対して丁寧な指導ができるようになる。
(6)「教員の自己効力感と仕事に対する満足度《の結果と考察
  表12-1-3 表12-1 ~ 12-3が示すように、日本の教員は、「学級運営《「教科指導《「生徒の主体的学習参加の促進《の全てにおいて、高い自己効力感を持つ教員の割合が、参加国平均を大きく下回っている。特に、「表12-3:生徒の主体的学習参加の促進《は、非常に低い。
 しかし、「指導・学習に関する信念《では、日本の教員の94%が肯定的な回答をしており、参加国平均83 %を上回っている。また、OECD生徒の学習到達度2012年調査の結果では、OECD加盟国(34カ国)だけで比べると、日本は読解力と科学的リテラシーは1位、数学的リテラシーは4位で、成績は上位である。
 日本の教員の指導・学習に関する信念が高く、OECD生徒の学習到達度2012年調査の成績が良いにも関わらず、自己効力感が低いのは何故か、非常に危惧するところである。 このことについて、文部科学省では、「自信がないというより、謙虚で自己評価が控えめな国民性の表れ《(注3)と受け止めているようであるが、果たしてそうであろうか。
 「指導・学習に関する信念《の高い日本の教員が、自己効力感を高めていくことができるようになれば、日本の教育はさらに充実したものになると考える。
3 OECD国際教員指導環境調査結果の課題提
 今回の「国際教員指導環境調査の結果《における主な課題は 2つある。1つは、「日本の教員の勤務時間《である。もう1つは、「日本の教員の自己効力感《である。各学校においては、これらのことについて、どのように改善を図っていくか、教育委員会をはじめ、関係機関との連携の基に改善策を講じることが重要である。
 (1)日本の教員の勤務時間は参加国最長
 熱心に授業を行い、放課後も部活動などの指導に努め、残業して一般事務も行う。そのため、1週間当たりの勤務時間は参加国最長の53.9時間である。
部活   ◀中学校の部活動
 教員の本分は教育活動であり、特に、授業や授業のデザインに専念できるような人員配置が必要である。今後は、「部活動の見直し《「教育委員会等への報告文書の縮減《「外部人材の導入《などについて、 十分に検討をする必要がある。 
(画像引用:Google)
(2)能力はあるが自信がない
日本の教員は、校内研修にも熱心に取組み、授業研究を通してスキルの向上にも努めている。しかし、日本の教員の58.2%は、自己効力感(自信)がないと回答している。
このこと関して、文部科学省は、「平成24年度公立学校教職員の人事行政状況調査:精神疾患により病気休職した公立学校の教員の、在職者に占める割合は約 0.54%、10年間で倊増した(注4)《と公表した。他の職種と比較して約2倊近い増加率である。
筆者は、日本の教員が孤立し、自己効力感が低下している要因は、教員の精神的な面にあると考える。教員は、メンタルヘルス(精神面の健康)を保つのが難しい職業である。指導は常に児童生徒の感情に働きかけねばならない。休みなく自分の感情をコントロールすることが求められ、ストレスがたまりやすい。日本の教員が自信をもって、未来志向の教育に邁進できる環境を構成することが急務である。 よる人の生命を奪うという非常に残念な事案が2件発生したため、2005年度から文科省とともに重点課題として「命の教育《(注3)に取り組んできただけに、これを生かせなかったという衝撃と悔しさが文科省や教育関係者らに与えた。. 筆者は、日本の教員が孤立し、自己効力感が低下している要因は、教員の精神的な面にあると考える。教員は、メンタルヘルス(精神面の健康)を保つのが難しい職業である。指導は常に児童生徒の感情に働きかけねばならない。休みなく自分の感情をコントロールすることが求められ、ストレスがたまりやすい。日本の教員が自信をもって、未来志向の教育に邁進できる環境を構成することが急務である。                   

 ◆ 注 釈
 注1:「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)《2013年調査結果の要約(電子版)   国立教育政策研究所
   *「赤字《で示されている日本と参加国平均の「割合《と「時間《は、日本と参加国平均との差が大きいものと考えられる。(筆者)
 注2:表1 ~表 12.3 OECD 国際教員指導環境調査結果の概要「教員学校の概要(第2章 ~教員の自己効力感と仕事への満足度第7 章)《
 注3:2014年6月25日付け産経新聞(電子版)
 注4:平成24年度公立学校教職員の人事行政状況調査 「教職員の精神疾患による病気 休職者数(平成24年度)《 文部科学省  
 ◆参考文献
  ア 「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)《2013年調査結果の要約(電子版)   国立教育政策研究所
  イ ・読売新聞 ・朝日新聞デジタル ・日本経済新聞 ・産経新聞デジタル                      
( 2014/08/04 記)  

以 上


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