提言83: 25年目を迎える小学校生活科を見直そう!

 生活科は、平成元年(1989年)に改訂、平成4年(1992年)度から施行された学習指導要領のもと、小学校第1学年及び第2学年に設置された教科である。
 小学校低学年の社会と理科を廃止して新設されたため、この両者を統合して授業を行うものであると考えられがちである。しかし、生活科は、具体的な活動や体験を通して、自分自身や自分の生活について考えさせるとともに、その過程において生活上必要な習慣や技能を身に付けさせ、自立への基礎を養うことを目標とした全く別の教科である。
 教科の改廃は、教育現場に賛否両論入り乱れての論争を巻き起こした。我が国の小学校教育史に残る大きな改革であった。
 生活科創設から25年目を迎えるにあたり、幼児教育との連携や気付きの質を高める指導など、生活科の一層の充実が求められている。生活科創設の経緯にも触れながら、「生活科がめざしたもの」を確かめ、自校の生活科の取組の様子を見直し、さらに充実した授業の実践を進める一助としていただくよう筆者の考えを述べる。
1 生活科創設の経緯 
 生活科創設の経緯について、亀井浩明氏は「生活科と生涯学習の基礎」(生涯学習e辞典 平成19年登録更新)の中で以下のように述べている。 
 初等・中等教育の学習には、常にある課題が存在した。それは、学校で学ぶことが現実の生活を有意義に過ごすための真の力の育成にならないのではないか、無意味な知識や技能の習得に終わってしまっているのではないかという疑問である。この課題意識への回答として、学習を生活に密着させ経験を重視すべきだという見解がある。しかし、一方では、人類の文化である知識・技能の確実な伝達が軽視されて良いのかという批判がある。戦後の日本のカリキュラムでもこれは大きな課題であり、教育政策も振り子のように揺れ動いたということもできる。
 生活科もこのような歴史的な流れに位置付いている。小学校指導書生活編(平成元(1989)年6月文部省)において、「生活科新設の経緯」について述べられている。以下、その一部を紹介する。 
 「低学年教科再構成への模索―我が国の戦後学校教育において、昭和20年代の経験主義教育から、昭和30年代の系統学習への転換は、よく知られるところである。その系統学習の発展に伴って、低学年の社会科と理科の学習指導に新たな課題が指摘されるようになった。」
 この課題を踏まえて、昭和42(1967)年10月、教育課程審議会の答申は、次のように指摘した。すなわち、「低学年社会科については、具体性に欠け、教師の説明を中心にした学習に流れやすい内容の取り扱いについて検討し、発達段階に即して効果的な指導ができるようにすること、また、低学年理科については、児童が自ら身近な事物や現象に働き掛けることを尊重し、経験を豊富にするように内容を改善すること等である。」 
 その後いろいろな動きがあったが、教育課程審議会答申(昭和62(1987)年12月)において、「児童の発達上の特徴や社会の変化に主体的に対応できる能力の育成等の観点から生活科の設置」が答申された。文部省は、この答申を受けて学習指導要領の改訂を行った。そして、平成元年3月15日の学校教育法施行規則の一部改正及び新しい小学校学習指導要領の告示によって、小学校低学年の教科として、生活科が正式に位置付けられた。
2 生活科がめざすもの  
(1)生活科の理念
 生活科は、「臨時教育審議会答申」(昭和60年6月〜昭和62年8月)をうけた「教育課程審議会答申『幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について(答申)』」(昭和62年12月)では、「合科」というよりむしろ「総合的に行われる学習」という発想の方が前面にでている。そこには「……低学年の児童の心身の発達状況に即した学習指導が展開できるようにする観点から、新教科として生活科を設定し、体験的な学習を通して総合的な指導を一層推進するのが適当である。」と書かれている。さらには、「なお、低学年においては、児童の心身の発達状況を考慮して総合的な指導を行うことが望ましいので、生活科の設定後においても教科の特質に配慮しつつ合科的な指導を一層推進するのが適当である」とあり、低学年の学習活動全般にわたる総合学習化とこれまでの教科との合科的指導の推進が明記されている。
 これらのことから、筆者は、生活科設置の意味を単なる教科の改廃に止まるものではなく、小学校教育において低学年児童がより主体的に取り組める学習活動の場を保障することに主眼がある、と捉えている。そこでは、幼児期から児童期にかけての子どもの発達の実態に即した「教育活動」が強く意識されている。生活科の新設は、学校に子どもを適応させるという従来の発想による教育ではなく、「はじめに子どもあり」の発想に基づく「子どもが『学習の主人公』になり得る教育機会」の登場だったのである。それは、生活科が「総合的な性格をもつ教科」であることを意味している。 
 (2)生活科のねらい 
 小学校学習指導要領には、生活科の教科目標として4つの視点とねらいが示されている。@具体的な活動や体験の重視 、A自分とのかかわりで自然や社会をとらえる 、B自分自身への気付きを大切にする 、C生活上必要な習慣や技能を身に付ける 、の4点である。
engei     究極のねらいは「自立への基礎を養う」ことである。新設当時は、このねらいが十分に理解されず、「具体的な活動や体験の重視」「生活上必要な習慣や技能を身に付ける」に重きが置かれ、生活していく上で必要な習慣や技能を身に付けるための具体的な活動を中心とした授業や研究授業が盛んに行われていた。25年を経て、現在ではねらいをきちんと捉えた授業が行われるようになった。
 
  『小学校指導書 生活編』(平成元年)においては、それぞれについて詳しい説明がなされている。これら『元年版指導要領』・『指導書』の教科目標と学年目標、そして各学年の内容の背景にある「4つのめざすもの」が、当時の教科調査官中野重人氏の著書『生活科教育の理論と方法』に述べられている。
 @ 体験の重視 
 これまでのような教科書を中心にして学ぶだけの学校ではなく、具体的な活動や体験を重視して、からだ全体で学ぶ学校を創ることが肝要である。これまでの「知得」「座学」中心の学校教育ではなく、もっと「体得」「体験」を取り入れた学校教育がめざされなくてはならない。
 A 個性を生かす 
 「臨教審答申」を引き合いに出すまでもなく、これからの学校教育は「個」を育てるための「一人一人への細かい配慮」が必要である。その際に重要な視点は、以下の3点である。
 ★基礎学力の保障 
 学校における「個人」を問題にするとき、まず第一に一人一人の基礎学力の保障が確保されなければならない。すべての児童が学習の基礎・基本をしっかりと身に付けることのできる学校でなければならない。
 ★個性化 
 基礎学力の保障が前提となって「個性化」がはじめて意味をもつ。「個性化」とは、「一人一人の取り柄、長所を伸ばし、その子らしさを育てる」ことであり、「一人一人の違いを大切にし、自分なりのものに気付かせることによって、それぞれの児童にやる気と自信をもたせる」ことをめざしている。生活科において重要なことは、子どもが「自分とのかかわりで身近な社会や自然を学ぶ」ことと、自分の好きなことはなにか、自分の興味・関心はどの辺にあるのかということに気付くこと、すなわち「自分自身への気付き」が果たされることである。これは、例えばこれまでの理科においては、全国どこにあっても1年生はあさがおの栽培、しかもフタバはどれで…といった知識の獲得に重点が置かれすぎていたことへの反省の上に立っている。子どもたちがそれぞれの興味・関心に基づき、思い思いのアプローチで学習を進めることを認めていくことが、「個性豊かな日本人」を育てることにつながるのである。
 ★自分自身への気付き 
 これは、生活科のキーワードである。自分は何者であるかについて低学年児童なりの自覚ができることをめざしている。次に掲げる3つの内容が含まれている。
 ア.子どもが集団の中の自分のあり方に気付くこと。これは、子どもがみんなと一緒に遊び学習することを通して仲間意識や帰属意識が育ち、共に生活できるようになることである。教師は、子どもに自分と仲間との違いに気付かせ、その違いを大切にするように指導することが重要である。
 イ.子どもが自分の成長に気付くこと。教師は、誕生から現在までの子どもの成長や生活環境などの変化に気付かせ、子どもの成長の背後にいる自分を支えてくれた人々の存在に気付かせ、それらの人々に感謝の念をもつように指導しなければならない。
 ウ.子どもが自分のよいところや取り柄に少しずつでも気付くこと。そのために教師は、児童が意欲的に学習活動に取り組める工夫をする必要がある。 
 B 家庭や地域との関わりの見直し
 生活科は学校と家庭、学校と地域との関係を見直そうとしている。生活科においては児童の生活圏は学習の場であると同時に学習の対象でもある。また、これまで家庭教育の課題であり、学校教育の課題ではないと考えられてきた「日常生活に必要な習慣や技能を身に付けること」も目標のひとつに挙げられている。これは、学校教育の本来的任務はどこにあるのかという問題も含め、多くの問題を提起していると思われる。
 ★地域に根ざす教育
 地域素材の教材化は言うまでもなく、地域と一体となった学校づくりが求められている。生活科が遊びを学習と認め、生活圏である身近な自然と人々を学習の対象とするのは、学校と地域との関わりの見直しという課題への対応を示している。生活科は地域環境の見直しであり、ふるさとを学ぶ学習なのである。そのとき大事なことは、狭い意味での「地域中心主義」ではなく、あくまで世界に開かれた、国際化社会にふさわしい視野をもった「ふるさと学習」を心がけることである。 
 ★日常生活に必要な習慣や技能の獲得
engei    核家族・共働き・帰宅後の塾通いといった今日の多くの子どもの家庭生活を考えるとき、生活に必要な習慣や技能はあくまで家庭教育の課題であると指摘するだけではもはやなにも解決しない、という現状がある。「日常生活に必要な習慣や技能」の具体例としては、「安全な登下校」「日常生活上の整理整頓」「挨拶や話し合い」「決まりなどを大切にして仲良く生活する」など様々な項目が挙げられている。くれぐれも「しつけ科」さらには「おしつけ科」にならないよう教師は自覚しなければならないであろう。
 
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4 生活科の現状と課題  
 (1)生活科の現状
 生活科の学習内容は平成元年から平成10年度の改訂で大きく変わってきている。それまで一部にみられた「画一的な教育活動や単に活動するだけにとどまっている」状況を改善し、ゆとりをもって活動や体験をするためには内容を厳選し、1年生、2年生それぞれで行うことになっていた合計12項目の内容を2年間で行うようにし、8項目の内容に減らしている。また、活動や体験の中から児童が生み出す気付きを知的なものとしてとらえ、それを大切にする指導を促すように改訂されている。活動や体験をやりっ放しにするのではなく、児童たちの気付きが知的であることを認識し、それを児童が自覚できるようにしたり、高まっていくように指導したりすることの重要性を示している。さらに、各学校において、地域の環境や児童の実態に応じて創意工夫を生かした教育活動や重点的・弾力的な指導が一層活発に展開できるようにすることを促し、特色ある指導計画を作成することが期待されている。
 平成20年度の改訂では、知的な側面だけでなく、情意的な側面も含めた気付きの質が問われている。また、「安全教育の充実と小1プロブレムなどの問題を解決する」ことが挙げられ、学校の登下校においての安全面の不安が増大する中、安全教育や生命に関する学習活動を充実することが求められている。また、小1プロブレムは、生活科新設のきっかけにもなった現象であるが、体験を重視しつつ、小学校生活に適応すること、基本的な生活習慣等を育成すること、教科等の学習活動に円滑な接続を図ることなどが課題としてあがっている。10年度の改訂の内容をさらに深める内容になっているが、各学校も生活科創設25年を迎え、それぞれ内容が定着し、充実が図られてきている。 
 (2)生活科の課題
 生活科から総合的なの学習の時間への連続性
 生活科と総合的な学習の時間は、教科と領域であるが、両方を貫いている基本理念や方向性は同じである。創設の経緯、目標、学習 題材、学習の方法、評価等、生活科と総合的な学習の時間は、同じ理念、 同じ方向性をもっている。
 生活科と総合的な学習の時間を比べみると、生活科は、教科として目標とそれに基づく学習内容も細かく指示されており、定着も図られておおむね満足できるような学習状況が報告されている。しかし、総合的な学習の時間については、目標のみが示され学習内容は各学校が創意工夫を生かし、独自に計画、実践することが求められている。また、学校間の取組状況の違いなどが報告されており、教育効果には学校間で大きな違いが出ている。 
 (3)学校における課題の解決
 生活科は総合的な学習の時間との関連に配慮し、児童が一層自分の思いや願いを生かし、主体的に活動することができるようにするため、内容の取り扱いにおいて、「国語、音楽、図画工作などをはじめとした他教科との合科的・関連的な指導を一層推進する。」と示されている。
 今、学校でやるべきことは、「生活科から総合的なの学習の時間への連続性」を意識した6年間を見通した教育課程を編成することである。生活科から総合的な学習の時間への連続性を意識することで、双方がもっている問題点や課題が解決されるのではないかと考える。  
 生活科、総合的な学習の時間は、これまでの教師中心の授業を改め、子ども中心の授業、ひいては 子どもが主人公となる学校生活の構築をめざしているものといえる。
 5 生活科の教科書の変遷
 生活科のねらいから生活科には教科書は必要ないのではないか、という声もあった中で、生活科の教科書は創刊された。平成4年度から教科書が使用されてきた。これまでに2回の学習指導要領の改訂があり、それに伴って教科書も改訂された。どのように変化してきたかを大まかに述べる。
engei    (1)平成4年版(1992)使用の教科書
生活科の教科書では単元名が児童の言葉で表現されている。単元は児童の活動のまとまりで構成され一年間の中で教科書の登場人物が活動や体験をしながら成長していくというストーリー性を持たせている。具体的な活動を通しての学習であるため、教科書の内容はもちろんだが、これまでの教科書ではあまり見られなかった造本としての工夫がされるようになった。例えば、見開きのページを作る、型版の違うページを挟み込む、児童が書き込む、色を塗る、発見した物(葉っぱなど)を貼る、等である。 
(2)平成14年版(2002)使用の教科書
 今回の改訂では活動や体験の中から児童が生み出す気付きを知的なものとしてとらえ、それを大切にする指導を促すように改訂された。
それに伴い、人とのかかわり合う姿が多く示されるようになった。繰り返しかかわることで人や地域への愛情が育っていくとともに、気付きをより確かなものにするため振り返りや表現する活動場面が増えている。 
 また、内容が2年間まとめて示されたため、教科書は「上巻」「下巻」となり、2年間を通した活動となった。児童が書き込む、色を塗る、発見した物(葉っぱなど)を貼る等の方法はなくなっている。
 (3)平成23年版(2011)使用の教科書
 今回の改訂では気付きを質的に高めていく学習活動の充実が求められた。季節の様子を詳細に描いて児童が季節による違いを見つけたり、比較したりしながらじぶんのみぢかな場所の変化に関心をもつよう工夫されている。また、職業的な仕事をもつ人とのかかわりが増え、繰り返しかかわりながら気付きを深めていくよう工夫されている。また、巻末に「ポケットずかん」を付け、季節による生き物の様子を分かりやすく示している。
 さらに、平成27年度版(2015)においては、学校生活への適応や入学当初の「スタートカリキュラム」が示され、幼児教育との連携が配慮されている。 
 ちなみに、生活科の教科書を発行している会社は、平成4年度は12社であったが、平成27年度には8社となっている。
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◆ 参考文献
 1 文部省:「小学校学習指導要領解説生活編」平成元年(1989)
 2 文部科学省:「小学校学習指導要領解説生活編」平成10年(1999)
 3 文部科学省:「小学校学習指導要領解説生活編」平成20年(2008)
 4 文部科学省:「小学校学習指導要領解説総合的な学習の時間編」平成20年(2008)
 5 中野重人:「新訂生活科教育の理論と方法」 東洋館出版 平成4年 (1992)
 6 亀井浩明:「生活科と生涯学習の基礎」生涯学習研究e辞典 平成19年(2007)登録更新
 7 京都教育大学教育実践研究紀要:第11号 平成23年(2011)
 8 富山国際大学子ども育成学部紀要:第3巻 平成24年 (2012)
 9 渋谷区立神宮前小学校 研究紀要:平成26年 (2014) 
 10 生活科教科書 東京書籍:平成4年版(1992)、平成14年版(2002)、平成23年版(2011)
( 2015/05/01 記)  

以 上


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