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今回の調査で正答率が29.2%と最も低かった問題は、理科3 粒子に関する問題(6)物の溶け方の規則性(左図の問題)である。
水の温度と砂糖が水に溶ける量との関係のグラフから、水の温度が下がったときに出てくる砂糖の量を1から4までの中から1つ選び、選んだわけ記述する問題である。
この問題の出題趣旨は、析出する砂糖の量について分析するために、グラフを基に考察し、その内容を記述できるかをみることにある。
記述式の問題は3問であったが、他の2問の正答率は、1 (3)が63.0%、2 (5)が44.4%であった。(6)物の溶け方の規則性の正答率29.2%は非常に低い結果である。 正答は、「2 約75g」である。
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「溶けきれなくなって出てくるのは50℃と5℃のときの溶ける量の差」「50℃で溶ける砂糖の量260gと5℃で溶ける砂糖の量185gとの差」など、50℃のときと5℃のときの溶ける量の変化を示す趣旨で解答(記述)すると正解となるが、このような分析ができない児童が多かったと考えられる。
温度の変化に伴って変わる析出する量について、グラフを基に考察して分析することに課題がある。指導の充実が求められる。
学習指導に当たっては、変化とその要因とを関係付けて考える「問題解決の学習」をどのようにデザインするかが重要である。
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3 質問紙調査結果(小・中学校)の考察
「自然事象への関心・意欲・態度」については、平成24年度と同じように「児童生徒質問紙調査」によって調査された。
平成27年度「児童生徒質問紙」による理科の質問は13、平成 24年度14に比べて 1問少なかった。平成27年度の質問では、平成 24年度の質問紙「(71)科学や自然について疑問を持ち、その疑問について人に質問したり、調べたりすることがある……」「(80)理科の授業でものをつくることが好きだ……」の2問が削除された。一方、平成27年度は、「(77)理科の授業では、理科室で観察実験をどのくらい行いましたか」の1問が追加された。(77)が追加されたのは、理科の授業で「理科室があまり使われていない」、「観察・実験が行われていない(教科書による授業)」という指摘が度々あることから、理科室の利用の実態を把握するためと考えられる。
平成24年度調査での小学6年は、平成27年度調査では中学3年である。したがって、同じ児童生徒による3年間の変容を捉えることができる。
上記のグラフから分かるように、「(69)理科の勉強は好きですか」との質問に対しては、平成24年度調査では小学6年の81.5%が、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と肯定的だったのに対して、平成27年度の中学3年の質問(小学と同一質問)に対して、肯定的なのは、61.9%だった。理科の好きな児童生徒が、3年間で19.6ポイント減少したことになる。
「(74)理科の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか」との質問に対しては、平成24年度調査では小学6年の73.4%が「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と肯定的だったのに対して、平成27年度の中学3年の質問(小学と同一質問)に対して、肯定的なのは、54.6%であった。3年間で18.8ポイント減少したことになる。
国語や算数が、「将来、社会に出たときに役に立つ」と考えている児童生徒が80%を超えている(数学は80%未満)にもかかわらず、理科は54.6%と低迷している。
「(75)将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか」との質問に対しては、平成24年度調査では小学6年の28.5%が「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と肯定的だったのに対して、平成27年度の中学3年の質問(小学と同一質問)には、肯定的なのは、23.5%であった。5ポイントの減少である。
「(77)理科の授業では、理科室で観察や実験をどのくらい行いましたか(新規)」との質問に対しては、小学6年は「週1回以上46%」「月1回以上44.1%」中学3年は「週1回以上39.0%」「月1回以上44.5%」であった。理科室の利用率は中学校のほうか低い。このことが、中学校で理科好きが減少していく要因となるなら、早急に改善を図っていく必要がある。
平成24年度から27年度までの3年間に、4人の日本人がノーベル賞を受賞(「24年度:医学・生理学賞 京都大学 山中伸弥教授」、「26年度:物理学賞 名城大学 赤崎勇教授、名古屋大学 天野浩教授、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校 中村修二教授」)した。 日本の基礎科学の底力を世界に示すことになった。3年間に4人のノーベル賞受賞は、教育界に対しても大きな問題提起になったはずである。
日本の小・中学生は理科が好きで、成績も良い(2011年TIMSSと2012年のPISAの結果:理科の成績は向上)にもかかわらず、将来科学者や研究者に憧れる児童生徒は少ない。科学者や研究者を目指そうとしないのは何故か、原因を明らかにすることが重要である。
日本が科学技術立国として世界をリードしていくには、「科学技術やその研究」が、児童生徒の憧れの職業や将来の夢となることが重要である。それには教師が、科学者や研究者の発明や功績によって、社会生活が豊かに便利になったこと、科学者や研究者の多くは好奇心に溢れ、生涯、自ら見出した問題に立ち向かったことなどについて、児童生徒に語っていくとともに、理科の授業の楽しさを実感させていくことが重要である。そのためにも理科室での授業を大幅に増やすとともに、授業の改善を図っていくことが急務である。
4 学校質問紙調査
学校質問紙による調査は、「調査結果の活用」、「理科の指導方法」など、17項目(小学校)である。「調査結果の活用」では、「(26)児童生徒に対して、前年度に、放課後を利用した学習サーポートを実施しましたか」の質問に対して、小学校は「行っていない41.7%」「年に数回行った10.9%」、中学校は「行っていない41.7%」「年に数回行った10.9%」、であった。「(27)児童生徒に対して、前年度に、土曜日を利用した学習サーポートを実施しましたか」の質問に対して、小学校は「行っていない92.87%」、中学校は「行っていない %85.4」であった。
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「理科の指導法」では、「(71)児童生徒に対する理科の指導として、前年度までに、発展的な学習の指導を行いましたか。」の質問に対して、小学校「よく行ったどちらかといえば行ったと肯定的な回答は、47.6%」、中学校「(72)小学校と同質問」の質問に対して、肯定的な回答は、63.1%」であった。発展的な学習への取組は、小学校より中学校が15.5ポイント高かった。
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学校においては、調査結果を活用した取組を行うことが重要である。その際、教科の点数を上げるだけのものになってはならない。理科の指導に当たっては、「発展的な学習」「実生活における事象との関連」「科学的な体験や自然体験」「観察・実験の結果の分析・考察」などを重視した、授業のデザインを図ることが必要である。
5 全国学力テストから学力の全てを把握することは困難
学力テストで測れる学力は、学力の一部でしかない。主として「活用」に関する問題によって、思考力や判断力はある程度把握ができるようになってきた。しかし、自ら問題を見つけて他者と協力して解決する力などを把握するまでに至っていないことに大きな課題がある。
平成27年度全国学力・学習状況調査報告書5ページ「1.調査の概要(7)調査結果の解釈等に関する留意事項」において、「本調査は、幅広く児童生徒の学力や学習状況等を把握することなどを目的として実施しているが、実施教科が国語、算数・数学、理科の3教科のみであることや、必ずしも学習指導要領全体を網羅するものではないことなどから、本調査結果については、児童生徒が身に付けるべき学力の特定の一部分であること、学校における教育活動の一側面に過ぎないことに留意することが必要である。……」と記述されている。筆者も同感である。
現在、学校や教師は「学力」に振り回されているように思えてならない。学力向上を目指すことは重要である。しかし、現今の全国学力テストをはじめ、都道府県や市町村等の学力テストも年に何回となく行われていることは、周知の事実である。学力テストの点数を引き上げることが、生き抜く力を育成することに繋がる学力であると必ずしもいえないと考えるからである。したがって、学力テストによって、児童生徒の全ての学力を把握することはできないということを、きちんと認識して学力テストの分析、考察をすることが重要である。
今回の調査結果を分析し、考察することによって、児童生徒の「確かな学力」とは何かについてしっかり考え、その上に立って学力観を共有することが極めて重要である。
◆ 注釈
注1 主として「知識」に関する問題:身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用できることが望ましい知識・技能など
注2 主として「活用」に関する問題:知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力
◆ 参考文献
1:平成27・24年度全国学力・学習状況調査の調査問題(小学校理科)
2:平成27・24年度全国学力・学習状況調査報告書(中学校理科)
3:平成27・24年度全国学力・学習状況調査報告書(質問紙調査児童生徒)
4:平成27年度度全国学力・学習状況調査報告書(質問紙調査学校)
1〜4 文科省・国立教育政策研究所
5:読売新聞、日本経済新聞、朝日新聞
◆ 画像:Google画像より引用