提言87: 27年度全国学力テスト結果から 中学校では理科離れ 顕著に!

  文科省は平成27年8月25日、小学6年と中学3年を対象に4月に実施した平成27年度全国学力・学習状況調査の結果を公表した。東京都教育会は、平成27年4月に実施された学力テスト(理科)の出題問題の分析と児童生徒質問紙の問いの意図を踏まえて、平成27年5月「提言82:平成27年度全国学力テスト(理科)の問題を考察し、授業の改善を図ろう!」と題して、本会ホームページに掲載した。
 本提言では、文科省、国立教育政策研究所がまとめた「平成27年度全国学力・学習状況調査報告書の調査結果を分析、考察するとともに、平成24年度の調査結果とも比較して、筆者の見解を述べることにする。この提言が、児童生徒の学習活動や学校生活に生かされることを期待している。

1 平成27年度調査結果の概要 
 理科の学力テストは、3年前(平成24年度)初めて抽出方式で実施された。24年度に全国学力テストに参加した児童は261.726人、全員参加となった今回は1.074.194人となり、参加人数は大幅に増えた。
(1) 児童生徒の調査問題
 @ 教科の調査問題
 国語、算数(数学)は、それぞれ「主として『知識』に関する問題」(A)〈注1〉  と「主として『活用』に関する問題」(B)〈注2〉として出題された。
 一方、理科は「主として『知識』に関する問題」と「主として『活用』に関する問題」が一体的に出題された。
 A 児童生徒に対する質問紙調査
 学習意欲、学習方法、学習環境、生活の諸側面等について、質問紙による調査が24年度に引き続いて実施された。
(2)学校に対する質問紙調査  
 学校における「学力向上に向けた取組」、「調査結果の活用」、「指導方法・学習規律」などについて、質問紙による調査が実施された。
 
2 理科の調査問題(小学校)の結果と考察 
 27平成年度、24年度の問題の総数は24問で同数である。27年度の主として「知識」に関する問題は 9問(24年度は7問)で、2問増えた。主として「活用」に関する問題は15問(24年度は17問)で、2問減少した。
 平成27年度の「知識」に関する問題、「活用」に関する問題数の割合が変わったのは、平成24年度の調査結果を考察・吟味した結果のことと考えられる。
(1)分類・区分別集計結果と考察 
 次ページの27年度、24年度の「分類・区分別集計結果」から、対象設問数、平均正答率について、考察を試みる。(下記の図表は平成27年度と24年度全国学力・学習状況調査報告書「分類・区分別集計結果」)からの引用である。
kyougi     @ 枠組みに関する問題
 平成27年度に出題された24問のうち、主として「知識」に関する問題は9問、平均正答率は61.4%(平成24年度は69.2%)であった。
 主として「活用 」に関する問題は15問、平均正答率は60.7% (平成24年度は57.8%)であった。知識の活用力が2.9ポイント上昇したことになる。
 これまで、活用する力が弱いと指摘されてきたが、2.9ポイント上昇した背景には、学習の結果を、生活場面に当てはめて結論を得るなど、授業改善への取組が進展してきたものと考えられる。
kyougi     A 学習指導要領の区分等に関する問題
 学習指導要領の区分等に関するエネルギー、生命などの平均正答率は、平成27年度、24年度とも60%を超えたが、物質の平均正答率は、平成27年度が57.6%で、24年度より4.1ポイント低かった。4.1ポイント下がった要因は、今回の調査で正答率が29.2%と最も低かった「水の温度と砂糖が水に溶ける量との関係のグラフから、水の温度が下がったときに出てくる砂糖の量を選び、選んだ訳を記述する」ことに課題があったと考えられる。指導の充実が求められる。 
 地球区分に関わる内容の平均正答率は、27年度が57.9%、24年度が50.8%であった。物質、エネルギー、生命に比べて、27年度は3.6ポイント、24年度は12.6ポイント低い。
 地球区分は、地球の内部、地球の表面、地球の周辺などを学習の対象としているため、他の区分に比べて時間的にも空間的にもスケールが大きく、十分な観察・実験が行われず、資料等に基づいた学習活動の結果ではないかと考えられる。地球に関する観察・実験の工夫と授業の改善が必要である。
 B 評価の観点
 科学的な思考・表現の27年度の平均正答率は60.7%(平成24年度は57.8%)であった。24年度より2.9ポイント高くなった。
 2.9ポイントの向上を、これまで、課題とされてきた科学的な思考・表現が改善してきたと考えて良いだろうか。しかし、安易に判断することは避けたい。次回の学力テストの結果を考察し慎重に判断することが必要である。
 観察・実験の技能の27年度の平均正答率は55.6.%(平成24年度は46.3%)で、24年度より9.3 ポイント高くなった。しかし、科学的な思考・表現、自然事象についての知識・理解に比べて、27年度、24年度共に平均正答率が低いことに課題がある。観察・実験の技能を高めなければ、正しい観察・実験ができない。そのため、観察・実験の結果に対する信憑性が薄れる。また、結果を分析、考察して正しい結論を出すことも難しくなる。観察・実験の技能を高めることが非常に重要なこととして、教師一人一人がしっかり認識することが必要である。
 自然事象についての知識・理解の27年度の平均正答率は68.8.%(平成24年度は78.4%)で、24年度より9.6 ポイントも低くなった。低下の要因を多面的に追究することが重要である。
 C 問題形式
 27年度の選択式の問題数は18問、平均正答率は63.1%(24年度は問題数が15問 、平均正答率は65.2%)であった。27年度は24年度より2.1ポイント低かった。低下した要因は、両年度の問題数、出題内容、枠組みなどによるものと考えられるが、より詳細な分析と考察が必要である。
 27年度の短答式の問題数は3問、平均正答率は63.8%(24年度は問題数が6問 、平均正答率は64.1%)であった。27年度は24年度より0.3ポイント低かったが、ほとんど差がないと考えられる。
 27年度の記述式の問題数は3問、平均正答率は45.5%(24年度は問題数が3問 、平均正答率は34.7%)であった。
 27年度の記述式の正答率は、選択式や短答式に比べて17.9ポイント(24年度は30ポイント)も低い。このことは、「観察・実験」の結果を整理、分析して、解釈したり、説明したり、あるいは、問題解決の学習の過程を分かるように記述することに課題があるからである。しかし、27年度の記述式は24年度より10.8ポイント高くなった。3年間で10.8ポイント上がった。このことは、授業において、観察・実験の結果を分析・考察したり、解釈したりしたことを、記述できるようになってきたことを示している。
 児童が学習の過程や結果から情報を読み取り、分析、判断させるような指導をしなければならない。「観察・実験」に基づいて、考えさせたり、表現させたりする学習を強化することが今後も必要である。特に、観察・実験の結果に対する自分自身の解釈や話合いによって、自分自身の解釈したことがどのように変容していったかなどについても記述できるようにしたい。   
 (2)27年度問題で最も正答率が低かった問題の考察  
kyougi     今回の調査で正答率が29.2%と最も低かった問題は、理科3 粒子に関する問題(6)物の溶け方の規則性(左図の問題)である。  水の温度と砂糖が水に溶ける量との関係のグラフから、水の温度が下がったときに出てくる砂糖の量を1から4までの中から1つ選び、選んだわけ記述する問題である。  この問題の出題趣旨は、析出する砂糖の量について分析するために、グラフを基に考察し、その内容を記述できるかをみることにある。  記述式の問題は3問であったが、他の2問の正答率は、1 (3)が63.0%、2 (5)が44.4%であった。(6)物の溶け方の規則性の正答率29.2%は非常に低い結果である。 正答は、「2 約75g」である。
kyougi      「溶けきれなくなって出てくるのは50℃と5℃のときの溶ける量の差」「50℃で溶ける砂糖の量260gと5℃で溶ける砂糖の量185gとの差」など、50℃のときと5℃のときの溶ける量の変化を示す趣旨で解答(記述)すると正解となるが、このような分析ができない児童が多かったと考えられる。  温度の変化に伴って変わる析出する量について、グラフを基に考察して分析することに課題がある。指導の充実が求められる。  学習指導に当たっては、変化とその要因とを関係付けて考える「問題解決の学習」をどのようにデザインするかが重要である。

3 質問紙調査結果(小・中学校)の考察 
「自然事象への関心・意欲・態度」については、平成24年度と同じように「児童生徒質問紙調査」によって調査された。
 平成27年度「児童生徒質問紙」による理科の質問は13、平成 24年度14に比べて 1問少なかった。平成27年度の質問では、平成 24年度の質問紙「(71)科学や自然について疑問を持ち、その疑問について人に質問したり、調べたりすることがある……」「(80)理科の授業でものをつくることが好きだ……」の2問が削除された。一方、平成27年度は、「(77)理科の授業では、理科室で観察実験をどのくらい行いましたか」の1問が追加された。(77)が追加されたのは、理科の授業で「理科室があまり使われていない」、「観察・実験が行われていない(教科書による授業)」という指摘が度々あることから、理科室の利用の実態を把握するためと考えられる。
 平成24年度調査での小学6年は、平成27年度調査では中学3年である。したがって、同じ児童生徒による3年間の変容を捉えることができる。
kure     
 上記のグラフから分かるように、「(69)理科の勉強は好きですか」との質問に対しては、平成24年度調査では小学6年の81.5%が、「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と肯定的だったのに対して、平成27年度の中学3年の質問(小学と同一質問)に対して、肯定的なのは、61.9%だった。理科の好きな児童生徒が、3年間で19.6ポイント減少したことになる。
 「(74)理科の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つと思いますか」との質問に対しては、平成24年度調査では小学6年の73.4%が「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と肯定的だったのに対して、平成27年度の中学3年の質問(小学と同一質問)に対して、肯定的なのは、54.6%であった。3年間で18.8ポイント減少したことになる。
 国語や算数が、「将来、社会に出たときに役に立つ」と考えている児童生徒が80%を超えている(数学は80%未満)にもかかわらず、理科は54.6%と低迷している。
 「(75)将来、理科や科学技術に関係する職業に就きたいと思いますか」との質問に対しては、平成24年度調査では小学6年の28.5%が「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と肯定的だったのに対して、平成27年度の中学3年の質問(小学と同一質問)には、肯定的なのは、23.5%であった。5ポイントの減少である。
 「(77)理科の授業では、理科室で観察や実験をどのくらい行いましたか(新規)」との質問に対しては、小学6年は「週1回以上46%」「月1回以上44.1%」中学3年は「週1回以上39.0%」「月1回以上44.5%」であった。理科室の利用率は中学校のほうか低い。このことが、中学校で理科好きが減少していく要因となるなら、早急に改善を図っていく必要がある。
 平成24年度から27年度までの3年間に、4人の日本人がノーベル賞を受賞(「24年度:医学・生理学賞 京都大学 山中伸弥教授」、「26年度:物理学賞 名城大学 赤崎勇教授、名古屋大学 天野浩教授、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校 中村修二教授」)した。 日本の基礎科学の底力を世界に示すことになった。3年間に4人のノーベル賞受賞は、教育界に対しても大きな問題提起になったはずである。
 日本の小・中学生は理科が好きで、成績も良い(2011年TIMSSと2012年のPISAの結果:理科の成績は向上)にもかかわらず、将来科学者や研究者に憧れる児童生徒は少ない。科学者や研究者を目指そうとしないのは何故か、原因を明らかにすることが重要である。
 日本が科学技術立国として世界をリードしていくには、「科学技術やその研究」が、児童生徒の憧れの職業や将来の夢となることが重要である。それには教師が、科学者や研究者の発明や功績によって、社会生活が豊かに便利になったこと、科学者や研究者の多くは好奇心に溢れ、生涯、自ら見出した問題に立ち向かったことなどについて、児童生徒に語っていくとともに、理科の授業の楽しさを実感させていくことが重要である。そのためにも理科室での授業を大幅に増やすとともに、授業の改善を図っていくことが急務である。

 4 学校質問紙調査  
 学校質問紙による調査は、「調査結果の活用」、「理科の指導方法」など、17項目(小学校)である。「調査結果の活用」では、「(26)児童生徒に対して、前年度に、放課後を利用した学習サーポートを実施しましたか」の質問に対して、小学校は「行っていない41.7%」「年に数回行った10.9%」、中学校は「行っていない41.7%」「年に数回行った10.9%」、であった。「(27)児童生徒に対して、前年度に、土曜日を利用した学習サーポートを実施しましたか」の質問に対して、小学校は「行っていない92.87%」、中学校は「行っていない %85.4」であった。
kure     「理科の指導法」では、「(71)児童生徒に対する理科の指導として、前年度までに、発展的な学習の指導を行いましたか。」の質問に対して、小学校「よく行ったどちらかといえば行ったと肯定的な回答は、47.6%」、中学校「(72)小学校と同質問」の質問に対して、肯定的な回答は、63.1%」であった。発展的な学習への取組は、小学校より中学校が15.5ポイント高かった。  
 学校においては、調査結果を活用した取組を行うことが重要である。その際、教科の点数を上げるだけのものになってはならない。理科の指導に当たっては、「発展的な学習」「実生活における事象との関連」「科学的な体験や自然体験」「観察・実験の結果の分析・考察」などを重視した、授業のデザインを図ることが必要である。
5 全国学力テストから学力の全てを把握することは困難 
 学力テストで測れる学力は、学力の一部でしかない。主として「活用」に関する問題によって、思考力や判断力はある程度把握ができるようになってきた。しかし、自ら問題を見つけて他者と協力して解決する力などを把握するまでに至っていないことに大きな課題がある。
 平成27年度全国学力・学習状況調査報告書5ページ「1.調査の概要(7)調査結果の解釈等に関する留意事項」において、「本調査は、幅広く児童生徒の学力や学習状況等を把握することなどを目的として実施しているが、実施教科が国語、算数・数学、理科の3教科のみであることや、必ずしも学習指導要領全体を網羅するものではないことなどから、本調査結果については、児童生徒が身に付けるべき学力の特定の一部分であること、学校における教育活動の一側面に過ぎないことに留意することが必要である。……」と記述されている。筆者も同感である。
 現在、学校や教師は「学力」に振り回されているように思えてならない。学力向上を目指すことは重要である。しかし、現今の全国学力テストをはじめ、都道府県や市町村等の学力テストも年に何回となく行われていることは、周知の事実である。学力テストの点数を引き上げることが、生き抜く力を育成することに繋がる学力であると必ずしもいえないと考えるからである。したがって、学力テストによって、児童生徒の全ての学力を把握することはできないということを、きちんと認識して学力テストの分析、考察をすることが重要である。
 今回の調査結果を分析し、考察することによって、児童生徒の「確かな学力」とは何かについてしっかり考え、その上に立って学力観を共有することが極めて重要である。
 
 ◆ 注釈
 注1 主として「知識」に関する問題:身に付けておかなければ後の学年等の学習内容に影響を及ぼす内容や、実生活において不可欠であり常に活用できることが望ましい知識・技能など
 注2 主として「活用」に関する問題:知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力
 ◆ 参考文献 
 1:平成27・24年度全国学力・学習状況調査の調査問題(小学校理科) 
 2:平成27・24年度全国学力・学習状況調査報告書(中学校理科)
 3:平成27・24年度全国学力・学習状況調査報告書(質問紙調査児童生徒)
 4:平成27年度度全国学力・学習状況調査報告書(質問紙調査学校)
   1〜4 文科省・国立教育政策研究所
 5:読売新聞、日本経済新聞、朝日新聞 
 ◆ 画像:Google画像より引用
( 2015/09/09 記)  

以 上


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