提言94: 2020年東京大会のレガシー(遺産)を世界へ発信しよう!
 
 東京オリンピック開幕は、2020年7月24日である。カウントダウンはすでに4年4か月を切り、競技施設などの準備も本格化し始めた。
 スポーツを通した人間育成と世界平和を目指す世界的な祭典であるオリンピック・パラリンピックは、開催国となる日本にとっては、日本の魅力を世界に向けて発信する絶好の機会である。そして2020年とその後の日本に価値ある有形・無形の遺産(レガシー)を築く機会でもある。  
 国際オリンピック委員会(IOC)が定めるオリンピック憲章には「オリンピック競技大会の優れた遺産を開催国と開催都市に残すことを推進する」と明記されており、IOCが特に重視するテーマでもある。
 2013年9月7日、2020年オリンピック・パラリンピック招致の最終プレゼンテーションが行われた。そのプレゼンテーションで、日本は東日本大震災地を勇気づける「スポーツの力」や「競技大会の優れたレガシーを未来に継承する」など、開催意義を強調した。
 世界に誇れるレガシーを未来に継承するにはどうするか、筆者の見解を述べてみたい。
 
1 レガシーを未来へ継承する東京大会開催基本計画
  2013年9月7日、「トウキョウ」とIOCのロゲ会長が、2020年夏期オリンピック・パラリンピックの開催都市を読み上げた瞬間、会場にいた東京招致委員会のメンバーは喜びを爆発させた。そして、東京をはじめ日本中が期待と高揚感に沸き上がった。
 2020年東京大会開催まであと4年4か月、国を挙げて準備に万全を期し、スポーツの祭典を成功させなければならない。
 大会組織委員会は、2020年東京大会の成功に向け「大会開催基本計画」を作成し、2015年2月27日、IOC及び国際パラリンピック委員会(IPC)へ提出した。
 大会開催基本計画の冒頭には、「世界で最も先進的で安全な都市で、ダイナミックなスポーツの祭典と五輪の価値を提供」、「高い質と最高の恩恵が保証される大会の開催」、「ダイナミックさと温かい歓迎で世界中の若い世代に感動を与える祭典」、「日本が誇る創造力とテクノロジーを駆使し、スポーツとオリンピックに寄与する革新性」など、2020東京大会のビジョンが記述されている。
 大会開催基本計画には、「競技大会の日程」、「具体的な大会ビジョン」、「会場配置」、「都市再開発」「インフラ整備」などについて記述されている。
(1)2020年東京大会の日程
◆ オリンピック競技大会開催日程
@ 正式名称:第32回オリンピック競技大会
A 開催期間:2020年7月24日(金)〜2020年8月9日(日)
B 競技数:28競技
◆ パラリンピック競技大会開催日程
@ 正式名称:東京2020パラリンピック競技大会
A 開催期間:2020年8月25日(火)〜2020年9月6日(日)
B 競技数:22競技
(2)大会ビジョン3つの基本コンセプト
 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が、大会開催基本計画の冒頭で示した大会ビジョンを具体的に示したのが下図の「3つの基本コンセプト」である。
kyougi   
 
 全ての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)、一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)、そして、未来につなげよう(未来への継承)を3つの基本コンセプトとし、史上最も革新的で、世界にポジティブな改革をもたらす大会を目指すとなっている。
 @「全員が自己ベスト」
 オリンピック・パラリンピックはスポーツの祭典である。したがって、万全の準備と運営によって、安全・安心で、全てのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会にすることが重要である。  
 一方、競技会場の整備や大会運営に活用されるテクノロジーは、世界最高水準のものを用い、競技会場の整備や大会運営に活用することが求められている。
 また、ボランティアを含め、全ての日本人が創意工夫を凝らし、大会に来訪した世界中の人々に最高の「おもてなし」で迎えることが大切である。観客もアスリートと一体となって大会を盛り上げ、最高の体験を共有できる大会にしたい。
 A「多様性と調和」
 世界は多様であり均質ではない。人種、肌の色、性別、言語、宗教、政治、障害の有無など、あらゆる面での違いを肯定し、互いに認め合うことが、平和を維持し更なる発展を遂げることが基盤である。それを目指すのが五輪の精神であり、それを可能にするのがスポーツの力である。
 2020東京大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会を育む契機となる大会にしたい。
 B「未来への継承」
 1964東京大会は日本を大きく変えた。世界を強く意識し、高度経済成長期に入る契機ともなった。いくつかの競技施設は、スポーツの聖地としてその後も活用されてきた。その中には、2020東京大会の競技会場として再び活用される施設もある。 
 当時整備された高速道路や新幹線は、我が国の高度経済成長の基盤となり、現在もなお日本の経済活動、文化活動を支える不可欠なインフラとなっている。
 2020東京大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していくことが求められている。
(3)競技会場の設置計画
 日本オリンピック委員会(JOC)は、2020東京大会の競技会場等を、2019年までに整備することを決めた。新設競技会場は国立競技場をはじめ11、選手村1、既存の競技会場13、既存の改築競技会場3、仮設競技会場11などである。
 1964東京大会でも使用された代々木競技場や日本武道館など、過去のレガシーを活かした競技場は「ヘリテッジゾーン(注1)」にある。改築が必要な競技場はこれから整備される。  
 選手村や新設の競技会場は、有明・お台場・夢の島・海の森など、東京湾に面した「東京ベイゾーン」に建設される。建設の準備は既に始まっている。
 一方、一部の競技は東京西部の武蔵野エリアにある競技場で行われるほか、サッカーの一部やゴルフ・射撃などは、地方都市の競技会場で行われる。
 @ 半径8km圏内の競技会場
kyougi     東京圏にある33競技会場のうち28会場、IOCホテル、国際パラリンピック委員会(IPC)などは、選手村から半径8km圏内に設置され、コンパクトな大会開催を目指している。
 過去のレガシーを遵守しながら未来へのビジョンを示すため、競技会場や運営などをテーマ別に2つのゾーンに分けた。1つは1964東京大会のレガシーが集積する「ヘリテッジゾーン」、もう1つは未来に向けて発展する東京の姿を象徴する「東京ベイゾーン」である。
 A 東京都西部と東京都外の競技会場
 一部の競技会場は東京西部の武蔵野エリアで行われるほか、サッカーの一部やゴルフや射撃などは地方都市での開催となる。一部の競技が地方都市で開催されることによって、地方都市のスポーツの振興やその地域の再開発に繋がると考える。また、外国人旅行者の地方への誘客拡大による観光振興、団体及び個人等の参画拡大などが期待される。
 (4)「東京ベイゾーン」の再開発
 2020東京大会は、単に数週間のイベントではない。大会招致が決定して以来、大会開催まで何年間もかけて、開催都市の再開発を始め、選手村や数多くの競技施設などの建設が必要となる。また、地域全体を含めた環境を始め競技会場などは、レガシーとして継承され、活用されなければならない。
 都市再開発で最も重要なことは、環境に優しい持続可能な都市にしていくことである。大気汚染やCO2の削減など、環境対策に本腰を入れていくことが求められている。
 2015年12月、フランス・パリで開催されたCOP21は、2020年以降の温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を正式に採択して閉幕した。条約加盟196か国・地域が、CO2の排出量削減目標を国連に提出し、達成のための国内対策が義務付けられた。日本のCO2の排出量削減目標は、2030年までに2005年比で25.4%である。「東京ベイゾーン」の再開発に当たっては、「パリ協定」を踏まえて、推進しなければならない。
 2016年1月26日、読売新聞は、「中央区は、25日東京湾の晴海埠頭で毎年8月に行われる花火大会『東京湾大華火祭』を当面中止する」と報じた。この花火大会は、1998年に始まり、昨年で27回を数える「夏の風物詩」であった。しかし、晴海地区は2020東京大会の「選手村」を整備する工事が始まったからである。このように、都市の再開発には、イベントや地区の祭りなどがやむなく中止になる場合がある。それ故、再開発に当たっては、地域住民の理解と協力を得ることが必要である。また、工事に伴って環境破壊や騒音なども懸念される。安全面にも十分な配慮をして再開発を推進しなければならない。
 「東京ベイゾーン」は、大会終了後も様々な人々が集い、交流し、発展、最新の情報を発信していく国際交流拠点となるように整備しなければならない。
 (5)環境負荷の少ないインフラ整備
 2020年東京大会の目玉は、選手村から半径8km圏内に33競技場のうち28競技場を設置するコンパクトさである。したがって、選手村から競技会場への移動は、世界で最も発達し効率の良い東京の公共交通機関を最大限に利用することになる。公共交通機関の利用は、成熟した大都市ならではの利点である。しかし、観光客などが狭い地域に集中し、会場間の移動に使う短距離交通網に大きな負荷がかかることが予測される。また、都内の慢性的な交通渋滞や交通網による環境負荷を最小化す対応を考えなければならない。
 @ 東京メトロ有楽町線を豊洲〜住吉まで延伸 
 東京都東部から豊洲駅(東京メトロ有楽町線)から住吉駅(都営新宿線)間の約5.2kmの延伸計画を東京ベイエリアの江東区が推進している。これが実現すると、臨海副都心への南北の交通が格段に便利になる。2020年東京大会までには整備したいものである。
 A 自転車走行道路の整備 
 自転車は手軽な交通手段である。環境にやさしく、健康増進にもなることから、東京都では「東京都自転車走行空間整備推進計画」を策定した。2020年度までに「東京ベイゾーン」を含めて約100qの自転車走行道路を整備する予定になっている。
 B 低公害かつ低燃費の自動車使用
 2020年東京大会で使用する大会関係車両は、全て電気自動車、燃料電池自動車やハイブリッド車など、低公害・低燃費の自動車の使用が検討されている。環境に優しい取組である。大会終了後には日本全国に普及していくことも期待される。
 C 水素燃料で走行するエコカーの普及
 日本は、2020年の東京大会に向け「水素社会」の実現を目指している。中でも開催地となる東京都は水素燃料で発電しながらモーター走行をする究極のエコカー「FCV」の普及に力を入れている。東京都では都内のFCV普及台数と水素ステーションの整備箇所数を2030年までの数値目標を設定し、都内のFCV普及台数を増やすことを目指している。
 
 2 2020年東京大会レガシーの継承  
 五輪大会は世界最大級のスポーツの祭典である。スポーツを起点として新たな発展や質的向上をもたらすことが期待されている。五輪開催による成果を IOCは、五輪レガシーと呼び、スポーツ、文化、教育、環境、都市、経済などの分野で築くことを目指している。
 1964東京大会は、戦後復興・高度成長の象徴として、発展する我が国の存在を国際社会にアピールする場となった。東海道新幹線、首都高速道路に代表される社会基盤整備、新ビジネスの誕生、国民の自信回復、戦後復興・平和国家のアピールなど、高度経済成長と国民の豊かさを実感する様々なレガシーを創り出した。
 2020東京大会は、東日本大地震の被災地の復興も含めて、日本全国の積年の課題を解決し、それをレガシーとして未来に引き継ぐ機会としなければならない。
 1964東京大会で使用した競技会場の整備や新設する競技会場の建設と「ヘリテッジゾーン」・「東京ベイゾーン」を中心とした周辺の再開発、また、多くの競技会場がある「東京ベイゾーン」へのアクセスを始め、移動するための道路や鉄道の整備なども、大会開催 6 か月前までに完成しなければならない。
 (1)選手村の整備 
 2020東京大会で各国選手団が使用する選手村(東京・晴海)の整備は、「東京ベイゾーン」の再開発の一環である。
 舛添要一東京都知事の「選手村を限られた時間の中で確実に整備し、大会後のレガシーとして、魅力ある街にするには計画策定の段階から民間事業者のノウハウを取り入れることが不可欠」であると判断し、住宅棟整備を担う特定建築業者を選定した。都は、それらの事業協力者らと2020東京大会後の施設改修のあり方や、スマートエネルギーシステム(注2)の導入方策など、街の将来像を見据えながら施設の詳細な検討を進めている。
 選手村の建設地は、中央区晴海5丁目である。建物は、住宅棟22棟、超高層タワーの住宅棟2棟、商業棟1棟の合計25棟で構成し、総延べ床面積は約67万7900m2(総戸数約5950戸)である。1日当たり五輪出場選手など7万人が宿泊できるように計画された。建設費は1057億円を見込んでいる。2016〜2019年度の1期工事で選手村関連施設を建設し、大会後(2020〜2023年度)の2期工事で宿泊棟として建設した建物を分譲マンションに改修する予定になっている。
 (2)白紙撤回になった新国立競技場案
 半世紀前に建設された国立競技場を新設するに当たり、現代の技術と知性を結集した最高の建築を目指して、「新国立競技場国際デザインコンクール」が行なわれた。46点のデザイン案の応募があり、2012年10月、46点の中から最終審査の対象となるデザイン案11点を選定し、その中から最優秀賞1点、優秀賞1点、入選1点を決定した。最優秀賞は、イギリス在住の女性建築家ザハ・ハディド氏のデザイン案に決定した。         
kyougi     左の写真が、ザハ・ハディド氏デザイン案の新国立競技場である。当初予算の1300億円を大幅に超える3000億円と算出された。2014年に規模を縮小し、1625億円の予算とされたが、2015年には、2520億円に膨らむことが明らかになった。また、建物が巨大すぎて、「神宮の森」の景観が破壊されるなどの批判も表出し、再考が求められた。
 このような経緯を経て、2015年7月17日、安倍晋三首相は建設計画の白紙撤回を決断し、白紙見直しとなった。
(2)白紙撤回後の新国立競技場
 2015年08月28日、政府は2020年東京大会のメイン会場となる新国立競技場の新たな整備計画を決定した。総工費の上限を1550億円に設定し、観客席を6万8000席にとどめ、2015年11月にデザインや設計、施工を一括して決める国際コンペを実施し、2020 年4月末までの完成を目指すことになった。
kyougi     ← 新設される新国立競技場 
 2015年12月14日、日本スポーツ振興センターは、2020年東京大会メイン会場となる新国立競技場整備計画(建設企業が提案したデザインやコストなどを記した「技術提案書」)2案を公表した。
 2案は共に木材の特徴を生かしたデザインで、工期は2019年11月末、総工費は1500億円弱である。2案の中から、建築家の隈研吾氏がデザインしたA案が採用された。
 隈研吾氏はデザイン案のコンセプトについて、「木と緑のスタジアム」であると説明した。スタジアムの外側には日本在来の植物を植え、周囲の環境と調和するよう配慮し、屋根のひさしの軒の部分には木材が使用される。これについて、隈氏は、「法隆寺の五重塔のひさしの軒が美しい。これを現代に蘇らせようと考えた」と説明したように、日本の伝統的な建築が取り入れられた。また、屋根の木材は国産のカラマツを使用することになっている。木に囲まれている暖かさ、柔らかさが感じられる設計である。このように環境に配慮し、国産のカラマツ材が大量に使われることは、非常に意義のあることと考える。国産カラマツ材の生産地である、北海道、長野、岩手などの地方の活性化が期待される。また、林業が蘇り雇用の拡大など、地方の創成にも繋がっていくとも考えられる。
 (3)「有明アリーナ」等の新設会場の建設
 2020東京大会では、国立競技場のほかに、「有明アリーナ」や「海の森水上競技場」など、施設の建設が2016年度以降に、それぞれの工事が始まる。 有明アリーナは、バレーボールの会場となり、大会後は様々な室内競技大会やイベントを行うことができる大規模体育館となる。注目を集めるバレーボールの国内リーグの会場となるほか、東京がこれまで多数開催してきた国際大会の際にも使用されなければならない。各種の競技施設が大会終了後50年以上にわたって継承されていくレガシーになることを、今後の建設を通して考え、未来へのレガシーの創造となるよう期待する。競技施設の中には、コスト削減による見直しによって、当初の計画から変更するものも多く出てきた。大会後の活用を十分に考えた変更でなければ意味がない。
 (4)2020年東京大会エンブレムの白紙撤回
 コンペで選ばれた佐野研二郎氏のデザイン(応募は国内100・海外4の計104作品)が発表・公開された。そして、佐野研二郎氏のデザインのエンブレムが2020年東京大会のエンブレムとして決定した。しかし、リエージュ劇場のロゴと似ていると指摘され、デザインを手がけた佐野氏に盗作疑惑が浮上した。その後の調査結果、当初案が選定後に大会組織委員会などから「類似する商標を複数確認した」と指摘され、2015年9月1日に白紙撤回された。ザハ・ハディド氏デザイン案の新国立競技場、エンブレムの白紙撤回が引き続いたことによって、IOCをはじめ、世界の国々から不信感を持たれることになりかねない不祥事であったと考えられる。
kyougi      左図が、大会組織委が白紙撤回したエンブレムである。その後大会組織委員会のエンブレム委員会が、子どもにも門戸を開くなどとしたデザインを再公募、1599点の応募があった。新エンブレムは、候補作品は国内外の商標調査などを経て一般公開し、国民の声を最終審査に反映したうえで、春には新エンブレムが決定される。
 新国立競技場の新設やエンブレムの問題で、大会組織委員会を新国立競技場の新設やエンブレムの問題で、大会組織委員会を始め意思決定の閉鎖性が明らかになったことを踏まえ、今後は「オールジャパン」体制で臨むことになった。掛け声だけにならないためにも、国民が納得できる透明性を持ち、説明責任を果たしながら着実に進めていかなければならない。
 
 3 学校教育で創造する2020年東京大会レガシー
 五輪は一過性の単なるスポーツイベントではない。2020年東京大会開催後を見据え、大会が開催される2020年をスタートとして捉え、努力の尊さ、フェアプレーの精神、思いやりやボランティア精神、多様性を尊重する態度などを、大会のレガシーとして児童生徒にしっかりと培っていくことが重要である。
 (1)オリンピック・パラリンピック教育推進校の指定
  東京都教育委員会は、2020年東京大会開催を踏まえ、いろいろな取組を行ってきた。2020年東京大会までの間、五輪教育を展開していくために、その教育実践の研究開発を行うことを目的とした「オリンピック・パラリンピック教育推進校(2014年度は300校、2015年度は600校)を指定し、教育実践の研究開発を推進してきた。2016年度は、「オリンピック・パラリンピック学習読本(小学校高学年編、中学校編、高等学校編)」を2016年3月まで作成完了及び全校配布し、4月以降全校で学習読本による学習が開始される。
 (2)日本の良さを世界へアピール
 2020東京大会は、成熟した大都市東京が日本の伝統・文化、「おもてなし」、「和の精神」など、日本的な価値観や最先端技術などを世界へ発信するまたとない機会である。
 そのため、2020東京大会に向け児童生徒が自国の文化・伝統、及び日本人としての自覚と誇りを身に付け、日本の良さを世界へ示す意欲と実践力を育むことが必要である。さらに、世界各国の子どもたちとの交流を促進し、異文化を尊重し理解する態度を身に付け、国際親善と平和な社会の発展に貢献できる資質能力を育てることが重要である。各学校における多様な実践が望まれる。
 (3)スポーツ教育振興絶好のチャンス
 2020東京大会の開催が決定して以来、2016年リオデジャネイロ大会及び2020東京大会出場を目指して、多くの児童生徒が大会出場を目指して努力してきたにように考えられる。 中学校・高等学校の生徒で才能に恵まれ、2020東京大会出場への目標と意欲を持って、適切なトレーニングを積み重ねれば、世界レベルに達することはできると考えられる。したがって、今後、中学総体、高校総体、国民体育大会、各種世界選手権などにおける成績が、2020東京大会出場に向けてのステップとなる。
 2016リオデジャネイロ大会出場の各競技の前哨戦が行われている。2016年1月30日には、アジア地区最終予選U-23・決勝「日本X韓国」が行われ見事優勝し、リオデジャネイロ大会への出場権を得たのを始め、これまで出場権を得た競技種目や出場内定の選手も決定し始めている。これらの種目チームや出場内定の選手は、2020東京大会開催が決定して以来、大会出場を目指して並々ならぬ努力をしてきた結果と思われる。また、リオデジャネイロ大会出場に涙をのんだ選手の中には、2020東京大会出場を目指して努力を誓った選手も多くいると思われる。学校や各競技団体は、こうした児童生徒の夢を叶えるよう、最大の努力を積み重ねてくことが重要である。
 (4)外国語等グローバル化に対応する教育の充実
 2020東京大会に向けて、社会のグローバル化は一層加速する。東京大会は、グローバルな社会で、「生き抜く力」を養成するチャンスでもある。特に、五輪を契機として継続的に英語力のアップを図ることも必要である。2020年には、英語も必修の教科となることを踏まえ、現在の「英語活動」の充実を図り、「使える英語」の指導が必須である。
 (5)2020東京大会のボランティア活動
 大会の運営に欠かせないのがボランティアの存在である。世界中の大会で多くの人が通訳や会場の案内等に携わった。特に、パラリンピック出場の選手を支えるボランティアは、選手と同数ぐらい必要である。競技によって使用する器具や車椅子などが異なることを、十分に踏まえて、ボランティアとしての役割を果たしていかなければならない。
 (6)外国人旅行者への対応
 2015年に日本を訪れた外国人旅行者は、1973万人となり、3年連続で過去最高を更新した。2020東京大会には、2000万人を超えると予測されている。児童生徒がこうした外国人への対応も身に付け、「おもてなしの心」や日本の文化・伝統を発信するとともに、外国人からも多くの国の文化・伝統・習慣などを学ぶことが必要である。外国人にとって魅力ある国にしていくことが重要である。
 (7)事前キャンプ誘致への取組
kyougi   
 上記の図は、平成28年1 月20日、横浜市・川崎市の記者発表の資料から引用した一部である。英国オリンピック代表チームのキャンプ地が横浜・川崎に決定したという内容である。また、1月26日には、カナダ競泳チームが和歌山県を事前キャンプ地に選定した。  このように、今年に入って早々に2か国の事前キャンプ地が決定したのは、自治体が2020東京大会の事前キャンプ誘致活動を昨年から行った結果によるものである。今後も事前キャンプの申込みが続くと思われるが、更に事前キャンプの誘致活動を推進し、2020東京大会に参加する国・地域からの申込みを増やしたいものである。
 自治体においては、各国の代表チームを積極的に受け入れるとともに、地域住民とチームや選手との幅広い交流を通じたレガシーの創出を目指すことが重要である。       児童生徒も地域住民として、居住地で行われる各国・地域のキャンプに接することができる。また、キャンプを行っている国の文化・伝統・習慣などを直接学ぶとともに、その国を応援し相互理解を深めていくことが必要である。
 学校では、2020東京大会に出場する代表選手との交流をはじめ、異文化やその国の歴史や伝統などを学ぶ最高の機会であると捉え、教育活動をデザインしていくことが重要である。
 
 ◆ 注 釈
 注1 ヘリテッジゾーン:1964年の東京オリンピックでも使用された代々木競技場や日本武道館など過去の遺産を活かしたゾーン
 注2 スマートエネルギーシステム:災害時に必要となる機能を維持する最低限の電力や熱などを供給することができる分散型のエネルギーシステムの導入
 
 ◆ 参考文献 
 1 2020東京大会立候補ファイル(JOP)
 2 2020東京大会招致計画(JOP)
 3 2020東京大開催基本計画(大会組織委員会)
 4 東京五輪施設(大会組織委員会)
 5 東京五輪施設(大会組織委員会)
 6 ヘリテッジゾーン再開発計画 (東京都・大会組織委員会)
 7 東京オリンピック新国立競技場の新設に関する報道
 8 東京オリンピックエンブレムに関する報道
 9 東京都教育委員会ホームページ
10 読売新聞・朝日新聞
( 2016/03/10 記)  

以 上


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