提言98: 不登校児童生徒の問題に学校教育はどう取り組むか
 不登校児童生徒について、文部科学省は「不登校児童生徒とは、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいはしたくともできない状況にあるため、年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義している。
 不登校児童生徒数の調査は1991(平成3)年度に開始され、毎年行われている。1991(平成3)年度における不登校児童生徒数は66,817人であったが、約10年後の2001(平成13)年度には138,722人となり、この間に、不登校児童生徒は2倍以上に増加している。
 また、2001(平成13)年度の不登校児童生徒が在籍する学校数は、小・中学校全体(34,148校)のうち、19,683校(全体の57.6%)に達している。2校に1校の割合で不登校児童生徒が存在していることがわかる。
 2014(平成26)年度の国公私立小・中・高等学校の不登校の児童生徒数は小中高を合わせて176,056人(前年度175,272人)、うち小学校が25,866人(255人に1人)、中学校が97,036人(36人に1人)、平成16年度から調査を開始した高等学校では53,154人(63人に1人、)となり、小中高合わせて17万人以上となり、前年度に比較すると、小・中学校では増加の傾向にあり、高等学校では減少という状況にあるという。このことを踏まえ、不登校問題についての見解を述べる。(注1)

1. 不登校になったきっかけは
 全国的には、「文部科学省・児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(平成26年度)によると、不登校になったきっかけと考えられている状況として、小学校では、「不安など情緒的混乱」(36.1%)、「無気力」(23.0%)、「親子関係をめぐる問題」(19.1%)、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(11.2%)、「家庭の生活環境の急激な変化」(9.2%)である。その他、「学業の不振」、「病気による欠席」などが、そのきっかけとして低位ではあるが挙げられている。
 中学校では、「不安など情緒的混乱」(28.1%)、「無気力」(26.7%)、「いじめを除く友人関係をめぐる問題」(15.4%)「学業の不振」(9.2%)、その他「親子関係をめぐる問題」、「クラブ活動、部活動などへの不適応」「遊び・非行」「家庭内の不和」などが挙げられている。
 東京都教育委員会の「不登校・中途退学対策検討委員会報告書」によると、 2014(平成26)年度の都内公立小・中学校の不登校児童生徒は10,079人、不登校児童生徒の割合は小学校2,565人、中学校7,514人、1校当たりの平均不登校者数は、小学校2.0人、中学校11.9人であるという。 
 ちなみに、学校への復帰率は、小学校では33.3%、中学校では25.1%で、年度を越えて不登校状態にある児童生徒が多いという。また、支援機関等の相談、指導を受けていない不登校児童生徒は、小学校で9.4%、中学校15.6%であるという。
 2014(平成26)年度の都立高校の不登校生徒は全日制870人、定時制2,662人の計3,532人となっており、全日制1,093人、定時制3,600人の計4,693人の不登校生徒が出た2012(平成24)年度を最高として、その後の2年は減少の傾向にあるという。また、不登校生徒の割合は定時制高校で高くなっている。
 不登校に結びつく要因としては、家庭の教育力の低下により基本的生活習慣が身につかずに不登校となったこと、無気力で何となく登校しない児童生徒が増加したこと、また、無理に登校させず、フリースクールに通学させるなどの選択を行っていることなどが不登校の背景にあるということもできる。

2. 不登校についての対応について 
 2003(平成15)年5月、文部科学省は「不登校への対応の在り方について」と題する通知を、初等中等教育局長名で、都道府県・指定都市教育委員会教育長をはじめとする教育関係諸機関宛に出している。
 この通知の冒頭において、「不登校に対応する」上で、持つべき基本的な姿勢として、
 @ 不登校については、特定の子どもに特有の問題があることによって起こることではなく、どの子どもにも起こりうることとしてとらえ、関係者は、当事者への理解を深めること。
 A 不登校という状況が継続すること自体は、本人の進路や社会的自立のために望ましいことではなく、対策を検討する重要性について認識を持つ必要があること。
 B 不登校については、その要因、背景が多様であることから、教育上の課題としてのみとらえて対応することが困難な場合もある。しかし、児童生徒に対して、教育が果たす役割、果たすべき役割が大きい。一層充実した指導や家庭への働きかけを行うことにより、不登校に対する取組の改善を図る必要がある。
 との観点を示している。
 不登校に対する基本的な考え方は、
 @ 将来の社会的自立に向けた支援を行うことである。不登校を「心の問題」としてのみとらえるのではなく、「進路の問題」としてとらえ、本人の進路形成に資するような指導・相談や学習支援、情報提供等の対応をする必要がある。
 A 学校、家庭、地域が連携協力して不登校の児童生徒がどのような状況にあり、どのような支援を必要としているかを正しく見極め、連携ネットワークによる協力を行い、適切な支援と多様な学習の機会を児童生徒に提供することに努めることが大切である。
 B 小・中学校という義務教育段階の学校は、将来の社会的自立のための学校教育の意義・役割を自覚すること。自ら学び自ら考える力などを含めた「確かな学力」や基本的な生活習慣、規範意識、集団における社会性など、社会を構成している一員として必要な資質や能力等をそれぞれの発達段階に応じて育成する機能と責務を有しており、すべての児童生徒が学校に楽しく通うことができるよう、関係者は学校教育の一層の充実のための取組を展開する必要がある。
 C 児童生徒の立ち直る力を信じることが大切である。しかし、児童生徒の状況を理解しようとすることなく、あるいは必要としている支援を行うことをせず、ただ待つだけでは状況の改善にならないという認識を持つことが必要である。
 D 家庭への適切な働きかけや支援について、時機を失することなく、児童生徒のみならず家庭への適切な働きかけや支援を行うなど、学校と家庭、関係機関との連携を図ること。
 など、学校にはこの考えに基づいて「将来の社会的自立に向けた支援」を行うことを求めている。
 ここにも示されているように、不登校を「心の問題」とだけとらえるのではなく、「進路の問題」としてとらえ、本人の進路形成に資するような指導・相談や学習支援、情報提供等への取組・対応を行うことへの理解の高まりを期待するところである。
 
3. 学校を中心とした主な取り組みから 
 不登校の児童生徒に対して、学校では学級担任を中心に学年の教員や生徒指導、教育担当の教員が連携して支援を行っているところが多い。
 それに加え、養護教諭、スクールカウンセラーがそれぞれの専門性を活かしてかかわっている。しかし、学年単位あるいは学校全体での組織体制づくりが十分でなく、外部の支援機関との連絡・調整などが管理職に任されていたり、
 児童生徒の個別の支援計画、あるいは対応については経過の記録にとどまるなど、支援体制が十分にまとめられていないというケースが多い。
 特に、小学6年生から中学1年生の間で不登校が大幅に増えるという傾向がみられる。このような問題の中には、小学校の段階で不登校の兆候が見られるという事例も多い。小・中学校間で児童生徒の不登校の状況や支援に関する情報が正確に伝わらず、中学校入学後の初期対応においてつまずくということも十分起こり得ることである。小・中学校が連携して支援のための情報を共有するなどの取り組みが求められているところである。
 しかしながら、不登校については、その要因が児童生徒によって異なっているため、学校のみの対応では解決が難しいケースが増加している。児童生徒の心理面のサポートはスクールカウンセラーの協力を得て問題解決に取り組むことは可能であるが、家庭の養育環境などが起因となって起こる不登校、福祉面での支援を必要とされる不登校については、学校だけの対応では困難である。
 このような問題の解決にはスクールソーシャルワーカーなどによる取組が必要になってくる。しかし、学校内において、この仕事に携わるこれらの職員の職務等について、教職員の理解が十分でないという問題が存在している。
 義務教育終了間際の中学校にあっては、不登校の有無にかかわらず、生徒一人一人が自己の将来の生き方に対する選択に迫られている。小学校、中学校の卒業認定が校長によって行われることが可能であるが、次の進学先の高等学校においては、登校し、高等学校の課程を修了しなければ卒業は認められない。このため、通信制高校などへの進学を希望する生徒も多くなってきている。
 東京都教育委員会は、小・中学校の時期に不登校、高校中退を経験した生徒に対して、また、これまで学校生活で能力・適性を十分に発揮しきれなかった生徒に対して、自らの目標の実現に向かってチャレンジする、定時制単位制総合学科高校など、いわゆるチャレンジスクールといわれる高校を生徒の多様なニーズに応える高校として設置している。
 一方、不登校の児童生徒に居場所や学習・体験活動の機会などを提供するといったフリースクールといわれている民間施設、団体が注目されている。(注2)
 これら民間施設、団体を利用した都内公立学校の不登校児童生徒は175人、このうち、指導要録上において出席扱いの措置を受けた者は約5割となっている(平成26年度)。
4. フリースクール(Free School)とは  
 フリースクールといわれる学校は、世界各国に存在している。しかし、その受け止め方は国によって異なっている。
 アメリカのフリースクールは、授業料無償の公立学校、1805年に設立されたフリースクール協会に加入する人道主義に基づく低所得者のための授業料無償の学校をいっている。
 イギリスでは、「子どもたちは強制よりも、自由を与えることで最もよく学ぶ」という哲学のもとに発足したサマーヒルスクールのようなデモクラティック・スクールを、フリースクールといっている。
 日本のフリースクールは、不登校の子どもが通う非学校的な施設と紹介されている。 
 日本においてはデモクラティック・スクール(スタッフも生徒も等しく1票をもって参加する民主的な話し合いによって運営される学校)をはじめ、フレネ学校(毎週の時間割を自分で作り、達成状況も自分でチェックして学ぶ学校)、シュタイナ―学校(教科書もテストも宿題もない学校)など、ヨーロッパの新教育運動の流れを受け継いで教育に当たる学校、また、不登校の児童生徒の受は認めても、あるいは、通信制高校での学習をサポートするサポート校などが、フリースクールの名のもとに存在している。これらの学校は学校設立の趣旨に従って活動している教育機関であるが、教育の方向は多種多様である。
 ほとんどのフリースクールが、学校教育法に定める学校の要件を満たしておらず、また、私立学校設立の条件を満たしたものにもなっていない。このことから、正規の学校としての認可を受けた学校の形態にあるとはいいがたい状況下にある。卒業してもそこでの勉学は学歴としては認められていないということになる。
 1992(平成4)年から小・中学校において、2009(平成21)年から高等学校において、在籍している学校の校長の裁量によって、フリースクール等の民間施設に通った場合、フリースクールへの通学の期間を「指導要録」上で出席として、取り扱うことが可能になったといわれている。しかし、この認定を学校が行う場合、認定方法などについては、まだ統一されたルールが確立されていないという現状にある。特に高等学校においては、出席扱いは認めても、すべての単位を認めるわけではない。そのため、高等学校卒業認定試験を受験するものが多い。
  
5. フリースクールの義務教育化をめぐる動きから   
 2009(平成21)年9月に鳩山由紀夫内閣が成立し、公立高校授業料無償・私立学校に在籍する高校生への奨学給付金の支給などが取り上げられると、フリースクールの存在が注目を集めることになった。
 フリースクールは学校教育法の第一条に示されている学校(いわゆる一条校)ではないが、2007(平成19)年の中教審答申「義務教育に関する制度の見直し」の中で、「不登校児童に対して、学校外の施設における学習も義務教育とみなす仕組みの検討」が提言され、注目されていたところである。
 フリースクールは「現行の教育制度は、国の繁栄という視点から作られている管理的教育制度であり、本来の教育とは子どもを主体に構築されるべきである。画一的な教育を前提に、画一的なカリキュラム、画一的な考え方を植え付けながら競わせ、学力や行動、性格を評定するという管理的な教育の仕組みが、不登校児童生徒を輩出させている」といった考え方を掲げて、その存在意義を示している。
 2015(平成27)年9月、安倍晋三内閣総理大臣は、「一億総活躍社会」を政策に掲げ、記者会見に臨んだ。「いじめや発達障害など、様々な事情で学校に通えない子どもたちには、フリースクールなど多様な場で、自信をもって学んでいけるような環境を整えます」と、フリースクールの存在意義を述べている。
 2014(平成26)年7月、教育再生実行会議は、「今後の学制の在り方について」と題する第五次提言を行った。この中に「国は小学校及び中学校における不登校の児童生徒が学んでいるフリースクールや国際化に対応した教育を行うインターナショナルスクールなどの学校外の教育機会の現状を踏まえ、その位置付けについて、就学義務や公費負担の在り方を含め検討する。また、義務教育未終了者の就学機会の,確保に重要な役割を果たしている、いわゆる夜間中学についてその設置を促進する」といった文言が盛り込まれたのである。
 ここに、学校教育法第一条に示されている学校以外の教育施設に第一条校と同じ教育機能を認めるという、学校制度の改革ともいうべき案が盛り込まれたことになる。これまで築き上げられてきた教育の足元が少し掘り返され、揺さぶられ出したという状況が作りだされたということができる。教育は有為な社会の形成者を育成するという方向と個人の資質・能力を高めるという方向のバランを保ち、進められてきたが、現在の教育の進む方向は、個人の資質・能力の育成に重きを置く方向に傾き出したのではないかと受け止められるところもある。
 さらに政府は「子どもの貧困対策に関する大綱」を2014(平成26)年8月29日に閣議決定を行い、「学習等に課題を抱える子どもに学習支援や生活支援を実施しているNPOやフリースクール等と各自治体との連携を促進する」ことを求めた。
 翌2015(平成27)年3月の教育再生実行会議第六次提言では、全員参加型の社会の実現を目指し、「国は、不登校や中退、若者のニート化を防止する」、「フリースクール等における多様な学びへの対応を含めた小学校から高等学校までを通した抜本的な不登校等に関わる対策を講じるとともに、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学力向上や進路支援を行う地域人材等の配置充実を図る」ことを打ち出した。
 同年5月の教育再生実行会議第七次提言では、「発達障害の有る子どもや不登校の子どもに十分な学びの機会が確保され、自己肯定感を高められるようにすることが重要」と述べ、「フリースクール等における多様な学びを支援」するという支援策を打ち出したのである。
 フリースクールの義務教育化については、議員立法によってこれを進める動きが活発化したが、一方、「学校」としての要件を満たしていないフリースクールに対する疑問を示す声もあった。
 2016(平成28)年3月12日、新聞各紙はフリースクールの義務教育化が見送られたことを報じた。義務教育の制度内に位置づける案についての議員立法を検討してきたが、慎重派に配慮して見送りになったのだという。

6. 不登校児童生徒への支援の進め方  
 不登校問題の解決のために、フリースクール等を義務教育化して受け皿にするという方向は、法案提出の見送りによって、この動きは原点に戻ったということになる。すなわち、学校が中心になって、これからは取り組むというところに戻ったことで、学校のこれからお対応に期待したい。
 もう一度、学校が不登校問題の取り組むに当たっての考え方について確認する必要がある。
 (1)児童生徒の将来の社会的な自立を目指す取り組みを支援する
 (2)児童生徒を学校・社会から切り離すのではなく、つなぐ努力をする
 (3)個々の児童生徒と保護者の願いに寄り添うことを基本に置きながら、次のような仕組みを構築することに努める。
 @ 個に応じた計画的な支援の充実
    児童生徒の置かれている環境等を把握し、分析して状態を見極める。そのことを踏まえて、支援計画を策定し、支援に努める
 A 小・中・高の連携による切れ目のない支援への取り組みを行う。
  学校種を越えて、児童生徒の支援計画、生活、学習の情報の引継ぎと共有化を図る。また、生徒に適した高校選択の促進に努める
 B 支援ネットワークの構築と支援チームの設置に努める。
  学校と福祉、労働等関係機関との連携による支援ネットワークの構築を図る。
 C 学校における組織的な取り組みの充実に努める。このため、校内の組織体制の整備に努めることが重要である
 D チャレンジのための教育機会の拡充に努める。
 教育支援センターとの連携を強める。チャレンジスクールへの挑戦に努めるなどの取組を強める
 不登校問題の解決への取り組みは、当該児童生徒を学校に登校させるということで終わるものではない。
 この取り組みは児童生徒の生き方をどのように作り上げていくかということについての取り組みである。
 キャリア教育の充実による自立支援を視点に入れた不登校問題への取り組みが重要である。不登校対策はこれからの人生をすごす人間に対する応援である。
 学校は不登校問題に正面から取り組み、その解決に学校を上げて努力する。この姿勢を保持して不登校問題の解決に向けて果敢に挑戦する、
 また、その自覚のもとに児童生徒の将来に関わる問題であると認識して、取り組んでくれることを強く期待するものである。
 
 ◆ 注釈
 注1 文部科学省 「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査(平成26年度)」
 注2 東京都教育委員会 「不登校・中途退学対策検討委員会報告書の概要」 
 
 ◆ 参考文献
 1 文部科学省 「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 
 2 文部科学省 「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」 
 3 文部科学省 「不登校の対応の在り方について」   
 4 文部科学省 「不登校・フリースクールの対応」     
 5 世田谷区不登校策検討委員会 「世田谷区における不登校対策のあり方について」
 6 読売新聞、朝日新聞、産経新聞、毎日新聞など 
( 2016/05/17 記)  

以 上


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